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ⅹ 或、青春の頃

 ちょっとエロい・・・・・・かなw

 そこには家があった。

 うっそうと茂った茂みの中、その家は建っていた。

 それはまるで、森の小屋のよう。

 のどかで、この現在では想像できないものだった。

 耳を澄ませば虫の音が聞こえ、空を見上げれば満月が煌々と輝いている。それは大きくて、町で見るのとでは違うなと出雲は思った。

「ねえ、お姉さん。あの人とはどういう関係で?」

 七星が出雲を覗きこむ。その顔は何故か笑っていた。

「ん、いやぁ・・・・・・敵、かな?」

「て、敵?あの人は敵ですか・・・・・・え、でも・・・・・・」

「なんで争わないか、って?」

 七星はその質問に肯定するべく、頭を縦に振る。

「さあ、オレにもわかんないよ。でもさ、一つだけ言える。っつーのも、アイツにオレの後輩君がつかまっているからな、助けないと」

「にゃるほどー」

 本当に分かっているのか、と出雲は思ったがそこは触れないでおいた。そして、七星を見る。赤い髪、そして、青い目。髪には沢山の髪かざりがつき、派手に見えなくもない。

 そして、現在では珍しい詠唱師(アリア)でもある。

 謎、の少女。

 そんな七星を怪しんでいるのは出雲だけではなかった。その七星の姿を遠くから見ているパンドラもまた、その不審な目でじっと七星を観察していたのだから。しかし、パンドラは出雲ほどじっとは見ていなかった。途中で興味が失せたのか一別すると、とっとと歩いて先を行ったのだから。

「ふぅん」

 と唸る七星。彼女もまた、何かパンドラを警戒しているかのように見えた。


 そんな緊迫した空気の中、その家は見えてきた。

 そして、三人は中に入った。


 三人を出迎えたのは天吏だけだった。梓の姿はどこにもなく、ただ、一人の少年が椅子に腰かけ、ぼうっと天井を見上げていただけだった。体は椅子に拘束されていることから、逃げられはしなかっただろうが、少しでも抵抗していてもおかしくないはずが、まったくその様子もなかった。

 ただ、置物のようにいた。

「天吏」

 思わず、出雲は叫ぶ。しかし、何も返ってはこない。

「天吏」

 もう一度叫ぶものの、反応は同じ―――無だった

 そして、鼻を指すような異臭がした。

「くっせーな、まったくさ」

 パンドラが鼻を押さえながら手を仰ぐ。

「しっかしさ、守れって言ったのはいいけど・・・・・・凍結(フリーズ)させてどーすんだよ。俺、この解除の方法知らないからな・・・・・・梓め」

 凍結、どうも魔法の一種のようだった。しかし、魔法は基本、この世界には存在しない。ただ、種族によっては魔法に似た、いや、魔法と言われるようになった能力を操る者もいる。だから、詠唱師(アリア)なんてものは珍しすぎるのだ。

「私ならできるよ、その解除」

 凛、と響く七星の声。思わず、二人の視線が七星を向いた。そんな二人を交互に見て七星は付け加える、

詠唱師(アリア)だからね」

 と。それが何故か自慢のように聞こえた。

 そして、天吏に近づくとそっと天吏の額に手を置いた。白い手がそっと天吏を撫でる。

「解除、できるのか?」

 パンドラの不安そうな声に七星は頬を膨らます。

「できるよ、まぁちょっとお姉さんには刺激的かもねぇ」

 七星はそう言って薄く笑うと天吏の唇を自らのその柔らかそうな唇で覆った。そして、すぐに放すと何かを呟き、再び唇を合わせた。

「え、ちょ・・・・・・」

 その様子を直視できないのか、出雲は口を開けてぼうっと見ていることしかできなかった。しかし、要はキス。所詮、キスなのだ。けれど・・・・・・未経験なんて口が裂けても言えなかった出雲にとっては強烈で、思考が止まった。

