N-115 ネコ族の選択
N-115
カタマラン巡航速度で日中船を進めれば、水車式の動力船2日分の距離が稼げる。
氏族の島からそれ程離れずに、2日間の漁を行って島に帰還するサイクルを繰り返している。
30~40cm程のブラドやバルタスが結構サンゴ礁にはたくさんいるみたいだ。
俺達ほどではないけれど、リーザ達嫁さんグループも俺達の半分程を突いている。
根魚も、専門に狙いたいくらいだが、あまり夜遅くまで釣りをすると翌日に響くからな。適当に切り上げてはいるんだが、各船とも1日で20匹は釣れてるんじゃないか? たまにシメノンの群れが来ると、皆一斉にシメノン釣りを始める。
獲物を保冷庫に満載して帰って来ると、1日の休みを取って再び漁に出る。
最初の漁から帰って来た時には入り江の桟橋が賑わっていた。
各氏族から長老達の代表が集まって来たらしい。部族会議を行うと言っていたから、そのためなんだろうが、入り江の雰囲気が少し緊張しているな。
普段通りではあるのだが、ふと長老会議の建物に目を向ける連中が多い。
2回目の漁から帰った時も、同じような雰囲気だ。
やはり種族の将来が掛かっているという事で、色んな案が出されてそれを吟味しているんだろう。
「中々終わらないな?」
「何を決めているのか分からないけど、オウミ氏族の西の海は雲行きが怪しいらしいぞ」
いつものように船尾のベンチに腰を下ろしてパイプを3人で楽しんでいる。
気になるのは、2か月も過ぎれば次のリードル漁が始まる。前回同様に行うのかそれとも俺達の自由にさせて貰えるのか。それと、税の納める先はどこになるのか……。
大陸の戦の様子は少しずつは入って来るが、良く分からないのが実情だ。
「まあ、対外的な事は長老達に任せて、俺達は漁をすることになるんだが。気になるよな」
俺の言葉に2人が頷く。俺達でさえそうなんだから、他の連中はもっと不安なのかも知れない。ついつい、長老会議の建物に視線が動く。
3回目の漁から帰った時、入り江の雰囲気がまた違っていた。
すでに他の氏族の動力船は見当たらないから、長い話し合いが終わったという事になるんだろう。
次の漁の相談を5人で行っていると、グラストさん達がやってきた。
種族会議の内容を教えて貰えそうだぞ。
「頑張ってるようだな。世話役が前にも増して獲物が届くと喜んでいたぞ」
「これでトウハ氏族は安心だな。俺達が漁をしなくとも何とかなりそうだ」
そんな話から、種族会議の決定を俺達に話してくれた。
どうやら、ネコ族は俺達を庇護している王国を見限るようだ。もっとも庇護の内容がいい加減なものだからな。長年の呪縛から解き放たれたと言うのが正しいようだ。
「現在の王国はガリオン王国だが、ネダーランド王国の攻められている。ネコ族はネダーランド王国を支援することで、先の条件を約定の形で取り付ける。俺達の軍備は小さいが、ネダーランド王族の落ち延び先を限定すれば、千の島を自治国家と位置付けることも約定の中に記載される」
「国として認めても良いと?」
俺の言葉にグラストさんが頷いた。
数千にも足らない人口で国家を名乗るのは後々問題になりそうだが、ネダーランド王国としては水の魔石を独占的に取引できる事で十分にみかえりが取れると判断したようだ。
他国と戦をするような王国だから1万人を超える兵士がいるのだろう。人口数千の自治国家など、どうでも良いと考えているに違いない。
だが……、その条件なら俺達は十分に満足できるし、将来に備える事もできる。
国力を蓄え、軍船を増やすことだって出来るに違いない。
その辺りをどう考えているのか分からないが、現状を考えればネダーランド王国の考えも理解できるな。海の事は海の民に任せるって事だろう。
低率の税を将来ネコ族が拒否することはあるのだろうか? それがあるなら軍船を更に増やす事になるのかも知れない。もっとも、人口が少ないから、種族が増えてからの話だな。100年以上先の課題になるだろう。
「そう言うわけで、トウハ氏族の軍船もオウミ氏族の島に向かう事になった。嫁さん達は連れて行けぬから、お前達に頼んだぞ」
「状況は商船に託して長老達に知らせる。バルトス、長老会議の内容に気を付けるんだぞ。場合によってはカイトの知恵を借りても良いだろう。そして、漁に精を出せ!」
とは言え、20隻近い動力船の漁果を俺達だけで、今までの漁法を続けていたのでは達成できかねる。
翌日、中型の動力船に乗ってグラストさん達が双子島に向かった。
その後をたくさんの荷物を載せた中型動力船が続いて行く。
水と食料を乗せているのだろう。漁師達だから少量が乏しくなったら魚を釣って腹を満たすこともあるんだろうな。
「行っちまったな」
「ええ、結果がどうあれ、俺達は行動を起こしました。上手く行く事を祈る事しかできませんが……」
「それはそうなんだが……、漁を任されるとなると大変だ。父さん達の抜けた穴を埋めるのは容易じゃないぞ」
