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N-105 隠匿するには良い場所だ


 砂浜は南に向かって扇型に広がっているようだ。

 島までは50m以上離れているのだが水深はどうにか2m位だな。

 10m程離れてカタマランが停めてあるあるから、大声で話ができる。海峡にはいるのは明日にして、今夜はここでのんびり過ごそう。

 

 夕食後に東を眺めると遠くに漁火が見える。

 カゴ漁をしている人達が夜釣りをしているんだろう。ここは彼らの漁場って事になるのかな。なるべく荒らさないようにしたいものだ。

 明日は色々とやることがあるから、今夜は早めに眠る事にする。


 翌日、ザバンに2人が乗り込んで島の北側に向かう。

 俺とサリーでザバンを漕ぎ、トリマランに残った3人はのんびりと釣りをするらしい。

 6艘のザバンで海峡に乗り入れながら、漕ぎ手をサリーネに任せて、箱メガネを使って海の中を覗く。

 かなり水深が浅いようだが、どうにか2mはあるんじゃないかな。バルテスさんがザバンを寄せて教えてくれた話では現在が満ち潮らしい。この辺りの干満の差はおよそ50cm位だから干潮時には商船は通れないだろうな。軍船も水場が無いような島には見向きもしないから、トウハ氏族の軍船を隠ぺいするには良さそうだ。


 先頭を行くゴリアスさんが後ろを向いて進路の右手を指差している。確かに小さな入り江があるな。

 10分も漕いでいくと、俺達は横幅30m程、奥行きが10mも無い入り江に着いた。砂浜には違いないのだが、急深のようだ。岸から数mで2m程になり、10m程沖に出るとサンゴ礁になる。

 砂浜の奥行きも10mは無いようだ。そのまま林になっている。

 ザバンを砂浜に引き上げたところで、皆が集まってきた。


「どうだ?」

 ゴリアスさんの問いは、何を聞いてるのか分からなかったが、たぶん隠ぺいして船を作れるか? という事なんだろう。


「林の奥が問題ですね。軍船の全長は6YM(18m)程になります。長方形の甲板になりますから、横幅も2YM(6m)ですから、砂浜から奥に12YM(36m)は欲しいところです」

「普段は陸に上げておくのか。確かにその方が船が痛まないからな。海側に問題は無いんだな?」

「だいじょうぶです。陸側だけですね。最低でも10YM(30m)真っ直ぐに伸びていかないと、それにあまり高低差は無い方が良いです」

 

 坂が急なら引き上げるのが大変だし、海に入れるにも真ん中の船に海水が入る恐れがある。


「俺達が見て来る。カイトはお茶でも作って待っててくれ」

 バルトスさんはゴリアスさんを連れて林に入って行った。

 俺達は石を集めて炉を作りお茶を沸かし始める。

 ついでに用意したメモ用紙に周囲の状況を簡単に描いておく。

 嫁さん達は海岸線を偵察してるけど、何か見つけてるんだろうか? 

 やがて帰って来た連中を交えてお茶を飲みながら状況を教えて貰う。


「林の方は砂浜の高さで奥に伸びているぞ。15YM(45m)は問題なく延ばせる。周囲の邪魔なヤシの木は伐採しても良いだろう。後は低木だからそれ程問題は無い」

「岩場で魚が釣れそうにゃ。シメノンが泳いでいたにゃ」

「軍船を作るに問題は無さそうです。操船が慣れたら、この海峡に乗り入れましょう。対岸まで10YM(30m)程ですから、荷物を運ぶにも一度は俺達の船を乗り入れる必要がありますよ」


 海峡になっているせいで、少し流れがあるようだ。動力船に戻る時には海流に乗って西に回りこんで戻ることにした。おかげで、島の西側の状況が分かったのだが、西側は大きな崖になっている。崖の高さは10m以上あるようだ。これではこの島に近付く物好きはいないだろうな。ますます都合が良い感じだぞ。


 トリマランに乗り込んだところで、夕暮れ前に南を目指した。

 やはりサンゴの崖に続く海域だけあって、サンゴが切れて数m程深い砂泥の海底が広がっている。そんな崖近くに船を停めると、餌木を用意して待つことにした。


 食事が終わると、ランタンを小屋の梁に引っ掛けて周囲の海面を見張る。

 いつシメノンが現れるか分からないから、酒器でワインをちびちび飲みながら待っているのだが、これだと遊びと変わらないな。

 船尾のベンチに座ってパイプを楽しんでいると、「来たにゃ!」という、ライズの声が大きく響いた。

 用意した仕掛けを竿で海面に投げ込むと、直ぐにライズが丸々としたシメノンを釣り上げた。続いてリーザが釣り上げる。

 俺も、手釣りで釣り始めたが、思ったよりも群れ大きい様だ。次々に餌木の針に引っ掛かったシメノンが甲板に上がって来る。

 釣れたシメノンはサリーネとビーチェさんが素早くさばいてカゴに放り込んでいるようだ。

 このまま釣れれば明日には、氏族の島に帰らねばなるまい。


 3時間程続いたシメノン釣りの終わりは豪雨によるものだった。

 豪雨の来襲と共に、ぴたりとシメノンが釣れなくなったが、竿を仕舞ったり釣り上げたシメノンの始末をするのにずぶ濡れになってしまった。

 魔法で体の汚れを取ると、嫁さん達は一足先に小屋に入って着替えをしている。その間は、小屋の扉近くに置いたベンチに腰を下ろして一服を楽しむ事にした。

 100匹を超えてるんじゃないか? 雨季でこの成績は中々だと思うな。


 翌日俺達が起きた時には、すでに日が高く昇っている。

 朝食を食べていると、ブラカの音が聞こえて来た。やはり予定を切り上げて帰るんだな。

 マストに白旗を上げてしばらくすると、再びブラカの音が聞こえて来た。リーザとライズが操船櫓に上がって、俺は船首のアンカーを引き上げる。

 本当は、白旗の合図と同時にやるべきなんだが食事の途中だからな。

 トリマランが動き出したのを見て、後ろに控えていたゴリアスさんもホッとしたように頷くと小屋の屋根を下りて行った。

 

