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N-102 軍船を作るぞ


 商船が来る度、に断片的な大陸の情報が入って来る。

 やはり、戦は惨敗続きらしいが敵対する王国の損害もかなりなものらしい。

 傭兵軍団を創設して、巻き返しを図るような噂が立っているとの事だ。

 俺達に一時的な重税を掛けるのは、その軍資金を得る為でもあるのだろう。

 島の住人が増えても良いように、小屋を作れる場所や畑の場所を長老達が決めて、杭を打っている。将来的にはどうなるか分からないが、トウハ氏族に加わる者もいるかもしれない。それなりに準備をしておくという事なんだろうな。


 何とか入り江の東側に灯台の土台を作り終えた時には、直ぐ目の前にリードル漁が待っていた。

取れたその夜に税を集めるという事らしく、王国の徴税官も小型の軍船に乗ってやって来ている。


「明日は、リードル漁だが、今回は大型のリードルを突くのは止めておけ。新しい船を購入するために資金が足りなければ、俺達が貸してやる。上級魔石の数が揃えられるとなると、後々厄介な事にもなりかねん」

「中級でも十分だろう。半分をその場で買い取ると言ってるのもおもしろくないしな」


 あまり向こうの手に乗るのも考えものだという事らしい。

 そんなエラルドさん達の考えに、顔を見合わせて頷く事で賛意を示す。


「浜を出る時に取れた数を確認するとまで言っている。全くご苦労な事だな」

「次の徴税に影響するんでしょうか?」

「無いとは言えんな。だから、精々中級で我慢するんだ。上級が数個取れると分かったら、次は上級を要求してくるだろうからな」


 前回までの漁で、ほぼ新しい船の代金を稼いでいるから、エラルドさん達から借金をする事にはならないだろう。

 そういう意味ではグラストさんの言うように、ちょっとした意趣返しをしても良さそうだ。俺達は自治権を持っているんだからな。

 今回の王国側の譲歩で、軍船を持てると言う事は、将来の発言権にも影響が出てくるだろう。先ずは1隻という事だ。


 リードル漁をいつものように行いながらも、トウハ氏族の皆はのんびりと漁をしている。わざわざ模様の薄いリードルを突いてくる者も大勢いるな。俺もその1人だけどね。


 それでも日が傾いて島を離れる時には、当日集めた魔石を焚き火ごとに徴税官に明らかにして、四分の一を渡さねばならない。軍の兵士が浜辺を見回っているから、不正は出来ないようだ。

 切り上げで処理するから10個以下なら3個を渡すことになってしまう。四分の一より税が重い気がするぞ。


「全く、ご苦労な事だ。明日が3日目だが、大物は狙うなよ」

「小さいのを狙いますよ。全体としてはいつもより数が少ないですが、その辺りは問題ありませんか?」

「中級が数個手に入って喜んでいる始末だから問題は無いだろう。それより、軍船の方を頼むぞ」


 夕食を終えてベンチで酒を酌み交わしながらエラルドさんと雑談をする。

 子供達はハンモックで寝たようだな。嫁さん達も、甲板で騒いでいるぞ。


「だけど、大陸から軍船を買わずとも、軍船が出来るのか?」

「要は、考え方だけですよ。せっかく作るんですか漁にも使えるようにしないと入り江のお荷物になってしまいます。軍船としても使用できる船と考えれば良いように思います」


 ラディオスさんの問いに即答すると、エラルドさんも頷いている。基本構想て気には問題が無いということだろう。


「だが、その船でどんな漁をするんだ? 俺にはそっちの方が気になる話だ」

「サイカ氏族の漁をやってみようと思っています。こんな感じで釣り糸を伸ばすんです」


 太い道糸に等間隔で5YM(1.5m)程の釣り糸に付けた釣り針をたくさん付ける。2FM(6m)ごとに小さな浮きを付けて、道糸の両端には大きな浮きと旗を立てておく。


「こんな仕掛けです。これを数本漁場に流して漁をするんです」

「この前のサイカ氏族の話でここまで漁の仕掛けが分かるのか?」

「いずれ、やってみようと思っていた方法です。カマルやシーブルが対象になるでしょうね」


 エラルドさん達が考え込んでいる。やはり既存の漁とバッティングするから、自分達の漁を心配しているのかな?


「俺達にも出来そうだな。バルトス、作ってみろ。リードル漁が終われば俺達は釣りが主流になる」

「最初は10FM(30m)位で良いでしょう。最終的には50FM(150m)位は欲しいですね。20FM程の仕掛けを連結しても良いかも知れません。ですが、これは引き上げるのに苦労しますよ。引き上げ機を作って貰ってから使うべきです」

