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M-016 バウ・スラスタだって?


 2度目のリードル漁はティーアさんがいないから、砂浜の仕事が3人になってしまった。ナツミさんもトリティさんの指示でリードル焼きを頑張っていたな。

 今回俺達が手にした魔石の数は上級が5個に中級が8個、低級は6個というところだ。運んできたリードルに外れがないというのにグリナスさんが驚いていた。グリナスさんの場合は4個運ぶと1個は外れらしい。


「これで、グリナスもカタマランを持てるな。アオイも持てるだろう。いよいよ自分達の漁ができるぞ」

「はぁ、それなんですが、しばらくはオルバスさんに付いて漁をしたいと思っています。まだまだ季節ごとの漁が分かりませんし、リードル漁は俺達だけでは無理に思えます」


 そんな俺の言葉に、トリティさんも頷いている。オルバスさんはパイプを片手に、グリナスさんに目を向けた。


「お前よりもアオイの方が現実を見ているということだろう。少なくとも1年はグリナスも同行した方が良いだろうな。リードル漁は家族単位で焚き火を作る。アオイが俺達の家族と宣言するようなことになるだろうが、これは氏族会議で確認を得ることになりそうだ」


 単独、家族、それに仲間で、最後は氏族という形で漁をするということなんだろう。獲物に応じて、その集団が変わることになるようだが、その辺りがまだ理解できないからね。


「島に戻れば商船が何隻かいるはずだ。カタマラン作りなら、横に2本の赤い帯が入った旗を翻している商船が一番だ」


 島に戻る途中は、そんな話をしながら過ごす。

 すぐに頼んでも、出来上がるのは乾季の半ばを過ぎたころになるらしい。もうしばらくはこのカタマランで過ごすことになりそうだ。


「いよいよ私達のカタマランが手に入るのね。操船は女性の仕事になるから楽しみだわ」

「エンジンが魔道機関ということですから、俺達には理解できないんですよね」

「動けば問題ないわよ。燃料補給もいらないんだから便利な代物としか思えないんだけど」


 どんな暮らしになるんだろう? オルバスさんの縁者を俺達がいなくなったら、カタマランに乗船させると言っていたけど。


「漁の間だけ、私達のカタマランに1人増えるとトリティさんが言ってたけど、それは許容すべきことだと思うの」

「ザバンでの素潜り漁を考えれば1人は船に残るべきだろうし、曳釣りは2人では無理だ」


 俺の言葉にナツミさんが頷いている。しばらくはナツミさんとも今まで通りだろうし、トウハ氏族の人達が俺達を考えてくれているなら、会えて断ることもないだろう。

 それだけナツミさんに色々と教えて欲しいところだ。


「結局、カタマランは今の形とそれほど変わらないわ。操船を行う場所の左に3mほどの柱を作って、簡単な帆桁を取り付けるわ。帆桁と言っても、左右に振れるようにして滑車を付けるためなんだけどね。でもその上に帆布を張ればタープになるから、雨季でも都合がいいでしょう?」

「バナナの葉を編んだ屋根よりは雨漏りがしないかもね」

 

 帆布は丈夫らしいから、しばらくは使えそうだ。

 魔道機関の数や、保冷庫、水瓶置き場に炭置き場……、2つの船の中は色々と区切られて置かれているらしい。それらはとりあえず標準大きさにするみたいだな。


 グリナスさんは、最初から標準品を考えているみたいだ。

「カイト様が最初に作ってから、変わったのは操船場所ぐらいなものだ。屋根の上に張り出した小屋になっていたそうだが、今では小さなものに変わってしまった。大きい方が便利ではあるが、結構仕事が多いからなぁ。乗り降りが便利なように小さくなったんだ」


 カタマランを数十年使って、現在の形になったというから、それなりの工夫がされてきたんだろう。


「少し変えるとしたら曳釣りの竿の受け場所になる。少し後ろに下げるつもりだ。そうすれば甲板からも簡単に竿を刺せるからな」

 

 曳釣りの仕掛けをカタマランから左右に伸ばす竿は竹竿をそのまま使っている。なるべく節の短いものを選んでおるようだが、先端のフックに取り付けるのが面倒に見える。

 そこは少し改良するつもりだ。

 竿受けは普段は前方に竿を置いて曳釣りをするときには左右に開くような金具を取り付ければいいだろうし、竿の先端には丸い輪を付け、細いロープを通すことで、道糸を保持する洗濯バサミを動かせるようにしておけばいい。

 そうなると俺達のカタマランも竿受けは現在よりも甲板の端まで移動することになりそうだな。


「ザバンの改良は大丈夫なの?」

「基本は少し小さくします。カタマランと一緒に購入すれば、アウトリガーのフロートも一緒に作って貰えそうです」


 銛と釣り竿は今のままで十分だ。船尾でおかずを釣るのにもう少し長い竿が欲しいが、これはグリナスさんに頼んでみよう。今の竿を残しておけば、マリンダちゃん達も使えるはずだ。


 氏族の島に戻ると、商船が2隻停泊している。前回は3隻だったけど、この海域で商船は何隻が活躍してるんだろうな。

 氏族に中級魔石を納め、トリティさん達には低級魔石を手渡す。

 残った魔石をナツミさんがトリティさん達と一緒に商会へ売りに出掛けた。

 俺達の収入は6万Dを越えていた。前回分と、なぜか俺達の財布にあった金貨を合わせると10枚になる。

 これで、俺達の船がようやく持てそうだ。


 多額の現金収入が氏族の暮らす島にもたらされるから、商船の運んできた品物も普段よりも上物が多いらしい。

 翌日、朝食を終えたところでナツミさんと商船に出掛けることにした。

 