 パンドラはというと、あははと苦笑いしながらその様子を鑑賞していた。

「なんともまぁ、強烈なこって」

 にやにやと笑うパンドラ。どう考えても、楽しんでいるとしか思えないその様子は出雲にとって少しさびしいものだった。そんな出雲を覗きこんだパンドラは、

「俺とやってみるか」

 と、笑った。

「い、いい」

「ふぅん・・・・・・」

 顔が熱かった。出雲は赤面しているのが顔の温度で分かる。

「おまえも、女なんだなぁ・・・・・・そんな武器振り回しているのによぉ」

「う、うるさいっ」

「あはは」

「・・・・・・黙れ」

「本当はやりたいんだろぅ、キスの一つぐらい」

 その瞬間、何か温かいものが出雲の口を覆った。

 ほんの一瞬、たった一瞬だったが、それは起こった。

 にやにやと笑うパンドラ。そのパンドラの目線は出雲の平らな胸。

 初キス相手、それがこんな男なんてと珍しく出雲の乙女の部分が活動する。そして、そんなことを考えると出雲はいろいろと恥ずかしくなってきた。

 しかし、それだけでは終わらなかった。


「その、ぺったんこの胸どうにかしたら俺が抱いてやるよ」


 かぁっと、出雲の顔は赤く火照った。

 そして、一撃。

 パンドラは投げ飛ばされたのは、当たり前と言えば当たり前だった。


「何やっているんですか、お二方?」

 いつの間にか、七星が何もなかったかのような顔で出雲達を見比べていた。そのあどけない表情は、どうしても先ほどの行動とは考えられないものだった。

「い、いやぁ・・・・・・別に」

 あはは、と笑いながら答えるパンドラ。その隣には倒れたパンドラを助け起こそうとしている出雲。

「ふーん。あ、そうだ。目、覚ましましたよ」

 青い瞳が笑う。それは、素直にうれしそうだった。

「あ、え・・・・・・本当か?」

 その時、七星の後ろに影が射した。と思ったら、眠たそうに目を擦る天吏がいた。

「・・・・・・い、出雲先輩・・・・・・」

 天吏は驚いたように目を大きくした。そして、

「どうしてここに?」

「いやぁ」

 そう言いながら出雲は鼻を擦る。

「というか・・・・・・この子誰・・・・・・?俺にはいまいちこの状況が察せないんだけどさ」

 戸惑う天吏が少し可愛かった。そんな天吏の肩をパンドラが叩く。

「んなこと、どーでもいいさっ。ま、とりあえず、子供のお前は何も考えなくて良し。寝ろ、子供は寝ろ」

 と、適当な事を抜かす。

「誤魔化している感が、はんぱないんだけどさ・・・・・・」

「そうかー?」

 と言いながら鼻歌を歌うパンドラの額に汗が垂れたのを出雲は見逃さなかったが特に何も言わなかった。というより、今は七星の方が気がかりなのだ。というのも、七星は謎。

 何かある、そう確信していた。

 しかし、それが何なのか探る術は出雲にはなかった。

 パンドラもまた、しかり。

 赤く染まったパンドラの目が少し黒色を取り戻す。そして、笑った。


 ―――なぁご


 ――が鳴いた、啼いた。


 凛、と鈴の音。


 後ろを振り返る猫。


 その赤い目が薄く笑った。


 にゃおーん


 今日も、月が煌々とあたりを照らしていた。


 ✝


 中央公園を一望できる病院の最上階の一等室に夜はいた。

 見た目は好青年、しかし、その頭からは猫の耳が生えている。

 一見、生真面目そうなその青年は、眉間にしわを寄せ、何かの書類に目を通していた。

 七色の瞳が、彼のかける眼鏡に映り込む。

 その目つきは、歳相応のものではなかった。


 そんな夜の隣には一人の少女がパイプいすに腰掛けていた。帽子を目深く被った、薄汚い、この場には相応しくないような少女。そんな少女が、じっと、夜の顔を見ていた。

 乾燥した唇。

 その唇がゆっくりと動く。

 しかし、何を言ったかは分からない。

 それは、扉の音が軋んだせい。



 そして、そこは密室となった。

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