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「え?この世界って、”剣と魔法”の世界なんですか?」
おなかが空いたと竜賢さんに訴えたら、ため息交じりに何かの果実をくれました。
考えてみたら昨日の遅い朝昼兼用ごはん以降、何も食べていませんでした。
いや、空腹を満たすためにのど飴は何個か舐めましたが…
そりゃぁ、おなかも減るよね。
シャリシャリしていて、甘酸っぱく、ジューシーでとてもおいしいこの果実。
竜賢さん曰く、
「1つ食すれば、空腹を満たし、疲労をも回復する『女神の果実』というものよ」
なるほど。万能薬みたいなものか。
でも、採れる木がもうないらしく大変貴重で、竜賢さんですら滅多に食べないんだとか。
そういう話は食べる前に言ってよ。
半分こしたのに。
もう種しか残ってないじゃん…
――話がそれた。
そう!
剣と魔法の世界ですよ!
誰もが一度は憧れる!
ドラゴンが居るんだもん。絶対そうじゃん!(←偏見)
なぜ最初に訊かなかった、私。
「主の世界は異なるのか?」
「んー、剣はあるけど魔法はないですね。私を含め、誰も使えないです」
いや、剣も使えないけどね。
ワンチャン木刀くらいなら…大丈夫かな?
そもそも、ドラゴン自体が存在しないって言ったらどんな反応するんだろう。
なんか可哀想だから黙っておくけど。
「ふむ。しかし、主は使えるであろう?」
「? 使えないですよ?」
思わず竜賢さんを「こいつ何言ってんだ?」っていう目で見てしまった。
ごめん。
だって、本当に使えないんだもん。
「だが、【空間収納】が使えたであろう?」
「…使えましたね」
それが何か?
「主は聡いのか鈍いのか、よくわからぬの…」
…うん。
絶対、褒められてないよね。
「ほれ。『契約石』に主の血をつけたであろう。あれは”血”で契約したのではなく、血の中に流れておる”魔力”で契約したものでの…そもそも”魔力”がないと契約すらできぬ」
だったら痛い思い(←大袈裟)をせずに、その”魔力”だけ流せばよかったのでは?
と、素直に口にしてみれば。
「……主は使うたこともない”魔力”の扱い方を知っておるのか?」
すんごいジト目で言われました。
――…ハイ。ごめんなさい。知りません。
あと、『契約石』に魔力を流して契約するのはこの世界、結構あるあるらしく「いちいち説明するほどの事でもない」んだとか。
そんなこと、違う世界から来た私が知ってるわけないじゃん。
……こいつ。
単に説明するのがめんどくさかっただけとみえる。
――じゃなくって!
そんなことよりも魔法ですよ!
魔法が使えるんですよ!
「と、いうことは…」
ど定番の「ファイアボール!」とか言って人類最大の敵『G』を殲滅したり、テレポートで瞬間移動させたり、モンスターを召喚して攻撃したり…あーんなことや、こーんなことができるあの魔法が?!
「どうやったら使えるんですかっ?!」
「そう急くでない。まったく…主は幼子か…」
もぅ、竜賢さんたら。
口では私を駄々っ子のように言うけど、本当は訊かれて嬉しいんでしょ?
大きな尻尾が揺れてますよ。ぷぷっ。
「まずは魔力の有無を調べることが先よ。魔力無くば魔法も扱えぬて…それこそ、ほれ。その『聖杯』の出番よ」
竜賢さんに言われて【空間収納】からささっと『聖杯』を取り出す。
高さは20cmくらい、両手で包み込める大きさの『聖杯』は、大きな2個の飾り石が特徴的だ。
「『聖杯』は、魔力を持つ者が触れると、その者が持つ魔力量の分だけ『聖水』となって現れる、と言われておる」
へぇ。戦争の道具じゃなくて魔力測定器なんだ。
よかった。平和的な使用方法で。
「…先に言うておくが、魔力があるからと言うて”魔法”が扱えるわけではないぞ?」
「その心は?」
「誰しも向き不向きというものがある。主とて、そうであろう?」
まぁ、そうですね。
学校の授業で同じように習ったのに、私に料理はむいていなかった。
後片付けは得意だったけど。
それと同じで、魔力がある人全員、魔法が使えるわけじゃないんだ。
あぁ、でも、額に傷持つ某有名魔法少年のところにもそんな人居たし…
ちなみに、魔法を扱うためにはきちんとした指導や訓練を受けないといけないらしい。
扱い方を知らないと、命に係わるんだとか。
そりゃそうだよね。
ハサミだって使い方を知らないと凶器になるもん。
「詳しい仕組みはわしも知らぬが、『聖杯』の両側に付いておる飾り石を…そう、包み込むように持つ。後は自然と『聖水』が湧いてくる故、しばし待つ…と聞いておるが…」
「湧いた『聖水』はどうするんですか?」
「魔力は『世界樹の女神』が与えし『知恵』…飲み干せば魔法が授かるやもしれぬ…」
それは是非とも飲み干さねば…
「魔力量が多い者ほど『聖水』の量も多く、魔法も授かりやすいと聞くが…主はどうであろうかのぅ…」
わくわくと一抹の不安を胸に『聖杯』を手に取ってみる。
心なしか竜賢さんもわくわくしている。
主に尻尾が。
改めてひんやりとした器の両側に付いている、手のひらサイズの飾り石を両手でそっと包み込む。
次第にじんわりとした温かさが広がっていき、ゆったりと…しかし、確かに『聖杯』に輝きが宿る。
「竜賢さん」
「うむ」
「…『聖水』が――でません…」
「…うむ」
うむ。…じゃねぇよ!
『聖杯』光ってるじゃん!
絶対なんかあると思うじゃん!!
なのに、待てど暮らせど『聖水』は湧きやしねぇ!!!
試しに逆さにして振ってみても一滴も落ちてこない。
なに、その「か~ら~の~」みたいな反応!
どこの芸人よ!
『聖杯』のくせに腹立つわ―。
私のわくわくを返せーーー!!
誰が何と言おうと、Gは全人類の『敵』デス。




