第24話 セリクラ
――もう金曜日か。
早いような遅いような。
しかし、月曜日がはるか昔のことに思える。今日は空が青い。なんて地球は美しいのだろう。
頭がおかしくなっているのかな。今まで知らなかったよ。いや、知ろうとしていなかった。空の青さを。
そして、株の怖さを…。
俺は、この一週間を生涯忘れることがないだろう。
いや、今日7月3日という日は絶対に忘れない。
こう言えばカッコよさげなのだが、実質的にはその前の週から暴落していた株価。
なんで暴落しまくっているのか、重ちーではないが、理解不能。なんとなくメモリーの高騰で、キオクシアやサンディスク、サムスンやSKハイニックスが悪者にされている感じが漂っていた。
超絶決算を叩き出したマイクロンでさえ、暴落するような異常な半導体下げが続いていた。
キオクシアでいえば、最高値で112,700円を付けていた株価が、ジェットコースターのように、いや、悟空がカリン塔から急降下するように劇落ちしていった。
一日に一万円ずつ落ちていくんだよ。ヤバいなんてもんじゃない。
興味のある人は、キオクシアのチャートを見てみてほしい。うそーん!みたいな落ち方だから。
巻き込まれたら助かる余地なし。黒龍派のような破壊力をともなって丸焦げにされていた。
いやね、日本対オランダ戦の前にも書いたけど、十分注意していたし、わかっていたんだよ。
近いうちに暴落がくるって。鉄壁の守りを敷いていたつもりだったからね。
だけど、ブラジル戦の頃には見事に突破されていたわけ。ちょっとした気の緩みから、売り建ての玉を外してしまって、買いポジション全開にしてしまったところへカウンターを喰らったわけだ。
君は、一日で1,200万円溶けていく恐怖を体験したことがあるか?
なんて体験談を仰々しく語るつもりはないが、マジで震えるから。
そりゃあね、逃げたらよかったんだよ。だけど、一万円も暴落したら、次の日は多少上がるだろと思うものなんです。それがどんなに下落局面でもね。
Yahoo掲示板は売り方かノンホル(ノンホルダー)が、お祭り騒ぎのように狂喜乱舞していたな。
――だから俺、言ったよね?
――まさかまだ持っているやつなんて、いないよな?
――もうメモリーは終わったってまだ気づいてないの?
――急激に上がり過ぎたんだよ。下がるの当然、半値までいくな。
なんてのはカワイイほうで、信用買いの保証金比率が規定を割って発生する「追証」を皮肉って、
――どっこ、おいしょう!
――追証祭り!ワッショイワッショイ!
など、言いたい放題だった。
まあ、よく掲示板で言い合いするなぁなんて思って見ているのだが、俺にも余裕はなかった。
現物の400株は、例え0円になろうが支払いは発生しない。
しかし、信用で持っている800株はそういうわけにはいかない。
これまでの投稿を見ていただければわかるが、俺は株価が8,000円くらいのころから持っているのだが、売ったり買ったりを繰り返しているうえに、税金対策として、細かく利確しながら大幅な含み益を抱えないようにしてきた。
だから、鉄壁の買い600株、売り600株のポジションの時は、どっちに転んでもプラス圏内に入るように、下がったら下で買い直し、上がったら上で売り直して値幅を広げていく計画を立てていた。
ただ、ここまでは株価が上げ一辺倒だったために、売り側のみ値が切り上がっていく状態であり、買い側のほうは値を切り下げることなく、比較的高い買い値のまま保有していた。
そこへきてのこのフリーフォールである。
すべてが裏目に出てしまって、実質的にマイナスになる最終ラインは、8万円ギリギリのラインだった。
つまり、株価が8万円を割れば、信用分はマイナスになってしまう。信用は借金なので、売ってしまうとマイナスが確定して支払義務が発生する。現金が足りなければ入金するか、手持ちの株を売って金を作るしかない。まあ、悲惨なことになる。
もしくは、持ち続けて含み損を抱えたままプラスに転じるのを待つという作戦もある。
ただし、含み損が拡大して保証金率が低下し、証券会社が定める一定の比率を割り込むと、その比率を解消する分の株を処分するか、入金が必要になる。これが追証である。
とにかく、どちらも精神的に非常に追い込まれる。
前話でも書いたが、だから俺は、8万円を割ることがあったら手仕舞いしようと考えていたのだ。
だが、翌日の30日と7月1日は、それなりのガラはあったものの、終値は88,000円ほど。
まだ大丈夫か。と一息ついたのが間違いだった。
昨日、7月2日。
ドッカンきました!朝9時から約15分間、値が寄らなかった。
マジでスト安かと思ったよ。
