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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【クーデター編】
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第八章 クーデター勃発(三)

 午前零時を迎える。説教童子の率いる鬼の百名が、神宮寺の手引きにより、辺境魔法学校に突入する。

 辺境魔法学校は静かだった。百名で侵入を試みれば、常世田の支配下にある警備部に感づかれそうなものだが、邪魔はなかった。


 午前零時二十分に、邪魔されることなく、百名の鬼と共に、格納庫に辿り着く。

「よし、ここまでは問題ない。ここの確保を頼む」


 説教童子が暗い瞳に威厳を浮かべて承諾する。

「任せておけ。簡単にここを渡したりしない」

(さて、これから、どうしたものかも)


 警報が鳴り響いた。常世田の焦った声が響く。

「おい、起きろ。敵だ。敵が侵入しているぞ。警備部はすぐに防衛に回れ」


 常世田の発した警告は、すぐに止まった。

「常世田が俺たちの存在に気が付いたか」


 神宮寺の前にファフブールが現れた。

 鬼たちが一斉に警戒するが、ファフブールから剣持の声が聞こえた。

「聞こえるか、神宮寺。ちょっとした不手際があったが、通信設備は俺が支配下においた。神宮寺はこれより、水天宮先生とイワノフさん両名の説得に当たってくれ。二人は総務部長室にいる」


「わかった。すぐに向かう。翡翠だけ一緒に来てくれ」

 翡翠を連れて廊下を足早に移動する。移動中、厄介な常世田に会わないようにだけ祈る。常世田と会えば、戦闘は避けられない。

 移動中に携帯から嘉納に電話を架ける。嘉納が出たので状況を伝える。

「俺だ神宮寺だ。今、辺境魔法学校でクーデターを起こした。これから魔法先生の首を取る」


 嘉納の慌てた声が返ってくる。

「おい、クーデターって、まさか、神宮寺一人で起こしたんか」

「現在、賛同してくれている幹部は、俺の他に二名だ。行けるかもしれない。そこでお願いがある。日本政府の後押しが欲しい。軍隊を出して参戦してくれ」


「急に言われたかて、そんなに部隊はすぐに動けんぞ」

「なら、構わない。だが、クーデターが失敗した場合、太平洋にいるロシアの原子力潜水艦から明日の三時に、十六発の核ミサイルが世界の主要都市を目掛けて飛んでいくぞ」


「なんやて、ほんまか」

「本当だ。では、一応、教えたからな。援軍の件はよろしく頼むぞ」


 義理がある嘉納には伝えた。だが、国の援軍は当てにしていなかった。

 神宮寺は月形さんにも連絡をする。

「神宮寺だ。今、クーデターを起こした。現在、賛同者は二名。赤虎さんと、剣持だ」


 月形さんの冷静な声が聞こえる。

「そう、ついにやったのね。それで私は、何をすればいいの?」

「呪い屋組合の動きを見張って欲しい。間違っても、俺たちに敵対しないように、釘を刺してくれ。あと、近くに葉山さんがいれば替わってくれ」


 電話口で交替する音がしたので伝える。

「俺だ、神宮寺だ。クーデターを起こした。すぐに、京都十傑を札幌入りさせて欲しい」

「クーデターって、本当に起きたのか」


「嘘をいうほど暇じゃない。京都勢は札幌で待機だ。また、連絡する」

(連絡しなければいけないところには、連絡を入れた。あとは、成り行き次第だ)


 赤虎さんや剣持が味方になってくれるので、日本政府、呪い屋組合、京都勢には手を借りなくてもいいかもしれない。

 だが、辺境魔法学校制圧に失敗した場合には手を借りないといけないので、第一報を入れておいた。


 緊張しながら、小走りに進む。誰にも遭遇せずに、総務部長室に着いた。ノックをしてから、扉を開ける。

 部屋には浮かない表情をしたイワノフと、困惑顔の水天宮先生が待っていた。

「こんばんは。早速ですが、用件を伝えます。今日、俺は赤虎さん、剣持さんと一緒に、魔法先生を討つべく、クーデターを決行しました。俺たちの側に従いてください」


 イワノフが申し訳なさそうな顔で切り出す。

「クーデターの件ですが、水天宮先生と話し合ったのですが、私たちは協力しません」

「では、魔法先生側に従いて戦われるのですか?」


 イワノフは渋い顔をして、首を横に振った。

「魔法先生側にも付きません。私と水天宮先生の態度は中立です」


 水天宮先生も渋い顔して、ありきたりの理由を述べる。

「ウトナピシュテヌ同士で殺し合いなんて、馬鹿らしいでしょう。だから、中立よ」

「なぜです? 魔法先生の主導の下、福音計画が進めば世界は破滅ですよ」


 イワノフが投げやりな態度で発言する。

「別に、いいでしょう。破滅したって、人類が選んだ道ですよ」


 水天宮先生も、興味なさそうな顔で投げやりに口にする。

「そうよ。私たちは一石を投じただけ。それに各国が乗るか乗らないかは、知った話ではないわ」

「わかりました。気が変わったら、誰にでもいいので、連絡をください」


 イワノフが苦笑いしてぼやく。

「気分は変わりませんよ。私たちは中立で行きます。それに、私を味方にしても、いいことはないですよ。ゴルバチョフの八月クーデター時もエリツィンの十月政変の時も、私が付いた側は負けました」


 部屋を出ると、翡翠が嫌そうな顔で告げる。

「あいつらの中立は当てにならんぞ。あれは、完全にどちらが有利になるかまで、動かん態度じゃ。こっちが不利だと見ると、後ろから襲い掛かってくる未来は眼に見えとる」


 イワノフと水天宮先生の中立は当てにならないのは、神宮寺とてわかっていた。

(水天宮先生は、地下に眠る十万ものバーザック死兵を支配下に置いている。イワノフは、辺境魔法学校の兵器官制システムを掌握している。この二人が動かない態度は幸運だ。早期に決着をすれば、クーデターは成功する)


 神宮寺の前にファフブールが現れる。

「魔法先生を見つけた。魔法先生は第一地下駐車場に向かっている。俺と図書館長も、すぐに行く。時間を稼いでくれ」

「翡翠、魔法先生の場所が判明した。駐車場の上で妖怪たちと張ってくれ。もし、魔法先生が俺を倒して外に出たら、なんとしても、魔法先生を討つんだ」


「わかった。御大将、任せておけ」

 翡翠は飛んで出て行った。神宮寺も走って地下駐車場に向かった。


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