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N-122 見習いを置くのも大変だ


 いつものように甲板に丸く座って、酒器を傾ける。嫁さん達の何人か加わってるのは、エラルドさん達の事が心配なんだろうな。

 子供達の相手をしているサリーネ達だって、小屋の扉付近で聞き耳を立てていることだろう。

 

「大陸の戦は決着がついたらしい。今は残党狩りがあちこちで行われているらしいが、千の島海域まで王国軍の海軍の手が回らないらしい。そもそも数が10隻もないらしいからな」

「ネコ族に協力依頼の親書が届いたそうだ。大陸から逃げる動力船を捕捉して、王国軍に引き渡すことが仕事になっているようだ。隠れてる者も多いに違いない。次のリードル漁も俺達だけになりそうだ」


 やはり短期間で決着することは無さそうだ。

 それもあって、ビーチェさんを残して行ったんだろうな。エラルドさんのカタマランも高速性能を生かして、取り締まりに使われているんだろう。

 

「父さん達は、まだしばらくは帰って来られそうもないが、全員無事だそうだ。何度か王国軍の軍船と戦闘を行ったらしいが、火矢を全て跳ね返したと商船の連中が言っていたそうだ。その点は、カイトに感謝しなくちゃな」

「たまたまですよ。グラストさんの指揮とエラルドさんの操船が合っての事です」


 俺の言葉にラディオスさんとラスティさんが肩をパシ! と叩いてくる。

 謙遜するなってことかな? だけど、それが本当のところだと思うぞ。


「網漁の話に長老達が驚いていたな。そんなやり方が合ったんだと感心していた」

「だが、取れ過ぎるのも問題だと言う、カイトの話に頷いていたぞ。やはり、網の構造と、網漁に期間を設ける事を考えるそうだ。場合によっては、漁場も限定したいような口ぶりだったな」

「と言う事で、せっかく作った網だが条件が確定するまでは使う事ができないが、これは仕方あるまい」


「一度にたくさん獲れるにゃ……」

 ビーチェさんは残念そうだな。

 他の連中も、ちょっとがっかりしているようだ。


「一番の問題は見習いの事だ。ラディオス達がサイカ氏族の若者を見習いにするのは問題が無いという事だから、明日にでも知らせてこい。銛も満足な物を持たぬだろう。素潜り漁に必要な装備は準備してやるんだぞ」


 ラディオスさんとラスティさんが嬉しそうに頷いている。

 一人前の銛打ちに育て上げれば、氏族内での評価も上がるんだろう。


「俺とバルテスもトウハの若者を育てる事になりそうだ。だが、一番の問題はカイトへの見習いだな。予想通り、それだけで討論が始まり長老達が妥協案を出す始末だ。グラストさんが見たらそのありさまに嘆いたことだろうな」

「その妥協案が、カイトに漁を学ぶのは1年に限るということだ。次のリードル漁を終えると見習いがやってくるぞ」

 最後にゴリアスさんが俺を見ておもしろそうに微笑んだ。


「ある意味、若者達に聖痕の持ち主に漁を教えて貰ったという実績作りをするようなものだ。それだけでネコ族の若者達が尊敬の目で見てくれるだろう。それに見合う技量を備えねばトウハ氏族全体が笑い者になりかねない。期間は短いが、やってきた若者は一生涯、漁に励まねばならんだろうな」

「それって、俺達のも当てはまるのか?」


バルテスさんの言葉に慌ててラディオスさんが問い掛けている。

「当たり前だ。仮にも義兄弟だぞ。だから、お前達にサイカ氏族の若者が見習いに入るんだ。サイカ氏族にも聖痕を持つ者がいる。やはり見習いの口は相当な競争になるらしいな。身内にさえもそれが及んでいるそうだ」


 必ずしも本人でなくても良いってことなんだろうか? だけど、銛の腕なら俺よりも経験が豊富だからな。きっと良い指導員になれるんじゃないか。


「ハンモックと食器を用意しなくちゃならないにゃ。明日にでも買い込んでおくにゃ」

「銛先と水中メガネ、手袋に靴位かな……」

「それにザバンが必要だ。ザバンは銀貨3枚程度だから、新調することになるな。カイトのところも父さんのザバンがあるが、それを戻して1艘新調するんだな」


 ザバンはいつも何艘か商船が積みこんでるから、それを買えば良いだろう。資金はあるから氏族に貢献するためにも新調するにやぶさかではない。

 昔の俺のように個人装備をまとめて入れておけるカゴもあった方が良いな。ベンチの下にある収納庫はまだまだ余裕がある。

 小屋の中の棚も1つは提供することになりそうだ。これはサリーネ達に任せれば良い。


「そうだ! 最後に見習い連中の分け前だが、現状を考えると昔のように分配するのも問題だと長老が話していた。その船の漁果を換金して1割の氏族上納は旧来通りだが、残りの7割をその船の家族、3割を見習いに渡すと言う事にするらしい。特に反対意見も無かったから、今後はその取り決めが適用される」


