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転生乙女は頑張っています。  作者: にーやん
頑張る転生乙女 in 女王国
10/29

兄上!兄上?あ、あにうえっ?!




「彼をお願いします!」


 わたしを追いかけてきたお嬢さんに白馬さんのことを託すと、一目散に丘を駆け下ります。

 背後でお嬢さんが制止する声をあげましたが、――申し訳ありません、止まることなどできません! 兄上がそこにいるんですっ、わたしが来るのをきっと待っていますっ、ですからわたしは、立ち止まることなどいたしませんっ!



 とはいえ、丘を駆け下り多くの人が行き交う広い公道へと辿り着くと、さすがにペースを落とさないわけにはいきませんでした。牛や馬がポカポカと荷車を引き、背中に大きな荷物を背負った人たちがいる中では自慢の俊足は活かせません。というか、こんなところを全力疾走なんてしたら目立ちすぎます。

 うぅ、本当はダッシュしたいんですが、……ただでさえ通行人から見られている気がするんです。たぶん、この服が目立つからだと思います。この服は夜会に出席するためにあつらえた最高級品ですからね。旅には不向きな服ですから、きっとなんでこんなところをあんな格好で……? そんな疑問が混じった視線を向けられているのでしょう。


「――そこの方!」


 居心地の悪さを感じながら歩いていると、突然背後から声をかけられました。振り返ると、後方からきた立派な馬車の窓から人の顔が覗いています。

 目深にかぶった帽子をあげて会釈されましたが、……わたしでしょうか?


「そう、貴方様です。もしや貴方様は、貴族位にある方ではございませんか?」


 むむ、やはりこんな服装では貴族であることはもろバレですよね。……まぁ、この服のおかげでお嬢さんもわたしを公爵扱いしてくれたのかもしれませんが。


「しばしお待ちを!」


 迷いましたが、どう見ても警備隊の馬車には見えなかったので足を止めていると、それはわたしの隣へと滑り込んできました。ふむ、少なくはない人が行き交う中でのこの馬車さばき――この馬車の御者はかなりのベテランと見ましたね。車窓から顔を出している人同様に帽子を被っているので年齢等は分かりませんが、……まるで子供のように小柄です。子供、じゃないですよね? というか、前見えてますか?


「もしよろしければですが、こちらに乗られてはいかがでしょうか?」


「え?」


 御者の方に意識を向けていたので反応が遅れました。が、……これは、マズイ展開ですか? どうやら困っている美少年は助けるという常識がこんな所まで浸透しているようです。どこかのマダムかサーが哀れな美少年を助けるべく相乗りを求めて――、


「私共は怪しいものではございません。貴族様専用の駅馬車の者です。ここからですと中心街まではまだ距離がございます。是非ご利用くださいませ」


 って、タクシーですかっ!

 営業スマイルに内心ツッコミを入れながら、乗るか乗るまいかを思案します。……丘から見た街はそのほとんどが外壁に囲われていましたが、その外壁だけで街の広さはうかがい知れます。

 とりあえずこのタクシーで中心街とやらまで向い、そこから兄上の情報を探す方が効率がいいかもしれません。

 よし。持ち合わせはそうありませんが、いざとなれば装飾品で支払うことにしましょう。


 今後の計画を瞬時に立て、周囲の視線から逃げるように乗りこみました。確かに馬車の内部には声を掛けた人以外誰もいません。本当にタクシーのようでホっとします。しかも、


「本日は当駅馬車をご利用いただき、誠にありがとうございます。私共は王宮と契約しております駅馬車でございますので、貴族位にある方は無料でご乗車いただけます」


 無料! なんて素晴らしい響きでしょうか!

 王宮と契約を結んでいるということは、支払いは王宮にいくわけですか。これだけで女王国の貴族がどれだけ優遇されているかが知れるというものです。


「また、当駅馬車はご用命をいただければどこであれ迅速にお迎えにあがりますので、今後とも是非ご贔屓下さいまし」


 そう言って業者に渡されたのは名刺で、そこには『ニラレバ駅馬車』と書かれていました。……レバニラではなく、ニラレバ?

