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N-119 大漁の予感


「それで、カイトの言う刺し網はできたが、これをどうやって使うんだ?」

 いつものように長老会議の終わった後で、トリマランの甲板に集まってワインを飲みながらバルテスさんが聞いてきた。


「北東のサンゴの谷で試してみようと思ってるんですが……。東西にこんな感じに谷が走ってますよね……」

 

 簡単な谷の断面と平面図をメモ用紙に描いた。

 刺し網を谷を遮断するように南北に張り、網を上下に広げて谷を遮断する。

 100mほど離れて扇型に俺達が魚を追い込めば網に掛かるはずだ。


「魚を追うのはどうするんだ?」

「石を叩くんですよ。魚は音に敏感ですから、逃げ出します」

「少しずつ網に近付きながら包囲を狭めるんだな。おもしろそうだ!」

 漁のやり方は納得してくれたようだ。


 翌日。俺達はバルトスさんのブラカの合図で、一路北東に向かった船出することになった。

 5隻ともカタマランだから外輪船の倍以上の速度が出る。その日の夕刻には漁場に到着して目印の島の西にアンカーを下ろすことができた。

 

「外輪船が無いとこんなに早く着くにゃ」

 操船をしていたライズはご機嫌だな。時速30km近い速度を出してたから、落ちたら大変だと。サリーネはマイネを抱えて小屋に入ってたぞ。

 そんなマイネも、俺の膝に乗って魚釣りの見学だ。

 停船したらオカズ釣りは俺のノルマになってきたぞ。


「明日は私達も手伝うにゃ」

 中々俺の竿に当たりが無いので、もう1本竿を持ち出したリーザが俺に声を掛ける。

「あぁ、頼むよ。この漁は人手が必要なんだ」

 そんな俺の言葉に、マイネの頭を撫でていたライズまでも頷いている。俺の船からは3人が参加できるな。

 獲れたての魚を刺身にできないのは残念だけど、唐揚げと塩焼きが今夜の食事には着いてるから、皆が満足そうな顔をしている。

 まだ生後半年なんだけどマイネは歯がかなり揃っている。離乳食代わりのバナナの蒸し焼きだけでなく塩焼きの魚もビーチェさんにほぐして貰って食べているぞ。

 1年もすれば俺達と同じ食事ができると言ってたからな。ネコ族の成長は人間よりも速いってことだろう。


 食事が終わると皆でワインを頂く。酒器で1杯だけだから酔う事は無い。

 ベンチに腰を下ろして他の船を見てみると、同じように酒を飲んでいるらしい。俺と顔が合ったゴリアスさんが酒器を掲げて挨拶してくれたので俺もあわてて酒器を掲げる。ちょっとしたことだが、仲間って感じがするな。歳は6つ以上離れてるんだけどね。


「明日は、この網だけで良いのかにゃ?」

「小型の銛を用意しておきましょう。この辺りは大物もいますからね。それと、操船櫓の柱に結んである、あの竹の棒が必要です」

「あれにゃ? でも、あれは銛じゃないにゃ」


 竹を割いて割り箸程の太さにした1.5m程の長さのヒゴだ。片方は先端を斜めに切ってカマドの火で炙っている。もう片方は、先端をT字形になるように別の竹ヒゴを紐で結えつけてある。


「獲物をあれでエラに通すんですよ。1匹ずつ引き上げるのは大変です。網に入れても良いんですが、編むのが大変ですからね」


 ビーチェさんが神妙そうな顔つきで竹ヒゴの束を見てる。10本作ったから皆に配っても大丈夫だろう。

 今夜は星も見えない。雨季だからしょうがない話なんだが、明日は天気が持つと良いな。


 翌日は朝食前に島の東に回る。

 ゆっくりと船を走らせながら、サンゴの谷を探す。

 谷底が広くて幅が10m程、なるべくサンゴが密集せずに浅い岩場が理想的と言う事を話してはいるんだが、いざ、探すとなると早々良い条件の場所が見つかるわけではない。


「カイト!」

 バルテスさんが船を停めて舳先から下を指差している。

 この辺りの水深は3m程なんだが、バルテスさんの船の辺りに谷があるって事だな。

 リーザに船を止めるように言って、海に飛び込んだ。

 水中眼鏡越しに見える海中にはいろんな魚が泳いでいるぞ。ゆっくりとバルテスさんの船に近付くと、一気に切れ込んだ谷がある。深さは5mを超えているだろう。横幅は10mは無いが結構な広さだ。谷底も起伏があまりないのが良い。

