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勇者達[亜理沙、森と供に]第14話

アデル 精霊の森にエルフと住む少年 16歳

ヘルベルト・ファマール 精霊の森に長年住むエルフ 数百歳

 ガタガタ ガタガタ 「う~んん」


 ガタガタ ガタガタ 「う~んん」


 ガタンッ 「んっんん」


「干し草の良い匂い」


「陽射しが強い…お肌に良くないわね。でも、気持ちいい。最近、過密スケジュールだったからかしら、こんなのんびりした夢を観るのかしら‥」


「‥‥」


 亜理沙は、ゆっくりと瞼を開く…


 ーーおかしい。私は仕事終わり、テレビ局からタクシーで帰っていて、その時うとうとして‥ーー


「ここはどこ?夢?いや、違う」


 亜理沙は、寝そべった姿勢になっていたので起き上がる。そこで亜理沙の視界に広がったのは、長閑(のどか)な田舎?の風景。


 一面草原が広がり、遠くには深い森が見え、建物らしき物は一切存在しない、そんな景色が目の前を流れていた‥


「?」


 亜理沙は、自分が乗り物に揺られながら移動している事に気付く。それは、干し草が積まれた馬車の荷台に埋もれている自分の姿。


 亜理沙は起きようとするが、馬車の揺れと干し草のせいでバランスを崩し、思うように立ち上がれない。そして、何とか荷台の縁に掴まりながらやっとの思いで立とうとした、その時‥


「ヒヒーン」


 ガタガタッ


 馬の嘶きと供に馬車が急停車する。


 亜理沙は、突然の揺れに姿勢を崩し、干し草へ顔から突っ込んでしまい少しの間、体の自由を奪われる。そして、ようやく干し草から脱出しその場で立ち上がろうと試みる。今度は馬車が停車していることもあり、すんなり立つことが出来た。


 亜理沙は、周囲を見渡しその景色が日本ではなく、忘れたくても忘れることの出来ない場所に来てしまったのだと直感した。


「ここってどこ?もしかして‥」


 亜理沙が呆然し(たたず)んでいると、突如、空から突風が吹き、その風に煽られふらつく。次の瞬間、馬車が大きく傾き、亜理沙は荷台から外へと放り出されてしまった。

 亜理沙は、異世界で培った身のこなしがあったおかげで、馬車の荷台から放り出されながらも空中で体をひねり、地面へヒラリと華麗に着地を決めることが出来た。

 亜理沙は、体勢を整え顔を上げると、そこにはここが15年の月日を生き抜いた異世界であると決定付ける光景を目の当たりにするのだった。


 馬車を引く馬に襲い掛かる大きな鷲の様な鳥?その大きさから、鳥などとは呼べる代物ではない。そして、亜理沙はその生き物を知っていた。

 ライオンの胴体を持つ大きな鷲、そう《グリフォン》である。


 グリフォンは、抵抗する馬を鋭い鉤爪で攻撃し、徐々に動きを止めていく。

 亜理沙は、その光景を呆然としながらも、冷静に眺めていた。そう、グリフォンは亜理沙にとってはそれほど恐怖する対象ではなく、寧ろグリフォンがいるこの世界に驚いていたのだ。


 馬を襲うグリフォンとその近くで佇む少女、亜理沙。その光景は、端から観ればグリフォンに襲われ恐怖で身動きの取れない少女と映っただろう。

 そしてここにも、その状況をその様に捉えた者が居た。



 亜理沙が立っていると、不意に左手が後ろに引かれ、亜理沙は驚いて振り返る。するとそこには、1人の少年が身を屈めて亜理沙の手を引いていた。そこに居たのは、亜理沙より少し背は低めの少年だったが、引き締まった体が印象的で、髪は後ろに紐で1つに縛り、見たことのない動物の皮で作ったシャツとズボンを着ていた。


