表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【クーデター編】
81/92

第六章 着々と進む準備(二)

 月曜日に粛正官室に八咫さんと翡翠を伴って出勤する。粛正官の全員が揃っている状況を確認して、告げる。

「ここにいるのが、翡翠。俺が飼うことになった猫だ。それで、こっちが八咫さん。俺の秘書をしてもらう経緯になった。既に魔法先生には報告して、許可を貰っている」


 竜胆が困惑した顔で告げる。

「室長。八咫さんって、京都にいた八咫さんですよね?」

「そうです。京都から俺に乗り換えた。中々、見る目があるでしょう?」


 竜胆が冴えない顔で、感想を述べる。

「それならば、いいのですが」


 八咫さんが明るい顔で挨拶する。

「神宮寺さんの秘書をやらしてもらっています。八咫鏡子です。よろしゆう頼みます」


 粛正官全員が、ぎこちない顔で頭を下げる。

「では、竜胆さん、俺が困らないように一通り、八咫さんに仕事を教えてやってください」

 竜胆が諦めた顔で頭を下げる。

「わかりました。室長が困らないようにきちんと教えます」


「俺はイワノフさんのところに用があるから、顔を出してきます」

「わかりました」と竜胆が渋い顔で了承した。


 神宮寺はイワノフがいる総務部長室に行く。

 総務部長室は総務課の横にある五十畳もある部屋だった。部屋には飛行機の模型が幾つも飾られており、図面を引く大きな台もある。イワノフか事務机を前に、椅子に座ってパソコンを眺めていた。

「こんにちは、イワノフさん。米の代金の支払いの件で来ました」


 イワノフは穏やかな顔で、やんわりと注意する。

「神宮寺さん。困りますよ、給与以上に勝手に大きな買い物をしたら、ローンで米を買うなんて異常ですよ」

「すいません。成り行き上、必要だったもので」


「今度から、大きな買い物をするときには、事前に相談してくださいよ」

「はい。それで、いつまでに一千億円を払えばいいんですかね?」


 イワノフが意外そうな顔で告げる。

「あれ、御存じない? 弥勒図書館長が、神宮寺さんの払うべき一千億円を、代わりに払ってくれましたよ」

(赤虎さんが払ってくれた? はて、どうしてだろう?)


 とりあえずは、話を合わせておく。

「そうですか。既に連絡が行っていたんですね。よかった」


 神宮寺は、すぐに図書館長室に出向いた。

 図書館長室はウトナピシュテヌ用の図書室の隣にあった。図書館長室のドアの上には黒い木製のプレートが掛かっており、『図書館長室』と金色の文字で書いてある。


 ドアをノックしてから開ける。八畳ほどの前室があり、奥にもう一枚、ドアがあった。

 前室には、全身が金属でできた使い魔のヘルマンがいる。ヘルマンは下半身が蟹の形状で、上半身が四本の腕を持つ、騎士の甲冑を着たような姿をしていた。


「図書館長に会いに来ました」

 ヘルマンが丸い専用椅子から立ち上がると、恭しくドアを開けてくれた。


 図書館長室は三十畳ほどの広さがある部屋で、大きな机と立派な木の椅子がある。他には簡単なソファーと応接セットがあった。

 部屋の壁には、額に入った大小の絵画が掛けてあった。絵画は風景画が数点しかなく、ほとんどが、抽象画だった。


 赤虎さんは、英語で書かれた雑誌を読んでいた。

「失礼します。神宮寺です。この(たび)は、俺の米の代金を代わりに払ってもらって、恐縮です」


 赤虎さんは気分よさそうに話す。

「これは、恵んであげたものではないわ。いずれ、払ってもらうつもりだから、そのつもりでいて」

「それはもう、長生きして払いますよ」


 赤虎さんは雑誌を置き、穏やかな顔で訊く。

「なら、気長に待つわ。それと、神宮寺さん。米の置き場所はどうするの?」

「とりあえずは、二十万石分は、別棟シェルターの米の冷蔵保管庫を使わせてもらいます」


「使えるものは使わないともったいないものね」

「問題は残りの八十万石もの米です。置き場所が見当たらないです。辺境魔法学校内に置くわけにいかないですし」


 赤虎さんが柔らかな表情で勧める。

「なら、シェルターを完成させてしまいなさいよ」

「完成させたいのはやまやまですが、予算の目処がつかないと、イワノフさんになにを言われるかわかりません」


「やる気があるのなら、神宮寺さんの発案の形でシェルターの予算をイワノフに認めさせてもいいいわよ」


 渡りに船だった。

「いいんですか、図書館長?」

「そうね。ただし、完成したら、面倒な管理は神宮寺さん一人にやってもらうわよ」


 核戦争が始まるかもしれないので、自由になるシェルターを貰えるのなら嬉しかった。願ったり叶ったりの申し出だ。

 だが神宮寺は、ここで赤虎さんの厚意には裏がある気がした。

(なんだろう、赤虎さん? 俺にとって進み易いように道を敷いてくれる。なぜ、ここまで厚意的なんだ?)


 神宮寺が疑っていると、赤虎さんが澄ました顔で尋ねる。

「返事が聞こえないわよ。やるの? やらないの?」

「是非、やらせてください。きっと良いシェルターを造って、きちんと管理してみせます」


 赤寅さんが微笑んで告げる。

「そう、なら、頑張ってね」

(赤虎さんの考えは、読めない。なら、精々、俺のいいように利用させてもらおう)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