「あそこで軍船をつくるにゃ?」

「良い場所ですよ。トウハ氏族に軍船を持つことを認めても、それがどんな船かが分からないなら相手は勝手に解釈してくれます。トウハ氏族が軍船に乗るような事態は想像できませんが、乗ったとしても島にやって来る軍船よりは強力だと思いますよ」


 乗るとすればエラルドさん達になるんだろうな。俺達だと足手まといだと言われかねない。

 生存率を高めた軍船で、一撃離脱に特化した動きをすれば無事に帰って来られると思う。一応、俺なりに考えたつもりだが、海戦なんてやったことも無いからな。映画だってほとんどが大砲を使うものだったから参考にならないんだよな。


 雨に降られることも無く、途中で運搬船を軽く追い抜いて行ったから、向こうも驚いていたようだった。それでも俺達に手を振ってくれたから俺達も彼らに手を振って答える。同じトウハ氏族の一員なんだからね。


 夕食は島で取ることにしたのだが、帰り着いたのは深夜の事だった。入り江の両端に灯篭のような灯台があるから迷わずに入ることができる。

 俺達の桟橋はまだないから、東の岸辺にまとまって停船してアンカーを下ろした。僚船とロープで固定すれば船の向きが変わることは無い。


 珍しく空が晴れて下弦の月が上がっている。

 今夜のおかずはシメノンだ。焼いてブツ切りにしたものに魚醤とスパイスがたっぷりとまぶしてある。酸っぱいスープには案の定、【野生のパイナップルが入っていた。

 だいぶこの世界の食事には慣れたけど、酸っぱいスープはちょっと問題だな。

 

 翌日、商船が来ていないことが分かったので、シメノンは燻製小屋に運ぶようだ。

 ザバンにカゴに入れたシメノンを積み込んでサリーネとライズが運んで行った。

 

 俺はのんびりと船尾のベンチに腰を下ろし、テーブルにメモを広げて作業の段取りを考えることにした。

 問題があるとすれば、対岸までの距離だな。30mはいくらなんでも短すぎる。

 斜めに進水させるようにするか。そうなると林の中にあまり深く入れられないから、発見される恐れが出て来る。

 ギリギリの角度を考えねばならないぞ。

 バルトスさん達は、シメノンの荷揚げを終えると、新たに作った石弓の弓の強さを確認しに出掛けたようだ。目の前の南の島だから夕方には戻って来るだろ。

 

・・・ ◇ ・・・


 エラルドさん達は、5日後にやってきた商船と一緒に帰って来た。

 直ぐに長老会議が始まったから、早ければ今夜にでも俺達に状況を知らせてくれるだろう。

 夜、俺の船に皆が集まってきた。

 昼間に俺達の停泊している海域に向かって桟橋が伸びているのが分かったけれど、その長さは10m程だから、更に2倍程伸ばさねばなるまい。

 皆のカタマランを互いに結んであるから、俺達にはそれ程不便ではないのだが、浜や、商船に向かうにはザバンを使わないといけないのが難点だ。2か月もすれば、桟橋が伸びてザバンを使用せずに済むだろうが、それまでは不便この上ない。


 そんな俺達の下にザバンが近付いて来る。乗っているのはエラルドさん達だな。

 皆の輪に加わって、種族会議の模様を俺達に説明してくれる。


 やはり、課題は王国の戦に係わるものだったらしい。

 王国は善戦しているようだが、じりじりと領土を削られているとの事だ。


「俺達が上納した魔石と王国内の魔石の取引による税収入で、やはり傭兵部隊を雇ったようだ。雨季明けのリードル漁も同じ事になりそうだな」

「大型を突かずに……ってことですか?」

 俺の言葉にエラルドさんが頷いた。


「そうだ。俺達ネコ族が取った魔石で中隊規模の傭兵を雇ったらしい。傭兵の雇用期間は1年だ。雨季明けのリードル漁で更に1個中隊が雇える。俺達が上位魔石を取るなら、更に傭兵を増やせるだろうが、それでも防衛に手一杯とのことだ」


 時間の問題って事になるのかな。すでに逃げ出した者達も出てるんじゃないか?

 そうなると、一気に王国が瓦解しかねないぞ。


「サイカ氏族は浮足立っていた。もしも王国の連中が逃げて来たなら、サイカ氏族の島は虐殺の場になりかねん。長老達の蓄えを切り崩して、脱出の準備と当座の食料を買い込んでいるとの事だ」

「武装船の準備は出来たんだろうか?」

「簡単に使える石弓を30丁買い込んでいるらしい。だが兵士は弓矢を使う」


 接近する前にやられるって事か。だけど弓は訓練しないと使えないからな。

「オウミ族と一緒になれば武装船の数も増える。それなりにオウミ氏族の島は守れるに違いない」

「侵攻する王国にしても、敵の王族が落ち延びれば、他国からその擁護の名目で攻め入られる可能性もある。あまり逃げる訳にも行くまい。逃げるほどに同行する人数が減るものだ」


 逃げるにしても、サイカ氏族の島までって事か。それ以上逃げると命は助かるだろうが、再起することは困難なんだろう。

 だが、侵攻してくる王国にだって軍船があるんじゃないか? その対策を逃げ出した王国はどのように対処するんだろう?


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