「しっ!静かに。お姉ちゃん、死にたくなかったら、おいらに付いて来なっ。悲鳴とか上げるなよ」


 小声で少年が亜理沙に呟くと、手を引き馬車から近い草むらへと入る。しかし草の背丈は精々膝の辺りまでしかなく、周囲から丸見えの状態だ。


 すると少年は「大丈夫」と言ってから、何やら異界の言葉を呟き出した。


『インビジブルカーテン』【姿隠し】


 そう、その言葉は精霊語だ。亜理沙だからこそ理解する事の出来る言語である。

 少年が行ったのは、精霊魔法。少年が魔法を唱えた次の瞬間、少年と亜理沙の周りだけ突如伸びた草に因って姿が周囲から隠された。


「ねっ大丈夫だろ。静かにおいらの後に付いて来な」


 そう言って少年は先へと歩き出し、亜理沙はその後に続いた…



 暫く進み、馬車を襲うグリフォンから大分離れた森の入口へと到着した亜理沙と少年は、木の陰に入り、腰を下ろした。


「ここまで来れば、もう大丈夫」

 少年は亜理沙に向かって声を掛け、亜理沙も少年に返事を返す。

「そうみたいね、ありがとう」

 亜理沙は、別に助けを求めた訳でもなかったが、少年にとっては窮地の女性を命がけで助けたのである。その行為には感謝を述べるべきであった。

「なぁ~に、困った人を助けるのは、お師匠様の教えだからな」

 得意気に話す少年を見て、亜理沙はどこか懐かしさを覚え、苦笑いするのだった。



 少年の名はアデル。ペルソタの街より南に馬車で5日程行った場所に巨大な森がある。その森は、昔からエルフの住みかとされており、人々は『妖精の森』と呼んだ。アデルは赤ん坊の頃その森に捨てられ、エルフのシャーマン『ヘルベルト・ファマール』に拾われ育てられたのである。

 アデルの話では、この辺りは妖精の森の側で、北に向かうとカタルと言う小さな村があるそうだ。



「あの馬車はお姉ちゃんの馬車じゃなかったんだね」

「気が付いたら荷台で寝てて、突然あんな事になったのよ」

「まぁ、おいらが居てよかったな。でなけりゃ、グリフォンに殺されているところだ」

「‥そっそうね、」


 

 亜理沙は、寝ている間に荷馬車でここまで連れて来られてしまい、荷物も失ってしまったとアデルに説明した。すると、アデルは自分の育ての親であり魔法の師でもあるエルフに相談し助けてくれるよう聞いてみてくれるとの事で、亜理沙はその提案に頼ってみることにした。


 アデルに連れられ亜理沙が向かったのは、妖精の森に少し入った場所。深い木々に覆われた道を通り抜けると、そこには小さな泉に囲まれた木の小家が見えてきた。亜理沙はアデルに手を引かれるまま小屋の中へと迎え入れられた。


「お師匠さま、只今戻りました」

 アデルが小屋に入りそう言うと、そこにはテーブルの椅子に腰掛けるエルフの姿があった。その姿は、エルフらしい整った綺麗な顔立ちをしており、見た目は人間で言うところの40代前半といったところである。だが、エルフの寿命から考えると相当な年齢の筈だ。

