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こねこの異世界冒険記  作者: ポンデリング
第3章「こねこ冒険者、エルニアを歩く」

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25/25

第25話「Eランク冒険者、はじめての一歩」

異世界生活15日目。


朝。

窓から差し込む光に、ルゥはゆっくりと目を覚ました。

「……朝にゃ」

いつもの朝。

いつもの「月のひげ亭」。

けれど、ルゥの胸の中には、昨日までとは少し違う気持ちがあった。

ルゥはベッドの横に置いていた冒険者カードを、そっと前足で持ち上げた。

昨日、冒険者ギルドでもらったばかりのカード。

そこに刻まれている文字を、もう一度確認する。


――Eランク。

「……Eランクにゃ」

一度見た。

でも、もう一度見る。

「……やっぱりEランクにゃ」

ルゥのしっぽが、嬉しそうに揺れた。

昨日までのルゥは、Fランク冒険者だった。

薬草を集めたり、荷物を届けたり。

森で魔物に出会ったときには、逃げたり、距離を取ったり。

最初は、何をすればいいのかも分からなかった。

それでも、一つずつ依頼をこなしてきた。

昨日はグレイファングを前にして、戦うのではなく、状況を見て判断した。

自分にできることと、できないことを考える。

それも冒険者として大切なことなのだと、少しずつ分かってきた。

ルゥは冒険者カードを大切そうに胸元へしまった。

「……もっと、いろんなことを知りたいにゃ」

知らない街。

知らない森。

まだ見たことのない場所。

この世界には、ルゥの知らないものがたくさんある。

そう考えると、胸が少しだけわくわくした。


朝食を終えたルゥは、いつものように冒険者ギルドへ向かった。

エルニアの街は、朝から活気にあふれている。

店を開ける商人。

荷物を運ぶ冒険者。

通りを行き交う猫たち。

以前なら、ただ眺めていた景色だった。

でも今は――。

「ここにも、冒険者さんがいるにゃ」

「このお店、前は気づかなかったにゃ」

歩くたびに、新しいものが目に入る。

Eランクになったからなのか。

それとも、自分の見方が変わったからなのか。

ルゥには、まだ分からなかった。

やがて、冒険者ギルドに到着する。


扉を開けると、受付にはミーナがいた。

「おはよう、ルゥちゃん」

「おはようにゃ!」

ミーナはルゥの姿を見ると、にっこり笑った。

「昨日はお疲れさま。改めて――」

ミーナは冒険者カードを確認する。

「Eランク昇格、おめでとう!」

「ありがとにゃ!」

ルゥは胸を張った。

しっぽも、ぴんと立っている。

「これでルゥちゃんも、正式なEランク冒険者だね」

「Eランクになると、何が変わるにゃ?」

ルゥが首をかしげる。

「受けられる依頼の幅が、少し広がるよ。今までより遠い場所だったり、少し難しい依頼だったりね」

「遠い場所……」

ルゥの耳が、ぴくっと動いた。

街の外。

まだ見たことのない景色。

行ったことのない場所。

そんな場所を想像すると、自然と胸が高鳴る。

「でもね」

ミーナが優しく続けた。

「Eランクになったからって、急に無理をしなくていいからね」

「……にゃ?」

「冒険者は、強いことだけが大切じゃないの」

ミーナはルゥの目を見ながら言った。

「自分に何ができるのか。そして、どこまでなら安全なのか。それを判断することも大切だから」

ルゥは、昨日のグレイファングとの対峙を思い出した。

相手の動きを見る。

危険だと判断したら、無理に戦わない。

それも、自分を守るための大切な力だ。

「……分かったにゃ」

ルゥは小さくうなずいた。

ミーナは安心したように微笑む。

「うん。それなら大丈夫」

そのあと、ルゥは掲示板を見に行った。

薬草採取。

素材集め。

街の近くでのお手伝い。

そして、これまで見たことのなかった依頼もいくつかある。

「Eランクになると、こんな依頼もあるにゃ……」

一枚ずつ眺めていく。

受けてみたい。

もっと遠くへ行ってみたい。

もっと冒険してみたい。

そんな気持ちが少しずつ膨らんでいく。


けれど――。

ルゥはふと、自分の前足や体を見た。

「……ぼく、冒険者の装備を何も持ってないにゃ」

武器はない。

防具もない。

冒険者として、自分を守るための装備もない。

今までは、それでもなんとかなった。

でも、これから先。

今までより遠くへ行くなら。

今までより難しい依頼を受けるなら。

何かあったとき、自分を守る準備も必要なのかもしれない。


そのときだった。

「ルゥちゃん」

後ろからミーナの声がした。

「にゃ?」

「そういえば、Eランクになったことだし……そろそろ防具を見てみてもいいかもしれないね」

「防具……?」

ルゥが耳を立てる。

「うん。ルゥちゃんは体が小さいから、普通の冒険者用だとサイズが合わないかもしれないけど」

ミーナは少し考えてから続けた。

「エルニアには、冒険者向けの武器や防具を扱っているお店があるよ」

「そんなお店があるにゃ?」

「あるよ」

ミーナが笑った。

「『ブレイブアームズ』っていうお店」

「ブレイブアームズ……」

初めて聞く名前だった。

けれど、その名前を聞いた瞬間、ルゥの胸が少しだけ弾んだ。

「……行ってみたいにゃ」

「うん。まずは見るだけでもいいと思うよ」

ミーナはそう言って笑った。

「冒険者になったら、装備を整えることも大切だからね」

「装備……」

ルゥはもう一度、その言葉を口にした。


ギルドを出たルゥは、教えてもらった場所を探して歩き始めた。

いつもの依頼へ向かう道とは違う。

今日は、エルニアの街を少しゆっくり歩いてみる。

通りには、知らない店がいくつも並んでいた。

色とりどりの商品。

聞こえてくる店員の声。

冒険者たちの話し声。

焼きたてのパンの香り。

少し歩くだけで、知らなかったエルニアが次々と見えてくる。

ルゥは足を止めて、街を見渡した。

「エルニアって……広いにゃ」

冒険者になってから、何度も歩いてきた街。

それなのに――まだ知らない場所が、こんなにもある。

森だけが冒険じゃない。

遠くへ行くだけが冒険でもない。

知らなかった場所を知ることも、きっと冒険の一つなのだ。

ルゥは、そんなことを思った。


そして――。

通りの先に、一軒の店が見えた。

木と石で造られた建物。

青と金の装飾。

入口の上には、大きな看板が掲げられている。

――ブレイブアームズ。

「……あったにゃ」

ルゥは店の前で立ち止まった。

大きな扉を見上げる。

その向こうには、自分がまだ知らないものが待っている。

防具。

冒険者の道具。

そして――これからの冒険。

昨日、Eランクになった。

今日から、少しずつ新しい世界へ進んでいく。

ルゥは小さく息を吸った。

「……行ってみるにゃ」

ルゥは、ゆっくりと一歩を踏み出した。

新しい冒険は、街の中から始まる。

――第25話・おわり。

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