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M-011 魔石はリードルを焼いて取り出す


 リードル漁の朝は、皆が早起きだ。

 大きな鍋と、ココナッツを入れたカゴや、大きな水筒をザバンに積み込んで島を目指す。ザバンの横にはリードルを狙う専用の長い銛が縛りつけてある。

 ナツミさんも嬉しそうな表情でパドルを漕ぐ俺を見ている。


「いよいよね。かなり危険な漁に思えるんだけど、大丈夫なの?」

「絶対に足を水底に着かない。それが守れればそれほど難しくはないようです。でも初めてですから慎重にやりますよ」


 砂浜に下りる時にスニーカーだが、漁をする時にはマリンシューズに履き替えねばならない。少し面倒だけど言われたことは守ることにしよう。

 

 朝食は昨日掘った穴の中に焚き火を作って、鍋を掛ける。いつもの少し酸味の付いたスープにご飯が付く。

 朝食が終わると、ティーアさんが俺達にお茶を入れてくれた。余り話はしたことが無いけど、物静かなお姉さんなんだよね。


「先ずは1匹を確実にここに持ってくることだ。無理はする必要が無い。なるべく模様が際立った奴を狙うんだぞ」

 俺とグリナスさんが同時に頷く。たくさん獲ろうとして失敗する話は、向こうの世界でも散々親父達に聞かされたからね。

 先ずは1匹。それを繰り返せば良い。


「この旗が目印にゃ。赤と緑だから目立つにゃ。隣は白や黄色にゃ」

 トリティさんが焚き火の前に突き刺した竹竿の上を指差してくれた。赤と緑の布が結んである。

 ということは、俺達のザバンも同じことにならないか? 焚き木の中から真っ直ぐな棒を取り出すと、バンダナを結び付けた。

 ザバンの船尾に結わえておけば直ぐに分かるだろう。


 そんなことをしていると、法螺貝の音が聞こえてきた。大きく2回吹きならされた法螺貝の音が漁を始める合図なんだろう。一斉に男達がザバンに飛び乗って沖を目指して漕いで行く。

 遅れないように俺も、ザバンを漕ぎ出すとグリナスさんの後に付いて行く。

 渚から50mほど離れると途端に海の色が濃くなる。急に深くなっている感じがするな。海の中に段差があるような感じだ。


 男達が銛を掴んで次々に飛び込んでいく。

 急いで靴を履き替えてフィンを付ける。顔にマスクをしたところで舷側に結んであった紐をほどいて銛を掴んだ。

 かなり遅れたけど、先ずは1匹を突くことだけを考えよう。

 海に飛び込んで、シュノーケリングをしながら水底を眺めると、おびただしい巻貝が見える。あれがリードルということだな。

 足を出して海底を探ってるようにも見える。

 その中から一際貝に模様が濃く出たリードルを見付けたところで、海底目指してダイブする。

 

 勢いよくフィンで水をかき、その推力も利用しなければなるまい。今回の銛にはゴムが付いていないからね。柄の三分の一ほど後ろを左手で持ち、リードルの殻すれすれに銛を力強く打ち込んだ。

 両手でさらに突きいれたところで、海面に向かう。

 海面に顔を出して、俺のザバンを探す。たくさんザバンが浮いているから、間違ったりしたら大変だ。

 バンダナを結んだ棒が立っているザバンを見付けて、泳ぎ始めた。ザバンの先端にある窪みに銛を挟んで舷側に空いた穴を通した紐で結びつける。これで銛が動くことはない。岸に向かってパドルを漕いで行く。


 赤と緑の布はあれだな。砂浜にはあちこちに旗が立っているから、似た旗だと間違えるんじゃないか?

