第九話 シスコン疑惑?
あらすじ
和馬が眠っている間にあれやこれやと何かしようと護衛の原野一美先生と話している美羽姉。和馬がいない時はこんな会話をしているんだろう……。そして話の結果で何故か和馬に跨ったが、結局和馬が起きてしまった。
髪は茶髪のセミロング、黒のスーツを綺麗に着こなしているクラス担任。何でここにいるのかを聞こうするが、美羽姉が代わり説明してくれた。
原野一美は偽名らしく、本名は轟井美夜というらしい。美羽姉が雇った護衛の人であり、学園での僕の安全を守るためにクラス担任にしたのだという。なるべく僕の周辺を護衛するために常に近くにいて、もしもの時は守ってくれる。そして何といっても喋り方や仕草が教室にいる時とは全く違う。
「あの、先生。何で喋り方が違うんですか? あと、呼び方は何とお呼びしたら……」
何だかしてはいけない質問をしたような気がするけど、これから先生とよく接するようになると思うためここは聞いておかないと。すると先生は僕の質問に優しく答えてくれた。
「それは、周囲の目を誤魔化すためにわざと天然っぽい喋り方や行動をしていました。あと、呼び方は呼びやすいように何でもいいですよ。和馬様は私にとっては護衛対象ですからご命令は何なりとお聞きいたします」
先生は僕に向かってゆっくりと丁寧にお辞儀をした。目上の人にそんなに深々と頭を下げられるとこっちとしても困るんだけどな。頭を掻きながら考えるが、一向に先生の頭が上がらない。そして一つ思いついた……先生の名前。僕は先生と向かい合って答えを出した。
「……なら、学園では普通に原野先生とお呼びします。あと休みの日とかも護衛するのでしたら先生とバレないように偽名じゃない本名で呼ばせて貰います。……轟井美夜でしたよね?」
「はい。確かに私の名前は轟井美夜で合っています」
先生にもう一度名前の確認を取る。聞き間違いじゃないみたいだ。それなら……。
「それでしたら、僕は休みの日には先生の事を美夜さんと呼んでもいいですか? そのほうが疑われにくいと思いますので……でも、親しくもないのに名前を呼ぶなんて、馴れ馴れしいですよね?」
年上を名前呼びにする、これは相手に了承を得らなくては呼ぶことなんてできない。僕は先生の反応を伺う。先生は少し考えて美羽姉に近づき、僕に聞こえない声で何か相談しているようだ。何だか楽しそうに話してるが、相談が終わったようだ。先生は僕のもとに戻ってきた。さて、結果はどうなったのであろうな。そして、先生が美羽姉に相談して出た結果を口にした。
「和馬様、結果から申し上げますと、美羽様がダメと申し上げています」
「え!? 何で美羽姉?」
僕は驚いた。結果に? いや、違う。美羽姉がダメだと言ったからだ。美羽姉はもっと協力的にOKしてくれると思ったが、まさか却下されるとは……。そこで僕は先生に美羽姉が何で名前で呼ぶのがダメなのかを聞いてみた。
「美羽姉は何でダメなのかは言っていましたか?」
美羽姉の事だ、何か物凄い理由があるに違いない……と思いたい。実の姉を今、信用できない自分が恥ずかしい。
「美羽様が……カズ君が呼んでいい名前はお姉ちゃんだけでしょ! ……と、そうおっしゃっていました」
「よし。先生。さっきの名前呼びは決定でお願いします」
透かさず僕は先生に言った……が、それをよしとしない人が一名いる。
「ちょっ! 何でよカズ君、ねぇ何で~。名前で呼んでいいのはお姉ちゃんだけ! お姉ちゃんは特別扱いしなきゃ嫌だ~」
急に話に入ってきた美羽姉。子供のように駄々をこねる姿は誰が見ても可愛いと思う。てか、何で特別扱いしなきゃいけないのかな? ふと、そこに疑問に感じた。美羽姉に対してはいつも特別という訳じゃないから、そこのところが気に入らなかった……のか? でも僕はそんな事は無いけどな。僕はそんな疑問を美羽姉に聞いてみた。
