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M-010 リードル漁は準備が大変だ


 翌日の午前中は、サンゴ礁でブラドを突く。大きなイセエビのような獲物を獲って来たのはグリナスさんだ。

 俺も何匹か見付けてはいたのだが、捕まえることはしなかった。

 昼食時に皆がカタマランに戻って来た時の説明を聞いて、捕まえなくて良かったと思う。

 ロデニルと呼ばれるイセエビモドキは、カゴ漁をしている連中が専門に捕らえるらしい。昔は素潜り漁で捕らえたらしいけど、海人さんが、素潜り漁ができない漁師に、その漁法を伝えたと教えてくれた。


「俺達なら容易な漁だが、耳を傷めた連中には素潜り漁はできない。もうすぐ始まるリードル漁ができない連中のために、カゴ漁をカイト様が教えてくれたということだ。俺達もロデニルを捕らえることはできるが、家族で食べるだけで、商船に売ることはしないんだ」


 値段はブラドを凌ぐらしいから、氏族内の貧富の差を無くしたいと海人さんが教えたんだろう。義侠心に熱い人だったからね。

 俺達が上級生に絡まれていた時は、いつも海人さんに助けて貰った気がする。


 その日の夕食に、焼いたロデニルが1人1匹出されたんだけど、確かに旨い。魚醤と焼けたエビの肉はご飯3杯は行けそうだ。ナツミさんの手前があるから、お代わりは1杯だけなんだよな。


「そんなに美味しかった? 焼いたのは私なんだけどなぁ。やはり天性の料理上手なのかしら?」

 舞い上がっているナツミさんを、マリンダちゃんまで呆れた目で見ているのは気が付いていないようだ。

 焼くだけだからね。生焼けだって新鮮だからお腹を壊すことも無い。

 そういう意味では、ナツミさんの技量に合った食材と言えるんじゃないかな。


 豪華な食事を終えると、再び夜釣りの準備を始める。昨夜はシメノンがやってこなかったけど、この辺りにはいないのかもしれないな。

 

 道具を用意して暗くなるのを待つ。すでにランプは灯されているし、ナツミさん達はオルバスさんが割ったココナツジュースを飲んでいるみたいだ。

 夜釣りというからには、星がいくつか出てからになるらしい。夕暮れ時から始めても良さそうなんだけど、意外と律儀な種族らしい。


「そろそろ始めるぞ。だいぶ星も出てきたようだ」

 グリナスさんの言葉に頷いたところで、仕掛けを投入した。残り少ないタバコを1本取り出して火を点けると当たりを待つ。

 マリンダちゃんが、たまに舷側から身を乗り出して海面を見ている。何をしてるのか聞いてみると、シメノンの群れを見付けようとしているらしい。

 

「シメノンは群れを作って移動するんだ。だから海面を眺めていると、群れがいるなら、姿が見えるぞ」

「でも、水面付近では餌木に掛からないと思いますが?」

「いるのが分かった方がいいだろう? 水面近くにいるぐらいなら海の中にはたくさんいる筈さ」


 まぁ、道理ではある。納得したところで吸殻を携帯灰皿に投げ込んでいると、グリナスさんの竿が大きく踊りだした。


「来たぞ! 今日は俺が一番だな」

 竿を懸命に操りながら、タイコリールで道糸を巻きとっている。タイコリールも海人さんが教えたらしい。竿とリールを使うことで、夜釣は女性でも参加できるようになったということだから、その内にマリンダちゃんも自分の竿を持ち出すかもしれないな。


 手に持っていた竿にグングンと当たりが伝わる。

 大きく合わせて糸を巻き取り始めたが、これはそれほど大きくなさそうだ。

 たも網を使わずにそのまま仕掛けを持って甲板に取り込むと、ナツミさんが棍棒で頭をポカリと殴ってくれた。

 釣り針を外してナツミさんに獲物を渡すと、餌を付け替えて再び仕掛けを投入する。

 2匹目のバヌトスというカサゴに似た魚を釣り上げて、ナツミさんに手渡している時だった。


「シメノンにゃ!」

 マリンダちゃんが大声で教えてくれた。

 売値が倍以上というからには、俺も参加せねばなるまい。釣竿を邪魔にならないように置いたところで、木枠に巻いたコウイカ仕掛けを取り出した。


「こっちなら良いでしょう。それ!」

 ナツミさんが俺の右手で餌木を投げ入れる。水面に着水したと同時に、スピニングリールのベールを反して糸ふけを取りながら小声で数を数えている。

 餌木の深さを調節してるってことか? 中々手慣れてるな。

 どれ、俺も!

