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N-116 エリの効果


 バルトスさんが長老会議で聞いて来た話では、エラルドさん達の乗るリーデン・マイネはオウミ氏族の島周辺で他の軍船と船団を組んでいるらしい。

 最初この世界に訪れた時に、エラルドさんが乗っていた大型の外輪船が2隻とラディオスさん達が最初に手に入れた外輪船2隻が一緒だ。

 速度差が大きいから、リーデン・マイネは遊撃戦を仕掛けるはずだ。他の軍船が阻止線を作り、リーデン・マイネが一撃離脱をするのであればネコ族への被害はあまりないかも知れない。

 とは言え、戦だからな。何が起きるか分からないのも事実だ。


 俺達はグラストさん達に託された通り、素潜り漁と根魚釣りの日々だ。

 釣りの合間に竹で柵を作り、仕掛ける場所を探す。

 氏族の島から距離が無く、海底に起伏があまりない潮通しの良い場所だ。

 中々都合の良い条件だから、見合う物件が無いんだよな。

 素潜り漁の場所を替えながら、そんな条件に見合う場所を探す日々が続いている。


「中々条件が合わないな。南は探したから今度は東になるぞ」

「東はサンゴの穴が点在してるぞ。北ならどうだ?」

「双子島の南はなだらかに南に下がってるにゃ。あの辺りなら誰も漁をしないにゃ」


俺達にお茶を運んでくれたケルマさんが教えてくれた。

 そう言えば、双子島で漁をしたのは嫁さん連中だけなんだよな。双子島の南は浅いサンゴ礁が広がってその先は低い崖になっているようだし、対岸までは10km以上ありそうだった。

 リーデン・マイネの隠匿場所という事もあって。双子島には漁をしに近付く者はほとんどいない。変化にとぼしい浅いサンゴ礁だから、素潜り漁に向いていないと言うのもあるようだ。

 それでも、中型のブラドやバルタスも泳いでいるようだし、一度は50cm程のカマルの大群がやってきたそうだ。


「ケルマさんが言うなら、一度見た方が良いですよ。近いですし、他の漁の帰りに状況を見ることだって出来ます」

「そうだな。規模は小さいけれど、その先の崖を丹念に探れば素潜り漁もできそうだ」


 そんな事で出掛けたんだが、かなり条件に合ってるぞ。杭を打つのにサンゴ礁に穴を開けるのは忍びないけどね。

双子島の南岸に資材を運び、エリを作るための杭を入れる穴をサンゴ礁に開けていく。道具は入り江の灯台の土台作りの時にエラルドさん達が渡してくれたし杭を作る大工道具は大きな木槌を含めて揃っている。


 1日に2か所のペースで穴を開けて杭を打つ。下は砂地のようで4.5mの杭が1m以上も潜り込む。杭の周囲を割れたサンゴで固定すれば押した位では傾かない。

 3m程の間隔で20本南に向けて真っ直ぐに打ち込んだ。

 最後に、真ん中に4.5m程の四角い囲いを作る杭を東西に打ち込んだところで杭打ち作業は終了になる。


 竹の柵は魚のたまり場を作ったところで、たまり場への導入柵と南北に延びる進入柵を作る。

 定型の柵を杭に沿って結んで行くだけだが、海面付近には補強用の竹を南北に伸ばして行った。

 海底は柵同士を紐で結んだだけだけど、すだれ状の竹は間隔が1cm程開いているから潮流で壊れることは無いだろう。

 

「これで出来たんだが、本当に魚が獲れるのか?」

「明日になれば分かりますよ。今夜は崖の近くで根魚を釣りましょう」


 そんな話をして、エリからさほど遠くない場所に動力船互いに連結して留める。完成を祝って今夜は酒盛りだ。

 酒を飲みながらの夜釣りだからあまり成果は期待できないけれど、一つの仕事が完成したんだから、皆で酒器を傾けるのも伝統ってやつだろう。


「マイネも大きくなったな」

 俺の膝に座って、自分の握り拳程もあるチマキモドキを食べているマイネを見てラディオスさんが笑い掛ける。


「ラディオスさんのところだって大きいじゃないですか。本当なら、カガイの祭りにそろそろ出る歳じゃないですか?」

「それはあきらめるしか無さそうだ。戦騒ぎの最中だからな」


「確かにそうだな。だが、父さん達のことだ。お前にその気が無くとも、お前の嫁さんを連れて来る位の事はするんじゃないか?」


 バルトスさんの言葉に、ラディオスさんとラスティさんがドキっとしたようだ。ちょっと体を震わせて互いの顔を見ると大きくため息をついた。


「兄さん、脅かさないでくれ。ありそうで怖くなるよ」

 そんなラディオスさんの抗議を余裕で笑っていられるバルトスさんは段々とエラルドさんに似て来たな。


「まあ、それはさて置き。明日には効果が分かるんだな?」

「あまり期待はしないで下さいよ。なにせ勝手に魚が入ると言う思い付きのようなところもありますから。数匹でも入っていれば大漁でしょう」


 あまり期待されても困るからな。

 最初からそれ程獲れないと思っていれば十分だ。


「それでも十分だ。魚をすくいとるだけなら、そんなものだろう。その成果を見て長老会議に出掛けようと思ってるんだ」


 どこにでも作れるわけでは無い。網を使えばもっと深い場所にも仕掛けられるんだが、初期投資がバカにならないからな。氏族の漁の成果を少し増やすんだったら、このようなエリを更に2つ程追加すれば十分だろう。

 だが、ある程度規制して欲しくもある。

 トウハ氏族の伝統の素潜り漁をする者が将来的に少なくなってしまうんじゃないだろうか?

