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N-127 俺達の決意


 面倒な事になってきたな。

 長老会議を終えてトリマランに帰ると、今度はラディオスさん達に会議の話を伝えることになった。

 一通り、全部を話したところで、グラストさんが俺に声を掛ける。


「カイトの心意気は俺達も賛成だ。だが、あの船を渡すことは無かったんじゃないか?」

「2番船の話もしていたな。カイトは同じ武器を乗せぬと言っていたが、それではリーデン・マイネに太刀打ちできないんじゃないか?」


 やはりエラルドさん達は将来を危惧していたな。

 簡単に神亀が我らの味方であることは話したが、もう一度詳しく順を追って話すべきかもしれない。


「一番の問題は、ネダーランド王国が我らネコ族を相手に、どんな治世を取るかと言う事です。かつてのガリオン王国のように自治を認めるのであれば、特に問題はありません……」


 それなら、ネコ族に影響があるとは思えない。海賊は噂だけの存在であることを俺達が知っているのだから、軍船で俺達を監視する言いわけもできないだろう。

 問題があるとすれば、魔石の独占をネダーランド王国が図った時だ。

 どのようにして採取するかが分らなければそれまでだが、情報は必ずリークするだろう。

 大規模なリードル漁が行われる事になるはずだ。

 その時、ネコ族に対して2つの方策が考えられる。一つは俺達を追い出して自分達で漁を行うか、もう一つは俺達に無理やり漁を行わせるか……。


「たくさんの軍船を率いてやってくるだろうな。後者の方が現実的ではある」

「俺も、そう思います。それはネコ族として許容できますか?」

「出来るわけが無かろう! この島は我らの版図だ」

 グラストさんが声を荒げるから、小屋の方から嫁さん達が顔を出したぞ。


「そこで、ネーデルランドの使者との話になるんです。結構喜んでましたから明日には調印となるでしょう。それは約定です。相手が破れば他の王国は俺達の側に着くでしょう……」


 この世界では契約が重要視される。たとえ自分達の影響が及ぶ範囲であれ、そこにすむ種族との約定が交わされれば、王国間の約定と同様に機能する。

 約定を一方的に破れば、他国との約定も自動的に反故にされかねないのだ。

 あえて、約定を反故にする場合は、それらの対処が確実に行える事を十分に検討することになる。


「要するに、時間が掛かるってことか? ネダーランドの国土は2倍になったが、他国を滅ぼした直ぐ後では、国内で手一杯と言うところだろうな。確かに数年、いやそれ以上の年月が必要かも知れんぞ」

「俺もそう思います。ですから、リーデン・マイネを譲っても直ぐには脅威にならないと判断しました。それに、神亀がいれば簡単に沈みますよ……」


 神亀はマイネと意識を共有するはずだ。そのマイネに恐怖を与える存在として神亀がネーデルランド王国を認識した場合は、千の島にネーデルランドの船を乗り入れ事は出来なんだろう。

 ちょっと過激な使い方だが、それも可能なはずだ。

 だが、神亀がマイネに宝玉を贈ったのは、かつて千の島に住んでいた者達と同じことを竜神が考えているのかもしれない。

 カヌイの老婆は、神亀と東に去ったと言っていたからな。

 ネコ族との争いを逃れて去ったのだろうが、同じことが今のネコ族にも可能と言うことだろう。

 トウハ氏族の島の東には、さらに島が点在しているに違いない。


「そう言えば、そんなことをカヌイのおばあさんが言ってたな。だけど、俺達はここでの暮らしが気にいっているぞ。竜神が教えてくれた島だ。それを去るなんて……」

「それで、リーデン・マイネの交換条件が生きて来るんです。商船のドワーフ達は大陸に自分達の工房を持っています。変った注文や、少し複雑な注文は工房で作られていますが、俺は、リーデン・マイネに乗せた武器よりも格段上の武器を作ろうと考えました。作れることは分っていますが直ぐにできるものではありません……」


 島の畑の肥料にも使えるが、硫黄と硝石それに木炭があれば火薬ができる。ドワーフの鉄の加工は一流だ。この2つを合わせると、初期の前装式の大砲が作れる。

 口径は50mm程でも、この時代の軍船なら簡単に沈められるだろう。


「それをリーデン・マイネのような船に乗せるんだな?」

「今度は2つも甲板が要りません。形としては小さいですからね。それでも同型艦であれば4門は乗せられます。飛距離は大型石弓の10倍以上、腕の腕の太さ位の板は破壊できます……」


 大砲は圧倒的な軍事力になるだろう。トリマランの魔道機関の搭載数を増やせばさらに速度が出せる。

 そんな軍船の前には、リーデン・マイネすら敵ではない。


「建造するつもりか?」

「隠匿場所は、ネーデルランド王国も知らないでしょう。2隻作れば海戦で負けることはありません。それに、もうひとつ大事な事があります。ネーデルランド王国は大陸の王国です。兵士は泳げるでしょうか?」