 受取った名刺をとりあえず内ポケットにしまいこむと、業者は満足したように頷き、口を開かなくなりました。恐らくこちらから問いかけなければ口を利かないのでしょう。色々と尋ねられたらどうしようかと考えていたため、ほっと一息。閉じられたカーテンを少しだけ開き、車窓を眺めることにします。

 車内には馬車の揺れる音や外のざわめきだけが響きます。


 大きな門を過ぎて街へと入ると、さらに賑やかさが増してゆきました。

 ゆるやかなカーブを曲がりながら駅馬車はゆったりと進んでいきます。

 歩道と車道が別れていて、歩道には庶民的な服を着た男女だけでなく、明らかに質の良い衣服をまとった人もちらほら。彼らは貴族か、もしくは成功した市民なのでしょう。その街並みは金麦と大差はありません。


「…………」


「……」


 ……あぁもう!

 車窓を眺めながら急に不安になってきましたっ。依然として業者は黙りこくっています。

 余計なトークはしない。それはそれで優秀と言えば優秀なんでしょうが……、後ろめたいことがある身としては、この静けさが不気味に思えてなりません。

 ……だって怪しいでしょうっ?

 どうして何も聞いてこないんでしょうか? わたしを女王国の貴族だと決めつけていますが、身分や名前を確認しないのはどうしてでしょう?


 窓の外を眺めるフリをしながら業者に注意を払います。もしかしたらこれは誘拐の可能性も……、


「ご心配には及びません」


 ん?


「私共は自他共に認める優秀な駅馬車員でございますれば、本日お客様がこの駅馬車をご利用になったことは伏せさせていただきます」


 んん?

 笑みを浮かべてますけど、伏せる? それは嬉しいですが、いったいどうして?


「……お客様もあまりお気になさる必要はございません。……ご一緒に遊覧に出かけた方が、何を勘違いされたか誤ってお一人でお帰りになられる――そのようなことはよくある話でございます」


 誤って? ……それはつまり、暗に置いていかれたということですか?


「お客様のようにお若いうちに多くの経験を積んでおけば、適齢期になられたときに失敗せずにすむかと」


 適齢期……、適齢期って、何の……?


「お客様は大層お美しいご容姿をなさっておいでですので、色恋へのご苦労も多いかとは思いますが、このようなことはお気にするに値しないことでございますよ」


 その優しい口調に徐々に頭痛が……。

 ……つまるところ、こういうことですか?

 とある貴族が恋人と街の外へ遊びに行ったが、出先で喧嘩、間抜けにも恋人に置いてけぼりをくらった。けれど、そんなことはよくあることだから気にするな、と? 慰められているわけですかわたしは?


 ………………、うん、色々と物申したいことはありますが、そう思ってくれているならそれで結構です。……というか、ではあの公道でわたしを見ていた人たちって「わーい恋人にフラれたヘタレ貴族だぁ、かっわいそー」みたいな意味でわたしのことを見ていたわけですか……?

 お、恐るべし女王国。貴族の一人歩きイコール恋人にふられたヘタレ野郎に認定されるなんて!


「――さて、貴族様の御住宅地のある中心街、そこへ続く道はご存知の通りいささか急な下り道となっておりますため車内も多少なりと傾くことがございますのでご注意下さいませ。また、中下門では、優秀な門番による身元等の確認がございますので、その際はご協力願えればと存じます」


「――!」


 み、身元確認っ!

 ヘタレ認定されたショックで危うく聞き逃すところでした!


 優秀なというのはこの場合口が固いということでしょうけど、……固かろうが緩かろうが、お嬢さんがいない今、わたしが公爵だという証明はできません。こ、これは、えっと、中下門とやらに――きっと中心街に入るための門だとは思いますが、そこに着く前にここを脱出しなければ!


「……ここで降ろしてください」


 善は急げです!


「ここで、でございますか? ここは未だ市街地のど真ん中でございますよ?」


「分かっています」


 身元確認が嫌だから降ろせ、発言だと思われないように笑みを浮かべ、柔らかな口調で告げると、


「あぁ、なるほどなるほど、なーるほど。ふふ、お相手は街娘でございましたか」


「……」


 なんでやねん!

