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(22) 商会

「なあ、竜兵」


「はい、兄様」


「おまえさ、なんで死んでないの?」


「酷いッ、兄様それは酷いですッ!」


「いやだってさ、あのダンジョンからかなり経つのにさ、第二王子様が死んだとか噂にもなってないじゃん」


「ああ、それですか」


「まさかおまえが生きてることがバレてるとか?」


「いいえ、それはないですよ。随行していた王国騎士団の精鋭四人が死んだ状況で、ボクだけが生き残ってるなどとは誰も思わないはずですし」


「ならなんで?」


「ボクが死んだとしても、今はまだ公式発表をできないんですよ」


「ああ、そうか。おまえの父ちゃんの即位式典か」


「はい。この時期に第二王子の死亡を明かして、国の祝賀ムードに水を注すわけにはいきませんからね」


 そう。

 もうすぐコイツの父ちゃんが王様として正式に即位するのだ。

 その儀典は国を挙げての大イベントで、城壁の外にいる俺たちにもその盛り上がりが伝わってくる程だ。

 なにしろこの城外市を四つに分断する幅広の王道に、連日連夜馬車の往来が絶えることがないのだから。


 しかもこのところ目立ってきたのは、騎馬隊に護衛された豪華な馬車の列。

 それは式典に参列する地方の大貴族だったり、他国の使節団だったり。

 要は大名行列だね。

 下にぃ~下にぃ~はないけれど、道を渡る際には気をつけないと無礼討ちとかされるから。

 生麦事件になるから。

 俺なんかは特に気をつけないとね。

 なにしろ王道を横断しての王都一周マラソン大会が日課になってしまったし……。



 そうそう、近況報告。

 俺たちは引っ越しましたよ。

 引っ越し先はサダナー一家のすぐ近所。

 なんとガタナー商会の建屋の二階ですよ。

 ちなみにガタナー商会の本店は王都にある貸し店舗なんだけど、そちらはあくまで名義的な本店に過ぎないの。

 商会長であるガタナーさんが常駐しているのは城外市出張所ここなので、実質的にはこちらの方が本店なのかも。

 その一階部分はガタナー商会のオフィス、二階部分はガタナーさんの執務室と居住スペースになっててさ。

 そしてどういう訳か、俺たちはその二階の一室を間借りして住むことになってしまったのよ。

 というのも、竜兵がガタナー商会にトレード移籍したから。

 そう。アイツときたら、裏組織の準構成員から商会の会長秘書にステップアップ転職ですよ。

 まあ俺は会長秘書様の小判ザメで同居しているだけで、ここの従業員ではなくチンピラなんですけどね。



 それというのも、あの日。

 あの四ボス会議の終り際に。


「しかし親分、カタギのガタナーが俺たちのところに頻繁に出入りするのはマズくはないですか?」


 サダナーの指摘に。


「俺も同意見だな。ガタナーがこの国一番の商人を目指すなら俺たちとの関係は隠した方がいい」


「ふむふむ。連絡は密に。しかしガタナー商会と俺たちの関係は表には出さないようにか……」


「となるとガタナーの身近に誰か繋ぎの者を置くべきだな」


 それで四人の目線がなぜかトゲトゲさんに集中して……。


「あー、実は俺のところの新入りでちょうどいいのがいるんだがぁ(棒)」


「おおサダナー、そりゃあいいな。それが誰かは知らんけどぉ(棒)」


「じゃあ連絡役はその新入りさんでぇ(棒)」


「別に用事がなくても毎日来てくれてもいいよなぁ(棒)」


 という猿芝居。

 キョトンとするガタナーさんを置きざりにしといての猿芝居。


「だいたいよぉ、サダナーばっかりズルいとは常々思ってたんだ」


「まあそう言うなよ。ウチもいろいろ気を使って大変なんだぞ」


「そういやおまえんとこのカツォーリ、死人みてえな顔色してたな」


「ははは、違えねえ」


 ということがあって。

 ガタナーに来てほしくないサダナーの思惑と、三人のジェラシーとによって、俺サダナーの組織に所属しながら、実質的には四組織共通の下っ端になったのよ。

 なんじゃそりゃ?


 何というか、フリーランスのチンピラですよ。

 朝起きて、四地区全ての事務所にチョロっと顔を出して、チョロっと仕事をして、ガタナー商会に帰ってくる生活。

 なんじゃそりゃ?

 しかも給料は四倍にならずに据え置きですよ!

「はぁ、親分。表向き組内では一番下っ端の親分にそんなに払ったら、贔屓しているようで他の者に示しがつきませんよ」とか言ってさ!

 ローヒムたちもそこは曲げなくてさ!



