メキアの街から
運命は時として残酷だ。
か弱き人の身を振り回し、悪戯に傷つけ嘲笑う。
神様という何者かが居たとするなら、きっと猫の様に気まぐれなのだろう。
偶然か必然か、日々運命という賽を投げ嘲笑うかもしれない。
そして運命という不確かな言葉によって、この世界は色付いていく。
今思えば、決して出会わない方が良かったのかもしれない。
いや、出会ってはいけなかったのかもしれない。
ただ、その出会いで俺の全ては変わってしまった。
空を飛ぶことを知らぬ鳥が初めて空を飛んだように。
歌を忘れたカナリアが歌を思い出す様に。
色付いた世界が悲しい色に塗り固められると知っていても。
何を失ったとしても手に入れたい事はある。
だからこれは恋物語なのだろう。
俺にとっては世界で一番素敵な恋の物語。
そして世界にとっては最低で最悪な恋の物語。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
頬を撫でる初夏の風を感じながら大地に寝転がり目を瞑っていた。
草の香りに乗って俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい!ジーク!」
遠くから聞こえてくる声が次第に大きくなり荒い息を吐いた男がすぐ傍に来て座り込んだ。
「ぜぇぜぇ、おいジーク!起きてるんだろ!」
「・・・まぁな。」
返事をしながら、ゆっくりと目を開けて荒い息を吐く男を見上げた。
軽量そうな白鋼の鎧に腰に差した長剣。
身なりの良さそうな恰好からそれなりの地位にいる者だと推測できるだろう。
「出立式典サボる勇者がどこの世界にいるんだよ!」
「ここにいるな。」
「アリスとマリーが怒り狂ってるぞ。」
「式典とか俺には向いて無いんだよ。」
「分かるけどさ、俺の立場も考えてくれよ。」
この男はゼス、俺達のパーティの戦士職をやっているが基本的に苦労人だ。
日々何故かパーティの揉め事に胃を痛めているらしい。
アリスとマリーも同じパーティの仲間だ。アリスが聖女でマリーが魔法使い。
そして俺は聖剣を担う勇者、という訳だ。
「いいから来いよ!彼女達をあまり怒らせるな!」
ゼスがこういうのも分かる。何と言っても女は強いからな。
起き上がって背に付いた草を払う。
「分かったよ、じゃあお先に。」
詠唱を省略した略式魔術で風を身に纏い、街を目掛けて一息に飛んだ。
飛び上がって流れる景色が一瞬で街を近づけてくる。
後ろからゼスの叫び声が聞こえてくるが同時には飛べないから仕方がない。
街の屋根に降り立つと中央広場の壇上にはアリスとマリーの姿が見えた。
「はぁ。また怒られるんだろうな・・・。」
溜息を吐きながら風を纏って壇上まで一息に飛んだ。
「きゃっ!もうジークったら、またサボろうとしましたね。」
聖女のアリスはおっとりしているように見えて芯が強い。
怒り出して本当に怖いのはアリスの方だからだ。
「ジーク、あんまり勝手な事するなよな。」
そう言ってくるのが魔法使いのマリー。言葉遣いは悪いが根は優しい奴だ。
「ぜはっ、ぜはっ、本当にいい加減にしてくれ・・・。」
相当本気で走ってきたのかゼスが苦しそうに息を吐きながらも文句を言ってくる。
広場には民衆が集まり、壇上には街を収める貴族達も集まっている。
「それでは聖剣を持つ勇者ジーク様にお言葉を頂きたいと思います。」
その言葉に一斉に民衆が歓喜の声をあげた。
「ジーク・アスタルテです。魔王討伐の任を頂き光栄に思っています。
聖剣フォリアルに恥じぬ戦いをする事をここに誓います。」
聖剣を抜いて掲げると一斉に民衆が沸き上がった。
民衆の歓声が頭に響いて気分が悪い。
本当、くだらない世界だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出立式典を終えて4人でそのまま街を出て街道を歩く。
革袋に入った金貨をじゃらじゃらと嬉しそうにマリーが揺する。
「領主様から金貨30枚も貰えたな。」
「たった30枚か、ケチな領主だよな。」
ゼスの言う通りケチな領主なのだろう。民衆から集めた金は遥かに多いだろうに。
「ねぇジーク、今日は少し美味しいもの食べようよ。」
「それは良いわね。たまには英気を養う事も必要ですし、でも・・・。」
そう言ってから俺に向き直ってくるアリスの目は笑って居なかった。
「サボろうとした罰は必要ですわね、お二人とも。」
「ちょっと待てって!俺はサボろうとしてないだろ!ジークが・・・、うっ。」
ゼスはどうやらアリスの視線で黙らされたみたいだ。
本当、女って強いな・・・。
「でも今日だけは大目にみましょうか。折角の遠征初日ですしね。」
「うしっ!助かった!」
嬉しそうに笑うゼスに釣られてみんなで笑ってしまった。
「でも魔王討伐って言っても魔王城まではひと月以上も掛かるからな。
領地も広いしアスターの村を過ぎればずっと野宿だぜ?」
ゼスの言う通り、ここメキアの街から西に行った所にアスターの村がある。
そこを過ぎればいよいよ魔王直轄の領地。勿論、悪魔の街には寄れない。
「水浴びも出来ないのは辛いわね・・・。」
「アリスは随分と気楽みたいだな。怖くは無いのか?」
「そうですね。ジークが居るから、でしょうか。」
そう言ってアリスが微笑んで来る。冗談なのか本気なのか相変わらず分かりにくい。
「私もそうかも、ジークが居れば心強いかな。」
「それって俺は居なくてもいいのかよ・・・。」
ゼスは溜息を吐きながらそういうが毎度の事なので慣れてしまった。
良かったらこちらも宜しくお願いします。
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