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N-125 リーデン・マイネが帰って来た


 操れるってどういう事だ?

 あの神亀を自由に操れるって、そんな事なら神亀がマイネに渡すわけはないと思うけど?

 

「言い伝えには、こうある……」


 東海に巨大なウミガメ神亀が眠る

 龍神の眷属にして、良い漁場を教えたもう

 我らと龍神の仲立ちをせし神亀は2つの心を持つ

 心の1つを我らに与え給う時、その呼び掛けに神亀は答えるであろう……


 2つの心と言うのが曲者だな。

 意思を伝えあえるって事なんだろう。それなら、マイネよりもカヌイのご婦人の方がふさわしい気がするぞ。


「我等カヌイはそんな先人の信仰を継承したが、それでもかつて先人に賜れた宝玉が深山の緑に彩られていたことは伝わっている」

「かつて、この幼子が持つ宝玉が人の手にあったというのか?」


 長老の一人の問いに、カヌイの老婆が深く頷いた。


「我らの先達達と言ってよいじゃろう。ネコ族ではなく我らの前にこの地に住んでいた者達じゃ。我らが船団でこの地にやってきた時に、その宝玉で神亀を呼び、遥か彼方の地に向かったという事じゃ」

「では、俺達もかつてこの地に住んでいた者達と同じようにこの地を去る事になるのか?」

「いや、そうは思えぬ。残った先人達も大勢おったようじゃ。望む者達だけじゃな」


 自分の思い通りというよりは、神亀と何等かの交感がなされたという事なんだろう。

 なぜマイネを選んだかは分からないけど、単なる気まぐれなのかも知れない。

 長く生きる上で、地上の情勢を知る必要があるって事なのだろうか? マイネの心を通して線の島に住む者達が幸せなのかを確認する手立てとも考えられるな。


「このまま、マイネが持っていてもよろしいのでしょうか?」

「この幼子に託されたのだ。何人もその宝玉に触れることは適わぬであろう」


 俺が持てたことは話さないでおこう。そう言う伝承なら、そうしておいた方が良いのかも知れない。


「とはいえ、落さぬとも限らぬ。瓔珞ようらくに仕上げて、首に下げておれば失くすことはあるまい」

「そうしようと思っていたところです。商船の腕の良い職人に頼んでみるつもりです」


 俺の言葉に老婆が頷いてくれた。マイネの頭をなでると俺の腕にマイネを返してくれる。


「しかし、氏族の繁栄は約束されたも同じ、聖痕を持つカイトに、宝玉を持つマイネがおるのじゃ。長じては我等が伝承を伝えねばなるまい。長老達よ、よくよく氏族の行く末を考えるのじゃぞ」


 ふらりと老婆が立ち上がるとカヌイのご婦人方が老婆の手を引いて、甲板を立ち去って行った。

 

「ネコ族の将来に何かあるのであろうか? カヌイの長の言葉が気になるのう……」

「まあ、良いではないか。我らの繁栄については問題あるまい。カイトを氏族に加えて後、我らの漁果は以前と比べ物にならん。魚を獲りつくすことなく、漁を続ければ良い事じゃ。それを我らが導くという事を再度自覚すればカヌイの長の言葉にも沿うはずじゃ」


 長老達が老婆の言葉の解釈になやんでいるけど、俺は少し違うんじゃないかと思う。

 たぶん、それではない何かがあるという事だろう。行く末を左右するような事態とは気になる言葉だが、それを脇に置いても繁栄すると言うのかも知れないな。

 サイカ氏族の漁場で起こっている小競り合いとは異質なんだろうが、エラルドさん達が戻って来たら、その辺りの危惧を一緒に考えて貰おう。


 何にか入り江で過ごすと、商船がやって来た。

 マイネの宝玉は、商船のドワーフが綺麗な瓔珞に加工してくれた。

 宝玉に一切傷を付けずに、金の網で包むように仕上げてくれたが、結構太い金網だから落ちるという事は無いだろう。

 マイネの手の中の宝玉の寸法を測り、一切手を触れずに加工できるんだからドワーフの職人技術は凄いものだと感心してしまった。

 もっとも、網に入れる時だけは、革の手袋で宝玉を掴んだけど、何も言わずともドワーフにはあの宝玉のいわれが分かるんだろうか?


「出来たな! それなら落とさないだろう。大事にしろよ」

 商船から帰って来ると、バルテスさん達が俺の船に集まっていた。

 瓔珞を仲間に見せると、皆が納得している。深い緑は金細工に映えるみたいだな。

 マイネを小屋に中のサリーネに渡して、皆の輪に加わる。

 酒器に酒を注いで貰い、パイプに火を点けた。


「色々あったが、カイトが一緒だと退屈することはなさそうだ。ラディオス達の見習いはどうなんだ?」

「釣りは教えることは無いな。仕掛けの説明をすれば直ぐに理解する。さすがはサイカ氏族だ」


 サイカは釣りの民って事だな。

 とは言え、サイカ氏族の獲物は小さいものが多いらしいから、大物釣りを経験させるのが良いのかもしれない。

 

「だが、素潜りは入り江の少年達の方がまだマシだ。俺が5匹突く間に1匹をようやくって感じだな。おかずを突いてこいと、ラスティのところの見習いと一緒に入り江で漁をしている筈だ」

