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N-137 ネコ族の未来を託して


 軍船に荷物を移動したから、トリマランの中はガランとしてしまった。

 雨季明けのリードル漁が始まるのは1か月も先だから、豪雨の合間を縫って近くの漁場で根魚釣りをする日々が続いていた。


「どうやら、次の商船で種族会議とネダーランド王国との協議に出掛けるらしい」

「出掛けるんですか?」

「ああ、前回のリーデン・マイネの乗員達とナンタ氏族それにホクト氏族か6人ずつが途中で合流する。数発大砲を撃てば要領も分かるだろう。カイト、感謝するぞ」


 ついにこの時が来たって感じだな。

 グラストさんとエラルドさんは美味そうにワインを飲んでいる。

 俺達は、それがかなり難しい事になることを思って無言で酒器を傾けていた。

 そういえば、カヌイのおばさん達の計画も整っているのだろう。男達だけだと万が一の対策は立てていないから、カヌイのおばさん達は苦労してきたんだろうと思う。

 

「俺達はやはり必要無いと?」

「ああ、前回の戦でさえ一方的ではあったのだ。今回の軍船はそれ以上の働きをするに違いない」

「あの軍船の名は?」

「『リーデン・マイネ』に決まっている。以前のリーデン・マイネは別の名で呼ばれているぞ。確か『ガルトネン』だったかな?」


 引き渡して直ぐに名を変えたのか。まあ、譲った船だから文句は言わないが。

 

「お前達は今まで通り漁をすれば良い。できればリードル漁の前に帰ってきたいが、場合によっては雨季前のリードル漁に参加することになりそうだ」

 残念そうな顔をエラルドさんはしているけど、目が輝いてるのは新たなリーデンマイネで暴れまわれることを待ち望んでいる感じだな。


 そんな宴をした数日後に、エラルドさん達はリーデンマイネと自分達のカタマランの3隻で氏族の島を離れて行った。

 商船が入り江に入って来たら色々と面倒だからな。早めに出掛けて操船と大砲訓練をするのだろう。


 そんな事から、ビーチェさんが俺達の船に乗っている。孫が3人だからビーチェさんも寂しくは無いだろう。

 船が大きいから見習いの2人にも小部屋をカーテンで仕切ってあげた。

 俺達5人に子供が3人、見習いを2人置いてもトリマランの小屋には余裕がある。


「カイトさん。今日も根魚釣りで良いんですよね?」

「ああ、それで良い。夜釣りになるぞ。南の島の東に広がある漁場に行く予定だ」

「今夜は俺が一番になりますよ。何といっても、3本針ですからね」


 ラディオスさん達の船にも見習いが乗っているから、その連中と賭けをしているみたいだ。

 酒ビン1本を誰が買うか、というたわいもないものだけど、俺達もやってみようかな? 少しは張り合いが出るかも知れないぞ。


「3本針だと、1YM(30cm)だな。大物が来ると絡んでしまうぞ?」

「1YM半にしました。それは俺も考えましたよ」


 俺より少し年下なんだろうけど、漁の腕は中々だ。銛も親がしっかりと教えてくれたんだろう。俺が教えたのはゴムを使った突き方だが、直ぐにそのやり方を自分の物にしていたからな。

 曳釣りと餌木を使った釣りを教えると、器用に餌木を作っていた。

 俺達よりも漁の腕が上なんじゃないかと思ってしまうが、彼に必要なのは俺と一緒に漁をしたと言う、経歴なのかも知れない。

 さらに、この間の怪異である龍神の出現を見るなど、ネコ族では初めてじゃないのか?

 氏族の若者を率いるだけの資格を得るという事だろうが、すでに十分な素質と資格を持っているように思える。

 婚礼の航海にはあの銛を持たしてあげよう。


 いつの間にか、カマドで夕食作りが始まっていた。まだ夕暮れには十分時間があるけど、今夜は夜釣りだからな。

 夕暮れが終わろうとする中、俺達3隻の動力船が入り江を出発する。

 漁場までは3時間も掛からない。

 明日の朝には再び戻って来れる距離だ。


 数十匹の根魚を持って俺達が入り江に帰って来る時に、西の遠くに商船が見えてきた。あれから10日以上経過しているから、種族会議とネダーランド王国との協議の進展が分かるかも知れないな。


 入り江に帰って一眠りしていると、バルトスさんに起こされてしまった。

 急いで小屋に来いという事らしい。

 衣服を整え、ベルトに小さなバッグを引っ掛けていると、サリーネがお茶を用意してくれた。

 かなり苦いけど、おかげで目が覚めたぞ。


「種族の未来が掛かってるにゃ!」

「そうだね。だけど、サリーネが覚悟を決めるような事にはならないよ。そんなことにならないように皆が考えてくれてるから」


 噂はどんどん大きくなって、変な感じに変わってしまうから、あまり信じない方が良いぞ。

 とはいえ、長老会議の内容は男達にはある程度共有されるけど、嫁さん達にはあまり知らされないんだよな。俺達の後ろで聞いてても良いよと言ってるんだけど、小屋に皆で入ってしまう。