なんとか寄ったけど、8万円を一気に割って79,130円。また突然の一万円下げ。泣きたくなる。
しかし、寄ったことはまだ運があると思いたい。
もうここから上げたとしても微上げだろうし、マイナス分が軽微なうちに売るしかなかった。
そして、信用分の600株を売って信用ポジションを手仕舞いした。
さらに、現金がほとんどなかったために、現物のキオクシア株を100株だけ売って現金化することにした。これは、コツコツ利確していた含み益がちょうど一千万になったところで、キオクシアの現物を買ったためで、現金はほとんど持っていなかった。もう踏んだり蹴ったりである。
だが思ったとおり、終値はそこからさらに下げて、76,260円で引けた。
まあ、そんなことは誤差の範囲でどうでもいい。
連日のように1千万ずつ凹まされ、ついに俺の資産が3,000万円を割ってしまったからだ。
震えたよマジで。アッパーマス層さえも死守できず、一般人に転落したのだ。
準富裕層の個人は日本に何パーいんねん?なんてほざいていたから、ざまぁと思う諸君もいることだろう。わかるよ。アンジェロじゃなくても、いい気になってるやつにはイラつくもんだ。
しかし、この判断は良かったと思った。
その日の夜、アメリカの半導体銘柄が暴落したからだ。
夜間PTSも大暴落。サンディスク、マイクロンも大暴落というド級の出来事が起こった。
もうマジで半導体関連(特にメモリー)は終わったという見方が広がった感じだ。
わかるかな?これだけ損しておいて、安心しましたよ。ふぅってね。
持ち続けてたら、どうなっていたことか。マジで資産が一桁になるかもしれない。
そして、今日。
気配値がストップ安(まだ値幅は15,000円)に張り付いた。
コレ、9時まで張り付いていたからね。見せ板じゃなくて、マジ確コースだもん。
「あぶねぇ…死んでた…」って冷や汗かいたよ。
当然ながら、半導体関連はなかなか値が寄らなかったが、狙い撃ちされたようにキオクシアだけ、最後まで値が寄らなかった。
寄ったのは前日とほぼおなじ、9時15分頃。68,000円。また一万円下げる。
完全に終わった…と思ったのは俺だけではないだろう。というか、寄ったのが奇跡だろう。
これだけ下げ続けると、もう追証回避の売りがバンバン入ってくることが予想される。
――ところが。
それから、少し下げただけで、徐々に上昇を始めた。
まあ下がり過ぎたからね、なんて思ったりするが、俺としては眺めることしかできない。とてもまた買いに入る勇気はなかった。
そんな俺を嘲笑うかのように、株価の上昇は止まらなかった。ドンと爆上げという感じではなく、スルスルと上がっていく。
あれ?と思った時には、プラ転していた。
プラ転してからも上がり続けていく。嘘だろ?と誰もが思ったはずだ。
もう底を打ったのか?いや、さすがにまた下げそう。なんて思いが交錯するが、このままではジリ貧の俺は、ここで買い向かう。
現物はもう買えないので、信用で500株買った。
ああ、なんて日だろう。
それから株価は久しぶりにキオクシアらしい上昇曲線を描き続けた。
終値は、83,300円。
約7,000円の上げ!半導体関連銘柄で値を上げた銘柄は少ない。
まして夜間からの最悪な流れの中、プラ転だけでも十分凄いのに、底値からの上昇が17,000円という驚異の上げ幅だった。
このように、投げ売りが極限まで達してから、その後に相場が反転する局面を「セリング・クライマックス」、通称「セリクラ」という。
プリクラでもイメクラでもない。なんとなく、いい響きではないのだが、まさかの日にセリクラを体験したわけだ。
うん。マジかよ!って感じだった。
売らなければ一千万円近く取り戻せていたのだから。
でもね、今回ばかりは機会損失の悔しさよりも嬉しさが勝っていたよ。資産が3,000万円に戻ってきたから。
そりゃあね、半分以上溶けたことになるけど、死の淵から助かったんだから嬉しいよね。
セリクラの理由はよくわからない。第10世代の新メモリーが出荷なんてニュースもあったが、底を打ったと思われたのだろう。
まあ、また暴落はあるかもだけど、こんな爆上げカマしたら、次の月曜に暴落なんてしなくない?
というか、いい勉強になったよ。浮かれてはいけない。浮かれていたことに気づいたのだ。
いい気になっていたんだね。真摯に取り組む必要があるってことを学んだよ。
だから、ここからスタートだと思えばいい。これからまた徐々に上げていけばいいのだ。
アラフィフだが、俺のビクトリーロードはまだ始まったばかりなのだ。
実際、5月の頭に戻っただけのこと。やはり一気に上昇しすぎたのだ。資産が爆上がりしすぎた。
少しずつでいいのだ。それを肝に銘じることとしよう。




