まだ終わっていない
三日間、暗闇の底にいた。
目を覚ますと、真っ先に飛び込んできたのは白い天井と、鼻を突く消毒液の匂いだった。
次に、彼女がいた。
毎朝決まって隣にいる幼なじみ。今はベッドの脇のパイプ椅子に座ったまま、小さくなって眠っている。その手は、俺の掛け布団の端を離さない。
彼女は三日間、ずっとここで俺を待っていた。
頭上に浮かぶステータスは、いつもの「変動」に戻っていた。少なくとも今この瞬間は、彼女は生きている。
だが、安らぎは長くは続かないと知っている。
一人の敵が倒れても、その背後にはもっと大きな闇が広がっているのだから。
「まだ終わっていない。」
夜の病院で、初めて思い知った。
――俺だけじゃ、彼女を守れない。
一路は目を開けた。
白い天井。薄暗い蛍光灯。消毒液のツンと来る匂い。
病院だ。
体を動かそうとする――痛い。全身が重い。特に背中の後ろは、何かに刺されたような痛みがある。ああ、そうだ。確かに刺されたんだ。
一路はゆっくりと横を向いた。
ベッドの脇の椅子に、一人の少女が眠っている。長い茶色の髪が肩に広がっている。顔色は少し青白いが、それでも可愛らしい。彼女の手はまだ一路の布団の端を握りしめている。
真冬。
彼女はここで眠っている。一路を見守っていた。
一路はしばらくその顔を見つめた。目の下のクマ――何日かろくに眠れなかったのかもしれない。一路は起こしたくなかった。彼女を眠らせておく。休む権利がある。
それから、一路は少し頭を持ち上げて、真冬の頭上を見た。
ステータスはまだそこにあった。
【名前:白雪真冬】
【役割:ヒロイン『幼なじみ』】
【説明:主人公の近くに住む明るい少女。】
【状態:生存】
【推定死亡時間:変動】
普通だ。
普通に戻った。
赤い文字はない。緊急警告もない。ただの普通のステータス。今までずっと一路が見てきたものだ。つまり――今のところ、真冬は安全だ。
一路はほっと息をついた。
彼は窓のほうへ顔を向けた。
外の空はオレンジ色に染まり始めている。太陽がゆっくりと地平線の彼方に沈んでいく。薄い雲がピンクや金色に輝き、美しく燃えているようだ。鳥たちが群れをなして飛び、それぞれの巣へと帰っていく。
夕方だ。
人々が仕事から帰る時間。子供たちが暗くなる前に公園で遊ぶ時間。静かな時間。
しかし一路にとって、夕方は真冬が死んだ時間でもある。二度も。
真冬…… 一路は心の中で思う。もしお前がこれからもあんな死に方を続けるなら……卒業するまでに……
お前は耐えられるのか?
俺は……気が狂わずにいられるのか?
ループのたびに痕跡が残る。体だけじゃない。頭の中にも。真冬が自分の名前を呼ぶ声。冷たくなっていく彼女の手。広がる血。すべてがまだ鮮明だ。まるで昨日のことのように。
一路は唇を噛んだ。
あれをあと何回見なきゃいけないんだ?