「その辺りは、氏族の特色だからな。あまり無理をさせるなよ。リードル漁は来季に参加させれば良い。浜の仕事だって色々あるからな」


 素潜り漁は経験と身体能力で左右される漁だ。「さあ銛で突いてこい」と言っても早々上手く突けるわけがない。

 気長に教える事になるんだろうな。リードル漁も危険な漁だという事が十分に分かってからで良いんじゃないか。


「そうなると、次の漁だ。俺達の船は通常の動力船の速度を遥かに超える。半分の時間で行けるからな」


 バルテスさんの言葉に俺達の輪が急に賑やかになる。

 どこに出掛けるかを最終判断するのはバルテスさんとゴリアスさんだが、俺達の意見はちゃんと聞いてくれるからな。

 自分でも、ちゃんと意見を言うし、俺達の非難だってちゃんと聞いてくれる。

 

「よし、色々出たな。あまり遠くなく、おもしろそうな場所は俺も賛成だ。という事で、北に向かって見よう。ブラカ作りに一度だけ言ったが、あそこもサンゴの根がたくさんあったからな」 

 さすがはバルテスさんだ。意表をついて来るけど、誰もが頷ける場所だ。


「大物は見掛けなかったが、ブラドよりもバルタスが多かった記憶があるぞ」

 そんなラスティさんの言葉に皆が頷いている。

 ブラドの2倍で売れる魚だ。イシガキダイのような奴だから、銛を撃つ場所が狭いんだよな。動きも早いし結構楽しめる魚ではある。


「見習いの突ける魚はいたんだろうか?」

「ブラドやバヌトスがいないわけじゃ無かろう? 腕によって獲物を選ぶのも覚える必要があるぞ」


 正論なんだが、俺なんか最初からやらされたような気がするな。

 まあ、漁村育ちだからそれだけ下地が出来てたんだろうし、この聖痕に助けられてもいるのだろう。

 向こうの世界にいた時と比べて、格段に水中での動きが良くなったし、息継ぎの間隔も長くなっている。


翌日から5日間掛けて北の漁場に出掛けて、俺達は素潜り漁を行った。

大きな保冷庫に獲物を詰めて氏族の島に帰って来ると、石の桟橋に停泊していたのは大型商船と、リーデン・マイネじゃないか!

ネダーランド王国とガリオン王国の残党との争いが終わったんだろうか?


桟橋に動力船を停泊させると同時に、バルトスさんとゴリアスさんが桟橋を駆けて行った。先ずは情報って事だな。

俺達は何時ものように獲物を商船に運び、夜に集まって来るのを待つことにした。


「軍船が帰ったという事は、前のように平和に暮らせるにゃ」

 日暮れの甲板のベンチでのんびりとおかずを釣っている俺の傍に、ビーチェさんがやって来て、ぽつりとつぶやく。


「そうですね。俺達に戦は向いていませんから」

 自然を相手に漁をする一族だからな。昔はどうでも、今のネコ族に大陸への侵出を考えるような指導者は現れないだろう。それはネコ族が長老会議と種族会議に重きを置く事からも想像できる。ある意味、民主主義なのだ。

 強力な指導者が、ネコ族会議を掌握することになれば話は変わるけど、それでも他の氏族会議を納得させるのは難しいんじゃないかな。


 だが、1つだけ方法が無くはない。俺とマイネが組んだらそれに近いところまで行けるんじゃないか?

 聖痕の持主は種族で2人だけだ。その実績とマイネが神亀を使ったら……。

 まあ、そんな事には万が一にもならないだろう。

 俺は面倒なことは嫌いだし、こののんびりした暮らしが天国に思えるからな。


 誰かが桟橋を走って来る。

 俺の船に飛び乗って来ると、大声で俺を呼んだ。


「カイト、長老様がお呼びだ。お前の意見を聞きたいらしい。直ぐに来てくれ!」

「行ってくるにゃ。トウハの心意気を示してくるにゃ!」


 ビーチェさんの言葉は少し過激だけど、氏族の将来を左右すると感じてるんだろうか?

 吃驚して小屋から出てきたライズに釣竿を渡して、男の後を急いで追い掛けた。

 

 砂浜を駆けて長老会議の小屋に入る。

 依然に比べてだいぶ大きくなった。床も板で張られているが、中央に炉が切られており、その奥に長老達4人が座っている。炉の左右にはエラルドさんやグラストさん達トウハ氏族でその名を知られた者達だ。バルテスさん達は出入り口近くに神妙な顔つきで座っている。


「来たな。お前の席はここだ。聖痕の持主を俺達と同列には出来ぬ」

エラルドさんが腕を伸ばして示した場所は、エラルドさん達の座る対面の上座じゃないか!


「そこで良い。氏族にこれだけの貢献をしておる。我らと共にこちら側でも良いと言ったのじゃが、グラスト達が反対しおった。氏族の順位は長老の左腕、俗に長老の知恵袋と言われる位置じゃが、確かにグラスト達はカイトの事を良く知っておると皆で感心しておった。そこに座るが良い。そこがカイトの居場所だ。何時の会議でも構わぬ。カイトがおらぬ時は、その場所は空席になる」


 エラルドさん達が頷くのを見て、長老に向かって炉の右端に向かい、長老と長老会議に集まった男達に一礼して座る。

 1辺が2mもある炉の周りに4人ずつ座っている。俺の向かい側はグラストさんにエラルドさんが座っている。ちゅろうの対面が客の位置なんだろう。かつては俺も尾の位置で長老と話をしたことがある。

俺達の後ろに1列。客の後ろに2列で参加者が並んでいる。


「さて、どうやら我ら氏族の導き手もやってきた。だいぶ遅くなったが、回答を示す時が来たという事になろう」

 長老の言葉に頭を下げていた男が顔を上げた。

 何と! ネコ族じゃないぞ。人間だ。それに隣の男はどう見たってネコじゃない。どちらかというと犬の顔を持っている。


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