 そんなことがあって。

 俺はなぜか天敵ガタナーさんの家に住むことになってしまったのよ。


「なあ竜兵、俺、いったいどこで間違ったんだろ?」


「えーと、兄様は最初から何もかも全て間違っていると思うのですが……」



 まあ一緒に住むに当たって、ガタナーさんにいくつかお願いはしておいた。


「ガタナーさん、お願いのひとつめは竜兵の給金のことです」


「ええ、分かっていますよ。リューへー君には無理を行ってウチに移ってもらいましたからね。相場よりも多目に払って報いるつもりですよ」


「いえ、そうではなく、あまり多くやらないでもらいたいんです。もちろん仕事は目一杯に使ってもらって構いませんが、コイツはまだほんのガキですからね」


「リューへー君の給金を少な目に?」


「はい、具体的には上限はこの金額で」


「リューへー君、こんな金額で本当にいいのかい?」


「はいッ。それでお願いします」


 これで第一関門はクリア。

 ふぅ。いいかね?

 弟が兄よりも高給とかあり得ないのだよ!


「それと俺のことです」


「うん、テツヤ君はウチの従業員ではないけれど、私は家族同然に遇していくつもりだよ」


「いやいやいやいや、それが困るんです! 俺は裏社会の人間ですから、カタギのガタナーさんに親しくしてもらっては困るんです」


「そうか、商会と組織との繋がりは極力隠すって話だったね。君もトランキーロ様に指名されてここに来たからには、与えられた役目があるものな」


「はい。ですので仕事以外で俺との接触はできるだけ避けてください。俺はあくまで竜兵の小判ザメでここに同居しているだけなんです。だから俺に対して親切にしてくれたり世話を焼いたりなんか、絶対にしないでください」


「分かった……。残念だが、今は仕方ないかもしれないね」


「もちろんそれで仕事に手は抜きませんし、ガタナーさんの指示には百パーセント従いますので!」


「うん、期待しているよ」


 こうして俺は、ガタナーさんの赤いビカビカ点滅を消し去ることに成功した。

 でもガタナーさん本人はこれでクリアしたものの、事情を知らない他の従業員たちにとってはやはり面白くはないらしい。

 たとえヒソヒソ声でも、俺への陰口など、この堕神様性能の耳がキャッチしてしまうのだよ。

 そしてついにはリューへーまで呼び止めて……。



「ねえねえ、リューへー君、ちょっといいかしら?」


「はいお姉さん、何ですか?」


「リューへー君とあのお兄さんって少しも似ていないんだけど」


「ええ、ボクは父様の、兄は母様の連れ子でしたので、兄弟といっても血の繋がりはないんです」


「まあ。でも血が繋がっていないのなら兄弟と言えるのかしら? ホラ、あのお兄さんってお仕事もお仕事だし、ここから出ていってはもらえないのかしら?」


「あの、それがですね……」


「え?」


「お姉さん、これはここだけの話なのですが……」


「何ですか?」


「絶対の絶対に誰にも言わないでほしいのですが……」


「何です、言ってみてください」


「その、ボクの義理のお母さんはそれほど美人という訳ではなかったのですが」


「うん」


「若い頃は、この町のお店で働いていたそうなんですよ」


「それってもしかして夜の店ですか」


「はい。お貴族様なんて絶対に来ないようなお店だったみたいなんですが」


「へえ、それで?」


「それでお客さんとの間に……、アレでして……」


 竜兵がここで腹が膨らむポーズを。


「いろいろあって兄様を生んで、お店にいられなくなって田舎に戻って、そこで幼馴染みだったボクの父様と……」


「だからそれがいったい何なの?」


「その母様が死ぬときに、ある人の名前を出したのですよ。私が死んだらその人を頼りなさいって」


 竜兵が目線を上にやると、お姉さんもまた上を見上げた。

 ちなみに今、ここの二階には一人しかいない。


「まさかあのチンピラさんって、ガタナー会長の!」


「し! お姉さん、声が大きいですよ!」


 慌てて口を押さえたお姉さんに。


「それで田舎から出てきたボクたちは、そのツテを頼りにこの町まで来たのですが……」


「それでですかぁ! 私たち、会長がどうしてあんな悪そうな人に一番に声を掛けたのか、ずっと不思議だったんです!」


 これで納得してくれたのか、お姉さんは仕事に戻って行ったけれど。

 ふーん、そうかぁ。

 竜兵って俺のいないところではあんなデマカセを語ってるのかぁ。





「うあああ……、つまらない嘘をついてしまって心が痛いですッ! 兄様と違って、嘘をつくと心が痛いですッ!」

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