あと何回――
キィッ。
病室のドアが開いた。
一路のぼんやりした考えが消える。彼はドアのほうを向いた。
中年の男性が入ってくる。白いコート。首に聴診器。一路がもう起きているのを見て、驚いた表情を浮かべている。
【名前:佐藤健一】
【役割:担当医――情報提供者かつ一時的な協力者】
【説明:この病院の外科医。経験は浅いが誠実で、患者を心から気遣う。偶然にも、真冬の両親とは顔見知り。】
【注記:今後の展開で重要な情報を提供する可能性がある。】
佐藤医師。
「おっと…!」佐藤医師は目をこすった。信じられないといった様子で。「もう起きたのか? 本当に起きたのか?」
一路は静かにうなずいた。「…こんにちは。」
「もっと長く昏迷状態が続くと思ってたよ!」佐藤医師は素早く近づく。「背中の刺し傷はかなり深かった。あと1センチずれていたら肺に当たっていた。君はとても運が良かったよ、坊主。」
「…どのくらい眠っていました?」
「3日間。正確には72時間だ。」佐藤医師は一路の脈を測り始める。「君の家族はとても心配していたよ。そこの君の友達は――」彼は真冬のほうを指差した。「――彼女は一度も君のそばを離れなかった。夜でもな。」
一路は再び真冬のほうを向いた。彼女はまだ眠っている。その手はまだ布団の端を握りしめている。
「彼女は毎日来ているんですか?」一路が尋ねる。
「毎日だよ。学校が終わったらすぐにここに来る。君に弁当を持ってきてな。君が食べられないって分かっていてもな。」佐藤医師は小さく微笑んだ。「看護師の話では、彼女はよくベッドのそばで独り言を言っているそうだ。」
一路は何も言えなかった。
佐藤医師は血圧計を取り出した。「さて、じゃあ状態を診察する――」
「先生、」一路が静かに遮った。「犯人の様子は?」
佐藤医師はため息をついた。「彼はもう警察に確保されている。」
一路はうなずいた。一つの問題は片付いた。だが――
「それと、俺を助けてくれた警察官は? 山田さんは?」
「ああ、彼はよくここに来ているよ。たぶん後で来るだろう。」佐藤医師は体温計を付ける。「さて、しばらく静かにしていてくれ。私が――」
「先生、」弱々しい声が横から聞こえた。
佐藤医師の声が少し大きかったせいで、真冬は徐々に目を覚ました。その目はまだぼんやりしている。髪はボサボサだ。しかし、彼女が一路を見たとき――
その目が見開かれた。
「いっ…と…?」
「真冬。」
「一路!」
真冬はすぐに椅子から立ち上がった。勢い余って椅子がガチャンと倒れた。でも彼女は気にしない。彼女は一路の体に手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。顔を一路の胸に押し付けて。
「一路…一路…!」
「痛いよ、真冬。俺の傷が――」
「ごめん…」真冬は抱きしめる力を少し緩めた。でも離れない。その手は震えている。「あなた…あなたが起きた…あなたが意識を取り戻した…」
「三日間、」一路が静かに言った。「俺を三日間も見守ってくれたのか?」
真冬は答えない。でもその肩は震えている。涙がこぼれ始める。
「バカ、」一路がささやく。彼は手を上げ、そっと真冬の頭をポンと叩いた。「俺はそんな簡単に死なないよ。」
真冬は答えない。ただ一路の胸の中で小さくうなずくだけだ。泣き続けながら。その抱擁はますます強くなる。
佐藤医師はただ横で微笑んでいた。彼は体温計を取り、カルテに何かを書き込む。
「さて、」医師が言った。「私は少し出ているよ。二人きりにしてあげる。でも長くするなよ――傷の診察をしなければならないからな。」
佐藤医師は出て行った。ドアが静かに閉まる。
今や病室には一路と真冬だけが残された。心臓モニターの規則正しい音が聞こえる。
「真冬。」
「ん?」
「ありがとう。見守ってくれて。」
真冬は顔を上げた。その目は赤く、濡れている。しかし彼女は微笑んだ。昔と同じ笑顔。毎朝一路が見てきたあの笑顔。
「バカ、」彼は一路の口調を真似て言った。「あなたが私を守ったの。これはそのお返しよ。」
一路は小さく微笑んだ。
二人はもう少しだけ抱き合っていた。誰も話さない。ただ心臓の鼓動と息遣いだけが交錯する。
窓の外では、オレンジ色の空が徐々に紫色に変わっていく。太陽はほとんど完全に沈もうとしている。夕方はもうすぐ夜に変わる。