 木枠から糸を適当に繰り出したところで餌木を投げ入れる。餌木の沈む深さを、数を数えることで調整するのはナツミさんと同じだ。


 7つ数えたところで、道糸を掴んだ右腕を大きく伸ばしてシャクリを行い、右手で糸を引く。左手の動きで餌木がまるで生きたエビのように強弱を付けるのだ。

 左手に神経を集中しながら、しゃくっていると……。


「乗ったわ!」

 嬉しそうなナツミさんの声が聞こえてきた。

 先を取られたか。となれば数で上回りたいところだ。

 急に左手に重さが感じられる。グイッと力強く左腕を伸ばして餌木の針にシメノンを乗せたところで、道糸を手繰り寄せる。

 

 ナツミさんの方は結構手こずっているようだ。獲物が大きいのか中々引き寄せられないでいる。

 それでも、最後には「それ!」という掛け声を出して甲板にシメノンを落としていた。直ぐに餌木から外れたので、再び餌木を投げ込んでいる。

 二呼吸程遅れて、俺もシメノンを甲板に投げ出した。マリンダちゃんがカゴを持って回収しているようだから、俺達は釣り上げるだけでいいらしい。


「あれ? いなくなっちゃったみたい」

 ナツミさんが4匹目を釣り上げてからは、全く反応がなくなってしまった。どうやら群れが去ったのだろう。

 道具を片付けて、再び根魚釣りを始めることになった。

 ナツミさんが釣竿を畳んで俺の近くに寄せる。今度はシメノンの捌き方を取るトリティさんに教えて貰うのかな?

 きっと、何匹かは失敗するだろうから、明日にはシメノンの料理を楽しめるかもしれないな。


 翌日も、昼は素潜りで夜はサンゴの穴で根魚を狙う。

 シメノンを一夜干しにしたものに、魚醤を付けながら焼いたものが翌日の昼食に出てきた。やはりコウイカなんだろう。肉厚で甘みがある肉と魚醤はよく合う。ブラドより売値が高いのも理解できる味だ。


 3日間の漁を終えると、氏族の島に帰ることになる。

 トリティさんの話では、最初から比べると格段にナツミさんの包丁捌きは向上したらしいのだが、食事にいつも焼き魚の切り身がたくさん乗っているところを見ると、あまり将来は明るく感じられないんだよな。


「それでも、シメノン釣りは一人前だ。数匹は自分達で食べると思えば十分だろう」

 そんなことを言いながら、オルバスさんがココナッツの椀で酒を飲んでいる。

 ある程度の歩留まりを考えれば何とかなりそうだな。自分達の船を持ったら、俺が手伝っても良さそうだ。


「今夜は半月だな。次の満月はリードル漁だ。魔石を売ればまとまった金額が手に入るぞ」

「リードルの持つ魔石を売るんですか?」

「そうだ。リードルからは水の魔石が手に入る。青色の小石だが、濁りの有り無しで等級が付けられる。上級なら金貨1枚、中級なら大銀貨2枚、低級でも銀貨数枚にはなる」


 リードル漁は3日間行われるらしい。1日で手に入れられる魔石の数は10個程度と言っていたから、3日間で30個前後は手に入れられるのだろう。その内、2割は中級魔石とグリナスさんが教えてくれた。

 おおよそ25,000Dということだから、金貨2枚に大銀貨が5枚と言うところだな。

 カタマランの値段は金貨9枚になるらしい。海人さんはもっと凝ったトリマランを作らせたこともあるそうだ。

 それだけ、リードルを突けたということなんだろうな。

 少なくとも、俺にはそこまでの技量があるとは思えないから、3回のリードル漁で何とかしたいところだ。ナツミさんには悪いけど、それまではトリティさんの指導を受けて貰おう。


