第十一話 我慢…
あらすじ
シスコン野郎と学園に伝わってしまった和馬。そのせいか気持ちが落ち着かない。相談するために信三に電話をする。昔の話をしながら、美羽姉の事を考える。信三の話では幼馴染の女の子がいるという。だが、引っ越していないと聞いた。信三に励まされながら、落ち着きを取り戻した和馬は晩御飯が出来るまで、風呂に入る事にした。
その頃ご飯を作っている美羽姉はーー。
「はぁー、カズ君がお風呂に入っているのに、突撃できないなんて……」
フライパンで炒め物をしながら、学園を出る前の事を思い出す。
*****
護衛である原野先生に生徒指導室に呼び出され、帰るのが遅くなるのを承知で向かう。扉を三回ノックして入室する。そこでは椅子に座り、パソコンで作業する先生が待っていた。
「急に呼んでしまい申し訳ありません、美羽様」
私が入って来たと同時に椅子から立ち上がり、綺麗な四十五度の礼をする。私にそこまでする必要はないのだけど……。
先生は護衛として完璧な対応をする。私にはよくわからないけど、非常に良い態度だと思う。護衛対象に失礼のない言葉使い……完璧すぎる。一礼を終え、先生はひとまず私を向かい側の席に着かせる。
何の事で呼ばれたかは分からないが、ある程度予想がつく。多分護衛の件でしょうね。私のわがままで振り回されて、嫌になったのでしょう。他に何が不満なのかは知らないけれど、給料が少ないから、給料アップ? それとも、もう辞職したいのか。私は先生の出方を伺うが、まだ黙ったままみたい。
「……(早く話してくれないかな? 帰ってカズ君とイチャイチャした後、〇〇〇や××××が出来ないじゃない……)」
私の雰囲気に気づいたのか、先生もようやく重い口を開いた。
「……美羽様、申し訳ありません。今夜の護衛の件なのですが、私事がありまして、美羽様のそばにいられません。ですが、私がいなくても和馬様に何もしないでくださいね? 昨夜みたいな事を起こされては隠滅するのが大変なんですから」
私は驚き、つい声を上げてしまった。
「え!? 何でよ? 何で襲っちゃダメなの?」
先生に向かって身を乗り出し、鼻がくっつくきそうなほど近くに顔を寄せる。だが、先生は私の顔を手で押し戻す。鼻が潰れそうだ。先生が突き放した後、カズ君を襲ってはいけない理由を話す。
「流石に居ない時まで問題を起こされても、私は対応できないので……。それに和馬様に変な事して嫌われても知りませんよ」
私に笑いながら、嫌味を言い放つ先生。嫌な性格してますよね……先生って、そう心の中で思った。
「……(護衛のくせに~!)」
頬を膨らませ、先生を睨むが、大した威嚇になっていないようで逆に笑われてしまった。
「美羽様、怒ったお顔も可愛いですよ?」
「ふん! そんなこと言ったって機嫌直してあげないからね!」
顔を背け、腕を組む。先生が無理やり見ようと顔を覗き込むが、私はそれをかわしつづける。何度も何度も……。数十回かわして、ようやく諦めてくれた。後から首が痛くなってきたから丁度良かったけど。
「……それでは、美羽様。話はそれましたが今夜はお暇を頂いてもよろしいですか?」
先生はどうしても今夜の私の護衛を休む用事があるようだ。しょうがない、今夜は私の暴走を止めてくれる先生もいないし、我慢しようかな。そんな事を思ったためか、ため息が出てしまった。
「……わかった、今夜だけだからね。ただし、次は前もって休む事を言ってよね?」
「はい、かしこまりました。美羽様ありがとうございます」
先生は素直に私にお礼を言ってくる。大したことじゃないのになー。それに年齢はこっちが下なのに、何で先生はこんなにペコペコしているのか。まあ、私が雇っているからってのも理由になると思うけど、ここまで律儀に護衛としての礼儀なんか守らなくてもいいのに……。私は先生に色々聞いてみることにした。
「あのー、先生はどこで護衛としての技術を学びました? ……私、気になります!」
「そんな大それた技術じゃないですよ。私はこれで勉強しましたから」
机の下の鞄からまるで六法全書並みに分厚い本を取り出した。表紙は『指一本で誰でも守れる護衛術!』と書かれている。まさかーー。
「先生……。も、もしかして、それで勉強したんですか?」
「はい。その通りでございます美羽様」
今の発言が信じられなく戸惑ってしまった。だが、私ならそんな本を読まなくても独自の考え方に基づいた護衛術を開発することも可能だが、先生は本を読むだけでそれを自分の技術にしてしまうなんて凄いなー。
中身が気になった私は先生に本を見せてもらう事にした。普通の護身術の内容とあんまり変わらず、特に難しいわけでもない。この本のどこに先生をあれほどの強さにしてしまう要因があるのだろう?