 エルフは、読んでいた本を閉じ顔を上げると、綺麗な顔をこちらに向け口を開いた。


「お帰りアデル。ん?そちらの女性はどなたかな?アデルが人を連れてくるなんて珍しいこともあるんですね」

 そう言って、亜理沙に視線を向けた。


「はい、お師匠さま。実は、この娘がグリフォンに襲われそうなところをおいらが助けたんだ」

「グリフォン?この近くに現れたのかい?」

「はい」

「また、珍しい事もあるもんだ。私が森の近くでグリフォンを見たことなんて、ここ数百年ないんだがね」


 エルフは、腕を組み難しい顔をしていたが、突如思い出した様に亜理沙へ顔を向ける。

「おっと、これは失礼した。私はこの森に住むヘルベルト・ファマールと申します。ヘルベルトとお呼び下さい」

 突然の挨拶に、亜理沙は少し慌てながら自分も挨拶をする。

「あっはい、私の名前は‥アリサです。えっと‥‥そう、仲間とはぐれてしまい、仲間を探す旅をしています」

 何も考えていなかった亜理沙は、慌てながらも何とか怪しまれないだろう答えを導く事が出来たと思う。


「お師匠さま、このお姉ちゃんを助けてあげたいんだけど‥ダメかなぁ」

 アデルは、もじもじしながらヘルベルトの返事を伺う。


 ヘルベルトは、亜理沙を暫く眺めてから、

「ほぉ、貴女は不思議な人ですね。貴女の周りには精霊が多く集まっている。アデルが気に入ったのも分かる気がしますよ。貴女は、精霊魔法を使えるのですか?」

 ヘルベルトの質問に、亜理沙よりも先にアデルが反応する。

「えっ!アリサは精霊魔法が使えるの?」


 2人からの質問に、亜理沙は咄嗟に「えっええ、少しだけなら習った事があります」と当たり障りのない返事をしておく。


「へぇ~じゃあ、おいらと一緒だな。でも、おいらの方が毎日お師匠さまに習っている分、先輩だぜ」

 胸を張って話すアデルに、亜理沙は「そうね」と笑顔で返すのだった。



 それから亜理沙は、テーブルの席を薦められ、ハーブの香るお茶を出してもらい、ヘルベルトと話をするのであった。


 アデルが赤ん坊の頃、森の木陰に毛布にくるまれて置かれており、それをヘルベルトが気紛れで拾い、育てた事。1人でも生きていける様に精霊魔法や人俗の文字の読み書きなどを教えた事など。ヘルベルトはエルフである。それ故に人間の子供に深い愛情は持ち合わせていない、しかしここまで育てたアデルには、育ての親としての責任を多少なりとも感じている。そしてアデルもその事は理解しており、ヘルベルトの事を親としてではなく、師と仰いでいるのだ。


 亜理沙は、旅をしていた仲間とはぐれてしまい、足取りを掴むために大きな街を目指している、とヘルベルトには話し、馬車で寝てしまった時に見知らぬ場所へと運ばれ荷物を無くし今に至ると説明した。ちょっと強引ではあったが、何も無いと言う現状と目的は本当なので説得力は有り、ヘルベルトには納得してもらった。



「それで、アリサはどうして欲しいのかな?」

 ヘルベルトの言葉に亜理沙は正直にお願いをしてみる。


「近くの大きな街へ行きたいのですが、その為の足と食料を分けて頂きたいのです」

 亜理沙は、申し訳なさそうな顔で話を切り出す。


 ヘルベルトは、亜理沙の言葉を聞き、暫く沈黙する。するとアデルが「なぁお師匠さま、おいらからもお願いだよ、アリサ姉ちゃんの頼みを聞いてくれないか」とヘルベルトに話をする。

