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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【クーデター編】
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第六章 着々と進む準備(一)

 一夜が明けて、八咫さんの生活に必要な物が、次々とダンボールで届く。

 八咫さんには、私室として宛がわれている部屋の一室を貸した。


 着物からグレーのスーツに着替えた八咫さんと翡翠を連れて、歩ける場所を歩いた。

 見せられる場所を一通り歩いて、一休みするためにサロンに寄って昼食を摂る。


 翡翠が感心した顔で告げる。

「なかなか、広い城じゃな」

「そうだ。なにせ、ここが地球でのダレイネザルの基地だからな。今、回った場所の他にも、俺のような幹部しか入れない場所はある」


 翡翠が難しい顔で訊く。

「大奥とか、天守閣のような場所か?」

「さすがに、大奥や天守閣はないが、重要な場所がいくつもある」


「なるほど、外様は出入り禁止か」

 一応、釘を刺しておく。

「ここは、魔法先生の居城だ。おかしな行動や言動は、慎んでくれよ」

「わかった」と翡翠が神妙な顔で頷いたので、話を続ける。


「さて、連れて行ける場所は、大方は回ったが。他に行きたいところは、あるか?」

 翡翠が眠たそうな顔で答える。

「儂は、ちと、眠くなった。まだ、戦いの傷が癒えていない。休ませてもらって、いいか?」

「ゆっくり休むといい」


 翡翠に部屋の合鍵を渡して、先に帰す。

「八咫さんは、どこか行きたいところは、ありますか?」


 八咫さんが明るい顔で発言した。

「そうやねえ。久しぶりに、麻美ちゃんに会いたいな」

 誰を指しているのか、すぐにはわからなかった。


 八咫さんが、すぐに穏やかな顔で言い直す。

「そうか。ここでは、水天宮先生と呼ばれとるんでした」

「水天宮先生とは、お知り合いなんですか?」


 八咫さんが、にこにこしながら語る。

「よう、知っているよ。麻美ちゃんな、京都の出身やねん。色々あって京都を出て行ってから、残念に思っていたところや。ちょうど、これを機に、親睦を深めたい」


 八咫さんを伴って水天宮先生の研究室に行く。

 研究室ではバーザック死兵と化した研究員が黙々と単純に作業をしていた。適当に研究員に声を掛けて、水天宮先生の研究室の一つに案内してもらう。


 ノックをしてから部屋に入ると、論文を読んでいた水天宮先生が顔を上げた。

 水天宮先生は八咫さんの顔を見て、驚きを隠さなかった。


 対照的に八咫さんは、旧友に会ったように、ほがらかな顔で挨拶する。

「こんにちは。麻美ちゃん、久しぶりやね。元気にしてた?」


 水天宮先生が驚いた顔で叫ぶ。

「なんで、八咫が、ここにいるのよ!」


 八咫さんが晴れやかな顔で説明する。

「簡単にいうとな、うち『咎落ち』して、京都の僧侶を二十人ばかり殺したんよ。そんで、行き場がなくなったところを、神宮寺さんに一緒に働こうて声を掛けられた」


 水天宮先生が驚きに眼を見開いて、神宮寺を見た。

「なんですって? 本当なの?」

「八咫さんは、昨日から俺の秘書として働いてもらっています。魔法先生には既に許可をいただきました。だから、何の問題もありません」


 水天宮先生は疑って、上ずった声を出す。

「京都の重鎮の八咫家の当主よ。本当に京都から寝返ったの?」


 八咫さんが、にこにこして話す。

「本当や。だから、これからは仲良くしようね。麻美ちゃん」


 水天宮先生は、むすっとした顔で聞く。

「ちょっと、待って。米が百万石必要なったのって、八咫が関係しているの?」

「それは、また、別件で必要になったんですよ。それで、米のほうは、大丈夫ですか?」


 水天宮先生が意地の悪い顔で告げる。

「ちゃんと、神宮寺さんの名で百万石分を買ったわよ。それで、代金の支払いの件でイワノフさんが話があるって言っていたわ」


 話が違う。

「ちょっと待ってください。必要な米は二十万石ですよ。注文は二十万石です」


 水天宮先生が、にやにやしながら告げる。

「あらー、そうだったかしら? 百万石分が必要になった、って聞いたわよ。たから、百万石分、しっかり買っちゃった。もちろろん、神宮寺さんのツケでね」

(やられた。これは嫌がらせだよ。水天宮先生が素直にお願いを聞いてくれると考えた俺が馬鹿だった)


 水天宮先生が実に楽しそうな顔で話す。

「でも、神宮寺さん。百万石分の米なんか、どうするの。置き場所あるのかしら。別棟シェルターには、二十万石は入っても、絶対に百万石は入らないわよー」

「じゃあ、八十万石分はキャンセルしてください」


 水天宮先生は微笑んで拒絶した。

「無理よ。米は安く買うために、返品できない品を買ったもの」

「なんですって」


「でもー、私も米の置き場所はないと思ったからー、残りの米の配送は九十日後にしてもらったわ。さあ、神宮寺さんに、あと八十万石分の米の置き場所を九十日で確保できるかしら?」

(これ、完全に俺にできないと思って、慌てふためく俺を見て楽しもうと目論んでいるな。いいよ、やってやるよ。米の置き場所を探してやるよ)


「別棟シェルターって、いつ完成するか、わかりますか?」

 淡い期待だった。別棟シェルターが完成すれば、百万石の米でも収容が可能だ。


 水天宮先生が興味なさそうな顔で告げる。

「さあ、魔法先生は、完成させる必要がなくなったと口にしていたから、いつまでも、あのままでしょうね」

「完成が間近で放棄するってもったいないですよね」


「元々、あのシェルターは日本政府と街に対する餌として着工が始まったものよ。辺境魔法学校がある私たちにしてみれば、必要のないものよ」

「俺たちには辺境魔法学校があれば、たとえ核戦争が始まっても関係ないですからね。それで、米百万石で、いくらですか?」


 水天宮先生が嬉しそうな顔で答える。

「神宮寺さんは運がいいわ。今年は大豊作が予想されて米が安いわよ。一千億円で買えたわ。こっちも、ちゃーんとお金と、準備するのよ」

(百万石だからなあ、それくらいになるか。俺の給与の四百十六年分か。さて、どうやって金策しよう)


 神宮寺の心配事が顔に出たのか、水天宮先生は非常に楽しそうな顔をする。

「しっかり稼いで払いなさい。何年掛かるか、わからないけど」


 八咫さんが明るい顔で、神宮寺に語り掛ける。

「神宮寺さんは先に戻ってもらっても、ええ? 麻美ちゃんとは友達同士、もう少し語り合いたい」


 水天宮先生は露骨に嫌な顔をする。

「私に、話したい話題は、ないわよ」

「そんに、いけずな言葉を言わんといて。もう、少しお話ししよう」


 神宮寺は仲がよさそうなので、放っておくと決めた。

「俺は先に、私室に帰りますね」


 水天宮先生が慌てる。

「待ちなさい! 八咫を引き取っていきなさいよ」

 神宮寺は無視して、私室に戻った。


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