 皆が真剣に頷いているのは、自分達の見習い期間を思っての事だろう。

 単独で行う漁ならば、昔のちょっと複雑な報酬分配でも良さそうだが、この頃は皆で協力して行う漁が増えてきたからな。


「それで、次は何を狙う?」

「乾季の漁と言えば、素潜り漁だ。サンゴの崖に向かうぞ」

「あそこは、カゴ漁の漁場じゃないのか?」

「カゴ漁ではブラドやバヌトスは獲れん。俺達の獲物だと思うが?」


 バルテスさんの言葉に俺達が頷いた。確かにその通り、小さいのはカゴに入るかもしれないが大型はカゴ漁の手に余る。根魚釣りだって、サンゴの崖には近づけないからな。


「夜はカマルを砂泥で狙えば良い。運が良ければシメノンだ」

 ゴリアスさんの言葉に喜色を浮かべた顔で皆がもう一度頷いた。


・・・ ◇ ・・・


 翌日、嫁さん連中が食料買い出しに向かい、俺とラディオスさん達は見習いの装備を整えに商船に向かう。

 俺も早めに揃える事にした。たくさん買えば少しは割引して貰えそうだと言う事もある。

 ザバンの良し悪しは分らないから、ラディオスさん達に任せて、銛は3本購入する。水中メガネと手袋、靴下にリードル漁で使う銛とサンダル……。色々と入用だな。

 2式揃えて、銀貨7枚が飛んで行ったがゴム紐をおまけしてくれたから、何となく得した気分だ。

「銛の柄は7YM(2.1m)で良いな。俺達がまとめて採ってくるよ」


 途中で2人の荷物を受け取り、トリマランに帰ることになった。柄の太さや長さはある程度ネコ族の標準があるようだ。俺の手の大きさだと少し細く感じる位の柄を皆は使ってるんだよな。


日差しを避けて、天幕の陰になったベンチに座り、パイプを楽しんでいると、ビーチェさんがお茶を入れてくれた。まだ、嫁さん達は帰って来ないみたいだな。マイネがビーチェさんの脚につかまっている。


 ひょいっと、マイネを抱っこしてテーブル越しに座ると、自分のお茶を美味しそうに飲んでいる。マイネ用の小さなカップも用意しているぞ。


「いつもマイネのお世話をさせて申し訳ありません」

「構わないにゃ。いつも一緒だと、昔を思い出すにゃ」


 マイネに微笑みながらお茶を飲ませると、美味しそうに飲んでいるから喉が渇いていたのかな?

 

「エラルドが帰ってきたら、皆と一緒に孫の世話で暮らすにゃ。少しは漁もできるかも知れないけど、その方が皆も安心して漁ができるにゃ」

「まだまだ現役引退は早いんじゃないですか?」

「エラルドも数年で素潜りは引退にゃ。55歳が素潜りを止める歳にゃ」


 そんな歳には見えないけど、バルテスさんも30歳近いからな。それ位になっているんだろう。でも、55歳が引退の歳とはね。

 医療機関も発達していない世界だから、体が衰える前に引退ってことなんだろう。

 それでも、釣りならまだまだできそうだ。

 孫達に囲まれながらのんびりと釣りをするのがネコ族の老後の暮らしって事になるのかな?

 さらに歳を重ねれば長老になって氏族全体を考える事になるんだろう。

 ビーチェさんは畑の世話をするんだろうか? 俺達と一緒にのんびりとした船の暮らしをさせたい気がするけどね。


 昼近くになって、大量の食料の入ったカゴを担いで嫁さん達が帰ってきた。

 サリーネにマイネを預けると、ビーチェさんはリーザ達と一緒に昼食の準備に入る。

 

 昼食時の話題は。ラディオスさん達のところにやってくる見習いの話だ。

 氏族の事なる見習いは珍しいようで、嫁さん達も買い物の行き帰りに、その手の質問をたくさん受けたらしい。


「たぶん夕方前には来るはずにゃ。カイトのところにも挨拶に来るはずにゃ」

スープの肉団子をほぐしてマイネに与えながら俺達に教えてくれたのだが、それが氏族の習わしなんだろうか?

 とは言え、どんな若者がやってくるかも興味があることは事実で、嫁さん達も同じらしい。

 

 昼食後に急いで商船に行き、ザバンを受け取って帰ってきた。

 船首のザバンを入れ替え、一番奥にエラルドさんのザバンを置いてその後に、新しいザバンとアウトリガーの付いたザバンに入れ替えておく。最後に落ちないようにロープで3艘を固定すれば終了だ。

 これで、今日の仕事は終わったはずだから、のんびりとおかずを釣りながらラディオスさん達がやってくるのを待つことにした。

 ライズ達も気になるようで、普段は小屋の中でカゴを編んでいるのだが、今日に限っては甲板で編んでいるぞ。


 やってきたのは、そろそろ夕食を作る時間になってからだ。

 ラディオスさんとラスティさんがそれぞれ若い男女を連れてきた。

 てっきり男だけかと思っていたんだが、嫁さん達はあまり驚いていないから、これが普通なのかな?


 いそいでライズが甲板のカゴ作りの道具や材料をリーザに手伝って貰いながら片付けている。

 空いた場所に、皆で座るとビーチェさんがお茶を運んでくれた。


「俺のところに来た、バドルにキリヤだ。ラスティのところは、デリックにマローワだったな。彼がカイトで聖痕の持ち主って事になる。いまだ不漁が無いから、十分に腕を上げられるぞ」

 

 そんなラディオスさんの挨拶で、俺達は簡単な自己紹介をする。

 まだ若い少年少女だ。14、5歳じゃないか? 数年もラディオスさんと一緒に漁をすれば動力船位は十分持てそうだな。



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