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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第八章 神宮寺それは矛盾に満ちた存在(四)

 しばらくして神宮寺を迎えに来たのは、バーザック死兵になっていた小清水さんだった。神宮寺は何もわからずに微笑む小清水さんに支えられ、ウルリミン寮に帰っていった。

 小清水さんからは何も話し掛けてこない。神宮寺からも話しかけはしなかった。
 一本の青々茂る桜の前を通りかかった時、神宮寺は小清水さんに話しかけた。
「ねえ、四月の末に桜が咲いていたのを知っていた? どんな桜だったか覚えてる?」

 小清水さんは笑顔のまま答えた。
「いいえ、存知ません。神宮寺様。桜は桜です」

「そうか、もう、覚えていないんだね。でも、もう、綺麗な桜を見ることはないけど、汚い物も、見なくいいようになるから」

 小清水さんは、神宮寺の言葉の意味が理解できず、ただ微笑んでいた。
 神宮寺は小清水さんにそっと唇を寄せて、キスをした。

 小清水さんは拒否しなかったが、唇に生者の温かさはなかった。小清水さんが、神宮寺のキスに応じるように冷たい舌を入れてきたので、神宮寺は唇を離した。

 神宮寺はウルシミン寮の前で小清水さんと別れると、玄関ロビーで休んだ。
 体は思った以上に弱っている。だが、明日までには一人で歩けるくらいには回復するという確信があった。

 しばらく座っていると、陽が落ちてきた。寮の玄関扉が開いて、月形さんが帰ってきた。
 月形さんは、ダレイネザルの謁見の時と同じ、黒を基調として衣装を着ていた。

 月形さんは神宮寺を見て、少しだけ驚いたが、いつもの冷静な顔に戻った。
「久しぶりね、神宮寺君。元気には、していなかったみたいね。なんだか、前より貧弱になった気がする。卒業式前に病気にでも罹った?」

 神宮寺は冗談で返した。
「うん、ちょっと、肉体的には、劣化した」

 実際は四週間前より魔力はかなり強くなったが、外見が弱っているのと『凡庸の皮』の効果で、神宮寺が想像する以上に貧弱に見えるらしい。

「そう。私には、どっちでもいいわ。試練は終ったし。特別演習には出ないから、明後日の卒業式後には、お別れね」

 月形さんは神宮寺には興味なさそうに話すが、全く感傷がないわけではないだろう。三ヶ月も付き合って、やっと少しだけ、月形さんを理解できた気がする。

「呪い屋って、結構、難しいみたいだね。ただ単に、依頼人に言われた通りのことだけすればいいわけじゃないらしい」

 月形さんが訝しげに「なに、それ? 試練で何かあったの?」と尋ねて来たので、神宮寺は気軽にお願いをした。

「いや、何も。それと一つ、お願いがあるんだ。俺が魔法先生との特別演習を受ける間、辺境魔法学校には、いないで欲しいんだ。卒業までの唯一つのお願い。俺、ちょっとだけ馬鹿なことやるから、馬鹿な姿を見られると恥ずかしいんだ」

 本当はもっと、厳しい口調で、絶対に辺境魔法学校にいてはいけないと伝えないといけないと思う。だが、月形さんなら、意を汲み取ってくれるだろう。

 予想通り月形さんには、何かが伝わったらしい。

 月形さんが呆れたように問いかけてきた。
「馬鹿なことね。本気で魔法先生に勝てると思っているの?」

「思っていないよ。でも、ほら、戦いって、万が一があるからさ。それに男の子って、元来、馬鹿な生き物なんだよ」

 月形さんは黙って神宮寺を睨んでから冷静な表情に戻って、去り際に言葉を漏らした。
「卒業式の会場、場所わかるのかしら」

 卒業式は魔法先生が教室でやるとハッキリ宣言していた。月形さんが聞き忘れるとは思えない。月形さんは何が起きようとしているのか、薄々だが感じ取ってくれたと思っていいだろう。
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