 わたしの心配はどこ吹く風、勝手にわたしの恋人を思い描き、業者はニコリと笑みを浮かべました。


「わざわざ謝罪に赴かれるとはお優しい。街娘相手にも関わらず、随分と甘やかしておられるのですね」


「……」


 もう、なんでもいいです。

 それで下車できるならもう火遊びで街娘に手を出して格好悪くもベタ惚れになったのに相手に振られたヘタレ野郎――そう認定していただいて結構です!

 えぇ、えぇ、どうせわたしはヘタレです、ヘタレ野郎ですよぉお!



「ご乗車ありがとうございました。足元にお気をつけて下車くださいまし。では、今後ともニラレバ駅馬車をどうぞよろしくお願いします」


 営業トークに前世仕込みの曖昧な笑みで応え、市街地の路肩で下車させてもらったわたしは、ちょうど近くにあった街の案内版を発見。世界の中心と呼ばれる女王国首都の全貌を簡単に把握することができました。

 まぁ、全貌といっても、描かれているのは簡易的な地図のみで主要施設などの位置が把握できる程度です。……けれどこれ、この看板を他国へ持ち出したらかなりの値がつくでしょうね。

 ……ぁ、いえ、泥棒なんて考えてませんよ? お金には困ってませんからね。


 さてさて、そんなことより……、その簡易地図を頭に叩きこみますか。いつなんどき兄上をつれてこの街を疾走しても捕まらないように道を覚えねば。


 ふむふむ、この市街地は十三の地区に分かれています。駅馬車で通ってきた道幅の大きな幹道が螺旋を描きながら市街地の中心――中心街と書かれた地区まで続いているようです。街の形状は円形で、それぞれの地区は十二ある階段で分けられており、幹線道路だけでなく、その階段を使っても中下門のある下層へ行くことができるようです。


 うーん? まるでカットされたロールケーキというか、ドリルで掘られたような地形というか、どデカイコロッセオみたいな形ですが、……どうしてこんな谷間のような場所に街を建てたんでしょうか? 攻め込まれることを恐れているなら、普通敵の位置が把握しやすいように小高い丘の上に城を構えるのが常道。貴族たちが住む中心街のど真ん中が王宮だとしたら、はっきり言って真逆です。

 ……んー、でも、女王国は御神木と初代女王を守るために生まれた組織が発端だったといいますし、その組織のアジトがここにあり、その周辺に街ができたと考えれば、……納得できなくもないのかもしれません。


 ……それにしても、疫病でも流行っているのかと思いきや、全然そんな様子はありませんね? みなさん元気で明るいです。

 ということは、兄上は女王国民がかかるような病に単独で冒されているのでしょうか? そして、今も苦しみつつわたしの名前を「キュイ、キュイ」と――。


 くっ、す、すぐに探さなければ!

 まずはっ、……病人と言えば病院でしょうっ!

 大きな病院が第七地区にあるようです。現在地が第三地区ですから少しばかり離れています。……ですが、これだけ大きな街ですからこの病院一つということもないですよね? となると、この地区にも診療所くらいあるはず……、そこから当たるというのも有りかもしれません。


 あ、あと、途中、騎士っぽい人や貴族を見かけたら声をかけてみるのも手ですよね。

 兄上と第三王子が女王国の騎士団に入っていることはリサーチ済みです。騎士団留学という名目だったはずです。となれば、彼らに声をかければきっと何らかの情報が得られるはず。


 あぁ、でも、どうしましょう……。

 下手に接触すると、身分を問われたときに困ります。キュイジーヌと名乗るにしても、身分証明書を求められたら外エマ用通行許可証しかありません。兄上や王子がここでどのような立場にあるかも不透明ですし、どこの騎士団なのかは不明です。手当たりしだい作戦は藪蛇かもしれません。


 せめて所属が分かればピンポイントで尋ねてゆけるのですが……。

 騎士団というのは一国一団というわけではなくて役割別にいくつも創設されているものなので、国によっては何十という数の騎士団が存在していたりします。元は一つの騎士団だったものが分団したり、仕事の多様化によって新設したり、不始末を起こして廃団したり、……騎士団の中には悲喜こもごも様々なドラマ的なものがあったりするのです。


