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N-112 頼んでいたものが届いた


 サイカ氏族の移住はサイカ氏族全体にまで及んだらしい。オウミ氏族の島の一部を借り受けて移動したらしいが、漁場は今までの場所としているそうだ。少し遠くなってもオウミ氏族と諍いを起こすよりはマシだと長老達が判断したらしい。

 中型の動力船を買い付けて、8個の魔道機関を乗せ、余分な装備を外したものがサイカ氏族の戦闘艇らしい。弓を持った氏族の男が10人乗り込んで漁場を監視しているとの事だ。

 オウミ氏族も同じような船を作る計画らしいが、果たして軍船にどれだけ脅威を与えることができるかははなはだ心許ないな。

 ナンタ氏族とホクチ氏族がどのような軍船を持つかは分からないけど、精々大型動力船を板で囲った程度の物になるだろう。武器は弓だとしても20人は乗ることができるのだろうか?


「リードル漁は仕方がねぇ。精々長老の考えで動いてやるさ。不漁では王国もどうしようもないからな」

「だが、軍船を作るのは急務のようだ。少しずつカイトの要求した品も届いている。双子島の周囲で漁をしながら組み上げるぞ」


 海戦になるんだろうか? 相手に俺達の軍船の性能を見せるだけで終わるだろうと思ってるんだが……。

 落ち延びた王族と、落ち武者狩りをする名も知らぬ王国でのみ戦ってほしいものだ。たぶんネコ族も大陸のどこからか落ちて来たんだろうけど、今では平和に暮らしているんだからな。


 夕暮れが入り江を染める頃、俺達の宴会が始まった。

 たぶんはえ縄漁の大漁を祝っているんだろうけど、不定期に宴会を開くところを見ると、ネコ族が宴会好きなせいなんだろう。

 ご馳走がたっぷり出るから、俺はいつでも賛成できるけどね。


 バナナの炊き込みご飯に、野菜の炒めものには少し硬いが肉が入っているぞ。いつもの魚のぶつ切りの唐揚げに、焼き魚と肉団子まである。スープは何時ものスープだが、団子と魚のツミレ団子が入っていた。

 飲み物は、冷たく冷やしたココナッツジュースとワインを混ぜたものだ。別々の方が美味しいと思うんだけど、皆はあまり気にしないんだよな。


 宴会は夜遅くまで続いたから、明日は漁はお休み確定だ。酔ってふらつく体をどうにかハンモックに横たえる。

 リードル漁が近いと言っていたから、漁に出るにしてもそれ程遠くには行けないだろう。明日は、銛を研いで過ごそうかな。


 翌日、甲板に銛を並べて1つずつ丁寧に研いでいく。銛の柄に付けたゴムも点検してひび割れがあるものは交換する。

 銛が多いから結構面倒ではあるのだが、良く砥いだ銛先は獲物に深く刺さるからな。大型リードルを獲る銛は最後に丁寧に油を引いて屋根裏に仕舞い込む。

 小型を適当に獲るのが今回のリードル漁だ。のんびりと注意深くリードルを突こう。


 全部が終わるころには、昼をとうに過ぎている。

 朝食が遅かったから、今日は昼食は無いとサリーネが言っていた。

 船尾のベンチでパイプを楽しんでいると、リーザ達がカゴとカップを持ってきた。どうやら、軽い食事ができるらしい。

 4人で小さなテーブルを囲んでチマキモドキを頂く。昨日作った物を保冷庫に入れていたみたいだな。再度蒸かしたらしく、結構熱いぞ。


「戦になるのかにゃ?」

「大陸からこの島はかなり離れているから直接的な影響はないと思うな。とはいえ、サイカ氏族に対する敵対行為があれば、ネコ族は結託するんだろうけどね」


 嫁さん達も大陸の戦の動向が気になるらしい。

 確かに、へたをすればネコ族全体に影響を及ぼしかねない話なんだが……。


「このトリマランを元に軍船を作る。火矢を受けてもしばらくは持つし、逃げ足は軍船の比じゃないからね。そんな船を作るんだ。少なくともトウハ氏族の軍船は沈むことは無い」

「なら、心配ないにゃ。軍船の戦は火矢の応酬って聞いたにゃ」


 火矢対策を考えといて良かったぞ。だが、他の軍船はそんな対策をしないんだろうか? それ程重くならないはずなんだが。

 とりあえず、船が届かない限り何もできない。

 次のリードル漁の前には届くと言っていたんだけどね。


 数日は近場で素潜り漁をしながら、リードル漁の通達を待つ。

 根魚だからあまり良い値にはならないが、そこは数で勝負だ。数十匹を得たところで入り江に戻る。


 その夜、エラルドさんがやって来た。リードル漁に3日後に出発するとの事だ。

「俺達の行動はこの間話した通りだ。この船も目立つがのんびり行けばだいじょうぶだろう。お前がこの船の考案者だとは、王国の連中は知らんはずだ」

「なるべく目立たぬように行動します」


 そう言った俺の肩をポンっと叩いて帰って行った。

 ちょっとしたレジスタンス活動って事かな? まあ、小さいのを狙っていれば問題ないだろう。すでに船を持っているんだから、次の船を作るのは10年近く経ってからで十分だからな。

 ひょっとして次の次、雨季前のリードル漁をした時に、魔石を納める相手が変わるかも知れないぞ。

 その辺りの事は、長老会議の指示に従っていれば良いだろう。


・・・ ◇ ・・・


 俺達の船団の後ろに軍船が2隻付いて来る。

 リードル漁を自分達でという大型軍船と俺達がとれた魔石の半分をキチンと納入するかを確かめるための小型の軍船だ。

 

