第1話 不揃いな足音①
「──MARCHING! MARCHING! MARCHING!」
地鳴りのような大歓声が、超満員のフェス会場を揺らしていた。
照明が明暗を繰り返し、客席で眩しく輝くペンライトが、まるで光の海の波のようにうねっている。
重低音のビートが腹に響き、ステージの幕が上がる。
「東京ーーっ! ラストまで声出していこうぜ!!」
爆音の特効とともにセンターへ飛び出したのは、絶対的エースのカイだ。
180センチを超える長身と圧倒的なスタイル、画面越しでも息を呑むほどの整った顔立ち。彼が不敵に微笑んでカメラを射抜くだけで、会場全体から悲鳴のような歓声が上がる。映画やドラマで主演を張る男の華は、伊達じゃない。
『──描いた未来へ、止まらずに進め!』
続いてマイクを握ったのは、最年長のヒカル。
グループ随一の圧倒的な歌唱力が、広大な会場の隅々にまで突き抜けていく。結成前からのファンサや神対応と圧倒的な安定感で、グループを支える大黒柱だ。
その隣には、長年の同期であるヒロが寄り添い、キレのあるダンスでパフォーマンス全体のクオリティを向上させる。
まさに「MARCHINGの熟年夫婦」と呼ばれるにふさわしい、揺るぎない存在感だった。
「声出せ! まだまだ足りねえだろ!」
煽りを入れるのは、弱冠18歳にしてグループ第3位の人気を誇る「顔面国宝」のラップ担当、ユーマ。
その横では、Juniorのリーダーであるタクや、超天然なコモリがフレッシュな笑顔で客席を魅了し、高校生組のマキと最年少のハヤマがエネルギッシュなダンスでステージを駆け回る。
最前線でグループを引く年長世代らSeniorの圧倒的な貫禄。
後方からフレッシュな風を吹き込む年少世代らJuniorの爆発力。
15人という大所帯が織りなす圧倒的なフォーメーションダンスに、観客は完全に呑み込まれていた。
(……相変わらず、すごい熱気だな)
その激しいフォーメーションの「中層」に位置しながら、俺──メイは、冷静に周囲へ視線を配っていた。
フロントで眩しい光を浴びるカイやヒカル。
彼らの引き立て役にならないよう、必死に食らいつきながらクオリティの高いパフォーマンスを見せるチカ。
そして、その少し後ろに控える中間世代のMiddleの面々。
圧倒的な歌唱力を秘めながらもパートの少なさに冷めた表情を浮かべるエイタ。
ラップの見せ場をユーマに奪われ、投げやりなステップを踏むナカ。
華やかな顔立ちを持ちながら無気力を装うアサヒと、失敗を恐れて安全圏のダンスに終始するニャン。
(エイタ、ちょっと走ってる……ナカはフォーメーションの意識が後ろに寄りすぎだ。……頼むから、最後まで集中してくれよ)
俺は心の中で毒づきながら、自分のポジションへと移動する。
15人組男性アイドルグループ「MARCHING」。
「27歳から15歳までの多世代が織りなす、完璧な行進」
それが、世間に向けられた俺たちのパブリックイメージだ。
トップクラスの人気を誇るカイ、ヒカル、ユーマの3人率いる、どこを切っても隙のない大型グループとして、メディアは俺たちを絶賛している。
ラストサビの爆発的な盛り上がりとともに、曲がフィナーレを迎える。
15人が一斉にポーズを決めると、この日一番の歓声と拍手が降ってきた。
「ありがとうございました! 俺たち、MARCHINGでした!」
カイの爽やかな挨拶に合せて、全員で深く頭を下げる。
客席から送られる温かい大歓声。眩しすぎるスポットライト。
──だが。
ステージの袖に一歩足を踏み入れた瞬間、その「完璧な行進」の仮面は、静かに剥がれ落ちていく。
「お疲れ〜」
「汗ヤバい、着替え着替え」
さっきまでの熱狂が嘘のように、楽屋へと続く舞台裏の通路には、どこか噛み合わない不揃いな足音が響き始めていた。
(よし、ここまでは予定通りだ……。問題は、この後なんだよな……)
汗をタオルで拭いながら、俺は大きく息を吐き出した。
重い防音扉の向こう側にある楽屋。そこは、世間の誰も知らない「MARCHINGのリアル」が渦巻く場所だった。




