第十一話
朝、目覚めた。目覚めはあまり良くない。昨日の夜に『ゲームがつまらなくてやめてしまったのか』とか『私が何か嫌われることでもしたかな』と考えてしまうせいで、寝つきが悪かった。寝ぼけ眼を擦りながら、今日も慌てて仕事に行く支度をする。
午前の仕事が終わり、昼休みの食堂。食事をしながら思わず辺りを見渡してしまう。もしかしたら、社内の誰かかもしれないと少し期待をしてしまったことと、もしそうなら昨日のこと聞きたかったからである。私はかまってちゃんだったんだなーっと自覚してしまう。いや、他人からしたら単なるメンタル重い人かもしれない。
不安を抱えたまま今日の仕事を終えて家に帰った。
家に帰ると着替えと食事をして、ベッドの上で白いヘッドギアを両手で持つ。そのヘッドギアがいつもよりも重く感じる。自分の考えすぎだと、頭を横にブンブンと振り回して、ネガティブな考えを振り落とそうとする。だが、ネガティブ思考はどうしても消えない。覚悟を決めてログインすることにした。自分が考えすぎただけで、今日はログインしているかもしれない。
ベッドに横たわり、白いヘッドギアを装着して、ゲームをスタートした。
セーブをしていた場所は、前回と同じ宿屋である。おにおんぐらたんさんとはぐれないようにと思い、同じ所でセーブをしておいた。
フレンドメッセージを確認するが、まだ何も届いていない。不安の波が一気に押し寄せる。
狩りに行く気分にならずに、街中のベンチに一人座る。
街中を歩くプレイヤーに目を向ける。何人かでパーティを組んでいる人たちもいるのだが、男女二人組のパーティに視線は移っていく。男女二人組と言ってもネットの世界だから、同性かもしれないけど、ついつい『この人たち、恋人同士でゲームしているのかな』と考えてしまう。その自分の考えに気づいた時、思わず顔が赤くなってしまう。
(私とおにおんぐらたんさんは、そういう関係じゃないから!)
ブンブンと顔を横に振って、自分が考えていたことを頭の中から追い出そうとする。おにおんぐらたんさんも、異性とは限らない。ひょっとしたら同性かもしれないし。いや、それ以前に何を恋人になりたい前提で私は考えているんだ。自分の考えに嫌気がさしてうな垂れる。すると視線の先の地面に人影が現れた。
「お待たせしました」
聞き覚えのある声。その声を聞いて思わず顔を上げる。きっと私の顔は驚きの顔をしているだろうが。私の視線の先には牛男がいた。
「昨日はログイン出来なくてすみません。急な用事が入ってしまったものでして」
「いえいえ、用事でしたら仕方がないですよ。リアルが優先。それがゲームの常識ですから」
ほっとしつつも自分の心の内がバレないように社交辞令の挨拶をした。




