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M-012 ティーアさんからの頼まれもの


 ネコ族が5つの氏族に別れて自治をしていたのは、それほど前の事ではないらしい。

 隣国の保護下にあったというけど、その王国が戦をした時にはかなりひどい税率を掛けられたようだ。

 新たな王国がネコ族を自分達の領民とする動きを察した海人さんが、軍船と大砲を作って反撃したとオルバスさんが教えてくれた。

 今でも3隻の軍船がナンタ、ホクチそれにトウハ氏族が隠匿しているらしい。

 王国は今でも大砲を持たないようだから、ある意味超兵器ともいえそうだな。

 それでも友好の証として、今でも昔のように周辺王国に魔石を献上しているようだ。


「昔は酷かったが、今は中級が2個と低級を5個渡しているだけだ。その返礼として、良く鍛えられた銛先が各国より5本ずつ届けられている。俺達トウハ氏族には毎年5本届けられるのだが、それは新たにカタマランを持った若者に渡されるのだ」


 そういう話だったら、中級魔石を氏族に納入した方が良かったかもしれない。次のリードル漁にはそうしよう。何と言っても、俺達を受け入れてくれた氏族なんだから。


「問題は氏族の連合化だな。カイト様が骨を折って今の会議を作ってはくれたのだが、王国の商人達もしたたかだ。調整をするのに苦労すると長老がぼやいているぞ」


 まあ、どんな国にも悩みはあるんだろうな。

 それが日常にまで入り込まないように、長老達が努力してくれてるんだろう。長老になるには長老の指名が必要らしい。氏族の意見は度々行われる氏族会議で決められるようだ。

 その氏族会議は、傍聴だけなら船を持ち、嫁を貰っているなら十分らしい。とはいえ、発言できるのは後継を育てて一人前にすることが必要とのことだ。

 

「カイト様は聖痕の保持者であることもあって、若い時から長老を補佐していたということだ。お前も聖痕を持っているから、長老達も色々と気にしているようだな」

「まだまだ見習いも良いところです。次はもっと魔石を得られるように頑張るつもりです」


 俺の言葉を嬉しそうに聞きながら酒を飲んでいる。グリナスさんも頑張れよと言いながら俺の肩を叩く。


 リードル漁の帰路は、そんな話をしながら時間を潰すことになる。

 普段なら夜釣りも行うんだけどね。今回はまっすぐに帰るらしい。夜もトリティさん達が交代で船を西に進めている。

 そんなことだから、氏族の島に帰り着くまで2日で済んでしまった。

 俺達の帰りを待っていたのは、氏族の連中ばかりではない。3隻の商船が石の桟橋に停泊している。どうやら、俺達が手に入れた魔石を買い付けるためのようだ。


 いつもより一回り大きな商船が来たのは、魔石を売ることで俺達に大金が入ることを知っているからなんだろうな。

 浜でリードルを焼いていた女性達にも魔石が渡されるのは、そんな買物にあるのかもしれない。


 いつもの桟橋にカタマランが停泊すると、トリティさん達がナツミさんを連れて商船に向かって行った。


「さて、俺も氏族への上納を済ませてくる。上級魔石を2個と聞けば長老達も喜んでくれるだろう。銛は研ぎ直してあるな。俺が持って行ってやろう」

 

 長老が気にしていたのは、俺が海人さんの銛を使えるかどうかだったに違いない。もう1本あれば4個は行けたんだろうが、そうなると他の魔石の数が減りそうだな。

 あの銛と同じ銛を2本作ってみるか。最終日はその銛だけ使っても良いかもしれない。


 1人カタマランに残ってしまったから、天井裏から釣り竿を取り出して船尾でおかずを釣り始める。餌は保冷庫にいつも置いてある魚の切り身だ。これなら餌に使っても良いとトリティさんも言ってくれたからね。


 しばらく船が停泊していなかったから、魚が寄っているらしく小魚がおもしろいように釣れる。大きな魚は置かずになってしまうけど、小さな奴は底釣りの餌にしても良さそうだ。


「だいぶ釣れてるにゃ!」

 俺の後ろから獲物を入れたカゴを覗いていたのは、ティーアさんだった。1人で帰って来たんだろうか?

