第3話
俺の名前はアシベ・ヒロ。
──運び屋だ。
報酬次第でどんなにアブナイモノでも運んでみせる。
裏社会の住人に俺の名を知らない奴は居やしない。
そんな俺は今クライアントとの接触を控え愛車の点検中だ。
依頼の遂行中にトラブるのは歓迎しないからだ。わかるだろう?
とはいえトラブルというのはいつだって向こうのほうからやってくる。
その時どう切り抜けるかは、今この時にかかっている。
ふっ。プロ中のプロである俺にとっては、
どんなトラブルが降って来ようがノープログラムだが。ん?
俺の愛車はレサクスLS500。
ちょっとでかいのが玉に瑕だ。がしかし、そこがイイ。わかるだろう?
運ぶのはいつも荷物…とは、限らない。
俺は愛車を簡単に他人に触らせるようなことはしない、決してだ。
互いの素性を知り、裏切らない、信頼できる相手。
そういう触らせるに値する奴はなかなか居やしないが、
自分の相棒である愛車だ。当然だろう?
そもそもだ、車の管…
「レサクスでお越しのアシベ様〜?黒のレサクスでお越しのアシベ様〜?」
おっと、ミッションコンプリートのようだ。
急いで愛車を確認したい気持ちはわかるが、
焦るのはナンセンス…というものだな。
ここで急いでレジに向かうのは素人丸出しの…坊やだけだ。
大人の余裕を行動で示す。それがダンディズムというものだ。そうだろう?
まずはゆっくりと立ちあが…
「レサクスでお越しのアシベ様〜?黒のレサクスでお越しのアシベ様〜?」
ふっ。電話で例えるならツーコール目だな。よんコール目ま…
「レサクスでお越しのアシベ様!レサクスでお越しのアシベ様!」
何か早口になっている気がするが、気のせいだろう。
よんコール目まで待つつもりだったが中途半端に立ってしまった。
仕方ない。そういう時もある。
俺はゆったりとした身のこなしで、真ん前にあるレジに向かって歩く。
いつだって慌てない。
先ほどから目の前で張り切ってコールしていた女が俺に問う。
「レサクスでお越しの?アシベ様でしょうか!?」
なんか機嫌悪い?
逆に問いたい気持ちを堪える。大人の余裕というやつだ。
俺は静かに頷く。
「お待たせ致しましたっ!作業の方っ、終了致しておりますっ!チッ」
心なしか冷たい印象を受…チッて言った?ねぇ今チッて…が、忙しいのだろう。
俺はそんな事で気分を害したりは……ふっ。しない。
キリッと女のほうに視線をやる。
女は何か危ない力を感じたのだろう、視線を外す。勘がいいようだ。
「ご精算はどのようになさいますか?」
──カードで。
俺は黙って胸ポケットからクレジットカードを出す。
無駄なものは持ち歩かないのがプロというものだ。
女に渡す。人差し指と中指で挟んでおくのも忘れない。
一瞬女の眉間にシワ?が寄ったように見えたが、気のせいだろう。
女はカードを受け取ると何故かすぐに青いトレイに置いた。
「あの、お客様?こちらのカードは……」
女が困った顔で何か言っている。
そのクレカを見るのは初めてなのか?
そんなに珍しいカードではないんだが…。
ん?
え?んん?あらっ?
モトキヨのメンバーカードじゃん!
なんでここに?
え、あれ?やっちゃった?やっちゃったの?
あっちゃあ、どうしよう!?
「お客様?お支払いはいかがなさい…ま…す?」
「え、あれ?え?どうしよう、カード、え?なんで、え?どうゆう、え?」
「あの、お客様?」
「え、え、あ〜、家!家にあるから!ちょっと取りに行って、取りに行ってくるから!」
「お客様?」
「あ!あ!でも車だめだよね?まだ払ってないもんね?じゃ走ってくるから!ね?ね?」
「あ!お客様!だいじょ────」
女が最後何を言っていたのか今となっては不明だが、俺は走り出した。
俺はメロスだ。人質にされた愛車を救うために走るのだ!
待ってろよ愛車、いや、あえてここはセリヌン…なんだっけ?まぁいいや。
閉店まであと二時間。車なら往復三十分。
満月が一際輝きを放ち始めた夕暮れ。
間に合え!間に合わせるんだ!走れ!アシベ!
己を鼓舞し無我で走っていた。
車のキーホルダーに家の鍵も付いているのに気づいたのは、
それから1時間走った、家の玄関の前でだった。
つづく?




