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N-109 はえ縄で漁をしよう


「だいぶ複雑になってるな。引き上げに困らないか?」

 俺達の仕掛けを見たバルトスさん達の感想だ。

 グラストさんやエラルドさんも頷いてるし、そんな話に不安に駆られたラディオスさんとラスティさんが俺に視線を向けている。


「将来性を考えました。10FM(30m)程度なら、最初にバルトスさん達が作ったはえ縄が良いでしょう。でも、40FM(120m)もの長さにすると、俺達では引き上げるのが困難です。バルトスさん達だって、かなり苦労したんじゃないですか?」


 今度は、皆の視線がバルトスさん達に集まった。

 新しい漁だからな。どんな苦労がどこに潜んでいるか分からないのだろう。


「確かにカイトの言う通りだ。嫁さん達に手伝って貰ってどうにか道糸を引いたんだ」

「大物が掛かると手を切ることもありますから、手袋は必携ですよ」

「ああ、それは引いていて直ぐに気が付いた。なるほど、カイト達の仕掛けは、引くための綱と仕掛けの道糸が別になるんだな。道糸より太いから、確かに引くのは楽になるな」


 グラストさんとエラルドさんが、組紐と道糸の太さを手に取って調べているぞ。

 浮きや道糸の接続方法もカゴから引き出して調べている。


「この組紐を引くことで、全体の仕掛けを引き上げられるという事か……」

「はい。この組紐をこんな感じのロクロを使って巻上げます。ライズ1人でも、40FMの仕掛けを撒くことができますよ。嫁さん達が仕掛けを巻き取り、俺が掛かった魚を引き上げる事ができると思います」


「最初から1人で引き上げる事は考えていないのだな?」

「どう見ても、青物狙いだ。シーブルが数匹なら、確かに手袋はいるだろうし、引き上げるのも苦労するな。バルトス達はどうしたんだ?」

「それほど大物ではなかったので、何とか手で引き上げました。確かにカイトの言うとおり、タモ網が必要なほどの魚であれば苦労したと思います」


 30m程の仕掛けには10本の枝針が仕掛けてある。数匹も掛かったら上げるのに苦労するのは最初から分っていたが、運が良いのか悪いのか、バルトスさん達が釣り上げた獲物は50cmに満たなかったらしい。


「話していても始まらねえ。明日、出掛けるぞ。カイト達の仕掛けを試すとして……、

バルトス達はラディオス達と一緒に乗れば良い。俺とエラルドはカイトに世話になろう」


 そんなグラストさんの提案に俺達が頷く。

 精々、4日以内の漁だから食料もそれほど心配しないで済むし、野菜や果物はお店で買える。

 目的地は真珠貝の獲れる海域だ。外輪船では2日以上先になるのだが、カタマランなら、丸1日で着けるんじゃないかな?

 

 その夜は、のんびりと夜釣りを楽しむ。2組のはえ縄だからたっぷりと餌を用意しなければならないし、大きいのは嫁さん達が美味しく調理してくれるだろう。

 サリーネが付き合ってくれたから、明日の操船はライズ達になりそうだな。

 

 翌日、目が覚めた時にはトリマランは南に向かって航行していた。

 海水で顔を洗い、俺が起き出すのを待っていてくれたサリーネと一緒に朝食を食べる。すでに氏族の島は北の彼方だ。この間よりも速度を上げているのかもしれないな。


「だいぶ遅くまで餌釣りをしていたようだな?」

「向こうに着いたら直ぐに始めたいですからね。ラディオスさん達は?」

「出発時には起きていたぞ。だが、午後は昼寝をしそうだったな。たぶん昼過ぎには一雨きそうだ」


 それで、速度を上げているのか。雨では見通しが悪いし、夜も星明かりが無いならやはり遠くまで見通しが効かない。雨が降る前に行ける所まで行こうと頑張っているみたいだ。


「起きたな。ところで、カイトよ。この船は前の船より安定してるんじゃないか?」

 屋根の上からグラストさんが降りてきた。

 周囲の状況を見ていたのかな?

「分りますか? この船はエラルドさんに譲った船よりも安定してるし速いんです。前にいる2隻は双胴船ですが、この船は3胴船なんです。小屋の下にもう1隻あるんですよ。ですから、喫水は前のカタマランよりも浅いですし、スクリューは3つ着いています」

「例の軍船はこの船の延長という事か……。素早く近づいて攻撃し、去って行くんだな。3つのスクリューでは軍船が外輪船より速いと言っても、追い切れるものではない」

 

 ヒットエンドランの繰り返しで大きなダメージを与えられるはずだ。速度差と武器の飛距離の差を持てば、取り囲まれることさえなければ沈められる危険性はほとんどない。その速度を見れば、戦にもならないんじゃないか?