 確か赤い横線だったよな……。

 旗を確かめると、どうやら小さな方の商船になるようだ。

 女性達は大きい方の船で買い物をしているようだが、この船には男性達が多いように思える。商船に寄って品揃えを変えているのかもしれないな。

 商品棚を見ると、中々良いリールや釣り針などが揃えられている。


「何をお探しですか?」

「ああ、探してるわけじゃなくて船を作りたいんだが……」

「では、こちらにお越しください」


 商人の案内で2階に通される。小さな会議室が、商談を行う部屋のようだ。

 ベンチシートの椅子がテーブルを挟んで据え付けられている。

 俺達が座ると、先ほどの商人がノートのようなカタログを俺達の前に置いた。どうやら規格品があるようだな。


「他の氏族では外輪船を使うようですが、トウハ氏族はこのような船になります」

「改造もできるんですよね?」

「だいじょうぶですよ。その分割高になりますが……」


 商人はいったん席を外すと、ドワーフ族の男と共に戻って来た。目の前の商人は俺の親父ぐらいの歳に見えるけど、ドワーフの男は若いんだか老人なんだかさっぱり見当がつかない。


「改造すると聞いたが、どうするんじゃ?」

「こんな形に出来ませんか? カタマランの小型版を使うのが前提ですけど?」

 

 ドワーフの言葉使いはどう考えても商人言葉ではないな。どちらかと言うと、職人を相手にしている感じだ。

 そんなドワーフにナツミさんが手書きのメモを渡して説明を始めている。ここに来る前に、ザバンについてまとめた俺のメモも渡しておいたから、一緒に説明してくれるはずだ。


「魔道機関は8個を使うんだな? 帆柱にはならんが荷下ろしには役立ちそうだが、ここに小型の魔道機関を付ける理由が分からんな」

「私の気まぐれです。でも少し凝った仕掛けになりますが、それはできるんですか?」


「ハン! ドワーフに向かって出来るかと聞くのか? これは簡単な方じゃな。変わったザバンを含めて、金貨9枚で作るぞ」


 ドワーフの男の言葉を聞いてナツミさんがニコリと笑みを浮かべて頷いた。これで交渉成立ということなんだろうか?

「それでは契約書を作成します。先ほどの改造点は全て含みますから、それを契約書に追加しますのでしばらくお待ちください」


 ドワーフ族の男が席を立って部屋を出ていく。俺達にお辞儀をするわけでもないから、お客と思っていないんじゃないかな。

 それよりもだ。ナツミさんがカタマランに施した一番大きな改造点って、バウ・スラスタじゃないのか! カタマランの操船が難しいと考えているのだろうか? 設置場所が船首付近のトイレの脇だから目立たないとは思うけどね。


 契約書を貰って、ナツミさんが金貨をテーブルに9枚並べた。これで商船がカタマランを曳いてくるのを待つばかりになったな。


 船の戻ると、オルバスさんにカタマランの発注を告げた。グリナスさんは朝早くに向かったみたいだな。


「あの商船のドワーフ族は腕が確かだ。20年以上は使えるだろうが、10年を目安に次の船を買うのだな。それまでには家族も増えるに違いない」

「ついでに少し小さなザバンを作ってもらうことにしました。小さいと言っても、2人は乗れますし、転覆は考えにくいです」


 ザバンが転覆しないと聞いて、皆が興味を持ったようだ。

 簡単に小さな小舟を竿で繋ぐと言ったら、似たザバンを海人さんも使っていたらしい。


「カイト様が使った船は3隻を繋いだ様な構造だったらしい。甲板の広さもこれより2周りは広かったらしいぞ」


 トリマランということになりそうだ。それなら甲板もさぞかし広かったに違いない。

 だけど、大型化による魔道機関の大型化が問題にもなっていたらしく、子供達が巣立った後は、小さなカタマランで漁をしていたということだ。 


「ザバンを乗せる場所とザバンの形状に散々悩みぬいたらしいが、結局は今の形を踏襲したらしい」


 オルバスさんが最後に俺に笑いかけたということは、ザバンの形はあれで完成しているということなんだろうな。

 とはいえ、止めろとは言わないから、オルバスさん達も何とかしたいとは考えているに違いない。


「早くて3カ月、遅くとも4カ月ほどで届くだろう。それまでは素潜り漁を続けねばならんぞ!」

「そうですね。となると、次の出発は?」

「明後日だ。数隻が一緒になりそうだな」


 思わずグリナスさんと目が合った。互いに頷くと拳を握る。

 グリナスさんとは良いライバルになれそうだ。


 数日後。

 抜けるような青空の下で俺達は素潜り漁をする。獲物を突いて海面に顔を出すと、シュノーケルの潮吹きでナツミさんは俺を確認できるらしい。

 バンダナを翻したザバンがこちらに近づいてくる。

 これで4匹目だが、大きさが30cmを少し超えるぐらいのブダイだ。直ぐ南が急深になっているから、今夜の夜釣りは期待できそうだ。


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