 

「ナツミ達は母さんと一緒にゃ! お店を見てるにゃ。アオイに釣りの道具を頼もうとして一足早く帰ったにゃ」


 ん? ティーアさんも釣りをするのかな? まあ、それほど難しくはないんだけどね。

 俺が悩んでいると、その理由を少し顔を赤くして教えてくれた。

 どうやら、嫁に行くみたいだ。相手が今回のリードル漁でそれなりの魔石を手に入れたからカタマランを購入できるらしい。

 屋形が付いてるからね。確かに新婚には良いかもしれない。

 とはいえ、そうなると何でも2人でしなければならないからね。少しでも家計を助けるために釣りをしようということなんだろう。


「分かりました。直ぐにとはいきませんが、一ヵ月ほどの間には作りましょう」

 これで……、と言いながら数枚の銀貨を取り出したので慌てて押し返した。オルバスさんには世話になってるし、ナツミさんもティーアさんにはいろいろと教えて貰っているはずだ。ここは姉を送り出す弟の心境で願いを叶えてあげたい。


 ティーアさんが、カマドでお茶を沸かしていると、ナツミさん達が笑顔で帰って来た。

 良いものが買えたのかな?


「聞いて、聞いて! 魔石の売り上げが29,000Dにもなったのよ。私達の手持ちと合わせると、6万Dを超えるわ。次のリードル漁でカタマランが買えるかも知れないわ」

「それを聞くと、頑張らなくちゃならないねそうそう、実は、ごにょごにょごにょ……」


 ナツミさんの耳元で、先ほどの事を話してあげると、だんだんと目が大きく開いていく。


「本当なの? それなら、今すぐ商船に行きましょう。色々と揃ってたわよ。一番の驚きはリールがあるのよ。片軸だけど、底釣りなら問題ないと思うわ」

 急に手を引かれたから、とりあえず釣り竿をマリンダちゃんに預けて、ナツミさんと桟橋を歩くことになった。


「リールを最初に考えたのはトウハ氏族と言ってたから、たぶん教えたのは海人さんなんでしょうね」

「手釣りよりは初心者向けだからね。俺も海人さんに釣りを教えて貰ったんだ。次は曳釣りを教えて貰うはずだったんだけど……」


 曳釣りは動力船がいるからなぁ。海人さんの仲間の持つ船に乗せて貰えることを楽しみにしてたんだけどね。


「アオイ君はやったことが無いの? でも、心配しないで。私は散々お父さんとやったことがあるから」

 そういえばヨットに船外機を付けて、釣りをしているような話をしていたな。

 当然、簡単な曳釣りならできたのかもしれない。でも、あの湾内なら良いところイナダクラスじゃないかな? この海域での曳釣りでどんな獲物が掛かるかはまだ分からないんだよね。


 商船に入ると、前に入った時よりも2倍ほど売り場の面積が広い感じだ。

 こっちこっちとナツミさんの案内で行った棚には、たくさんのリールが並んでいた。

 手近なリールを手に取って軽く回してみる。

 案外スムーズに回るけど、ベアリングは入っていないようだ。ロックとフリーのレバーだけが付いてるが、フリーでもばね仕掛けで糸の出を抑えているようだな。ほとんど俺達の世界のタイコリールと同じに思える。