「艤装は例の大形石弓なのだろうが、3基は乗せられるか……」

「周囲を斜めに板で囲みます。その板を金属板で鱗状に覆えば、火矢による攻撃も無意味でしょう」

「後は兵員の募集になるが……、それは氏族会議で決めれば良い。カイトには済まんが試験航海までは付き合って貰うぞ」


 エラルドさんの言葉に頷いた。

 俺もそこまでなら協力できるが、戦闘となると長らく平和に暮らしていたからまるで役に立ちそうもない。

 だが、軍船となれば兵員は20人以上は必要になるだろう。その募集をすれば漁をする者達が減ることになる。

 その辺りは氏族の運営になるだろうから、氏族会議で決めることになるんだろうな。


「まあ、その辺りは擬装用の木材が届いてからだな。木道を作って海から引き上げるつもりだろうが、引き上げるには大勢必要になるぞ」

「こんな物を作って引き上げるつもりです。10人も必要ありませんよ」

 

 そう言いながら、船の引き上げ用ロクロの説明をする。

 ロクロの直径と腕木の長さがテコの関係式で表せる。さらに動滑車を使って倍力すれば容易に引き上げられるだろう。


「はえ縄の巻き取り器に似ているな。だがこっちは大きく作るのか」

「もっと大規模に魚を獲る方法もあるんですが、海が荒れるのは良くありません」

「そうだな。俺達の暮らしが立てば良い。乱獲は避けたいものだ」


 2人がパイプをくわえながら頷いている。

 楽園の暮らしは程々が良いようだ。資源を間引きするぐらいならば、常に良い漁場を維持できるという事なんだろう。

 

「だが、釣りで漁場が荒れるとは思わんが、枝針の多さが問題かもしれん。今回の漁の結果では、長さと枝針の数を制限するかもしれん」

「先ずは結果を見てからだ。氏族会議への提案はそれを見てからで良いだろう」


 お茶を飲みながら、グラストさんとエラルドさんが話をしているけど、俺も結果が出てからで良いと思うな。

 

 3人でベンチに腰を下ろして、今後の漁の話を2人に聞くのも良いものだ。

 雨季の漁は昔から、釣りが主になっているらしいが、全く素潜り漁をしないわけでは無いらしい。

 確かに、最初のころはやってたんだよな。だけど、いつの間にか釣りが主体になってしまった。素潜り漁のバックアップをするザバンを漕ぐ嫁さんを考えると、あの豪雨の中に置くのは可愛そうだからな。


「晴れた午前中なら、素潜り漁も良いだろうが、それでも昼で上がる事だな。ザバンの縁すれすれまで雨が溜まったことがあるぞ」

「かい出すのに疲れたと嫁に言われたな。今では良い思い出だ」

 2人が笑いながら頷いている。きっと、その時に一緒だったに違いない。


「あれは嫁いで来た年の雨季だったにゃ。あれ以来、ザバンを漕ぐときは水着って決めてるにゃ!」

 酒器とワインを持ってやってきたビーチェさんが教えてくれた。

 グラストさんの嫁さんはリムルさんと言って、ビーチェさんと同い年らしい。リムルさんはトウハ氏族の出だ。

 テーブルを挟んで2人が座り、エラルドさん達にワインを注いでいる。ワインの肴はカマルの唐揚げと、ビーチェさんの作った漬物だ。

 操船櫓の鎧戸が開くと、ライズが顔を出した。テーブルの上の唐揚げを見てたけど、サリーネがカゴに入れた唐揚げを手渡すと、ニコリと笑って鎧戸を閉じたぞ。


「私が作った唐揚げは食べないにゃ……」

「それだけビーチェが上手いんだろうよ。せっかく乗せて貰ったんだ、教えて貰えば良い」

 リムルさんは、料理が下手ってことかな? やはり料理上手な嫁さんはありがたいと思う今日この頃だ。

 俺の隣に座ったサリーネだって、失敗したのは最初の頃だけだったからな。

 今でもビーチェさんに料理を教えて貰ってるようだが、ライズとリーザはそんなところは無いんだよな。


 やがて、豪雨が近付いて来ると言う知らせを受けると、自分達の酒器を持って、小屋の中に避難した。

 操船をサリーネとリムルさんが変わると、リーザ達が櫓から下りて来る。


「凄い雨にゃ。前のラスティさんの船がどうにか見えるにゃ」

 そんな事を言いながら俺達の輪に加わってワインを飲みだした。

 あまり飲むと、夕食の支度ができなくなるぞ。


「ところでどの辺りなんだ?」

「この辺りにゃ。雨が降ってなければ、カゴ漁の船がもうすぐ見えるにゃ」

 

 俺の質問にライズが海図を持ち出して教えてくれた。

 島の位置関係を見ながら現在地をいつも考えているのだろう。すでに三分の一を超えている。このまま進めば明日の朝早くに目的地に着けそうだぞ。


 夕食の支度が始まる前に、ライズ達はリムルさん達と操船を交替する。

 ビーチェさんとサリーネ、それにリムルさんの3人でカマドとカマドの屋根に「続いた甲板で食事の支度を始めた。

 ある意味、ビーチェさんの料理教室と言う感じにも見えなくもない。


 食事ができたところで、早めに食事を取る事にした。

 リーザ達がお腹を空かしているだろうし、今日の料理の監修はビーチェさんだから普段よりも美味しく感じられる。

 素早くお代わりをして、食事を終えると操船櫓に上がってリーザ達と交替する。


 舵輪を預かった時には、雨が上がっていた。

 前を行く、ラスティさんの船の甲板に掲げたランタンが良く見える。手元の魔道機関の運転レバーを見ると2ノッチを少し超えているようだ。

 トリマランの流体抵抗がカタマランよりも高いのだろうか? それともカタマランの方も2ノッチを越えた位置で船を進めているのだろうか?

 トリマランの最高速度も見てみたいものだな。



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