自称、三國無双のSさんは
お久しぶりです。三回目のワクチン接種にして初めてわずかばかりの発熱があったふっしーです。それでも悪寒は酷かったです。
実は今回の話は三月の頭には九割がた書き上げていたのですが、このひと月半あまり、とあるゲームに呪われて寝食を惜しんでプレイしておりました。おそろしきはマウントアンドブレイ……いえ、己の意志薄弱ぶり。
さて、今回は土建屋時代の僚友、Sさんのお話です。アラフォーくらいだったと思います。彼のほうがあとから入ってきたのですが、かなりの強面で髪形もその筋の方のようでおまけにチンピラ歩きです。正直最初は「いやな人が入ってきたな」と腹のなかで思いました。
ところがどっこいです。話してみると全然高圧的なこともなく、冗談を言って周りを和ませるムードメーカー的な方でした。かなり年下の僕のことも君付けで呼んでくれます。
そのうえ信心深く、嘘かホントかわからない神様仏様の雑学を教えてくれるのです。
たとえば、右耳で耳鳴りがするならご先祖様の供養が足りない、左耳なら神罰(記憶があやふやなので逆かもしれません)。あと密教の怪しい呪文とか、それを唱えるときの印の結び方とか色々あったのですが、Sさんの雑学が役に立ったことは一度もありません。
またまたところがどっこいなのです。そんな気さくなSさんですが、実は……右系政治結社の構成員なんです。……見た目通りの方でした。
「明日は街宣車運転して○○まで行かないかんのよ」
「(何かのトラブルの)仲介をして三百万儲けた」
そんな話をたまにしてくれます……こちらは返事に困りますが。
あるとき、こんなことを言い出しました。
「ふっしー君、わしはこう見えてもな【西のはちぶしゅう】の一人に数えられとんよ」
「はちぶしゅう?」
「西日本の右○団体のなかで喧嘩が強いのが八人おってな、わしがそのなかの一人なんよ」
どうやら真面目な話のようです。はちぶしゅう、八武衆とでも書くのでしょうか? なにか元ネタがあったのかと今回これを書くにあたって調べてみると【八部衆】というのがありました。仏法を守護する八尊の護法善神だそうです。おそらくこれですね。
「ふっしー君もええガタイしとるけど、黒人とだけは喧嘩したらいかんで。わしいっぺん喧嘩してな、ふっしー君を190センチくらいにしたようなやつだったんじゃけどな、ボッコボコにしてやったんよ。ほんじゃけんどな、あいつら何べん倒しても起きあがってくるんよ。終いにはこんな顔になってな」
どれほど相手の顔が腫れあがったかを両手で表現してくれますが、それじゃまるっきりアンパ○マンです。
「それでも立ちあがってくるきんな、終いには勝ったこっちが逃げ出したわ」
なかなかの武勇伝です。
しかーし、三度のところがどっこいなのです。
Sさん、顔と髪形は本職の方なのですが、首から下がガリガリなのです。軽量級のボクサーのように締まった筋肉が付いているわけではなく、胸を病んだ明治の文豪のような体なんです。当然ながら力もなければ機敏さもありません。どうみても腕より口が立つタイプです。
「わしな、昔じゃけどパナソニ○クの工場で働いたことあるんじゃけど、そこの工場長とそりが合わんでな。ひとが猫かぶって大人しいにしとりゃあつけあがりきくさって、最後は喧嘩して辞めたんじゃけど、もう腹わた煮えくりかえってな。事務所で着とった服ビリビリに破ってスッポンポンにしてやったんよ」
「え⁉ スッポンポンてパンツも?」
「おおよ、残っとんのは靴下だけよ。粗チン両手で隠して泣いて謝んりょんよ」
Sさんが股間を押さえて再現してくれます。逃げまどう事務の女の子まで熱演してくれました。
「ほんでもこっちはまだこんなもんじゃ収まらんし、どうせもうクビじゃし、襟んとこ掴んでそのまま工場中引っ張りまわしてやったんじゃ。あいつ嫌われとったきんみんな大喜びじゃったわ」
……あのー、スッポンポンなのに襟を掴んで引っ張ったんですか? なんて野暮なことは訊きません。
最初は本気と冗談の境目がわからないSさんでしたが、慣れてくれば「ああ、ここら辺は盛っとんな」とわかるようになってきました。
酒乱ですが普段は面白くて楽しい人でした。長くなりましたのでこの辺で。