 金麦でも、王様が団長を務める王旋騎士団、王宮警護にあたる宮旋騎士団、街を守る街旋騎士団、国境を守る境旋騎士団、有事の際に真っ先に前線に赴く戦旋騎士団――などなど基本五旋騎士団はもちろん揃っていますし、他にも王子だとか騎士団を持つことを許された貴族の私営騎士団だとかが増えたり減ったりしています。

 女王国にもきっと色々とあるはずで、国防の中心である五旋騎士団にはさすがに他国の人間は入れないでしょうから、他の――例えば誰かの私営騎士団とかに所属しているのではないでしょうか。けれど、一口に私営といってもかなりたくさんあるでしょうし……、うーん、うーん、――ぁ!


 なんてこったです!

 そ、そういえば、忘れていましたが、わたしには国境侵犯罪の容疑がかかっている可能性もあります。お嬢さんが言うように本当にわたしが公爵ならその必要はないでしょうけど、……ここは一つ素性を隠してパーと兄上を救出し、国にお帰り願わねばなりません。

 となると、やっぱり素性は隠さなければ。わたし自身は実家に帰ることができないにしても、書類送検などされたら家と兄上の名に傷をつけ、さらにはその上から泥を塗る最悪の結末が待っています。


 けれど、もしも、もしも、――これは考えないようにしていましたが、もしも兄上がどこぞの誰かの手にかかっていたとしたら、――わたしはきっと行くところまで行ってしまうでしょう。

 もちろん素性は隠し通す気ではいますが、全ての元凶である犯人を地獄の底まで追い詰めて、靴の底まで切り刻み、真っ裸で女王国の中下門とやらに『天誅』の朱印と共に吊るし上げてやります。

 前世のテレビドラマで見た記憶を引きずり出して恥ずかしい感じのSM風に鎖で縛り、逆さバンジーで死ぬ寸前まで追い詰め、辱め、二度とお天道様の下を歩けないように羞恥心で染め上げて社会的に抹殺して、犯人がもう殺してくれーって訴えても、殺してなんてやらないです。

 死を与えたところでそれは一瞬。もしかしたら別世界に転生しました、ウハウハ! なんてことになってしまうかもしれません。


 だから、一瞬の死よりも一生の恥を。


 そして悶絶生き地獄を味わうがいいのです!


 わたしはその頃牢屋の中か、もしくは斬首台かもしれまんせんが、そうなる前に、お前の罪は一生の恥に値するものだと身体と心に叩き込んでやるのです!


 ふふふ。


 ふは、フハハハハっ!



 ――なんて。

 これだと、めっさ悪役じゃないですかわたし。

 困りましたね。こんなはずじゃないんですけど。兄上への愛がわたしをおかしくしているんですね、きっと。


 とりあえず……居酒屋を探しましょう! 情報は酒場と井戸端から広がるものです。診療所の情報から何から何まで――もしかしたら兄上の噂まで――知りたい情報が揃うはずです。

 さて、居酒屋は……、と?

 金麦では泡だった麦酒のジョッキに骨付き肉が付いたマークが掲げられているんですが……、他の国はどうなんでしょうか? これまで金麦の外に出たことがありませんでしたから他国の看板事情がどうなっているかは分からないのですが……、たぶん、どこもそう変わらないと思うんですけど……。


「すみません、食事処はどこでしょうか?」


 普通、居酒屋は夜に開き、昼は飯屋を営むものです。


「そこだよ、ほら、看板がちっこく見えてるだろう?」


 道行く人に尋ねると……あぁ、ありましたありました! 数十歩歩いた先にジョッキのマークを発見です。ジョッキの中にはフォークとナイフがバッテンを組み、その前面には……パスタでしょうか? まさにぽい看板です。ふふ、わたしパスタ大好きです!



