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普通じゃない




 休日は風邪を引くと思っていたが、部屋に戻るなり入浴を済ませ体を温めたことで息災な遥は学校へ登校していた。休日で治ると良いな、なんて金曜日に思っていたが、案外剛健な存在なんだとこの土日で思わされたのは良いことだった。


 だが、良くないことは少しだけ続いている。金曜日からではなくて、5月のイベント終わりからだ。桜羽優の謎の行動を含め、出会った頃の桜羽ではないように思える行動が増えたのだ。


 それが本当の桜羽で良いことなのかもしれないが。


 「今日も大雨だが、料理教室に通うのか?」


 「数年に一度のっていう大雨じゃないから、普通に通うよ」


 喋り方も雰囲気も、それは出会った頃と何も変わらない。


 「ねぇ、私はいつまで六辻くんと会話を許されないの?」


 けれど、遥が一瀬と会話することを許さなくなったのは、変わったことと言えるだろう。


 「私が無性にムカつかなくなったらだな」


 「どういうことですかぁー。何もしてないのに怒られる意味が分かりませーん」


 イベント終了後、桜羽は高揚感に駆られて遥を落としたと説明した。しかしそれだけで納得しない一瀬は何故か何度も執拗に聞いた。するとこの結果だ。自分で解明するからと、それだけを連呼しているのだが、何を解明するかは一向に教えてくれない。


 「それは俺もよく分からないけど、桜羽さんがいつも通りに戻ってくれたのは良かったよ」


 「そうか?」


 「私には良くないことしかないけどね」


 「落ち着くまで付き合うしかないよ。解明したら教えてくれるって言ったんだし、気長に待とう」


 結局、一瀬と会話をすることを許されなくても、一瀬の後頭部に謎の平手打ちが弱々しく飛んでくるだけなので、一瀬と会話をしないことはない。ただ常に一瀬には桜羽という怨霊による攻撃を何かしら受けてもらわないといけないが。


 「最近、桜羽は休み時間も六辻たちのとこに来るようになったよな」


 「ん?久しぶりに君の声を聞いたな、九重」


 何日ぶりだろうか。日頃前の席で八雲と幸せを隠さず笑顔で会話しているので、そういった意味で声は聞くが、こうして面と向かって会話することは懐かしさを感じる。


 そんな九重の言うことには共感だ。友人関係が確立し始めた今、桜羽の訪問頻度は上昇傾向にある。遥にとっては嬉しいことだ。


 「最近八雲のことばかりだからな」


 「その大好きな佳奈は?」


 「プリント取りに行ってる」


 「ついて行かないんだね」


 「トイレに行ってたので」


 「なるほど」


 熱は冷めないらしく、未だに熱々でイチャイチャを続ける2人の背中を見て、授業中隣からのため息を聞く遥は最近席替えというものに興味を持ち始めていた。


 1年間変わらない位置なのだから夢の話だ。それでも嫉妬か嫌悪か羨望か、それらに似た感情を持って常々吐き出されるため息は、聞く側も陰気を纏いそうになる。それだけ一瀬には大ダメージということなのだろうが。


 「それで、ボッチの女王は六辻と一瀬が居ないとダメになったのか?」


 「そうなんじゃない?最近は暴君と化してるし」


 九重や八雲が席に座っているいない関係なく、最近は最初から一瀬の膝の上か前に座って一瀬に抱かれるのが普通になっている。だから一瀬は喋る時いつも桜羽の背中から顔をひょこっとだして喋る。時々疲れるからと、桜羽の肩に顎を置いているが、今は顔をひょこっと出している一瀬だ。


 「相性によって決められた4月のイベントが決め手だな。私がここのグループに組まされたことで、私の周囲では関係が既に確立されたんだ。よって私はここしか居場所がなくなったというわけだな」


 「正直だな」


 「でも、なんで遠路はるばる来たんだろうね。それだけ私たちの誰かに何か関係があったってこと?」


 「さぁ。答えは私には分からない。学校側の意図なんて読めないからな」


 「なんか知ってそうだけどな、その顔。怪しいぞ」


 「久しぶりに私のご尊顔を拝ませてやったのに不満を言うとはな」


 睨むように鋭く九重を見た。それに「はいはい」と、彼女持ちだからある余裕で軽くあしらう。彼女が一番に見えてしまうのは必然で、熱中して忘我するほどの九重にはご尊顔には見えなかったのだろう。


 そんな中、遥だけは違和感を口にしようとしていた。


 「相性によって決められたって、なんでそう思ったの?」


 教えられていたことは何もない。無条件にチームが組まれて、ただ近くの席の生徒が集まっただけで偶然に過ぎなかった。


 確かに相性の良い人たちを集めて、会話を弾ませるよう仕組んだことだとは()()していた。けれど推察。絶対な証拠もないから、確信したように言った桜羽の一言が気になったのだ。


 「あぁ……友達になったからだ。どこのチームも歓談に興じて楽しそうに球技を楽しんでいた。その上で勝ち負け関係なく、私たちのチームも仲を深めて最終的には打ち上げまでした。それが私にとって相性の良い人たちの基準だ。だからそう言ったんだ」


 少し困ったような反応を見せたがすぐにそれは消えて続けた。


 「桜羽さんの基準でってことか」


 それならば納得だ。まるでイベントを組んだ側の言い方だったから、遥も流石に引っかかった。けれど1つの桜羽の意見なら何も違和感はない。


 「なんか、優じゃない優みたい。綺麗になったって感じ」


 「このまま後ろに倒れるぞ?」


 両足を地面について、次第に後ろへ倒そうとする。


 「おっと、それは私が困るからごめんね」


 するとその後ろ、一瀬よりも更に後ろから1人の女子生徒がそう言って近づいてくる。間違いない。先日コンビニのベンチで寝ていた女子生徒だ。

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