「確かに長い仕掛けに、これだけ枝針を仕掛けるんだからな。何匹か掛かれば1人では上がらんだろう。それはカイトに任せても良いのか?」


 エラルドさんの問い掛けに、頷いて了承を示す。

 漁船にあったロクロみたいな奴で良いはずだ。うまい具合にゴムはあるからな。両端からロクロで道糸を挟んで上げれば良い。

 ロクロは真ん中を膨らませておけば良いんだが、ドワーフの職人なら上手く作ってくれるんじゃないかな。

 動力は魔道機関の小型のものがあれば丁度良いんだが、これも一緒に相談すべきだろう。


 3日間の漁を終えて、俺達は氏族の島に帰って来た。

 徴税官は、軍船でさっさと帰って行ったが、魔石を数十個近く持ち帰得ることができたんだから俺達に手を振っていたぞ。中位の魔石が十数個も混じってるんだから、それ位愛想を振りまいても良いと思ったに違いない。見送った俺達の顔も笑みが浮かんでいたからな。

 いつもよりは少ないけれど、俺達だって10個以上の魔石を各自が手に入れている。これを早めに売って、俺達に降りかかりそうな災難に備えなければなるまい。


「それで、カイトの考えた軍船はどのような形になるんだ?」

 いつものようにカタマランの甲板に集まって漁の相談をしていると、グラストさんが俺に話を振ってきた。

「一応、こんな感じです」


 正面と側面、それに平面の3面図が基本だが、後部の図面と甲板位置での平面図の5枚で構成している。概略図だが、今使っているカタマランの制作を依頼した時にはもっとひどい図面だったからな。あれよりは遥かにマシだからドワーフなら俺の意図を汲んでくれるだろう。


 軍船の全長は15m。横幅は6mだ。横から見ると船首に6mの長さの甲板がある。小屋の長さは9mで、船尾には甲板が無い。操船櫓は船尾に小屋の屋根から突き出すように作られており、屋根は勾配の緩やかで、スノコが平面になるように張ってある。

 何より異様なのは、船首の甲板と小屋を囲むような斜めの板壁だ。60度ほどの角度で内側に向けられている。

 後部の図面を見ると、この軍船が3つの船体を持っていることが分かる。

 横幅1.8m程の船体が3隻、三角形になるように配置され、3隻とも駆動はスクリューを使用する。


「板壁は矢の防御か。火矢もこれなら上から水を被せるのは容易だろう。後は武器だが、やはり弓矢を使うのか?」

「基本は石弓としたいです。ですが、船首甲板と、小屋の屋根に大型の石弓を設置したいですね。30FM(90m)以上の射程が得られれば、この1隻で敵の軍船数隻を相手にできるでしょう」

 

 周囲の男達が思わず息をのむのが分かる。

 ジッと、外形を見ているぞ。


「カイト……。お前は、何者なんだ?」

 グラストさんが軍船の画から目を離さずに、絞り出すような声を出した。

「俺は……」

「いや、言わんでも良い。ネコ族の血を引く人間族に似た我らが種族の一員。聖痕を持ちトウハ氏族を導く者。それがお前だ!」


 グラストさんに答えようとしたら、グラストさんが俺の答えを聞くよりも先に、大声で俺の答えをかき消した。


「だが、その知識はあまり人に話さぬ方が良いな。バルトス達も気を付けるんだぞ。将来的にはこの島に他の氏族がやって来る可能性もある。それも、聖痕を持つ者がいるサイカ氏族なのだからな」


 バルテスさん達が力強く頷いた。

 俺をトウハの一員として存在を曖昧にしておいてくれると言うのだろか? だが、聖痕は目立つからな。バンダナで隠しておくか。


「ところで、大型の石弓などドワーフに頼んだらますます戦が激しくなるぞ。まだ、大型の石弓など聞かん話だからな」

「軍船の防衛用に石弓を買う事はできるでしょう。それを元に自分達で作れば良いんです。金具が必要なところは部品で頼めば何ができるか分からないと思います」


「そうなると、この軍船全体もそうなるのか? 確かに下地は船が3隻ではあるのだが……」

「双胴船までは頼もうかと思ってます。ですが、この真ん中の船は別に頼んで組み立てたいですね」


 そんな話が夜遅くまで続いた。

 明日の長老会議で、グラストさん達が提案してみるそうだ。

 数日の休みを終えると、俺達は曳釣りに出掛ける。

 エラルドさん達は長老達と話し合いが続いているが、俺達に直ぐに関係するとは思えないし、漁は生活の糧を得る手段だからな。

 

 5日程の漁を終えて氏族の島に帰って来ると、直ぐにエラルドさんとグラストさんが俺の船にやってきた。


「長老はカイトに任せると言っていたぞ。俺とエラルドが手伝う事になったが、バルテス達も使う事になるな。一か月に銀貨10枚でお前達を一時的に長老が雇う形になる。仕事が伸びれば、同じ金額だけ払っていくことになる」

「雨季だからな。俺は構わないが、カイトはどうなんだ?」

 

 バルテスさんが俺の顔を見る。

 確かに、他の連中では問題がありそうだし、俺もバルテスさん達なら頼みやすいことは確かだ。


「言いだした以上、やらないわけにはいかないでしょう。早速、始めたいと思いますが、グラストさんには確認して欲しい事があります。軍船をどこで組み立てるか。これは早めに決めておかねばならないでしょう」

 

 氏族の島には、定期的に商船もやって来るし、軍船だって来るのだ。

 横槍を防ぐ上でも、この島とは別な島が良いに決まってる。

 


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