 たぶん、昔からの風習なんだろうけど、情報の出し惜しみは良くないな。

 長会議の大まかな内容を、誰もが知ることができるようにすれば良いんだろうけど、少し考えてみるか。


 考えながら桟橋を歩いていたらしく、いつの間にか小屋の前に来ていた。

 扉を開けて、囲炉裏近くの指定されていた場所に座ると、長老と、会議に集まった面々に頭を下げる。


「ようやく起きたようじゃな。カイトの危惧した通り更なる要求を突き付けてきた。2日の猶予と言っていたが、今日がその日じゃ。すでに交渉は決裂しておろう。早ければ今日中に軍船が乗り入れて来る事になる」

「俺達の新しいリーデンマイネにこの海域で勝てる船は無いはずです。グラストさんとエラルドさんの船にも新たな武器を搭載していますから、都合3隻の戦力で我らが千の島を守ることは可能でしょう」


 俺の言葉に皆の顔が明るくなった。

 俺からの言葉を待っていたのだろうか? まあ、あまり氏族の連中には話していなかったのは確かなんだが。


「最悪は夜逃げじゃからな。カヌイの連中はそれを考えて準備しておるようじゃが……」

「それも悪い事ではありません。物事には絶対という言葉は存在しません。万が一にも3隻が沈められたら……、俺達は先人にならって東に旅立つことになるでしょう」


 今度は、皆で下を向いてしまったぞ。

 バッグから、パイプを取り出して囲炉裏で火を点ける。

 こんな時には、余裕を持った態度でいるのが一番だ。


「カイトのいう事も最もじゃ。確かにカヌイ達を笑う事は出来ぬ。だが、いつそれが分かるのじゃろうか?」

「早くて5日後でしょう。食料をいつもより多く準備し、近くの島から果物を集めて待っていれば十分です」


精々2日の日程で漁をしていれば良いだろう。ネコ族だから、途中で釣りをしても十分に食料を得ることができるんじゃないか。


「という事じゃ。遠くに漁をしても、翌日には帰れる漁場で、いつも通りという事になるのう」

「加勢の若者を集めなくてもよろしいので?」

 席の後ろから声が聞えた。

「グラストとエラルド達が率いて出ておる。グラスト達で勝負が着かない場合は、若者を死に追いやることもあるまい」


 そう言う事なんだが、どれだけの者が理解しているんだろうか?

 武器でかなりのアドバンテージを持っているけど、国力の差がありすぎる。

 ネダーランド王国の、千の島への覇権を断念させるのが目的だから、圧倒的な軍船の威力を見せて、向こうに折れて貰うのが最良なんだけどね。

 さらに、ネダーランド王国の北と南の王国とも商船の往来を行えば、必然的にネダーランドの影響を削ぐことが可能だ。


 その戦が、サイカ氏族の島周辺で行われているんだろうな。

 相手の射程範囲外から攻撃するんだから、グラストさん達は無事だとは思うが、意外と過激な性格もあるからな。

 接近して、一撃で軍船を破壊するような攻撃をしなければ良いのだが。


「我等は何時もの漁をすれば良い。結果の知らせは届くじゃろう。我等種族の根絶やしでも行わぬ限り、この地を去ることもあるまい」

 

 長老もなだめるのが大変みたいだな。俺を呼びだしたのもその辺にあるんだろうけど、通信手段が商船の便りだけというのも問題ではあるんだよな。

 いずれにせよ、次のリードル漁の前には決着するだろう。それに、俺達の3王国への対応もすでに考えている。

 戦が長引くのであれば、今期のリードル漁の取り止めを宣言すれば良い。

 ネコ族の供給する水の魔石は総数でどれ位になるんだろうか? たぶん2千個を超えるんじゃないだろうか。

 その魔石に寄って、数々の魔道機関が作られているのだ。王国の暮らしに支障が出て来るだろうし、魔石に係わる多くの職が奪われることにもなるだろう。

 さらに、ネダーランド王国と軍船が睨み合う事態になれば、その措置が継続することになる。南北の王国に数百の魔石を供給するだけで、ネダーランド王国との国境地帯に軍を動かす位はやってくれるだろう。

 そこまでネコ族としては考えられないんだろうけど、俺がいるからな。決して正直一辺倒の甘い交渉相手にはならないぞ。


 数日が過ぎて、後10日もすればリードル漁に出掛ける時期になって来た。かなり微妙な時期だから、氏族の島全体がそわそわとした動きになっている。

 全ての動力船が漁を休んで銛や漁具の手入れをしているのだが、エラルドさん達の結果を早く知りたくて漁にも出られないんだろうな。

 俺達だって、そんな感じだ。

 たまに襲ってくる豪雨を帆布の下でやり過ごしながら、リードル漁の銛を研いでいる。

 

 そんな日が2日続いた夕刻、島影から大型商船が姿を現して入り江に入ってきた。

 舷側にたくさんのランタンを灯しているから、いつ見ても商船は華やかだな。

 商船が石の桟橋に接岸するのを待ちきれずに、数人の男達が桟橋先端の広場で商船に手を振っている。

 いよいよ結果が分かるってことだな。


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