 そう言う意味ではエリの規模と基数を制限すべきだろう。それに獲れた魚の分配も問題だ。獲れすぎれば貧富に差ができてしまう。

 税率も考えねばなるまい。その辺りの事はバルトスさんは分かっているのだろうか?


 翌日、朝早くにライズに叩き起こされた。

「早く甲板に行くにゃ。魚が枠で飛び跳ねてるにゃ!」

 急がせるから、ハンモックからひっくり返って床に落ちてしまった。これで何度目だ?

 シャツを着て甲板に出ると皆が双子島の方を見ている。

 俺もその視線をたどってみると、確かに魚が跳ねてるぞ。

 舷側を乗り越えて、人が集まってきた。やはり見る方向は同じなんだが……。そんなに驚くほどの事かな?

 

「驚いたな。あれだと、たまり場の魚は100匹を超えるぞ!」

「朝食を早めに終えて、魚をすくわねばなるまい」


 ジッとピョンピョン跳ねる魚を見ながらバルトスさん達が呟いている。

 そんな子供達の騒ぎを見ながらビーチェさん達は朝食の準備をしていたようだ。

 皆が集まっているから、トリマランでまとめて朝食を取る事になった。

 男達が小さな子供を抱えて戻って来ると、皆で朝食を取る。

 食べながらも自然と飛び跳ねている魚に目が向くんだよな。大漁には違いないがどれだけたまり場に迷い込んだんだろう?


「ところでどうやって取り込むんだ? 動力船で近付いたらエリを壊しそうだ」

 ゴリアスさんの一言で皆が一斉に俺を見た。

 ちょっと待ってくれ。俺だってそこまでは考えなかったぞ。

 すくい出す網は作ったけど、確かに足場が問題だな。将来的には石を運んだ双胴式のザバンが役立ちそうだけど、今は入り江で子供達が遊んでいるんだよな。

 

「確かにそうですね。申し訳ありません。考えてませんでした。ですが、この船に積んだザバンはアウトリガー付ですから3人で立っても安定しますよ。今日はザバンから網ですくいましょう」

「そういう事なら、父さんのザバンを一時借りるとしよう。カイトのザバンと板で打ちつければ更に安定するに違いない。俺とゴリアスで魚を運ぶから母さん達は片っ端からさばいてくれ。サリーネは子供達を頼む」


 役割分担が決まったところで、動力船をエリの近くに移動して再び停船させる。

 ザバンを引き出してバルトスさんの船に積んであった木材で2艘のザバンを固定した。これで更に足場が良くなるぞ。

 大きなタモ網を担いでザバンに乗り込み3人で漕いでいくと、魚のたまり場が黒く色付いている。


「100匹どころか300匹は入ってるんじゃないか? それにこれは片方なんだよな」

「保冷庫に入りきるかな? 心配になってきたぞ」


 2人がそんな事を言ってるけど、確かに凄い量だ。

 よいしょっとタモ網を投げ込んで魚をすくいとる。これはやり方を考えないといけないな。魚が入って膨らんだタモ網はものすごく重い。

 それでも3人でどうにか引き上げるとバルトスさんのザバンに積んだ大きなカゴに中身を空けた。

 いったいどれ位入ったのか分からないけど、直ぐにバルトスさんは俺達を離れてトリマランで待つ嫁さん達の元に向かった。

 交替に今度はゴリアスさんがザバンを漕いでくる。


 数回引き上げたところで反対側に移動したが、少し休憩が必要だ。

 ぐったりした俺達にライズが冷たいココナッツを運んできてくれた。

 ついでに魚のたまり場を見て驚いている。これほど入っているとは思っていなかったようだな。

 

「ゆっくり休んでると良いにゃ。反対側で兄さん達が素潜りで魚を突いてるにゃ」

 まだまだたくさん残っていたようだ。

「それにしても凄い量だな。どれ位取れたんだ?」

「家の船の保冷庫は一杯になったにゃ。今度取れたのはラスティ兄さんの船を使うにゃ」


 ラスティさんが妹のライズとそんな話をしている。

 嫁さん達が多いから氷に苦労することは無いだろう。それにこの漁が終われば島に帰る事になっている。


「さあ、次を始めるか。最初が一番重いんだよな」

大きなカゴを乗せてゴリアスさんの漕ぐザバンが近付いて来た。体力勝負のような作業だが引き上げなければ収獲にならないからな。

 俺達3人は力を合わせて大きなタモ網を引き上げはじめた。


 俺達の作業は午前の大半を使ってしまった。

 イーデルさん達が作ってくれた団子スープが美味しく感じる。このまま甲板で寝ることができたらどんなに幸せなんだろう。

 そんな事を考えてしまうほどに体力を使ってしまったようだ。


「カイト、獲れるのは分った。だけど収獲を考えてくれ。これが毎日だとなると俺達の体が持たん!」

「ですね。体を壊すような漁では問題です。案は考えてますからだいじょうぶですよ」


 俺の言葉に安心したかのように、ラディオスさんとラスティさんが甲板の日陰に座り込んでしまった。直ぐに俺も仲間入りだ。

 そんな俺達をおもしろそうにバルトスさんが見ている。俺達のザバンの引き上げはバルトスさんがやってくれたんだよな。

 バテバテの俺達の顔を見て「休んでろ」の一言だった。


 後は帰るだけだからリーザ達がちゃんとやってくれるだろう。だけどどれ位取れたんだか誰も言わないんだよな。それも気になるところだぞ。


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