第三十一話
翌日、ゲームにログインして《サンクチュアリ・シティ》を散策していた。すると、水に囲まれた白いチャペルが見えてきた。
私がチャペルの方に視線を向けると、おにおんぐらたんさんは、私の考えを察したようだ。
「あの、実はチャペルを予約してあるので、そ、その、結婚式を挙げませんか?」
いきなりの提案で驚いた。いつの間に予約を入れたのだろうか? 大抵、私と一緒にいるので、予約をする時間はなかったはず。考えられるとしたら、昨日ログアウトした時に、またログインし直したのであろう。
だが、それはとてもありがたい。私の方から言い出そうとしていたことを言ってくれたし、サプライズとして用意してくれていた。
私たちはボートに乗って、白いチャペルへと辿り着いた。
チャペルに入ると、予約時間までまだ少しあるので、扉の隙間からこっそりと、他の人の様子を覗いてみた。
チャペルの内装は金で統一されており、中央には緑の絨毯が敷かれていた。一番奥にはパイプオルガンが置かれている。
そこには花嫁が二人いた。どうやら合同結婚式のようだ。一人は鮮やかな青いドレスで、もう一人のピンクの髪をした子は、白いドレスに胸元にピンクのリボンをつけていた。
これ以上お邪魔をしては悪いと思い、そっと扉を閉めた。
私たちも準備をする時間になり、衣装を決める。ひとまず、おにおんぐらたんさんと別々の部屋になった。
そこでふと思った。あれ? 私はウエディングドレスでいいんだよね? アバターは女の子だし? おにおんぐらたんさんは、タキシードなのかな?
衣装の中から、ウエディングドレスを見ていく。やはり王道の白一択だ。問題はデザイン。現実世界だと体型が不安になる。いや、そもそも性別が男の私が、ウエディングドレスを着させてもらうことは出来るのであろうか? ここは大胆に攻めることにする。
スリーブレスでしかもショートドレス。露出多めだが、現実だと逆に隠すことが多いので、こういう服を着れる機会はそうそうないであろう。
準備が終わり、いよいよおにおんぐらたんさんと合流する。そして、チャペル内に入り、パイプオルガンの音を聞きながら、台の前まで進んで行く。台の所には、NPCの牧師が立っており、本格的である。
おにおんぐらたんさんは、アイテムボックスからリングボックスを取り出した。それを私に見えるように向けて、蓋を開いた。そこには二個の指輪があった。リングボックスを台に置くと、おにおんぐらたんさんは、片方の指輪を取り、私の左手薬指にはめてくれた。色々なサプライズに嬉しく思い、私ももう片方の指輪を手に取り、おにおんぐらたんさんの左手薬指にはめた。
すると、NPCの牧師が式を進めた。
「病める時も、健やかなる時も……誓いますか?」
「「はい、誓います」」
「誓いのキスを……」
お互いの唇が触れる。牛男の毛が少しくすぐったいが、我慢した。私の心はとても満たされている。まるで『美女と野獣』の物語のヒロインになった気分である。
天井からフェイクフェザーが降り注がれると、牛男は唇を離した。
「あなた方の幸せを、願ってます」
その牧師の台詞で終わりのはずなのに、おにおんぐらたんさんは、更に言葉を紡ぐ。
「あ、あの、その、現実世界でも結婚を前提に、お付き合いしてくれませんか?」
「は、はい!」
私は嬉しさのあまり涙が出そうである。だが、ここはゲーム内なので、涙は出ない。嬉し涙は本番の時に取っておく。
今までは個々のプレイヤーとして冒険していたが、今後はカップル。ゆくゆくは夫婦としてこのゲームをプレイして、思い出を増やしていくことだろう。