バルトスさんの言葉に俺を除いた3人が、ウ~ムと下を向いた。
その一人と偶然に目が合う。
「カイト、何か良い考えがあるのか?」
「あることはあるんですが、あまり勧められた漁法じゃないような気がします」
ラスティさんに答えた俺の話に、皆が俺を注目した。
どことなくホッとした雰囲気になってるな。パイプにタバコを詰めながらどう切り出してよいのか考える。
少なくとも網を編む技術があるんだよな。それをなぜ漁法として取り入れないかが不思議な話だと以前から考えていた。
「とりあえず話を聞いてからだ。カイトのいうあまり勧められない漁法とはどんな漁法なんだ?」
バルテスさんが俺と同じようにパイプを咥えながら聞いて来た。
ここは、一応話してみるか……。
「網を使って魚を獲るんです。網の有効性はカゴ漁でも分かると思います。大きなカゴを作る事はできませんから、網を編んで仕掛けを作ります……」
基本的に2つが考えられる。長い網を仕掛けて、魚を網目に捕える刺し網と袋状の網を仕掛けて、魚を小さな網に誘導して捕える定置網だ。その他にも色んな網があるんだろうけど、この海域で比較的容易に出来そうなのはこの2つになる。
メモ用紙に概略の形を描いて、その使い方を説明する。
「フム、どちらかと言うとこの袋状に仕掛ける方法が良いんじゃないか? 魚はこの部分に集まるなら、タモ網で簡単にすくえるだろう。イケスのようにも見えるな。という事は定期的に魚を取り出すだけで良いって事になる」
「その間は他の漁場で魚を取れば良いって事か? なら、これが一番じゃないのか」
「でも作るのが面倒ですよ」
「何も網を作るばかりが能じゃない。竹で編んでも良さそうだ。こんな感じにな」
形が分かれば発想が生まれる。竹で編んでも十分だ。そんな形の仕掛けもあったな。
また別の形をメモ用紙に描いてみる。
基本は分ったようだから、その応用編だな。確かエリとか呼ばれていたようなものだ。
「水深の浅いサンゴ礁で試してみるのも良さそうだ。上手い具合に双胴船の甲板は広い。こんな感じに竹を編んで、枠を作り、組み合わせれば良いんじゃないか?」
バルトスさんの提案は、ヨシズを竹で四方を強化したようなものだ。これを何枚も合わせてエリを作る事になる。
横幅は2.1mで縦は3mだから、結構使えるんじゃないか? もっともこれだけでは海流に流されてしまうから、途中途中に杭を打つことは必要になるだろうな。
「100枚は必要だろう。俺達でも作るが、老人達にも手伝って貰えば良い。それ程難しくはないが大きいから1枚5Dであれば受けてくれるだろう。俺と、ゴリアスで2枚を試しに作ってみる。頼むのはそれからだ」
俺達1人ずつが10D銅貨2、3枚ってところだな。
それ位の小遣いなら持ってるからサリーネ達に断る必要もない。獲物が獲れればそこから返して貰えそうだ。
カゴを編むわけではないから俺にもできそうだな。意外と漁の合間は暇だから、早速竹を取りにでかけようか?
「竹はこの島では無く別の島から運んで来よう。ゴリアス、出掛けるぞ!」
そんな事を言って2人が立ち上がる。直ぐに行動に移すって事だな。
「兄さん達に任せておこう。長老会議への説明もあるだろうし、俺達に率先して兄貴の格を示したいんだと思うよ」
ラディオスさんの言葉にラスティさんも頷いているところをみるとそんな感じなのかな? 兄貴はどこでも苦労するって事なんだろうな。
そういう風土であれば、俺は末弟になるんだからある意味楽に構えていれば良いんだろうけどね。
「だけど、餌もいらない漁法ってのがちょっと信じられないな。魚を追うわけでもないんだろう?」
「どちらかと言うと、魚の習性を利用してるって事になりますね。魚は障害にぶつかると横に動くんです」
「段々と小さな区画に移動していくんだな。これが本当なら、苦労して素潜り漁をしないで済むぞ」
そうでもない。たぶん獲れる魚の大きさが少しずつ小型になるんじゃないかな。回遊魚なら問題は無さそうだがサンゴ礁に住む魚の多くはそれ程大きく住処を替えないはずだ。この漁法は定期的に場所を替えなければいけないのかも知れないな。
「俺達も別に作るものがありますよ。この区画に入った魚をすくい取る大きなタモ網を作らなくてはなりません。これは竹で編むわけにはいきませんから網を編まなくてはならないでしょう。枠は商船に作って貰います。直径5YM(1.5m)位必要です。枠の手元にロープを付けて、3人で引き上げられるようにします」
「なら、竹の柵は俺達が作る。カイトがタモ網を担当してくれ」
「カゴ漁用にエラルドさんが作った浅い大きな受け皿も作る必要があるな。それは俺が担当する。ラディオスは魚を入れるカゴを編んでくれ。大きい方が良いぞ。数は3つは欲しいな」
次々に役目が決まる。
確かに色々と必要になって来るから、俺達の出資金が増えそうだな。それでも銀貨1枚には達しないんじゃないか。




