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N-128 約定と追加の要求


 氏族の島を南に向かって2日。

 航行は昼間だけだから、昔の外輪船で来るなら3日というところだろう。

 氏族の島の半分程の島を過ぎた時に、俺達の前に広大な海域が現れた。


「外洋?」

「いや、たまたまだと思う。ほら、かなり離れているけど、島が何個か南に見えるだろう」


 小屋の屋根で双眼鏡を片手に眺めていた俺に声を掛けてきたのはリーザだった。

 リーザに双眼鏡を渡して甲板に戻ると、今度は海底を眺める。

 透明度はかなりのものだが、水深は10mに達していないようだ。それでも、今までの海域と比べるとこれに匹敵するのは真珠貝が獲れる漁場だけだった気がする。


ゆっくりと数隻のカタマランが近付いて来た。

 やはり、想定外の風景だったみたいだな。


「波は穏やかだが水深はかなりなものだ。傾斜はきつくないが、サンゴ礁は傾斜に沿って続いてるぞ」

「潜って確かめるべきだな。サンゴには残念だがアンカーを下ろしてこの場に停泊するぞ」


 バルテスさんとゴリアスさんの言葉に頷くと、船首でアンカーを下ろした。ロープが結構出て行くから、やはり水深はあるって事になるぞ。

 夕食を終えて甲板のベンチで皆とお茶を飲んでいると、鋭い笛の音がする。2度目の音の方向を見ると、バルテスさんが海面に向けて腕を伸ばしている。


「シメノンにゃ!」

 ライズの声に。、俺達は一斉に行動を開始する。

 リール竿に餌木を取り付け、海中に沈めれば直ぐに当たりがきた。

 サリーネが準備したオケにシメノンを入れて、次を狙う。

 あちこちの船から歓声が上がっているから、それなりに釣れているに違いない。

 2時間ほどで群れが去ったが、バケツ程の大きさのオケ2つ分のシメノンが俺達の手元に残った。俺が道具をしまっている間に3人が手際よくさばいてザルに並べている。

 大きなザル3枚に開かれたシメノンを並べて、小屋の屋根に一晩干せばできあがりだ。明日の晩には一夜干しのシメノンでワインが飲めそうだな。


「さい先が良いにゃ。明日は大物が突けるかも知れないにゃ」

「この辺りに来る氏族の連中はいないだろうからな。どんなのが突けるか楽しみだね」

 獲らぬタヌキではないが、明日の漁果を肴に飲む酒も良いものだと思う。


 翌日は、サリーネとマイネをトリマランに残し、リーザ達とザバンに乗って銛を突く。

 グラストさん達の目的であるハリオの姿もちらほら見える。2匹突いたが、引き上げるのが面倒なんだよな。

 50cmクラスの根魚やブラドが俺には丁度良い。

 リーザ達も数匹のブラドを突いているから満足したに違いない。


 2日間の素潜り漁と根魚釣りで保冷庫にはかなりの魚が入っている。

 カタマランを俺のトリマランに寄せて停泊し、皆で大漁を祝いながら宴会をするのも俺達の楽しみだ。


「そうそう、サイカ氏族からラディオスとラスティに嫁が来るぞ。なかなか良くできた娘達だ。親の腕もサイカで一番だったからな」

 酔ったグラストさんがそんな話を始めたから、大騒ぎになってしまった。

 サイカ氏族で一番と言う事は、聖痕を持つ漁師じゃないのか?

 良くも他の氏族に娘を贈る気になったものだ。


「だった?」

「あぁ、相手軍船の矢を受けてな……。外輪船は速度が出ん。他の氏族の動力船と一緒に海域を封鎖してたんだが……」


 顔を伏せてグラストさんが呟いた。

 長男と二男はサイカ氏族に残ったようだが、予想以上にサイカ氏族の島が荒らされてしまったらしい。それに、かなりの軍船も漁場に沈んだらしく、サイカ氏族の漁場が半減したらしい。


「サイカ氏族は、オウミ氏族の島にしばらくは留まるらしいな。オウミ氏族も3つに分れたぐらいだから、その1つがサイカ氏族と合流して新しい氏族を作ることになるやも知れんな」

「トウハ氏族に逃れてきた者達が再び氏族の島に戻るかどうかは彼ら次第だ。同じネコ族、いつでもトウハ氏族の一員として迎えることはできる」


 ラディオスさん達のところにやってきた見習い達も、そんな考えから来たのかも知れないな。

 慣れない銛を持って一生懸命に獲物を追っていたとラディオスさんが話してくれた。


「聖痕の持ち主はネコ族で2人だ。次はどこの氏族の若者が聖痕を持つんだろうな」

 その辺りの話をもう少し聞いてみると、常に2人ということも無いらしい。サイカ氏族の若者が聖痕を持って10年以上経過してから俺が現れたらしいから、多くても2人と考えた方が良さそうだ。

 過去には同じ氏族が2人の聖痕持ちを得た事もあるらしいから、エラルドさん達は期待しているのかもしれないな。


「ラディオス達には最初に引き合わせるが、しばらくは氏族の島で暮らすことになるだろう。美人だし、料理の腕も中々だ。一度会ってみるが良い。俺としては良い縁組だと思うがな」


 サイカ氏族の口減らしってわけじゃ無さそうだ。エラルドさんの目に適うなら、それなりの女性って事だろう。ラディオスさん達の嫁にというのは言葉のあやだったようだ。

 だけど、ネコ族の男女比率を見ると男が少ないのは俺にも分ってきた。それを考えれば、ラディオスさん達の嫁さんもそろそろってことなんだろうな。

 戦のおかげでカガイの風習もしばらくは中止らしいし……。


・・・ ◇ ・・・


 氏族の島に戻るといつものように嫁さん達が獲物を運ぶ。大きなハリオは俺達が運ぶ事になるが、値段の交渉は嫁さん達に任せることになる。この辺りは役割分担が徹底してるな。


