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特待生ってたったそれだけ?




 (それにしても、僕の……か)


 購買に向かう途中、やはり西園寺との会話で印象的だった言葉が何度も過った。繰り返すように、遥にとって人間とは自由であり、誰も誰のものになり得ない存在だと認識している。だから、僕の一瀬、なんて日本語がおかしく聞こえて仕方なかった。


 普通は理解するのだろう。自分の好きな人は自分のものだと主張したいことを。けれど遥は全く理解できなかった。西園寺とは関わらない方が良いと直感的に感じたが、それ以上はなかった。西園寺尊に興味の欠片なんて。


 それを証明するよう、ずっと西園寺のことや西園寺に言われたことではなく、言葉の意味不明さを反芻していた。


 「あっ、六辻さん」


 そんな時、下を見て歩く遥に対して、最も会話した時間が長い故に聞き慣れた声色が声をかけてくる。何かと、1年生で唯一の六辻という名字を持つ遥は顔を上げて声の方を向いた。


 「一色さん」


 小さいから、然程顔を上げなくても見えた一色の顔。血色良くてこれまた月曜日という鬱屈を晴らしてくれるかのような相好。丸眼鏡でフレームは細いから、邪魔にならずに顔を見れる。やはり微笑みは幼かった。


 「購買に?」


 周りを見て、いつの間にか着いていたのかと思うと、真面目で生活習慣の整った完璧超人そうな一色が購買なのは珍しく、違うかもと過って問うた。


 「はい。部屋にお弁当忘れてしまったので、仕方なく」


 「なるほど」


 頬を軽く掻き、実はそんな一面もあるのかと思わせてくれる。まだ慣れない一人暮らしの可能性もあるし、新天地で環境にすら慣れず、忙しい日々を過ごしていることも関係しているのだろう。


 土曜日に約束した、遥と一色の間で嘘はつかないということから、料理をしてないことはないだろうし、演技とも思えない頬掻きは本物のように感じた。


 「一色さんも、そんな時あるんですね」


 「頻繁ですよ。心配性で、何か忘れてないか常に気になりますし、準備万端でも大丈夫か確認をギリギリまでしますし」


 「へぇ。そうは見えませんけど」


 「人は見かけによらないというやつです」


 眼鏡をくいっと上げて、真面目でもドジはするんだと伝えられる。しかし遥にとってはそれもまた加点なんだろうな、なんて思いつつ、漫画や小説、アニメなどで手に入れた、乏しくて非現実的な恋愛観から適当に思った。


 「さて、私たちも並びましょうか」


 「ん?まだ買ってなかったんですか?」


 「人混みは苦手で、今は空いて来ましたけど、さっきは大勢集まっていたので、後ろの方で立ってただけなんです」


 「あぁ……まぁそうですね。人混みは俺も苦手ですし、分かります」


 今こそ10人程度しか並んでいないが、学年関係なく一箇所に集まる購買は、既に背中を向けて教室に戻ろうとする生徒たちも10人程度確認できることから、人混みと言える人数が集まったのは間違いないらしい。


 当然好めるわけもない。


 それは一色も同じなのか、必死に我先にと買いたい食べ物はないようで、黙って後ろで人混みが消え去るのを待っていていたらしい。


 「もしかして、孤独で友達もいない寂しい人って思いました?」


 共感して仲間だなと勝手に思ったいた遥に、一色は拗ねたような不満そうな気配なく、ただ先日の暇つぶしのための会話で見せた微笑みを含めて聞いてきた。


 「いいや?そんなこと思ってないし、思ったこともないですよ?」


 それに対して何故そんなことを?と言いたげにも返した。


 「ですよね。六辻さんは誰を見ても否定的というかマイナスなイメージを持たない人そうなので、違うと思ってました」


 「……多分そうなんだと思います」


 いまいち理解はしていないが、何となくプラスなことを言われているようなので共感しておく。


 (無心ってことかな?)


 だが実際、西園寺とは自分から関わらない方が良いと思うだけで、関わりたくないとは思っていない。遥がそうであるように、過去に何かを抱えた人かもしれないのだから。一概に、こいつはダメだ、と決めつけて一方的に放り出しては、いつか因果応報として不幸が降り注ぐ気がするから。


 そうしてやっと、少数となった購買への列に並ぶ。胃の中に入って午後の活力になってくれるなら、残り物が何でも食べられれば良い。そう思いつつ、財布も持たず生徒手帳だけを持った。


 「ん?生徒手帳、ですか?」


 それに気づいた一色が興味深そうに生徒手帳を眺める。


 「はい。特待生なので、お金ではなくて生徒手帳(これ)が必要なんですよ」


 「えぇ?六辻さんって特待生なんですか?」


 「一応そういうことになってます」


 慎也の計らいからであって、特待生として鼻高々に誇れる才能は何も持っていない。ただ運が味方しただけの出来事だ。


 それに対して驚きを隠すことのない一色。目を見開いて驚く様は、不思議と落ち着いたように見えて、驚愕することではないようだった。


 「特待生って、年に3人しか選ばれない全国各地で見つけられた何かしら長けた才能を持つ人ですよね?その1人が六辻さんだったなんて……」


 「そうだったんですか?」


 「えっ、知らなかったんですか?」


 「……まぁ」


 鼻にかけているからではなく、本当に聞かされていなかったのだ。だからそうなのかと幽玄の特待生について理解を深めると共に、話を聞くことの大切さを知るべきだと戒めた。

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