第三十五話 宣言
その日は夢を見た。そう、昔々の小さい頃の自分の夢を。
あれは幼稚園の時。美羽姉がリビングで遊んでいた時の事だった。当時の僕はまだよく分かっていなかったのだ。この時から美羽姉の態度が段々と変わっていく事に……。
「ねえねえ、カズ君。カズ君はお姉ちゃんの事、好き?」
そんな質問を投げかけるが、テレビに夢中だった僕はボーっとしていた為、曖昧な返事をしてしまったのだ。
「……あ、……うん」
「ほんと!? ほんとに好き? 結婚したい?」
目をキラキラ輝かせながら僕と正対する。流石の僕も真正面に来られたら、ちゃんと反応するしかない。けれどもまだ幼い僕にとって結婚とは何か分からなかった。だから、ついつい疑問が生まれてしまうと美羽姉に聞いてしまう。
「ケッコンって何?」
「結婚ってね……大好きな人といつまでも一緒に居られるようになる魔法の契約みたいなものよ」
美羽姉の言う事はいつも正しい。この頃から既にそう思うようになっていた。つまり、返事をしてしまったという事だ。
「いいよ。僕、美羽姉とケッコンする!」
今思えば、姉弟で結婚なんて出来るわけないのに何で答えてしまったのだろう? 僕の意識はここで途絶えたーー。
*****
昔の夢から目覚め、布団から起き上がる。昔と今も天井は全く変わってない。頭を抱え、自分でも何て夢を見てんだと思ってしまった。けれども、その夢で今回の美羽姉の対応について目処が付いた。今日の朝食の時にでも話そう。
制服に着替え、一階に降りていく。階段一段一段踏んでいくと、頭の中で色々考えてしまって、心拍数が跳ね上がる。美羽姉はどんな反応で迎えてくれる? 怒った表情? それとも悲しんでる? いやそれともーー。
リビングの前まで来てしまった僕は大きく息を吸い込み、深呼吸した。多少はこれで落ち着いたはず。ドアノブを掴むと手が震え、上手く回せない。まるで手首がコンクリートで固められてしまっているかのようだった。もうどうにでもなれという気持ちで勢いよく開ける。
「あ♪ カズ君。おはよう♪」
美羽姉はいつもと同じ態度で接してくれている。昨日の事が無かったかのようだった。リビングに入りながら美羽姉に挨拶をする。
「み、美羽姉。おはよう……」
そのまま台所に行くが、鍋には火がかけており、炊飯器に至っては炊き終わっていた。今日は美羽姉が早めに来てやってくれたららしい。
「美羽姉、ありがとーー」
「それより……カズ君。昨日の事なんだけど……急にあんなこと言ってごめんね。別にカズ君を困らせたいわけじゃないんだよ? それでね? お姉ちゃん、決めたの」
「な、何を?」
「カズ君と結婚出来るように法律から何とかしてみるよ!!!」
「ちょっ、ちょっと待ってって! 法律なんて変えられるわけないでしょ? それに姉弟!!」
「お姉ちゃんは世間の目なんて気にしないから、結婚しましょ♪」
その勢いで僕に張り付いてくる美羽姉。何だかいつもより良い匂いの為か頭がクラクラしてしまうってそんな事よりも! 美羽姉を突き放し、意識をしっかり保つ。
「……結婚するのをお母さんとお父さんが許すはずがないでしょ?」
「その事なんだけど……これ見てっ!」
美羽姉が僕に携帯電話の画面を見せてくる。どうやら、両親から送られてきたメールのようだ。顔を近づけ、内容を確認する。
「何々……。『あなた達の事はあなた達に任せるから、好きにしなさいーー追伸、避妊はしてね♪』って……何考えてんのっ!!!」
携帯を掴み、床に叩きつける。画面にヒビが入ったが、ここで壊さなければいけないと思い断行した。足を上げ携帯を思いっきり踏みつぶす。
「あああああぁぁァァァー!! 私の携帯……。何で壊すの!?」
「美羽姉こそ何で二人に連絡なんてするの!? ややこしくなるじゃん!」
「だって親公認のとかの方がこれから色々とやり易くなるでしょ?」
「えっ!? 何が!?」
そんな調子で朝から二人で言い合っていると、一階に居るもう一人の同居人がリビングに姿を現した。
「ちょっと! 和馬。何で起こしてくれなかったの? このままじゃ遅刻しちゃうじゃない。早く朝ご飯出してよ!」
頭に寝癖をつけ、パジャマ姿で僕に怒ってくる。いつも起こしているわけではないが、この展開は余りにも理不尽だと思う。
「そういえば、昨日は何で二人とも早く寝てるの? あたし晩御飯が無くて困ってたんだけど……」
「き、昨日はその……色々あったんだよ。それで疲れて寝ちゃったんだ」
「あ、あたしがいない間に一体どんな激しいことをっ!? 美羽さん抜け駆け何てズルいですよ!」
「千景は一体何の話をしているの!?」
千景には昨日の家の損壊、誘拐事件等は知らない。丁度僕達が床に就いた時に帰って来たようなので無理もない。それに今日は学園があるのに朝からこんなにゆっくりしていていいのだろうか?
「美羽姉、それに千景も昨日の事はもう後でもいいから早く学園に行こ」
「それもそうだね♪ それじゃ行こっか、カズ君♪」
「あ! ちょっと待って! あたしを置いていかないでよ~」
僕は美羽姉に腕を引っ張られ、学園に向かうのだった。
*****
美羽姉は今日の朝礼で話すことがあるらしく、先に学園内に姿を消した。僕もようやく美羽姉から解放された腕を回しながら一息つきたいところだったが、千景がやたらジロジロ見てくるので周囲から浮いていて恥ずかしい。
「あのさ、千景。何か変かな僕……」
「えっ!? いやいやいやいやっ! 全く変じゃないよ。ただ、美羽さんと何かあったのかなって。いつもと二人の雰囲気が違ってたというか……美羽さんが変わったというか……まあよく分かんない。それじゃ、あたしも行くね! また放課後ねー!」
千景も足早に学園内へと入っていった。一人になり、一体これから美羽姉とどうやって向き合って良いのか分からず、立ち尽くすが朝礼もあるので仕方なく重い脚を引きずって教室に向かう。
これからがもっと大変な事になるとは知らずに……。
美羽姉が色々とヤバい……。まあ皆さんもこんなことになるのは予想できたでしょう。次回第一部完! という感じで進めていきます。そして第一部の次と言えば……そう! 第二部。「姉による」の第二部を始めていきます。夏に入りますのでイベント盛りだくさん。勿論、いずれ水着回も……。それではお楽しみに。
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