「凄いね。これなら問題なく使えそうだ。糸は……、こっちにあるんだな」

 糸も組紐のように編まれたものだ。何かに漬けられたような色をしているのは、海水による劣化を抑えるためだろう。


「こっちにあるのがガイドなんだけど、何で止めるんだろうね?」

「糸と接着剤でいいんだ。それはこれになるのかな?」


 リールは糸というわけにはいかないだろうから、針金で縛った後で糸を巻けばいいだろう。サルカンや撚り戻しも小さな木箱に入って並んでいる。

 ナツミさんがどこからか見付けてきた、カゴに必要な品を入れたところで会計をすることになったんだが……。


「ナツミさん、実は……、タバコが切れてしまったんだ」

「パイプはあっちにあったわよ」

 またしてもナツミさんに手を引かれてその場所に向かった。なるほどいろんなパイプが並んでる。


「これなんか良いと思わない?」

 ナツミさんが手に取ったのは、銀製じゃないのか? 渡されたパイプはかなりの重さがある。

 値段は……、銀貨5枚もするのか!

 

「これも必要ね。タバコは2包もあれば十分でしょう?」

 ナツミさんの親父さんも愛煙家なんだろうか? あまりこだわらずにパイプセットを一式揃えてしまった。


「俺だけでは何となく……」

「だいじょうぶ。私も欲しいものを買い込んだから!」


 まさか全部使ってしまったんじゃないだろうな? ちょっと心配になってきたけど、俺達が購入した品の代金は総額で低級魔石2個の値段にも満たなかった。

 まあ、必要悪のような気もするけど、これで俺もパイプデビューができそうだ。


 ナツミさんが購入したのはマイ包丁ということだった。切れ味が一番良いものと言って買った品らしい。うっすらとダマスカス文様が浮かんでいる包丁なんだが、ナツミさんは包丁が悪くて上手く裁けないと思っているのかもしれない。

 俺が釣り上げた魚を早速使って、試し切りをしながら嬉しそうな表情を作っているけど、それだけトリティさんの指導が効果を発揮しているということなんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 この地域の雨はメリハリがついた雨だ。

 土砂降りの雨が1時間ほど続いて、直ぐにからりと晴れる。

 そんな雨だったんだが、昨日から続く雨は、今までとは明らかに様子が異なる。数時間の土砂降りの後に短時間の晴れ間が覗く。ザバンも水浸しになってしまうから、カタマランの船首に3艘重ねて縛ってあるぐらいだ。


「どうやら雨季になってしまったな。雨季の漁は曳釣りと根魚釣りになる。素潜りもできるがザバンを下ろさずにカタマランの周囲で行うことになるぞ」

「曳釣りは初めてですから、いろいろと教えて貰います」

「結構、大型が掛かるんだ。この天気だから一夜干しに出来ない。こまめに島に戻ることになる」


 ちょっと困った表情でグリナスさんが呟いた。

 それで大きな燻製小屋があるんだな。そういえば大きな保冷庫もあるんだけど、木造なんだよな。中にいくつもの氷柱を入れて温度を下げているらしい。


 そんな話が合った2日後に、俺達は曳釣りに向かって島を離れた。

 カタマランが速度を上げて南に向かって進んでいく。どう考えても15ノットは出てるんじゃないかな?

 ナツミさんも感心して周囲の島を眺めている。


「操船は女性の仕事らしいわ。私も覚えなくちゃね」

「ナツミさんはヨットで操船は慣れてるんじゃありませんか?」

「ちょっとした違いはあるのよ。でも、このカタマランの速度は凄いわね」


 移動中は暇だから、ティーアさんの釣り竿作りが捗っている。2本作ることにしたのは、ナツミさんの考えだ。マリンダちゃんだっていつかは嫁ぐだろうし、その時に持たせたいと言っていた。

 俺も賛成したんだけど、そうなるとトリティさんだって欲しがるかもしれないな。


 豪雨が襲ってきても、屋根から甲板まで引き出したヨシズにゴザを乗せたようなもので防ぐことができる。少しは濡れてしまうけど、水着を着ているから気になることもない。

 ナツミさんもさすがにビキニは着ないようだ。おとなしいセパレーツを着てるけど、いったい何着の水着をバッグに入れてたんだろう?


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