3-17
冒険者カードが出来上がるまで時間がかかるということで、その間に買取品や鑑定をお願いすることにした。
買取は500年貯め込んだ竜賢さんの遺品が、一体どれくらいの価値になるのかを知るためのものだ。
そのため、宝石、鉱石、魔石をいくつか選んで買い取ってもらい、今後の参考にしようと思っている。
全部出さないのは、値崩れを起こさないためだ。
ちゃんと考えてはいるんだよ?
買取品はともかく、大きな麻袋にショッキングピンクの卵が3個も入った状態はやはり強烈だったようで、少年がかなりドン引きしていた。
査定も鑑定も時間がかかるというので、待合室で渡された『冒険者のしおり』を読んで待つことにした。
しおり……修学旅行以来じゃないかな。
「懐かしいな」
しおりをペラペラとめくり、たいして懐かしくもない言い方をアルさんがする。
おそらく、秒で捨てたクチだろう。
それにしても――やけにカウンターの奥が騒がしい。
職員が慌ただしく動いている。
「何かあったのかな?」
「……」
「……」
――なんだろう。
アルさんとラシードが目で何かを言い合っている。
さて。
時間までにこのしおりを読み終わらせておこう。
何せたった5ページしかないからね。
そう意気込んで開いたページには……
~冒険者の心得~
1.約束は守りましょう。
2.自分の身は自分で守りましょう。
3.冒険者カードは失くさないようにしましょう。
4.依頼は冒険者ギルドを通しましょう。
5.許可のない場所には入らず、勝手に物を取ったりしないようにしましょう。
「……アルさん」
「なんだ」
「さすがにこの書き方はどうかと思うんですけど」
「俺もそう思う」
確かに、これなら秒で捨てるわ。
しかも5番だけ妙に長い。
取って付けた感がすごいから、よほど何かあったんだろう。
「昔は3つしかなかったらしいから、これでも増えた方だな。基本冒険者は脳筋が多いから、5つ覚えるのが限界なんだよ」
いや、同業者の、てっぺんの人がそれを言うってどーよ?
――あれ?私ももうすぐ同業者か。
「昇格時に詳しい講義は受けるから安心しろ」
「そういう問題ですか?」
「誤解のないように説明するが……」
そこからアルさんの講義が始まった。
1つ目は『契約』
本人の意思で依頼を受けた以上、正当な理由なく放棄することは出来ない。
途中で投げ出した場合は違約金が発生し、場合によってはランク降格の処分が下される。
これは冒険者だけでなく、冒険者ギルドの信用問題にも関わっている。
2つ目は『自己責任』
これは何も怪我だけではなく、依頼主との揉め事や冒険者同士の諍い、組織や国も含まれる。
冒険者ギルドも出来る範囲で仲裁や支援は行うが、内容によっては介入不可能な場合があるため、自分の身は自分で守るしかない。
「3つ目は『信用』。冒険者カードは公の身分証も兼ねている。そんな大切な物を失くす奴は信用されない。というか、しない」
「アル先輩。もしカードを紛失した場合はどうなるんですか?」
「良い質問だ。まずカードを紛失した場合、新しいカードができるまで如何なる理由があろうとも依頼は受けられない。本人確認が出来ないからだ。そして、同じ理由で銀行から金が下ろせなくなる」
「死活問題ですね」
「カードの再発行には金貨5枚、ペナルティとして最低ランクのFから再出発というおまけ付きだ。嬉しいだろう?」
「全然嬉しくないです」
「それだけ失くすなってことだ。金はいつでも稼げる。だが、失った信用はそう簡単には取り戻せない。そういうことだ」
「では、4と5はどういう意図なんでしょう。この2つは系統が違いますよね。何か、教訓めいているような……」
いつの間にかしおりを読んでいたラシードが質問する。
「4は『仲介』というかトラブル防止だな。今でもそうだが、個人間で依頼を受けたら依頼主が報酬を払わない、なんてことが多々ある。実際、今も揉めに揉めている話はいくつもある。緊急性を除いて、ギルドを通した依頼を受けた方が後々困らないんだよ」
聞けば親の代から続いている話もあるんだとか。
いや、揉め過ぎだろう。
「では5つ目は?」
「言葉で言えば『秩序を乱すな』なんだが……これは昔、他国に無断で入った冒険者がその地域でしか育たない希少な植物を乱獲してな。それが原因でその植物は一時、絶滅寸前まで追い込まれたらしい」
わぉ。それ、マジでダメなやつじゃん。
ちなみに今は厳重な管理下で保護・栽培されているんだとか。
「アルさんは個人で依頼を持ち掛けられた時、いつもどうしているんですか?」
「俺は基本、個人依頼は受けない事にしている。受けるとしたら緊急性が高いものを優先して……あとはその時の気分だな」
ラシードがアルさんを、しおりの隙間から何か言いたげにじっ……と見ている。
けれどアルさんは視線を合わせず、腕を組んで何故かふんぞり返る。
……S級冒険者なんだもん。
そりゃぁ今までいろいろあったよね。
「個人依頼が全部悪いわけじゃないからな。トラブルを承知の上で受けるなら問題ない」
職員や冒険者が行き交う待合室を眺めながら、アルさんは続ける。
「実際、ギルドの依頼よりも割の良い話もあるからな。飛びつきたくなるのも仕方ないさ。ただ、それはあくまで自分の力でどうにかできる範囲の話だ。他所を巻き込んでまでやるものじゃない」
「……アルさんも飛びついたクチですか?」
「低ランクのときはな」
昔を思い出したかのようにアルさんは笑う。
「ランクが低い時は何かと焦るもんだ。だが、依頼を一つ一つ、確実にこなしていけば必ず次にいける。自信もつく。君はSランクになりたいわけじゃないと言っていたが、頑張れば、まぁ一人前くらいにはなれるだろう。焦らず、自分のペースで進めばいいさ」
なんだかんだ言って応援してくれている。
やっぱりアルさんは良い人だ。
でも、頭をわしゃわしゃするのはやめてほしい。
そんなアルさんのためになる話を聞いていた時、受付の少年が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あ、あの――」
私を見て、口をモゴモゴさせ、何か言葉を選んでいるようだ。
「黒真珠の君」
はぁ?!
ちょっと、この人、何言ってんの?!
「この人の二つ名は『黒真珠の君』だ」
貴様、まだ言うか!!
前言撤回!悪い人だ!
ほら見ろ。
少年がきょとんとなって――
「黒真珠の君、大変申し訳ないのですが、ギルドマスターがお呼びです」
「………」
――いなかった。
……そうか。
キミも何のためらいもなく、私をそう呼ぶのか……
二つ名世界、恐るべし!