 そんなことを考えながら、砂浜に乗り上げるようにしてザバンを停める。


 銛を固定した紐を解き、素早くスニーカーに履き替えた。

 よいしょ! と銛を持ち上げて、ナツミさん達の待つ焚き火を目指す。


 焚き火には、すでに2本の銛が炙られていた。先端のリードルがもがいているから、まだ焼き始めたばかりのようだ。


「この隣に銛を置くにゃ。焚き火の炎が殻に届くぐらいがいいにゃ」

 俺が銛を置いたところで、トリティさんが微調整をしてベンチで銛の根元を抑えている。


「次を運んでくるにゃ!」

「任せてください!」

 

 トリティさんに答えたところで、ナツミさん達とハイタッチをしてザバンに向かって走っていく。

 結構面倒な漁だ。中には3本の銛を使う連中もいる。

 オルバスさん達は何本使っているんだろう? 何度か漁をしたところで、もう1本作るかどうか考えてみよう。


 沖に向かってザバンを漕ぎ、リードルを突きさして浜に戻る。単調な漁だが、靴は履き替えなくちゃならないし、リードルを確実に突き通さねばならない。

 少しでも手を抜くと、自らの死を招くというとんでもない漁でもある。ハイリスク・ハイリターンの典型だとつくづく考えてしまう。


 4匹目のリードルを運んできたときには、先に運んだ銛はまだリードルを焼いている最中だった。

 どうやら、グリナスさんも同じらしく、焚き木の束に腰を下ろしてココナツジュースを飲んでいる。


「アオイもしばらく休め。まだまだ、漁は続くんだからな」

「これでも飲んで頑張るにゃ!」


 マリンダちゃんが渡してくれたココナッツを受け取ると、「貸してみろ」とグリナスさんが鉈でココナツの殻を割ってくれた。

 

 生ぬるいジュースだけど、口の中のしょっぱさが無くなるのが分かる。

 素潜り漁には欠かせない飲み物だな。


「アオイ君の運んできたリードルは中級魔石が入ってたわよ。今のところ外れ無しだから頑張ってね」

 焚き火の火加減を調節していたナツミさんが、俺のところまでやってきて教えてくれた。ビギナーズ・ラックとしても漁は上々ということなんだろう。

 リードルを焼き終わった銛を手に、再び沖を目指す。


 5匹目を突いたところで昼食になる。

 スープに朝の残りご飯を入れたリゾットのような食事だけど、島で料理を作ることはないようだ。

 それでも朝からの実躯体労働でお腹がすいているから、美味しく頂いたところでお茶を飲む。


「これから数回運べば今日の漁は終わりになる。夕暮れ前にはカタマランに戻らないとリードルが上がってくるからな」

「太陽が水平線から指2つぐらいまでには戻ることになる。最後のリードルを運んでも直ぐに魔石を取り出せないからね」


 2人の話では、3時前には終わりにするということなんだろう。リードルは30分以上焼かなければいけないみたいだ。

 

 どうにか4匹のリードルを運んだところで、あちこちから笛の音が聞こえてきた。

 その後で、オルバスさんとグリナスさんがリードルを運んできたのを見てティーアさんが焚き火向こう側に立ててあった旗竿を引き抜いて焚き木の山に建てかける。

 リードル漁を終えたという合図なのかもしれない。周囲を見てみると、やはりザバンが岸に戻ってくると機を倒しているようだ。


「さて、荷物を一端カタマランに運ぶぞ。マリンダは先に戻ってお茶を作ってくれ。火事にならないように注意するんだぞ」

「だいじょうぶにゃ。ちゃんと桶に海水を入れておいてあるにゃ」


 鍋や水筒を持ったグリナスさんがマリンダちゃんを連れてザバンに向かう。

 女性3人が残っているから、最後は全員がザバンで離れられるな。


 どうやって、魔石を取るのか興味深々だったが、焼いたリードルの殻を棒の先に付けた石で割って取り出すようだ。イモ貝のような殻の中心部分に魔石があるらしい。

 バラバラにした殻を棒で突いて魔石を見付けると長い棒の先に付けた小さな網ですくい取っておる。

 残ったリードルは、近くの穴に棒で突いて落としていた。

 絶対に近づかない。それは焼いた後でも適用されるみたいだな。


 最後のリードルから魔石を得たところで、俺達はザバンに分乗してカタマランに帰ることになった。ザバンで移動している最中に、法螺貝の音が聞こえてきた。たぶん終了の合図なんだろう。