「美羽姉さ、そんなに特別がいいの? 僕は常日頃から美羽姉を特別だと思ってるけど」
そんな言葉が耳に届いたのか、いつも以上に笑顔になった。
「嘘!? 本当に? 本当にそう思ってる? 家族だからっていうのは無しだからね!!」
「…………いや、家族だからに決まってるじゃん」
沈黙。確かに美羽姉が言ったように僕は家族として美羽姉を特別に思っている。そう家族として。僕は美羽姉の様子を伺うが顔を下げており、顔色を伺えない。
「ねえ、美羽姉……」
「………」
顔を見ようと無理やり覗こうとするが、美羽姉はそっぽを向いてしっまうせいでなかなか見れない。だが、今ので何となく分かった。美羽姉がとる態度からして確実に今は見せられない顔なのだろう。それに少し涙が零れたのが見えた。僕は美羽姉が大丈夫になるまで待つことにした。それまで原野先生と話をする事にした。
「そういえば、先生は何で美羽姉……姉の護衛や僕の護衛なんてやっているんですか? 僕は別に護衛なんて必要ないのに……姉に言われたからだけじゃやらないですよね? 」
先生は少し顎に手を添えて考える。先生も説明が難しいのだろうか? 一分経っても返答がない。そこまで複雑な事情が存在するのか? 先生はようやく説明できる内容になったのか僕に話してくれた。
「簡単に話すなら……時給がいいからです」
「お、お金の問題!?」
正直驚いた。美羽姉が護衛を雇うくらいなんだから、実は美羽姉は変なことして命を狙われているからとか、カジノで稼いだときにヤバい事件に巻き込まれたとか、実は物凄い兵器発明をしていて、ある組織がその設計図を欲しがっているとかが理由で護衛を雇われた訳じゃないんだ……ってそれは理由になってない。
「……って先生! それじゃ、何で姉が先生を雇っているかの理由になってませんよ! 何で姉は先生を雇うことになったんですか?」
僕は先生に深く追及するが、先生はだんまりとしてしまった。しつこく聞きすぎたかなと不安に思ったが、タイミング良く美羽姉が話に加わってきた。
「それは、高校生の理事長だから何かと他の先生達に不満を持たれているかもしれないからね。それに上に立つ人間が子供なんだから、不満や嫉妬を持たない人はいないよ。だからもしもの危険な場合の時の為に護衛として原野……本名轟井美夜を護衛として雇ったわけ♪ カズ君納得した?」
懇切丁寧な説明に何とか納得は出来た。でも、それって他の先生達が美羽姉の理事長の座を狙っているって事? それに腑に落ちない点がいくつかある。これは美羽姉にはっきり言うべきだろう。少し内心では怒りながら強めに口にする。
「美羽姉! 不用心過ぎるよ! 自分の事をもっと大切にして! ……僕に護衛の人を回すよりも学園では自分の方に護衛の時間を回しなよ。僕、美羽姉には危険な目に遭って欲しくない……」
そんな僕の必死の訴えが胸に届いたのか、先生を部屋の隅に連れて行き、何かコソコソと話をし始めた。聞かれたくないのかわざわざ先生の耳に直接喋りかけている。逆に何だか心配になってきた。一通りの話がすんだのか先生と一緒にこっちに戻ってきた。僕は息を呑みながら美羽姉の言葉を待った。
「「…………」」
美羽姉も先生も何も言わない、僕はその沈黙が怖くなった。早く、早く二人の意見が聞きたいのに……。全身が今にも震えだしそうというところで二人がようやく口を開いた。
「「カズ君(和馬様)ってシスコンなの?(ですか?)」」
「んなこと、ああああるわけないだろっ! 僕は別にシスコンじゃないし……てか、美羽姉はそんなに嬉しそうな顔をしないの!」
心配してたのに無下に扱いやがって、僕はシスコンじゃないし……。そんな事を思って先生と美羽姉を見るが、美羽姉は先生の背後で何だか身体をくねらせている。先生はそんな事お構いなしに追い打ちをかけてきた。
「でも、和馬様は美羽様に対する態度が年頃の男子としては何だか心配しすぎというか……愛情がありすぎるというか……」
