第4話
俺の名前はアシベ・ヒロ。
──運び屋だ。
報酬次第でどんなにアブナイモノでも運んでみせる。
裏社会の住人に俺の名を知らない奴は居やしない。
プロ中のプロ、超一流のプロである俺は、日々の体調管理を怠らない。
依頼の遂行ミスに、体調不良など言い訳にはならないのだ。わかるだろう?
そんな俺の体調管理法は、ランニングだ。
ふっ。そんなことで……などと侮っているのだろう?
ちょうどいい。これからこの俺が、実際に走って教えてやろう。
裏社会で生き抜く力。それを養う走り方を。
まずは軽く体をほぐす。
いきなり走り始めるなど、イキった坊やのすることだ。そうだろう?
ほぐれたらゆっくりと走り始める。
大事なのはここからだ。俺は走り出したらもう、止まらない。
もう誰もこの俺を止めることなど、できはしないのだ。
ーーにゃぁん……ゴロゴロ……
「ん〜?ここがきもちぃんでしゅか〜?そうでしゅかぁ〜」
俺は、ネコが好きだった。
足元に絡みつきながら、時折へそ天で転がるもふもふ……わかるだろう?
「ふふっ。ごめんにゃ〜?今ちゅ〜る持ってにゃいのだ〜」
俺は無闇にエサを与えたりはしない。それが裏社会の、ルールだからだ。
ゴホン。さぁ、ここからだ。
俺のランは今ここから始まる。そうだろう?
もう誰も!この俺を止めることなど、できはしない!
「こちらの用紙にご記入、お願いいたしまぁ〜す」
「あぁ、えーと、ア・シ・ベ・ヒ・ロ……電話番号は……ゼロ・きゅうーー」
俺はモニターアンケートが好きだった。
「ご協力ありがとうございまぁす!こちら記念品で〜す」
ポケットティッシュももらえた。
一流の運び人たる者、不意の鼻血にだって、もう慌てない。
さ、さぁ!ここからだ!ここからが本当のスタートだ!
本気モードの俺が止まることなど、あり得ない!
ーーピッポー、パッポー……
「あらら、おばあちゃん、危ないよ?荷物持ったげるからーー」
俺はお婆ちゃん子だった。
「ん〜?あんた見ない顔だね?いいのかい?」
ふ。プロ中のプロである前に、一人の人間だ。そうだろう?
俺は見ず知らずの婆さんと一緒に、ゆっくり横断歩道を渡る。
手を繋ぐことも当然、忘れはしない。
歩行者信号は赤だったが、裏社会に生きる俺には、関係ない。
渡りきった婆さんが飴ちゃんをくれた。
俺は甘い物が、好きだった。
ふと見上げれば、目の前には俺の住むマンション。
あれ?何のために外出たんだっけ?……まいっか。
俺の名前はアシベ・ヒロ。
──運び屋だ。
報酬次第でどんなにアブナイモノでも……運んでみせる。
つづく?