 ほとんどの連中が後片づけをしているようだったが、法螺貝の音を聞いてその速度が上がったようにも思える。


「30分ほどで日が落ちるわ。暗くなるとリードルは海底を離れて浮上するとトリティさんが教えてくれたから、その危険を回避するための合図なんでしょうね」

 浮上したリードルは今夜にでも見られるのかもしれない。


 夕食を終えて、珍しくワインを飲んでいた時に、リードルの渡りと言われるものを見ることができた。

 巻貝が足を広げて逆さに浮かんでいる。元々大きい巻貝だから座布団ほどに足が広がっているようだ。まるで海面のすぐ下に、いくつもの座布団を浮かべたように見える。

 その座布団がゆっくりと西に流れていく。


「トウハ氏族の島から北西に3日行くと、オウミ氏族がリードル漁をする場所がある。かつては我等の漁場だったのだが……」


 オルバスさんの話では、オウミ氏族というネコ族の版図の中央部に住む氏族が、住民の増加に合わせて氏族をいくつかの島に分けたらしい。中心部が広がったから周囲は外に広がるということは理解できる話だ。


「新たな我等トウハ氏族の島を探すために、トウハ氏族は東に向かったのだ。その時、カイト様の船を龍神が導いて下さり、我等に今の島を授けてくれたのだ。我等には龍神の加護がある。俺の爺さんは何度かその姿を見たことがあると言っていた。他の老人達も似た話をしていたな」


 うんうんと自分で納得しながらオルバスさんが話してくれたけど、俺とナツミさんは顔を見合わせながら静かにワインを飲むことにした。

 それにしても、龍神がいるというのも凄い話だ。一度は見てみたいところだが、カイト様の子供達が亡くなってからは姿を現さないと話してくれた。


「6人の娘がいたのだが、いつも神亀しんきに乗って遊んでいたということだ。今でも、たまに神亀を見ることがある。あの娘達を探しているのかもしれんな」


 神亀というのは、大きなウミガメらしい。カタマランほどの大きさらしいけど、そんなウミガメなんているんだろうか?

 もっとも、魔法だって存在する世界だからね。案外、龍神にだって会えるかもしれないな。


 2日目も、初日と同じようにリードルを突く。少し要領が分かって来たから、スニーカーの紐をきつくしてフィンを付けずに漁をした。初日よりも、2匹リードルが多かったのはそのせいだろう。

 一番驚いたのは3日目の事だった。これまで突いたリードルの2倍ほど大きなリードルが海底をのそのそと這っている。

 カイトさんが使ったという大きな銛を使って、渾身の力で突き通す。

 よろよろしながらトリティさんの待つ焚き火に運ぶと、周囲の連中が喝采してくれた。


「ようやく、その銛を使えるトウハ氏族の若者が現れたということにゃ。たまに2人掛かりでし止めてくる者もいるけど、やはりその銛が一番にゃ!」

 

 トリティさんはべた褒めしてくれた。ナツミさんが嬉しそうにココナッツのお椀にお茶を入れて渡してくれた。

 少し休んでから出掛けるか……。


 昼過ぎまでのリードル漁で、大きなリードルを3匹突くことができた。普通のサイズは4匹だったけど、これは仕方がないんじゃないかな。

 

 初めてのリードル漁で、俺が得た魔石は上級が2個、中級が6個、低級が8個になる。

 各人が15から20個程度の魔石を得られると言っていたから、俺もどうにか一人前ということになるんだろうな。

 とは言っても、オルバスさんは22個だし、グリナスさんは19個も取っているんだよな。


「アオイが上級魔石を得たのは、やはり聖痕の加護とみるべきだろう。もっともカイト様の使った銛が使えぬのでは話の外ではあるが。それで魔石の分配だが……」


 リードル漁は他の分配と異なるらしい。低級魔石1個を氏族に納め、焚き火で魔石を取り出した女性達に1個を渡すということだ。

 俺達の焚き火にはナツミさんを含めて4人いたけど、4人に1個で良いということだった。

 氏族への納入分をオルバスさんに渡し、焚き火の分はトリティさんに渡す。残った魔石はナツミさんに渡して、商船で換金してもらおう。これで少し俺達のカタマランに近付けたかな?


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