「――――――――って、ぇ?」



 看板に近付くにつれて、視線を出入り口の方へと向けると、ちょうど中から数人が出てきました。

 その身なりの良さからして貴族でしょう。

 その集団にピコん。と頭の中で何かが反応します。

 この反応に誘われて胸がドキドキと早鐘を打ち始め、足がレンガに釘付になりました。


「……ぁ、」


 いや、でも、まさか……、わたしはかぶりをふります。

 そんなはずありません。


 ……でも、この胸のトキメキは、……いや、でも、そんな……ことは……。だって、そんなはずありません。ま、まさか、ぃ、いくら運命の赤い血縁関係で結ばれているとはいえ、こんなに早く見つかるはずがないです!


 それに、それにっ、あの集団の中に兄上がいるなんてありえませんっ、だって、ぁ、あ、あの、あの兄上が、まさか、ままさか――!


 あ、愛のせいで幻覚を見てるんですよっ、そうに決まってます! た、他人の空似です! あれは兄上のそっくりさんで――


「行くぞー、ハーネス」


「――ひぅ!」


 イクゾー、ハーネス。


 イクゾー、ハーネス。


 イクゾォォォオ……ハーネスゥゥゥウ……。


 固まりました。

 それはもう、フリーズしました。身体だけじゃありません。乙女心も、妹心も、全てがカキンっと氷河期へトリップしたかのようにカチコチになりました。


 や、やはりそうなのですかっ、そうなのですかっ?!


 国では、長きの不在ながらも嫁ぎたい番付個人の部で堂々の三位に入っている男前で男気溢れるイケメンの兄上が、帰国後は多くの令嬢を侍らせ、子宝に恵まれ、盤石な州統治を行うはずの兄上がっ、



 …………すかーとをっ、はいてるなんてっ!


 …………かつらをっ、つけてるなんてっ!


 …………おけしょうまでっ、してるなんてっ!



 て、転生乙女で、生物学上も乙女で、乙女座の星の下に産まれたわたしでさえ着たことも被ったことも施したこともないのにっ、


 ――あああの、あのっ、マイスウィートブラザーが!


 なぜに女装っ?!


 なななななぜっ?! どーしてっ?!


 立ち止まったわたしは、当然のごとく放心状態です。不思議そうに通行人がよけていきます。……すみません、復活にもう少しかかります。――ぁ、気付けば兄上は駅馬車に乗り込み、その場から立ち去ってしまいました。

 わ、わたしとしたこが、兄上を前にして声を掛けることも、追いかけることもできなかったなんて……!


 …………。


 ……あ、ハハハ!


 見間違いっ、見間違いですよねっ? き、きっと目に糖分が行き届いていないんですっ、だから兄上がじょ、じょそうなんて、して、見えてっ……!


 …………い、居酒屋、行きましょう。ここはちょっと一杯飲みましょう。甘味を食べて、一杯飲んで仕切り直しです! そしたら少しは頭が働いて――、


 くれるでしょう、と思いかけたときです。


 腕を掴まれました。

 振り返るとそこには、



「お探ししましたっ、」



 美女なお嬢さんが再登場です。


 アハ、あれ? しかも何か怒ってますか? 怖い顔してますよ?


 アハハハハ、そんなに慌ててどうしたんですか? 探してた? ぇ、わたしを? うふふ、わたしはね、兄上を探してたら兄上そっくりの令嬢――に変装した男性を見つけましたよ。はい、もちろんあれは男性です。間違いなく女装令嬢でした。で、ですね、わたしの全身があれは兄上だと叫ぶんです。わたしのスイートな兄上だって。でも、ねぇ、まさか兄上が女装なんて、そんなこと、あるわけ、ないですよ、だって兄上は兄上で、兄上なんですから、だから……、


「――大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」


「……ぁ、」


 問われて、答えようとした瞬間に目眩に襲われました。

 そして、わたし、不覚にも耐えられなくてお嬢さんの懐へと飛び込んでしまいました。

 あぁ、さっきとは逆ですね。

 さっきはわたしがお嬢さんに胸を貸しましたが、今度はわたしが借りることに……、


「殿下、あなた――」


 みなまで言わないでください。

 わたしはお嬢さんの背中に腕を回して縋り付き、――ここがどこであるかをすっかり忘れ、――ちょっぴりその貧乳で涙を拭いたのでした。




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