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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【クーデター編】
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第八章 クーデター勃発(二)

 幹部会が終了した。皆が皆、思うところがあるだろうが、表面上は冷静を保っていた。

(今夜中に行動を起こさねば、世界が終わる)


 別棟シェルターに向かい、決起しようと考えていたところで、電話があった。

架けてきた人間は、赤虎さんだった。

「神宮寺さん。急ぎで話たい内容があるの。図書館長室まで来てちょうだい」


 時計を確認すると、時刻は午後八時だった。

(まだ、時間に余裕があるな)

「わかりました。すぐに伺います」


 神宮寺は図書館長室に行った。図書館長室では赤虎さんと剣持が待っていた。

(なぜ、剣持がいるんだ? 普通の仕事の話ではないのか)


 剣持は赤虎さんの横で、恐い顔をして立っていた。

 赤虎さんは穏やかな顔で神宮寺を迎える。

「神宮寺さん、率直に訊くわ。魔法先生の福音計画はどう思う?」


 赤虎さんの考えが、読めなかった。

(普通なら、反対すれば糾弾(きゅうだん)される。だが、横に剣持がいる状況が妙だ)

 正直に話すか迷った。だが、剣持の厳しい表情から見て、只事ではない事件が起きそうだとの予感があった。


「福音計画には反対です。俺は魔法先生の考えには、()いていけません」

 危険と思いつつも、正直に告白した。賭けにも似た考えだが、はっきりと意志を表明した。

 赤虎さんは怒らずに、柔和な笑みで発言する。


「魔法先生に反旗(はんき)(ひるがえ)す言動が、なにを意味するか、わかっているのかしら?」

正直に申告したのは失敗だったか、と思う。だが、もう決起は間近なので、取り繕う必要はないと判断した。

「わかっていますよ。もし、魔法先生に告げ口をしたいのなら、すればいい。俺の心は変わりません」


 赤虎さんがにこやかな顔で、あっさりと告げる。

「なら、魔法先生を殺しちゃいなさいよ」


 あまりに自然に発言するので、真意を疑った。

「よろしいのですか?」


 赤虎さんは澄ました顔で、やんわりと発言する

「いいわよ。本当の心情を話すとね。私も、もう魔法先生には従いて行けないわ。だから、明日の午前零時をもって、クーデターを起こそうと思うの」


 魔法先生の片腕だと思われていた赤虎さんからの発言だった。

 神宮寺と同じ考えを持つ人間がいたのが嬉しかった。赤虎さんが本気なら魔法先生の首だって取れるかも、と奮えた。


 赤虎さんが澄ました顔で告げる。

「クーデターに際しては、神宮寺さんも剣持さん同様に仲間だと思って、いいかしら」

「もちろんです。是非、クーデターを成功させて、魔法先生を亡きものにしましょう」


「協力してくれて、嬉しいわ。上手く行った暁には、神宮寺さんにはもっといい地位なり恩賞なりを約束するわ」

 地位や恩賞など、どうでも良かった。だが、ここで褒美の辞退を申し出ると、裏切り者と思われる可能性があるので、断らないでおく。


 神宮寺が仲間だと表明すると、剣持が厳しい顔で告げる。

「神宮寺は午前零時に配下の一部を突入させて、神宮寺本体がいる格納庫を、占拠してくれ」


「剣持さんと赤虎さんは、どうするんですか」

 剣持が真剣な顔で明かす。

「俺は信頼できる者と一緒に、施設の通信設備とセキュリティを支配下に置く。図書館長には決起を表明すると同時に、他のウトナピシュテヌに賛同を呼び掛けてもらう」


「辺境魔法学校にいる幹部は、赤虎さん、剣持さん、俺。それに、水天宮先先生に、イワノフさん、アズライールさん、常世田か。常世田は魔法先生の信奉者だから除くとして、残り三人を引き込めれば、魔法先生といえども勝てるな」


「そうだ。だが、どうなるかわからない。また、辺境魔法学校の外にいるクリヤーナさん、カプールさん、チョープラーさんも、無視できない。魔法先生に逃げられ、外で合流されれば、脅威になるだろう」


(俺がクーデターの旗頭(はたがしら)なら、クーデターの賛同者は、ほとんどいない。されど、赤虎さんなら、集められるかもしれない。とはいえ、仲間だと表明する人間が果たして信じられるかどうか)


「水天宮先生なんか、仲間になっても、魔法先生が安泰なら寝返るかもしれないから、不安だな」

 剣持が険しい顔で命令する。

「残念だが、クーデターは起こしてみるまで、どう転ぶか予測が付かない。神宮寺にも、その都度、指示を出すから、指示に従って働いてくれ」


「わかりました。とりあえず、俺はいったん外に出て、配下の者と合流します。それで、午前零時に突入して、本体のある格納庫の占拠を目指します」

「よろしく頼むぞ。魔法先生が外に逃げた場合は、神宮寺が仕留めるんだ」


 神宮寺は図書館長室を出ると、別棟シェルターに移動した。

 別棟シェルターに着くと、座敷に翡翠、八咫さん、説教童子を呼ぶ。

「決起する日が決まった。決起の日時は、明日の午前零時だ。今のところは、赤虎さん、剣持、俺の三名で起こす。ただ、常世田以外は、まだ敵とは限らない」


 翡翠がむっとした顔で訊く。

「御大将、この大戦に際して、日和見(ひよりみ)を決める奴らが、おるんか」

「いるが、大変な進歩だ。本来なら仲間にならなかっただろう人間だからな。旗頭が俺から赤虎さんに替わったことで、可能性が出てきた。もし、水天宮先生、イワノフさん、アズライールさんまで寝返れば、クーデターの成功率は、ぐんと上がる」


 八咫さんが明るい顔で、やんわりと意見を述べる。

「そうやね。地下眠る十万のバーザック死兵を管理する麻美ちゃんや、兵器官制システムを掌握しているイワノフさんを仲間に引き入れれば、ずっとスムーズに話は進むやろうね」


 翡翠の表情は渋い。

「なんじゃ。関ヶ原における小早川秀秋のような奴が、おるんか。あまりいい気はせんなあ」


 説教童子が険しい顔で、静かに尋ねる。

「神宮寺の叔父貴よ。俺たちは、どうすればいいんだ?」

「説教童子は、他の鬼と協力して俺の本体が眠る格納庫を押さえてくれ。そこからは、状況を見ての判断になる」


 翡翠が神妙な顔で尋ねる。

「儂はどうしたらいい」

「翡翠は俺と一緒に来てくれ。八咫さんは別棟シェルターで、妖怪たちの指揮を執ってくれ」


 八咫さんは、澄ました顔で尋ねる。

「京都勢はどうしますか?」

「京都は札幌に待機してもらう。万一、膠着状態に陥った時には手を借りる。ただし、待機命令を破って、辺境魔法学校まで来たときは、危険だ。京都勢は敵意があるかもしれない。京都に敵意があれば、これの対処は、八咫さんに任せます」


 八咫さんは涼しい表情で質問する。

「わかりました。それで、もし、クーデターに失敗したときは、どうします?」

「その時は、別棟シェルターに戻り、態勢を立て直す。魔法先生の首を諦めたりはしない。別棟シェルターなら核攻撃にも耐えられる。ここは、簡単には落ちない」


 八咫さんが冷静な態度で請け負う。

「わかりました。なら、万一の時も準備しておきますわ。必要のない展開を祈りますけど」

「では、午前零時に向けて、各自、準備をしてくれ」


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