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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
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1-14

 別にね…別に「俺TUEEEEE」とか農業革命とか料理革命とか商人革命とかする気はさらさらないのよ?

 …夢ではあるけど。

 でも私ビビりだし、サボテン枯らすし、卵焼きクルクルできないし、貯金少ないし。

 そんなの無理だって、自分でも分かってはいるの。

 でもさ。

 ここまで来て…せっかく来た異世界で…

「魔法が使えないとか…ありえないっ!」

「現実は厳しいからのぅ…」

 もっと優しく、なーぐーさーめーろーぉー!

 このリア充がっ!

「しかし、おかしいのぅ。主は間違いなく”力”を持っておるはずなのだが…でなければ『アーティファクト』と契約は出来ぬし…」

「『聖杯』がポンコツなんじゃないですかぁー?」

「ひどい言いぐさだのぅ…」

 絶望に打ちひしがれた流れで私がポイっと捨てた『聖杯』を、爪先でコロコロと転がしながら竜賢さんがぼやく。

「だって光ったし!蛍光灯みたいにじんわりと!それで何もないとか…詐欺じゃんか…」

「ケイコウトウが何なのか、わしには知らぬが、主が嘆く気持ちもわからぬでもない。しかし、こればかりはのぅ…」

 くそぅ。なかったものは仕方ないってことか。

 あぁ、私の『G』撲滅大作戦が秒で終わってしまった…

「しかし、そう嘆くこともあるまい。たとえ魔法が使えずとも『アーティファクト』と契約ができた主であれば、魔法の代りに人々が日常で使うておる『魔道具』も使いこなすことはできようて…」

「『魔道具』?」

『魔道具』って、あれだよね。

 魔法が使えない人でも魔力さえあれば使える便利道具のことだよね?

「それって、魔力がない私にも扱える代物なんですか?」

「確かに魔道具は魔力を素として動く道具ではあるが、その基になっておるのが『アーティファクト』での。”石を介して力を使う”という構図は時代が移り替わろうともさほど変わらぬ故、主にも扱うことは可能であろう…」

「…つまり、日常生活に差し障りはない、ということですかね?」

「わしは魔道具を使うたことはない故、よくは分からぬがの…」

 ――なにその、関西名物「知らんけど」みたいなオチ!


 竜賢さんが猫のように爪先で遊んでいたポンコツ『聖杯』が勢い余って私の足元まで転がってくる。

 人が真剣に嘆き、悲しんでいる傍で何やってんだか(笑)

 思わずぷぷっと笑ってしまった私に気づいたのか、竜賢さんが気まずそうにそっぽを向く。

 くそぅ。ドラゴンのくせにかわいいじゃないか。

 そんな竜賢さんを見ながら『聖杯』を拾い上げようとしたのがいけなかったのか、手が滑ってしまい、ガランガランと派手な音を立てて『聖杯』が床に転がる。

「…主、一応『聖杯』ぞ?ちと、丁寧に扱え」

「すみません…」

 いや、お前が言うな。

 しかも一応って…私のポンコツよりもひどくない?

 …って、あれ。これってどっちが上だったっけ?

 この『聖杯』、微妙に非対称だから、どっちが上でどっちが下か、違いがわからないんだよね。

 両手で丁寧に石を包み込むように拾い上げた『聖杯』の上下を覗き込むように確認していた時。

 突然、上になっていた『聖杯』からふつふつ…と『聖水』が湧いて出た。

「はぁぁぁ?!」

「…主、ちと…」

 竜賢さんが「静かにせい」と言う前に、徐々に『聖水』で満たされつつある『聖杯』を無言で差し出す。

「……」

「……」

『聖杯』をそっ…と床に置き、手を離す。

 手を離してからも『聖水』はふつふつと湧き続け、満杯になったと思った瞬間、静かに止まった。

「……主、とりあえず、飲むが良い」

「……はい」

 満たされた『聖水』を一気に全部飲み干す。

 味はないけど、軟水みたいに飲みやすい。

 のどが渇いていたからちょうど良かったわ。

 飲み干した後、お互い、顔を見やり、頷く。

 今度は下になっていた方を上にして『聖杯』を掲げ持ってみるが。

「なんぞ、変化はあるか?」

「いえ…さっきと変わらないですね。飾り石がじんわり温かく、『聖杯』が輝くだけで…」

『聖水』は一滴も出てこない。

 それ以上の変化は見られない事を確認し、もう一度、お互い顔を見やり、頷く。

 再び『聖水』が出た方を上にして『聖杯』を掲げ持つと、またもや溢れんばかりの『聖水』がゆっくりと杯を満たす。

「なんぞ、違いはあるか?」

「んー…こっちの方の飾り石が若干温かくなるスピードが速いような気が…『聖杯』の輝きも少し強い、かな、と…」

『聖水』で満たされた『聖杯』を前にお互い「さて、どうしてくれよう」と視線を交わす。

「さすがにこれ以上は、お腹いっぱいで飲めないです」

「…では、ちと、飲ませてくれんかのぅ…」

「あ、はい」

 大きく開けた竜賢さんの口に『聖水』をゆっくりと注ぎ込む。

「…なるほど…なるほどのぅ…」

 私にとっては結構な量だった『聖水』を一口で飲んだ竜賢さんが、自分だけ納得するとか。

 何が「なるほど…」なのか、説明しろや、こら。

「これは懐かしい…実に懐かしい……幾年(いくとせ)ぶりであろうか…」

「もしもし?竜賢さん?」

「これは魔力の『聖水』ではなく神聖力の『聖水』か…どうりで主から懐かしい気配がしておったわけだ…」

「神聖力…?」

「うむ。どうやら主は”魔力”を持っているのではなく、”神聖力”を持っておるようだの…」



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