第六話
食事を終えたので酒場を出て、港町に向かおうとしたが、靄が凄い。このまま進むと『山で遭難しました!』となりそうなので、《ミスティマウンテン》の周辺で狩りを行うことにした。湿度が高いせいか魔物が泥で出来ている。ゴーレムかな?
だが、スタートから金属製の武器を持っている私たちを、泥ごときで止めることは出来ない。むしろ前の街周辺の岩を鎧にした魔物の方が強かった気がする。いや、私達が強くなったのか。と言っても前衛はおにおんぐらたんさんに任せているのだが、するとおにおんぐらたんさんが敵の攻撃でダメージを受けた。慌てて回復魔法をかける。
このゲームはステータスやレベルが見えない鬼畜しようとなっているが、HPとMPのゲージはある。感覚が麻痺しているのか、それだけで運営の優しさを感じてしまう。
おにおんぐらたんさんに回復魔法をかけたが、一度でHPゲージが満タンにならない。原因は私の回復魔法の回復量が少ないか、剣士であるおにおんぐらたんさんのHPが多いかである。後者だとありがたいのだが、どうしたものか。
スキルなどのレベルは見えない。もちろん回復魔法もである。その為、現在どのくらい回復できるのかも推測することが出来ない。私が悩んでいることを察したのかおにおんぐらたんさんが声をかけてきた。
「このくらいのダメージなら大丈夫ですよ! 任せて下さい!」
そう言うと頼もし気に自分の胸を叩いていた。その後も泥ゴーレムを討伐する。たまに私はおにおんぐらたんさんに回復魔法をかける。
(あれ? 私が敵の攻撃を受けた場合、どれくらい減るのだろう? 知っておいた方が良いかな?)
そう思い、おにおんぐらたんさんに声をかける。
「ちょっと前衛を交代しませんか? 私が敵から攻撃を受けた場合、どのくらいダメージが入るか確認しておきたいのですが」
「アニエスさんのことは僕が守るから大丈夫ですよ?」
イケメン的な台詞が返って来た。見た目はイケメンではないのだが……。
「いえいえ、この先を考えてのことですよ。複数の魔物に囲まれた場合、私が攻撃を受けた場合、どのくらいHPが減るかを確認しておきたいのです。いきなり強い敵と遭遇して死んだら、セーブポイントまで戻ってしまいますから」
「なるほど。了解です」
納得してくれたみたいで、おにおんぐらたんさんは後ろに下がった。私が先頭になり狩りをする。泥の象ような敵が現れた。私はメイスを身構えて、攻撃を試みる。敵に命中するが、おにおんぐらたんさんほどには、ダメージが通らない。少なくとも攻撃に関しては、前衛職と後衛職で差があるようだ。
そんなことを考えていたら、泥の象の鼻で攻撃を受けた。HPゲージがぐんと減る。四割は減ってしまった。防御も前衛職に比べてやはり紙装甲のようだ。
それを見たおにおんぐらたんさんが、慌てて前に出て来た。
「下がって下さい! 危険です!」
泥の象と対峙するおにおんぐらたんさん。迂闊にもかっこいいと思ってしまった。
おにおんぐらたんさんが、泥の象を倒して、地面に座って惚けている私に寄って来た。
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差し伸べてきた。これで相手のアバターが牛男でなければキュンと来ていたかもしれない。おにおんぐらたんさんの手に掴まり立ち上がる。その手に温もりを感じたのは気のせいだろうか。ドキドキする胸の鼓動を『死にそうな体験をしたからだな』と私は思いつつ、前衛はおにおんぐらたんさんに任せて狩りを続けた。