 2日程の休みを取ってまた出漁になるから、商船のドワーフを訪ねてみた。

「こんな形に鉄を加工できますか?」

 簡単なメモに描いた鉄の筒と筒に合わせた球体をしばらく眺めていたが、可能であるとの答えを貰った。


「こんな筒で漁をするのか? 全くネコ族の考えはワシ等に理解出来んな。練鉄で作るなら銀貨50枚にはなるな。この鉄球は1個60Dでならできるだろうよ」


 そんな交渉で、試作品を1門作って貰う事にした。

 火薬ができても大砲ができないと威力が分らないからな。

 ついでに、屋根材としての真鍮の板を発注する。将来に備えて500枚あれば十分だろう。足りなくても大陸ではかなり使われているらしいから、直ぐに手に入るはずだ。

 最後に、薬草を潰す道具と素焼きの壺等を買い込んで帰ってきた。

 火薬製造はいつ行うかも問題だな。できれば誤爆しても被害が無さそうな場所で行いたいものだ。

 

 背負いカゴを重そうに運んできたから皆が驚いていたけど、ちょっと作りたいものがあるからと誤魔化しておいた。銀貨数枚は持っていたんだけど、これで半分以上無くなってしまったぞ。


 夕方になって長老会議から呼び出しを受け、いつもの小屋に入って話を聞く。

 どうやら、約定に無い事をネーデルランド王国が始めたらしい。


「サイカ氏族の島に、王国の徴税所と商業ギルドの店を作ると言っている。近くに定住できる島が無いから、そのような施設を作るとなればサイカ氏族の島に作ることになってしまう」

「問題は、その施設を作るために約定書にそれを追加したいと言う事だ。認めれば次に何を作っても約定書の修正で済んでしまう」


 芋づる式に色々と作られそうだな。それを懸念してるって事のようだ。

 だが、あれからさほど日が経っていないぞ。それで約定書を変えるのは、俺達にくび木を付けて自分達の都合の良いように使うつもりなのだろうか?

 認めなければ、リーデン・マイネを渡してあるから俺達を屈服させることにさして時間は掛からないかもしれない。俺達の動力船を全て破壊されたら、食料だって手に入らなくなりそうだ。


「時間が欲しいですね。今のところ相手も穏便に出ています。相手の要求がそれだけでしたら、ネコ族の発展のために認めても良いのですが、それでも何点か約定書に記載する必要がありますよ」


 相手が要求した施設以外の施設を作らせないと言う事が大事になる。

『……を設置する事をネコ族は認める。ただし、その大きさは1辺が4FM(12m)の四角形。高さは2FM(6m)以下とし、ネコ族の指定する場所に設置すること。

 なお、土地の大きさは6FM(18m)四方とする。

 この2つの施設以外にネコ族の自治区域にネコ族以外の者が建物を建築すること。土地を使用することはない』

 これで不用意に大きく建て替えられる事もない。

 次が、王国の軍船による俺達の監視を以下に防ぐかだな。

 広大な海だが、俺達の自治が及ぶ範囲を明確にしておけば、ある程度防げるかも知れないな。

 地図を広げて、旧来の外輪船で3日の到達範囲の2倍を範囲とすれば良いだろう。俺達の人口が増えても、これ位広ければ暮らしは立つはずだ。

 ナンタ氏族やホクト氏族の漁場もこれで入っているとは思うが、確認は必要だろう。


「おもしろい考えじゃな。果たして相手は納得するだろうか?」

「最終的には破棄してくるでしょう。ですがそれまでは間があります」

「時間を稼ぐのじゃな。以前の王国よりも今度の王国は他と協調することを良しとせぬようじゃ。それ程時間は無さそうじゃぞ」


 商業ギルドや工房ギルドも、そんなネダーランド王国の動きに注目しているようだ。当然周辺の王国も緊張しているに違いない。

 

「リーデン・マイネと同じ武装は持たぬことは約定に記載されておる。約定を我らから破るのは後々問題となろう。……できるのじゃな?」

「試験は次の乾季には始められると思います。船もそれに合わせて作れそうですが、リーデン・マイネよりも大型になりますよ」


 俺の言葉を肯定と受け取ったのだろう。長老が革の小袋を取り出した。

 渡された小袋を開けると、金貨が詰まっている。


「それで氏族の蓄えを吐き出すことになる。直ぐにリードル漁があるのじゃ。また貯えれば良い」


 ありがたく頂いて腰のバッグに納める。

 互いに約定の内容について調整し合うだろうし、俺達の版図をネダーランドがどのように考えるのか……。

 約定の調整に2年以上かけて欲しいものだ。

 それだけあれば、色々と準備出来るんだけどね。


「長老。やはり王国は我らを駆逐すると?」

「駆逐まではせぬじゃろうが、漁果のほとんどを持って行くじゃろうな。農奴と呼ばれる者達が王国の穀倉地帯で働いておるようじゃ。収獲の7割を持って行くらしい」


 ここは腹を決める時だろう。

 となれば、商船やドワーフ達、場合によっては北の海を越えたところにある王国、南西方向にあるという王国とも根回しをしておいた方が良いのかも知れない。

 でも、それは俺達が新しい軍船を作ってからだ。

 それまでは、約定の記載を巡って長老達に頑張って貰わねばならないな。



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