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ザクザクと砂利を踏む足音に合わせて、緊張で心臓がバクバクしてくる。
15分くらい歩いたところで、人家らしき建物の外観がよりはっきりと見えてきた。
建物はおそらく2階建て。
外観は灰色の石作り、屋根は赤茶色の瓦みたいな物で統一されている。
時々、遠くからカンカン……とテンポよく何かを叩く音と、家畜らしき動物の鳴き声が聞こえてくる。
なんというか、よくイメージする「典型的な田舎」って感じ。
その集落の周囲を1メートル以上はある石垣がぐるりと囲んでいる。
これは魔物対策、なのかな?
その石垣の近くで、何やら作業をしている、この世界で初めて出会う第一異世界人を発見!
言葉、通じるかな?
通じなかったらどうしよう。
ヤバい。めっちゃ緊張する!
手に変な汗かいてきた!
ちょっと深呼吸しよう。
大丈夫――…何事も最初が肝心……笑顔、笑顔。
顔が見えないと不安だろうから、フードを少しずらして……よし、準備はOK。
「こっ……こんにちは!」
「お、おぅ!こんにち、は。――は?え?お、おんな?」
急に声をかけたせいか、第一異世界人をひどく驚かせてしまった。
びっくりさせてごめん!
でも、よかった!
竜賢さん以外でも言葉が通じる!
あと、女でごめん!
作業の手を止め、立ち上がったその人は男性で。
180cmはあるんじゃないかな?
168cmの私が見上げないといけないほど、背が高かった。
何を食べたら、そんなに大きくなるんだろう。
「――やっぱりお肉かな?」
「は?」
じゃなかった!
何か……会話を、続けなければ――
そうだ!
ここは某バラエティー番組の名物コーナーを真似て。
「えーと……何をされているんですかっ?」
「あ?あぁ、石垣の修繕をな。あんたは?ここいらじゃ見ない顔だが、どっから来たんだ?」
こことは違う世界から来ましたー(笑)とは、さすがに言えないもんね。
なので、来た方向を振り向き、指を差す。
「えっと、向こうから……」
「向こうって……あっちは『ジクスの森』しかないだろ。まさかあの森から来たのか?!」
すごく驚いたような、それでいて訝しむような顔で男性は私を見る。
「あの森は最近、魔物の動きが活発になってきて、危ねぇんだが……」
やっぱりあの森って、相当物騒な森だったんだ。
なんてったって「魔物を生み出す森」だもんね。
「いえ、その周辺、あたりで……」
「周辺に集落なんてあったか?」
「集落ではなく、祖父と暮らしていたんです。その祖父が、先日、亡くなりまして……」
「ふぅ~ん……」
この際、竜賢さんを祖父にしてしまおう。
ほら、嘘の中に本当を混ぜたらそれっぽく聞こえるっていうし?
男性は眉をひそめ、上から下まで、私を値踏みするように見る。
その視線はよそ者に対する警戒心と、わずかな好奇心が入り混じっているように見えた。
――…わかる。わかるよ。
自分で言うのもなんだけど、私、めちゃくちゃ怪しいもんね。
「祖父が亡くなって、食べる物もつきて……何かないかと探していたら、いつの間にか『ジクスの森』に迷い込んでいたみたいで……」
「あんた……あの森を抜けて来たのか?!」
「みたいです。途中、何かに追われましたけど、なんとか逃げ切れました」
へらっと笑い、おかげで満身創痍だと、ところどころ破れたシャツにボロボロになった手袋、ドロの付いたブーツをこれ見よがしに披露する。
「そんな軽装備で――…あんた……よく、無事だったな」
男性は心底感心したようにつぶやく。
ホント、それは私もそう思うよ。
「それで、お腹もすいたし、装備を整えるためにも、今晩ここに泊まりたいんですが、宿とかありますか?」
「宿か……酒場兼宿なら、道なりに進んで右手に1件あるが……」
「ご飯とかお風呂は?あ!トイレも!」
「飯は言えば付けてもらえるな。まぁ酒場だし?時間内なら付けなくてもなにかしら食いもんはあるから食いっぱぐれることはねぇだろ。風呂はねぇが金さえ払えば湯はもらえる。トイレは共同だな」
えぇーお風呂はないのかー。
こっちに来てから『聖水』で身体を拭くだけだったから、出来れば入りたかったんだけど。
そもそもこういった場合、お風呂自体が贅沢品って場合があるからなぁ。
残念だけど『郷に入っては郷に従え』っていうし、ここは妥協するしかないか。
でも、異世界のトイレ共同はちょっと怖い。
絶対、温水便座付きじゃないもんな。
「――…わかりました。ありがとうございます」
ゆーて、選択肢はないからな。
とりあえず、そこに行ってみよう。
「お、おぅ。鳥が木の枝をくわえてる看板が目印なんだが……嬢ちゃん、大丈夫か?」
「?何がですか?」
「いや……酒場だぜ?嬢ちゃんみたいな…その…かわいい…じゃねぇ…」
「?」
後半、声が小さくて何を言っているのか、全然聞こえないんだが?
おっさん、顔が赤いぞ?どうした?
「いや、じゃねぇんじゃねぇんだが……めだ…そう!目立つのが、行くようなところじゃ、ねぇんだが……」
「――…私、目立ちます?」
「あぁ……ものすっっごく……」
すんごい神妙な顔でおじさんは言う。
そうか、目立つのか、私。
なんで目立つのかわかんないけど、初めて言われたな、そんなこと。
だったらもう少し深くフードを被っておこう。
「……わかりました。なるべく、目立たないようにします!」
「お、おぅ。何がわかったか知らねぇが、わかってもらえたなら何よりだぜ」
……うーん。
正直、この人が何を言っているのか、よくわかんないけど、まぁいいか!