「いやいやいやいや、そんなの家族として当たり前じゃん! 家族愛じゃん! 普通でしょ?」
「うんうん♪ 普通だよね♪ カズ君はわ・た・し・の為に心配してくれてるんだよね~」
背後から抱き着かれ、背中に胸の感触がダイレクトで伝わる。男として感触を味わえるのは嬉しい。だが、普通の男子なら煩悩の一つや二つ出るが、僕にはそんなものは出ない。それより美羽姉に優しすぎるかを考える。小さい頃の記憶も引っ張り出し、照らし合わせる。だが、そんな事もないような気がする。昔の僕は美羽姉にだけ優しいという事は無かった。家族全員に優しかった。僕は後ろで抱き着いている美羽姉に言う。
「美羽姉。別に美羽姉の事だけを心配してるだけじゃないからね。僕は家族全員の事も心配しているからね。わかった?」
「うんうん♪ わかってるよ~♪ ウリウリ~」
抱き着きの次は僕の背中に顔を埋めてグリグリし始めた。そんな様子を見ていた先生はまたしても考え込んだ。何をそんなに考える必要があるのだろう? 背中ではまだ顔を埋めて気持ちよさそうにしている美羽姉。流石にずっとされていると疲れるな。そろそろ離してもらおうかなと思い始めた瞬間、先生が手を合わせた。考えがまとまった様だ。
「和馬様、やはり現状から見てみても百人中百人がシスコンと判断します。美羽様の行動を嫌に思わず、逆に楽しそうにしていますし、他の姉弟の人達なら今の行動で『邪魔、触らないでよ』と言います。という事で和馬様はシスコン認定をさせていただきます」
「え、何で? いやいや、僕、シスコンじゃないし、美羽姉の事心配なだけで……ただそれだけだし……」
先生にうまく説明しようとするが、なかなか上手に話せない。このままではシスコン認定が確定してしまう。ここは美羽姉に頼るしかない。思い立ったが吉日、いつやるかなら今でしょ。背後の美羽姉に何とか離れてもらって、僕がシスコンじゃない事を証明してもらうしかない。
「美羽姉! 美羽姉からも先生に言ってよ。僕がシスコンじゃないって事」
離れてもらった美羽姉の背中を押して、先生と向かい合わせる。少しの静寂。チラリとこちらを見る美羽姉。僕はそれに頷いた。それに応じるように美羽姉は先生に言う。
「カズ君は…………私の事が大好きな……シスコンですーーー!!」
「何言っとんじゃーー!! 美羽姉!!! 僕はシスコンじゃないって言って欲しかったのに!」
「あれ? そうなの? 私はてっきりカズ君のシスコンをはっきりさせて欲しいと思っていたのかと……」
「そんな事微塵も思ってないよ!! 今からでも先生に訂正してもらって!」
首を左右に振る先生。そう、まるでもうダメですと言っているようだった。
「もう、遅いと思われます。和馬様」
「え?」
先生が指を指す方向を目で追う。いつの間にか美羽姉の手にはマイクらしき物が握られていた。いや、間違いないマイクだ。それも学園とかにあるマイクで何故か電源がオンになっていた。
「み、美羽姉。そ、その手にある物は……何?」
僕は信じたくなかった。頭の中で予想してしまった事実に。だが、聞かずにはいられない。死の宣告を受けるのかと思わせるほど身体は固まっていた。
「……? これは校内放送のマイクだけど?」
「何で……そんなものを持ってるの?」
「勿論、カズ君がシスコンだと伝えたんだよ……学園全体に」
「やっぱりかーーーーーーーーー!!!!」
僕はその日から姉を愛するシスコン野郎と学園全体に伝わってしまった。
投稿が遅くなりまして申し訳ございません。今回は美羽姉と先生、和馬三人の会話です。先生の事も少し解ってきます。さらに、和馬のシスコン疑惑が出てきてしまいました。さて、これからの美羽姉の行動が怖くなってきますね。では、次回の投稿もお楽しみください。
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