 そこまで確認したところで、海面に浮上するとこちらを見ているバルテスさんの姿が見えた。


「良い場所です。ここに仕掛けましょう」


 大声を上げた俺に頷くと、バルテスさんがブラカを吹き鳴らす。

 他の船が集まってくるのを見て、俺も急いで自分の船に泳いで行った。

 カタマランを俺のトリマランに寄せると、男達が乗り込んでくる。


「場所はここで良さそうだが、どうやって仕掛けるんだ?」

「前に説明したように、谷を網で塞ぐようにします。谷の横幅が狭いですから、こんな感じに東に開いた形で仕掛けましょう」


 メモに仕掛ける場所の状況と網の形を簡単に描いて皆に見せた。


「中心はカイトだ。俺とゴリアスで東に網を開くから、ラディオス達は網の下に錘を吊るしてくれ」

「錘はカイトの担当だったよな?」


「今持ってきます!」

 操船楼の下にある倉庫からカゴを2つ持ってきた。

 小石程の大きさだが鉛製だからこれで十分だろう。30個作って貰ったから、15個ずつカゴに入っている。


「これです。この先端に切り欠きがありますから、網の下の組紐を挟んでおけばだいじょうぶですよ」

「簡単だな。結び付けるのかと思ったぞ」


 鎖を付けるという事もできそうだが、鉄だと腐食しそうだからな。しばらくはこの錘で何とかしよう。


 ザバンを下して網を積み込む。結構な大きさだが、どうにか積み込めたぞ。

 バルテスさんとゴリアスさんが自分達の船を呼んでザバンを下した。錘のカゴを積み込んで、3艘のザバンで網を仕掛けに出掛ける。


 ゴリアスさんが網の端を持って、谷を横切るようにザバンで曳いて行く。

 網は丸めてあるから、ゆっくりと伸ばしていく。ラディオスさん達が適当に網の下部の組紐に錘を付けているから、横に広がることは無い。

 全部引き延ばしたところで、真ん中にいた俺が網を西向きに引き延ばす。これで、南北に張った網が東に開いた格好になったはずだ。


 大きく手を振ると、バルトスさんが笛を吹く。その合図で、ラディオスさん達が海に潜り、残りの錘を取り付け始めた。

 南北の網の端には、旗が付いた浮きをバルトスさんが結んでいる。あれはカゴ漁に使った奴じゃないか? 取って置いたみたいだな。

 何度か海に潜ってラディオスさんも錘を取り付け終えたようだ。

 

「後は追い込むだけだな」

「そうなります。でもその前に、遅くなった朝食にしましょう」


 網を仕掛けるために魚が逃げたようだから、戻ってくるまで時間をおいた方が良さそうだ。

 その間に食事を取れば丁度良い。

 皆で俺のトリマランに向かう。仕掛けた場所から南東に下がった場所に5隻が纏まって停泊している。


 朝食は何時もの通りだが、皆がそわそわしている感じだな。

 ややもすれば、北西の仕掛けに取り付けた旗に目が向いてしまう。


「獲れるかな?」

「獲れなければ、ここで素潜りをすることになりますよ」

「上手い具合に、今日は降らんだろう。最初だから、あまり期待はしないぞ」


 そう言って俺の肩をポンとバルトスさんが叩く。しっかり期待してるんじゃないかな? ゴリアスさんも俺を見て頷いてるしね。


「そうだ! もし獲れたら、1匹ずつザバンに上げるのも大変だと思って、これを作ったんです」

 ビーチェさんが興味を示した竹ひごの束を持ってきた。


「これでエラから口に通せば数匹を纏めることができますよ」

「おもしろそうだな。銛突きにも使えそうだ。ベルトに通しておけば邪魔にもならんだろう」

「貰って良いのか?」

 皆に1本ずつ渡しておく。残った物はザバンに積んでおけば良い。


「カイトが言っていた小石はこれで良いのか?」

 ラスティさんがひょいと皆の前に出したカゴには握り拳位の小石がたくさん入っている。

「これでだいじょうぶです。水中で、小石をこんな感じに叩けば、魚は逃げていきますからね」


「大物が掛かったら取り押さえるのが大変だ。自分の銛の内、一番小さいのを用意しておいた方が良いかも知れんな」

「1m近いフルンネもこの辺りにはいましたから、用意しといた方が良いでしょうね」


 ゴリアスさんの言葉に頷きながら、言葉を繋げると皆も真剣な表情で言懐いている。


「それでは、配置の確認だ。旗が2本あるから網の場所は分かるはずだ。子供達はカイトの船で預かって貰おう。母さんとサリーネがいるが、サディにも手伝って貰えば安心できる。

 ラケスとライズ達でザバンを漕いで貰って、俺達とライズ達の6人で魚を追い込む。中心にカイトだ。左右の端は俺とゴリアスが受け持つ。北から、俺、ラスティ、カイト、ラディオス、ゴリアスの順だ。ライズ達はカイトと交替しながら真ん中だぞ。追い込みができたら、俺とゴリアスで南北から網を閉じるようにすれば逃げる魚も減るんじゃないか?」


「そうだな。それで良い。銛はラスティの後ろとラディオスの後ろにザバンを漕いで貰えばそれに積んでおける」


 カタマランはアンカーを引き上げて、この場に待機だ。あまり捕れなければザバンで獲物を運べるし、大漁ならバルトスさんが笛で合図を送るそうだ。

 そんな話を皆が真剣な表情で聞いている。

 質問が無い事をバルテスさんが確認して、俺達は銛や小石をザバンに乗せるとゆっくりと所定の位置にザバンにつかまって移動して行った。


 ピィーっと笛が鳴ると、網の位置を確認して俺達は扇型に広がる。

 水中眼鏡を掛けて小石を持つと、皆が次々と潜って行った。

 コンコン……。小石を叩く音が聞えて来る。俺もその音に合わせるようにして小石を叩きながらゆっくりと西に向かって泳いでいく。

 網までの距離は100m程だ。20m程進んだところで、息継ぎに浮上するとライズが直ぐに潜っていく。

 半分程進んだところでシーブルの群れに出会ったが、俺達の姿と音に驚いたように西に向かって谷を泳いで行った。


 大漁かな? 思わず顔がにやけてしまう。

 網の手前に魚がうようよしてるぞ。一旦浮上して息継ぎを行い、最後のシメに掛かる。

 小石を打ち鳴らして泳ぎ始めた俺に合わせて左右の男達が一斉に網に向かった。

 群れ全体が驚いたように西に向かって一斉に泳ぎだしたが、そこには網がある。バルテスさん達が網に取り付いて、東に開いた網を閉じようとしているのを、ラディオスさん達が手伝っているぞ。


 俺はリーザと一緒にそのまま網に向かって泳ぐと、浮上して息を整えた。

 海面に出たところで、ライズの操るザバンを手招きする。

 竹ひごの束を受け取ると網の傍に泳いでいく。



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