「先生は他に何か仕事をしていたことはあるんですか? ……あ! もしかして、ヤバめの仕事とかですか?」
からかうつもりで軽く言ってみたが、動揺なんかせず瞬間的に先生は答えてしまった。
「はい。小さい頃から命に係わる様々な仕事をしてきました。そのおかげで現在はすぐにどんな仕事にでも対応可能です」
やはり、先生は一般人とは違うと改めて認識させられた。それに先生は護衛としては満点、しかし普通の人と比べると0点に近いでしょう。それに人間としての感情がなさすぎる。それゆえにどんな危険なことでも命を懸けて行うでしょう。私はこの時そう感じた。先生に本を返し、席を立つ。これでもう帰れるかなと思ったが話はまだあるようで帰るのを制止された。
「美羽様、後この学園の事なのですが……」
珍しく歯切れ悪く言う先生。言うならちゃっちゃと言って欲しい。帰る時間が遅くなるのは嫌なのに……。先ほどとは違いすぐさま話を再開した。
「ご自分がご卒業した後はどうなさるのですか? 一応、美羽様も学生として卒業する事になると思うのですが……」
何だ、そんな事かとホッとする私。てっきり学園を私の好きに改造するのはいかがなものでしょうかとか言われるのかと……。
「それはね、卒業しても学園長の席に居続けるよ。勿論、カズ君が卒業したら一緒に卒業するけどね♪」
「そうでしたか……わかりました。それともう一つだけよろしいですか? 私はいつまで護衛をしていればよろしいでしょうか?」
「そういえば、決めてなかったね……なら、ひとまずカズ君が卒業したら契約終了って事でいいかな?」
「はい、かしこまりました。こちらは何にも問題ありません」
「なら、それで決定~♪ ……じゃ! 帰りますので」
手を挙げて席を立つ。先生もそれに合わせて、席を立つようだ。指導室から出ると、先生は一礼をして私から離れていく。これでようやくカズ君と一緒に居られる。だが、今日は私の暴走を制止してくれる護衛がいない……。鞄を持って靴のある下駄箱に向かう。
「……(ま、いいかな。今日は帰るの遅くなったし、それに昔よりもベタベタ出来なかったから、今回はこの位で我慢しようかな♪)」
考えながらも足取りは非常に軽かった。
*****
そして現在、いつの間にか料理は完成しており、晩御飯を並べながらカズ君がお風呂から上がるのを待つことにした。
今朝は焦っちゃってまともな朝御飯が出来なかったけど、今回は味見をしっかりし、美味しいことを確認した。これでカズ君も喜んでくれる。カズ君の笑顔を思い浮かべるだけで私の心臓はいつもドクッドクッと張り裂けそうなほど脈打つ。本当に心安らぐ、いつまでもカズ君と一緒に過ごしたいな……。
数分経った頃にカズ君がお風呂から上がった。髪を乾かした後なので少し湿り気があり、何だか色っぽく、ムラムラしてきちゃう。さらに髪からはシャンプーの匂いが鼻孔を擽る。ご飯の匂いよりもこっちを嗅いじゃいそう。
「美羽姉、待っててくれたの? 先に食べてもよかったのに」
「駄目だよ、一人の食事は寂しいんだから、カズ君と二人で食べなきゃ私嫌だな~」
「そう? なら二人で一緒にご飯にしようか」
「うん♪」
こんな日常がいつまでも続けばいいのに……。これからもずっと、永遠に、カズ君と一緒……。カズ君の瞳を見つめていると「ご飯は大丈夫、だよね?」と言ってくるので、頷き大丈夫であることを示した。カズ君が美味しく食べてくれたことに一安心する私。
一緒に食事を済ませ、お互い部屋戻り、私は机の引き出しの二重底からリモコンを出して、スイッチを押す。机の正面から無数のモニターが出てくる。これは家に仕掛けてある小型監視カメラの映像を観ることが出来る。カズ君は部屋で横になっているだけで寝てはいないみたい。だが、頭を抱えて何をしているのか?
「……(何か悩み事だろうか? それならお姉ちゃんとして相談に乗ってあげようかな。いや、今日はやめておこっと。つい襲っちゃったりしたらいけないもんね。我慢我慢、明日までの辛抱だぞ私。今日は映像で我慢しよっと……そうだ! いつもの日記日記♪)」
結局そのまま朝までカズ君を観察しながら日記をつけることになった。
いや、読者の皆さんお久しぶりです。投稿が遅くなり申し訳ありません。「姉による」を執筆しながら、次の作品はどうするかな〜なんて思っていたら、あっという間に時間が過ぎてしまいました。でも、どうにか投稿が出来ました。
キャラクター紹介の方はもう少しお待ちください……。
てな事で、この作品の次のものは何にするかで、軽くストーリーを作成していました。この作品が無事終わりましたら、そちらも投稿しますので、お楽しみに。
感想やブックマーク等よろしくお願いします。




