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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
34/34

2-9

 好奇心が疼いて、自然と足が動く。

 サクサク、と枯葉を踏む音の先に見えたのは、大きく開いた観音開きの扉。

 中の様子が丸見えということは、誰でも入って良いってことなのかな?

 目深にかぶっていたフードを外し、一礼して中に足を踏み入れてみる。

「お邪魔しまーす……」

 天井は吹き抜けでひときわ高く、室内の窓も全開になっていて、閉塞感は感じられない。

 木漏れ日とそよ風と共に、木々のざわめきが聞こえてくる、心地よい空間だ。

 灯りが灯されていないのに明るいのは、正面中央にあるステンドグラスのおかげかな。

 左右に長椅子が七列ほど並び、一際高い祭壇には両手で何かを抱えた女神像。

 威厳を感じる堂々とした佇まいだけど、美しさの中にどこか可愛らしさも兼ね備えた不思議な印象を受ける。

 抱えているのは……もしかして、『世界樹』なのかな?

「おや、初めて見る顔ですね」

「わぁ!びっくりしたぁぁ!」

 不意に声をかけられて、猫のように飛び上がる。

 気づけばそこには、いかにも「聖職者です」といった格好の男性がいた。

 この人も、背が高い。

 もしかして、こっちの人達はみんな高身長なのかな?

「しかもずいぶんと可愛らしいお嬢さんだ」

 私の失礼な反応を、微笑ましく笑って許してくれた。

 その笑い方がなんとなく、子供に対して向けているように感じるのは気のせいだろうか。

「えっと……すみません。ここは……」

「『世界樹の女神』を祭っている礼拝所です。まずは女神さまにご挨拶をどうぞ」

 神父らしき男性の導きで祭壇まで進み、手袋を外し、一礼してご挨拶。

「――…作法とか、ありますか?」

「女神さまに礼を欠かなければ特にありませんよ」

 礼を欠かなければ、か。

 礼拝って言ったら、両手を胸の前で組んで祈るスタイルなんだろうけど。

 指定がないって、実は意外とハードルが高かったりするんだよね。

 だがしかし!

 残念ながら、私は自他ともに認めるしがない日本人。

 日本人のお参りと言ったらこれでしょう!!


 ―― 二礼二拍手一礼 ――


 二拍手のコツは、片方の手を少しずらすと良い音が出るよ(←個人的感想です)

 突如、礼拝所に響く場違いな二拍手の音に、横にいた神父さんもびっくりだ!

 女神さまには、偶然でも突然この世界に足を踏み入れてしまった事をお詫びし、(おそらく)言葉も文字も解るようにしてくれたことに対する感謝を述べる。

 最後に、これから先、落ち込むこともあるけれど、元気にやっていきたいと思いますと締めくくった。

 そういえば……

 あの時の日本酒とおでん、美味しかったのかな?

 ――…ん?

 なんで美味しかったのかって思うんだろ、私。

 女神さまとおでんは関係ないのに。

 まぁいいか。

「ず、随分と……変わった、ご挨拶ですね」

 私的には礼を欠いてはいないんだけど、神父さんの笑顔が硬い。

 だったら最初からご挨拶の方法を教えてくれよぅ。

 一礼してお参りし終わった後、神父さんが銀のトレイを差し出してきた。

「……これは?」

「お気持ちです。――…もしかして、礼拝所は初めてですか?」

「はい。今まで住んでいたところに礼拝所はなくて……申し訳ありません。無作法者で……」

「大丈夫ですよ。お気持ちは俗にいう寄付です。物でもお金でも何でも構いません。あくまで”お気持ち”なので」

 なるほど。

 神社でいうとこのお賽銭みたいなものか。

 それなら、今後も十分ご縁がありますように……と肩にかけていたエコバッグからお財布を取り出す。

 おっと、十円玉も五円玉もない。

 だったらこれでどうだ。

「――…これは?」

 神父さんがきょとんとした顔でトレイに乗せた千円札と私を交互に見やる。

「……すみません。間違えました」

 つい、いつもの流れで日本円札を出しちゃったよ。

 ――ここは異世界。

 残念ながら世界最高水準の偽造防止技術と印刷技術が詰まっている日本のお札は通用しない。

 てへっと笑ってお金を出し直そうとした瞬間、ふわり……とやさしい風が通り過ぎ、千円札が飛んでいく。

 待って北里さん!行っちゃヤだ!

 はらはらと逃げるお札を追って、辿り着いた長椅子の下を覗いてみるけれど。

「あれ?」

 なぜか千円札は見当たらない。

 念のため、長椅子の周辺や、マントも叩いてみたけど、やっぱり出てこない。

「っかしいな…」

 これはまるで『ジクスの森』で指輪が消えた時と同じだ。

 じゃぁ、これも深く考えたらいけないやつか。

 それなら仕方ない、と改めて別の財布からこちらの硬貨を一枚取り出し、トレイの上に乗せる。

 今度は神父さんの目が見開かれ、動揺したかのようにトレイがカタカタ……と震え出す。

「……よ、宜しいのですか?」

「あー、はい。女神さまには何かとお世話になったので……」

 なんと言っても(たぶん)言葉も文字も解るようにしてもらえたからね。

 むしろ少ない方だよ。

「ですが、これは……大金貨でして……本当に、宜しいのですか?」

 へ?大金貨?

 改めて、取り出した硬貨と神父さんを見やる。

 金色に輝くそれは確かに金貨なのだろう。

 そう思って、財布の中からもう一枚金貨を取り出し、並べて見比べてみる。

 大きさで言えば、金貨は五百円玉、大金貨は、それより一回り大きい。

 あれれ?神父さんの口元が引きつってて、顔色が超絶悪いぞ?


 ――…もしかして、私、何かやらかしました?






 来週はお休みさせていただきます。

 皆さま、よいGWをお過ごしください。


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