 皆が俺に顔を向ける。

 恐ろしいものでも見るような目だ。


「泳げるわけが無い。しかも、矢に備えて兵士達は重装備だ。船が沈んだら皆溺れてしまうぞ!」

「助けますか?」

「ネコ族は、義を大事にする。それに反した者達に義を用いることは無い」

 グラストさんの言葉に大きく頷いた。

「それが答えです。大砲は戦の仕方を一変するでしょう。ですが、その威力をネコ族以外が知る事は無くなります」


 俺の言葉に、皆が考え込む。

 確かに非人道的なところはある。だが、その原因を作る者は俺達ではない。その責任は取って貰わねばなるまい。


「それで、リーデンマイネはどうするんだ?」

「真ん中の船から魔道機関を外して下さい。その跡を保冷庫に偽装できませんか?」

「単なる、浮きだと思わせるんだな。明日にでも取り外そう、それ位なら俺達で十分にできる。荷物の引き上げと言っていたのはそういう事か……」


・・・ ◇ ・・・

 

 翌日、グラストさん達はリーデンマイネから荷物を運び始めた。

 魔道機関も布に包まれて運び出されたから、俺のトリマランに追い付く事はできないだろうな。

 

 俺達はいつものように集まって次の漁場を相談している。

 バルテスさん達にも見習いが乗り込むようだ。銛を使わせたいというのはラディオスさんと同じだろう。

 たぶんエラルドさん達も一緒に出掛けるだろうから、それなりに大物も狙える場所って事になりそうだが、そうなると場所が限定されそうだ。


 夕食が終ってのんびりしていると、4人が帰ってきた。

 さっそく、ネーデルランド王国との約定の話が始まるが、基本的には俺が提示した内容がそのまま書かれていたようだ。


「あれなら、カイトの将来計画には十分だ。使者は何も知らずに喜んでいたが、その時になってどんな顔をするか楽しみだな」

「カイトの要求した資材は樽詰めで直ぐに送るそうだ。商会の連中のサインもあるから、問題なく届くぞ」

「なら問題ありません。ところで次は……」


 真珠貝の獲れる海の南に向かう事に決めたようだ。

 俺達の船なら2日も掛からないし、グラストさんとエラルドさんは新たに見習いを2人ずつ乗せるらしい。年頃の男女と言っていたから、もう少しで動力船を手に入れられるって事だろう。


「狙いはハリオだ。若い連中には少し難しいだろうが、なぁ~に、大きいのがいれば小さいのもいるだろう」


 婚礼の航海を復活させるつもりのようだ。ハリオの漁場を探すって事になるんだろうが、前の島でも2日程南に行った漁場にいたんだよな。

 ラディオスさん達も久しぶりの大物の漁に大きく頷いているけど、見習いも一緒だという事を忘れないで欲しいものだ。

 翌日は準備という事で、出発は明後日になる。

 久しぶりに銛を研いでおいた方が良さそうだな。


 朝食が終わると、嫁さん達は野菜や果物を買いにお店に出掛けたようだ。

 エラルドさんは俺の船から自分の船にビーチェさんと一緒に荷物を運んでいる。

 ビーチェさんもエラルドさんが無事に帰ってくれたのを喜んでいるみたいだ。俺はちょっと残念な気持ちだ。何ていってもビーチェさんの料理は美味いからな。嫁さん達が、どれだけビーチェさんに近付いたかが今夜分かるだろうけどね。


 一段落すると皆が俺の船に集まって来る。

 エラルドさん達が連れてきた見習いの4人は、20歳前後だから俺より年下になる。俺も、だいぶここでの暮らしが長くなってきた。


 俺の研いでいた銛の1つを彼らに見せて、その銛の機能を教えている。銛先が外れる事を知って驚いていたけど、グラストさんの説明を聞いて納得している。

 ラディオスさんのところの見習いは、まだまだハリオを突けるだけの技能が無いらしい。俺達の話を黙って聞いている。


「3YM(90cm)クラスのハリオはざらにいる。この銛ならそれ以上のハリオを突いてもだいじょうぶだ」

 最後にそんな事を言っているけど、その銛を見習い達は持っているはずがないから、使う時には自分達の銛を貸してあげるんだろう。


 いつの間にか、皆の嫁さんも子供を連れてやってきたから、今夜はここで宴会になるだろう。


「カイト、おかずを釣って来るにゃ!」

 ビーチェさんから聞きなれた指示が聞えて来た。

 ビーチェさんには、俺がおかず担当と認識されてるみたいだ。


 甲板のベンチに座って釣竿を出すのは、俺とラディオスさんだ。

 互いに昔から一緒におかずを釣っていたからな。たくさん釣れるようなら見習いの少年に代わって貰おう。

 この船の2個のカマドだけでは足りずに、隣のラディオスさんの船のカマドまで動員されている。

 良い匂いが辺りに漂うと、ラディオスさんと顔を見合わせてしまった。

 気の合う仲間と、楽しく漁が出来て、美味い食事にありつけるのは幸せ以外のなにものでもない。

 この幸せを奪うものが現れたら、俺達ネコ族は全力で反撃を加えるだろう。


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