しかし、ここ数日で初めて、一路は安らぎを感じていた。
夜が更けていった。
壁の時計は午後7時を指している。窓の外の空はすっかり暗くなっている。街灯だけがぼんやりと灯り、静かな病院の敷地を照らしている。
真冬は椅子から立ち上がった。その目はまだ泣きはらして少し腫れている。彼女はくしゃくしゃになった制服を整えた。
「一路、私帰るね。もう夜だし。」
一路は彼女のほうを向いた。少し心配そうに。でも彼はうなずいた。
「ああ。気をつけて帰れよ。」
「もちろん。」真冬は小さく微笑んだ。「明日もまた来るね。あなたにお弁当持ってくるから。」
「…無理しちゃダメだぞ。」
「無理してなんかないよ。」彼女はカバンを手に取った。「ゆっくり休んでね、一路。考えすぎちゃダメよ。」
「お前もな。」
真冬はドアのところで手を振り、そして出て行った。病室のドアが静かに閉まった。
部屋は静まり返った。
一路は天井を見つめた。彼の考えはあちこちに飛んでいく。真冬は無事に帰れるだろうか? 誰かに付きまとわれていたりしないか? しかし彼は首を振った。もういい、疑い深くなるな。
真冬が帰ってから5分が経った。
キィッ。
再び病室のドアが開いた。
今度は佐藤医師が若い男と一緒に入ってきた。その男は暗い色のレインコートを着ている。見覚えのある顔だ。
山田拓実。あの時一路を助けた若い警察官だ。
「一路くん、」山田が声をかけた。「調子はどうだ?」
「もう大分良くなりました、」一路はゆっくりと起き上がりながら答えた。「あの時は助けてくれてありがとうございました、山田さん。」
「礼には及ばない。それが俺の仕事だ。」山田は椅子を引き、ベッドの脇に座った。「ただ君の状態を確認したくてな。」
佐藤医師がうなずく。「私は他に患者を見てくるよ。二人で話してくれ。」彼は出て行き、ドアを閉めた。
山田はため息をついた。その顔には疲れの色が見える。
「一路くん、木下雄大について話しておきたいんだ。」
一路は緊張した。「彼にどうしたんですか?」
「今はもう裁判が終わって、懲役7年の執行猶予付き判決が出ている。」山田は顔をこすった。「だが…一つ気になることがある。」
「何です?」
「取り調べの時、彼は全ての行為を認めた。隠し事は何もなかった。」山田の声が低くなる。「でも彼は…まったく反省の色を見せなかったんだ。」
一路は唇を噛んだ。反省していない?
「彼は言ったんだ、」山田が続ける。「機会があれば、またやるって。」
部屋の空気がさらに冷たくなった。
「でもそれだけじゃないんだ、一路くん。」山田は一路の目をまっすぐに見つめた。「木下は単独で動いていたわけじゃない。彼には仲間がいる。」
一路の心臓が速く打ち始めた。
「彼は…ある犯罪組織の副リーダーなんだ。」
沈黙。
一路は何も言えなかった。
「どうかより一層気をつけてほしい、」山田は真剣に忠告した。「彼らの副リーダーが刑務所に入れられたんだ。彼らが黙っているとは限らない。」
「…分かりました、」一路は静かに答えた。
彼らの会話はさらに数分続いた。山田はいくつか助言をして、そして立ち上がった。
「明日にはもう退院できるそうだ、佐藤医師が言っていた。」
「はい。」
「ゆっくり休め、一路くん。何かあったら連絡しろ。」
山田は出て行った。ドアが閉まる。
今や一路は再び一人になった。
彼は窓の外を見つめた。外の夜の空はとても静かだ。暗い。星は一つもない。ただ広大な闇が広がっているだけだ。
先ほど聞いた情報がまだ頭の中でぐるぐる回っている。
木下は反省していない。
彼には仲間がいる。
彼は犯罪組織の副リーダーだ。
夕方に一時感じた安らぎは、今や消え去っていた。再び不安になる。再び怖くなる。
真冬……
彼は布団の上で拳を握りしめた。
これ以上、望まない出来事が起きないでほしい。
しかし、自分一人でそれを防げるのだろうか?
一路には分からない。
彼が分かっているのは、今夜はぐっすり眠れそうにないということだけだ。
第6話は新たな章の始まりに過ぎません。
一路の安らぎは、ほんの数時間しか続きませんでした。現実は甘くない。木下は刑務所に入ったかもしれない。しかし、彼の背後にいる犯罪組織の影は、まだ消えていません。
一路は一人で真冬を守り切れるのでしょうか?
それとも、誰かの助けを探さなければならないのでしょうか?
——次回、お楽しみに。