「無事に帰れれば良いのだがな」

「少しは知識を持ってると思いますよ。それなりに考えてるんじゃないですか?」

 

 後ろの軍船を眺めていたエラルドさんの呟きに俺が応じた。

 俺の船にはエラルドさんとラディオスさん達が同乗している。ザバンは船首に横にして3艘を積み込んでいる。

 グラストさんの船にはラスティさん達が乗っており、バルトスさんはゴリアスさんの船に乗っている。

 子供が小さいからの事だろう。昼間は俺の船に子供達とオリーさん達が面倒を見ることになっている。サリーネもだいぶお腹が大きくなってきたから、船でお留守番だ。


「俺達の行動を監視してるのかな?」

「そんなところだろう。この船や何隻かは変わった構造だからな。向こうも興味があるんだろう」


 まあ、俺達にはどうでも良い事だ。いつものようにリードルを突いて、午後には船に戻る。これを3日繰り返せば良い。

 そんな感じで雨季明けのリードル漁が行われたのだが、その成果は王国にとって散々だったという事になりそうだ。


 俺達が手に入れた魔石は平均で十数個。焚き火ごとに長剣を持った兵士が2人付いて、魔石を交互に手にしている。ここでは不正はできないからな。向こうのやりたいようにすれば良い。

 リードルを獲る男の総数は60人ぐらいだから、400個以上の魔石を手に入れたわけだが、中位の魔石はその中で10個も無い。

 次のリードル漁は俺達の好きにできるから王国の特別税収は今回で終わりになる。リードルを獲っていた軍船の方は10人以上の死者が出たらしい。夕方遅くまでやっていればそうなるだろう。リードルが海面付近にまで上がって来るからな。魔石を獲り出すのも少し炙っただけで行ったらしいから、1日目で軍船は魔石を獲らなくなったようだ。

 果たしてどれだけ手にしたのか分からないが、亡くなった兵士の家族に手厚い報酬を払わなければ軍隊の規律や士気が低下するのは目に見えている。

 魔石をサリーネに渡すと「金貨1枚にも満たない」と嘆いていたが、今回は特別だ。それにこれだけの魔石を換金すれば三か月以上食べていけるぞ。


 軍船が氏族の島を去っていくのを待っていたかのように、翌日には商船がやってきた。

 大型商船が入って来ると、もう1隻商船が石の桟橋を目指して入り江に入って来る。

 その後ろには数隻の動力船が引かれていた。

 あの細長い動力船は紛れも無く俺の発注した船だ。これでいよいよ軍船作りが始められるぞ

 商船にリーザ達がカゴを担いで出掛けて行き、当座の食料を手に入れる。

 魔石は全部売り払ったらしい。約6千Dになったらしいから、最初の頃のリードル漁と比較するとそれ程不漁という事にもならないんじゃないかな。

 千D銀貨を3枚貰って、俺も商船に出掛ける。頼んだ品が出来ていれば支払いをしなくちゃならない。


 商船に行って、ドワーフの職人を頼むと、あの爺さんが直ぐにやってきた。

「出来とるぞ。屋根板も一緒だ。値段は2800Dと言うところだな。あの仕掛けも一応特許を取ってあるから値段はその分値引いておいたぞ。この島での注文なら1割引きで売ってやる」

「ちょっと面倒な漁具を作りましたんで、俺一人では引けないんですよ。助かります」


 支払いを済ませて、後でザバンで取りに来ることにした。

 その他に必要な物は……、酒のビンを2本とタバコの包みを2個買い込んで帰ることになった。

 お釣りをサリーネに渡すと、とりあえず持っていろとの事だ。

 俺の財布には銀貨が1枚だけだったが、これで少し余裕が出来たぞ。


 その夜。いつものように皆が集まってきた。

 少し遅れてグラストさん達がやって来ると、直ぐに軍船制作の話が始まる。


「まさか3隻で1つの船が作られるとは思っても見ねえだろう。双胴船は枠と船尾の操船櫓だけだがあれで良いのか?」

「後は俺達で行います。双胴船の間にもう1隻の船を固定します。枠に取付け用の溝が掘ってありますから、ここまでは問題ないでしょう」

あの双子島で作業をするんだろう? あらかじめ用意しておくものはないのか?」


 色々とある。先ずは引き上げようの木道を作らねばならない。木道の長さと幅は、双胴船の幅以上にすることが必要だ。

 しかも、西に向かって60度の傾きになるようにしなければならない。思った以上に面倒かも知れないな。


「少し人数を増やす。カマルギとその仲間達3人だ。彼らには丸太を運んでもらおう。カマルギもカタマランを手にしているから、引いて来るのは簡単だろう」

「俺達は、双胴船の幅で木道を作る。カイトが制作の筆頭だ。カイトの指示で俺達は動く」


 グラストさんの言葉に皆が大きく頷いてくれた。

 もう一つの気掛かりは……。


「双子島周辺でカイトが新しい漁法を試験すると長老が言ってくれた。邪魔をせぬように周囲の漁を控えろとまでな。これで、周囲に船を停めて嫁さん達に根魚を釣らせれば俺達の言い訳も立つだろう」


 なら、生活必需品の購入費用位はかせげるんじゃないか?

 変わった場所だから、どんな魚が釣れるか楽しみだな。


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