 翌日には氏族の島に到着した。いつもより湾内のカタマランの数が多いように思える。リードル漁は素潜り漁だが、期間限定の漁だから皆で一緒に出掛けるんだろう。

 上手い具合に、商船がやってきていたからトリティさん達が一夜干しを背負いカゴに入れて商船へと向かって行った。ナツミさんもマリンダちゃんと一緒にカゴを持って付いていったから、俺は水汲みに向かうことにした。

 明日は、近場の島にココナッツを取りに向かうらしい。野菜は少し採れるようだが、あちこちの島にある果物を結構料理に使ってる。

                 ・

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                 ・

 リードル漁は氏族の島から東に3日程進んだ場所で行うらしい。

 俺達を乗せたカタマランは船団を組んで東に向かっている。途中の島で果物や焚き木を取る船も結構あるんだよな。

 俺達も2回ほど、島に立ち寄って果物と焚き木をたっぷりと積み込んだ。


「リードルの処理をする島はそれほど大きくはないんだ。その島で焚き木を取ろうものなら、数回で島の木が無くなってしまいそうだ」

「他の漁はしないんですか?」

「リードルだけに集中する。何度も言ったが、島では決して裸足にはなるんじゃないぞ。俺達は底の厚いサンダルを履くんだが、アオイ達はその靴で十分だろう」


 毒槍が浜に残ってるのかもしれないな。海水で直ぐに中和されてしまうらしいが、靴を履くことで対応できるならそれが一番だ。

 3日の航海中は、オルバスさん達からリードル漁の注意点をしつこいぐらいに聞かされた。俺達の安全を考えての事だから、頷きながら聞くことになるんだけど、ナツミさんの方もトリティさんに色々と話を聞かされてるようだ。


4日目の朝に、小さな島が見えてきた。周囲の島と比べても小さく見える。お饅頭のような形ではなく、皿を伏せた感じの島だ。砂浜が広がってるけど、確かに小さな林しかないな。

 昼前に、島の近くにカタマランが次々と停泊する。島の渚まで30mほどだが水深は1.5mほどありそうだ。

 アンカー代わりのロープを付けた石を船首と船尾に投げ入れたからカタマランが動くことはないだろう。

 3艘のザバンに焚き木を積んで、ナツミさんを連れて島に向かう。

 ちゃんとスニーカーに履き替えたことを確認して、ザバンを砂浜に乗り上げるように止めると、焚き木を持ってオルバスさんの後を追う。グリナスさんはマリンダちゃんを迎えにカタマランに戻って行った。


「この辺りでいいだろう。アオイ、パドルで溝を掘ってくれないか? 砂はこっちに並べるようにしてくれ」


 言われるままに溝を掘る。トリティさんはティーアさんとナツミさんを従えて、道具を並べている。

 やがて、マリンダちゃんとグリナスさんが俺達に合流する。俺の溝掘りを直ぐにグリナスさんが手伝ってくれた。


「この溝の中でリードルを焼くんだ。こっちの砂山は銛を乗せるんだよ。崩れないように、最後に丸太を上に乗せるんだ」

「あのベンチで銛を抑えるんですね」

「そんな感じだな。どちらかと言うと母さん達が休んでる方が多いんじゃないか」


 低いベンチが3つ運ばれている。裸足で歩くなと言うぐらいだから、浜に腰を下ろすのも問題があるってことらしい。

 俺達が溝を作っている間に、オルバスさんがカタマランから焚き木を運んでいる。

 

 深さ50cm、長さ2mほどの溝は横幅も60cmほどある。この中で焚き火をすることになるんだな。

 溝掘りを終えたところで、大きな穴まで掘った。最後は、、この穴にリードルを入れるらしい。

 直ぐ側に背負いカゴで3つ分ほどの焚き木が運ばれてるけど、カタマランにはまだたくさんの焚き木があるから、初日はこれで十分なんじゃないかな?


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