第2話 ③
翌日の昼下がり。
全体レッスンが始まる前の広々としたレッスン室で、コウは、相変わらず隅っこで一人ストレッチをしていた。
(……昨日はナカくんに見苦しいところ見せちゃったなぁ……。今日も足引っ張らないようにしなきゃ……)
しょんぼりと自分の足首を回していると、バタバタと威勢のいい足音が近づいてきた。
「おーい! コウ! ここにいたのか!」
「ひゃいっ!?」
変な声が出た。振り向くと、太陽みたいな笑顔を浮かべたカイが、ハキハキとした大きな声で俺の顔を覗き込んでいた。
そのすぐ後ろには、どこか涼しげな表情のチカが静かに立っている。
「か、カイくん……チカくん……? な、なにかな……?」
急に二人に囲まれ、俺はオドオドと身体を小さくした。
「なにって、これ! 事務所の近くに新しくできたカフェのサンドイッチ! 買いすぎちゃったからさ、一緒に食べようぜ!」
カイが屈託のない笑みを向け、どさりと大きな紙袋を俺の前に置いた。
「えっ……で、でも、俺なんかが一緒に食べたら、二人の邪魔に……」
「邪魔なわけないだろ」
チカが腕を組み、クールな声でボソッと言い放つ。
「カイが『コウと一緒に食いたい』ってうるさいんだよ。……ほら、座って」
「あ、うん……!」
チカの淡々とした圧に押され、コウはパイプ椅子にちょこんと腰かけた。
「コウさ、新曲のAメロの振り、ちょっとコツがあるんだけど見る? 俺、あそこ得意なんだよね!」
カイがサンドイッチを頬張りながら、楽しそうに話しかけてくる。
「えっ、あ……でも、二人は忙しいし、迷惑じゃ……」
「遠慮すんなって。同じSeniorだろ」
チカがペットボトルのキャップを開けながら、素っ気なく、でも確かな熱を込めて言った。
「俺たち、コウが一人で悩んでるの、いやだよ。もっと頼ってほしい。PartLoveはもう終わった。今の俺たちは『MARCHING』なんだから」
「……」
カイが微笑んで、じっとこちらを見る。
俺がずっと怖がっていた壁なんて、最初から二人の中にはなかったんだ。ただ、俺が勝手に遠慮して逃げていただけだった。
「……う、うわぁぁん! カイぐん゛、チカぐん゛っ! ありがとうっ!」
「うわっ!? 泣いた!? なんでサンドイッチ食べながら泣いてんだよ!」
急に泣き出したコウに焦るカイ。
「……まったく。泣きすぎ〜」と呆れつつも、どこか優しそうに口元を緩めるチカ。
そんな三人のやり取りを、レッスン室のドアの隙間から、最年長のヒカルとヒロがこっそり覗き込んでいた。
「……よかったね、ヒカル。コウ、打ち解けられたみたい」
ヒロがホッとしたように胸を撫でおろす。
「うん……俺たち、元PartLoveの絆が強すぎて、無意識にコウを遠ざけちゃってたのかもな。……カイとチカが繋いでくれて助かったよ」
ヒカルが温かい目で見守りながら、優しく微笑んだ。
Seniorの5人が集まり、笑い合いながらダンスの確認を始める。
その輪の中心で、まだ涙目になりながらも、コウが今日一番の笑顔を浮かべていた。
(……ふぅ。一安心、一安心。)
部屋の反対側で、その様子をドキドキしながら見守っていたメイは、深く息を吐き出して壁に寄りかかった。安心から力が抜けて、ズリズリと床に座り込む。
「……グッジョブ、メイくん」
隣にすっと寄ってきたナカが、耳元に口を寄せて小声でつぶやく。
「ナカのおかげだよ。ありがとな」
メイはナカの頭に手を置いてポンポンと撫でる。
「べっ、別にィ?俺は泣きつかれて面倒くさかっただけだしィ〜」
ナカはそっぽを向いたが、その耳は少し赤くなっていた。