「アデルは、アリサの事が気に入ったようだな。よしアデル、お前はアリサに同行し、此処より北に在る最初の街ペルソタへと向かいなさい」

「えっおいらも?」

「そうだ。お前にはそろそろ見聞を広める必要があると思っていたのでいい機会だ。それにアリサ1人ではお前も心配であろう?」

「うん分かったよ。アリサの事はおいらに任せておくれ」

 アデルは、自分の胸をひと叩きして胸を張る。


「えっそんな、わざわざアデルくんを私の為に旅をさせなくても」

 亜理沙は、少し驚きヘルベルトに口を挟む。

「いやいや、どちらかと言えば、旅支度を提供する代わりにアデルを同行させて欲しいのです。宜しいかな?」

 ヘルベルトの言葉に亜理沙は、ただ頷くしかなかった。



 その晩はヘルベルトの小屋に泊めてもらい、次の日の早朝、旅支度を済ませたアデルと供に亜理沙はヘルベルトに見送られながら妖精の森を後にする。


「それではお師匠さま、行って参ります」

「危ない事に手を出したりせず、慎重に気を付けて行っておいで」


「色々とお世話になりました」

 亜理沙がヘルベルトに感謝を述べると、ヘルベルトは亜理沙の耳元へ顔を近付け、小声で呟いた。

「アデルの事を宜しく頼みます。何かあったら守ってやってください」

 ヘルベルトの言葉に亜理沙は驚き、ヘルベルトの顔を見るとほくそ笑んでいるのだった。



 こうして亜理沙とアデルの2人は、2頭の馬に股がり妖精の森を出発し、一路ペルソタの街を目指した。








「ねぇアデル。ここからペルソタの街までは、どれくらい掛かるの?」

 馬を巧みに乗りこなしながら亜理沙は、馬上からアデルに話し掛ける。


「馬を休ませながら行って、5日くらいじゃないかな。途中、カタルって村が在るから、そこで補給を1度する予定だよ」

 アデルも馬を上手く操り、亜理沙が乗る馬と横並びに道を進むのだった。



 亜理沙とアデルは1日野宿をして、2日目の夕方、最初の目的地であるカタル村へと到着する。


「あっ、家らしき物が見えてきたわ」

「あれがカタル村だよ。予定より早く着いたね」

「アデルくんは、カタル村には良く来るの?」

「極たまにね。森の薬草を売りに来たり、お師匠さまから頼まれた日用品なんかを買いに来てるよ」

「そうなんだ。じゃあ、勝手知ったる場所なんだね」

「当然、何でも聞いてよ」


 亜理沙とアデルは、馬の足並みを揃えカタル村の入口へと辿り着き、馬から降りて村の中へと向かう。



「よぉアデル、こんな時間に来るなんて珍しいじゃねぇか」

「今日はいつもの用事じゃないだよ」

 村人と思われる男性に声を掛けられ、アデルが反応した。


 カタル村には宿屋と言うものはなく、小さな空き家が3軒程あり、旅人などが宿を求めて来たときに貸し出している。今日はその内の1軒をアデルの顔と言う事で、無償で使わせてもらえ、食事は自炊することで賄うことが出来る。食材は、道中で狩りをした獲物が有り、野菜等は村人に狩りの肉と交換してもらえた。


 アデルは一応、村長に挨拶すると言うので、亜理沙も同行し、村長宅へと向かう。村長には子供が無く、夫婦2人で住んで居る。


「おぉアデル、久しぶりじゃな。こんな時間に来るのは珍しいのぉ」

「はい、今日はいつもと違って、ペルソタへ向かう道中に寄ったんです」

「なにっペルソタへ向かうと?」

「はい、こっちのお姉ちゃんをペルソタまで連れて行くのが目的なんだ」

「どうも初めまして、アリサと申します。ヘルベルトさんとアデルくんのお世話になり、ペルソタまで案内をしてもらっています」

 アデルと亜理沙が村長に軽く挨拶をすると、村長が少し難しい顔で口ごもる。


「村長、何かあったのか?」

 アデルが村長の顔色を気にして声を掛けた。すると村長は、重い口ぶりでゆっくりと口を開く。

「実はのぉ、このカタル村からペルソタの街へと繋がる街道にグリフォンが出没するようになり、街への交通が途絶えておるのじゃよ。おまえさんもペルソタの街へと向かうとの事じゃが、今は止めておいた方がよいぞ。じきにペルソタからの冒険者に討伐されると思うで、それまで待った方がよい」

 村長の力ない言葉にアデルは、力強い声で応えた。

「そんなモンスター、冒険者を待たなくても、おいらがどうにかしてやるよ村長、任せて」


 村長は、アデルの言葉に驚き、

「おいおい、いくらアデルでも相手が悪い。それにグリフォンは1匹だけじゃなく数匹目撃されとるんじゃ。おまえさんのお師匠さんにでも来てもらわなければ話にならんよ」


 アデルは、1匹ではないと聞き少したじろいだが、ヘルベルトの事を持ち出された途端、目の色を変えて意地を張る。

「お師匠さまに頼まなくても、おいらがそんな鳥野郎倒してやるよ。村長、おいらに任せな」

 アデルが村長に軽い啖呵を切ると、そのまま村長に背を向け村長宅を出ていく。

 亜理沙は、慌てて村長に軽く会釈をするとアデルの後を追い掛けた。



 宿泊する小屋への帰り道、アデルの後を追い掛ける様に付いて歩く亜理沙が声を掛けた。


「アデルくん、あんな事言って大丈夫?グリフォン1匹でも大変なのに複数居るなんて危険だよ」

「へっちゃらだい。上手く引き離して1匹ずつのサシでやれば何とかなるよ」

「そうねぇ‥‥」

 亜理沙は、暫く考え込んでから、

「じゃあ、責めて個別で闘う作戦なんかを明日1日考えましょう」

「うん、そうしよう。アリサも考えるのを手伝ってよ」

「ええ、勿論」


 こうして、夜は寝るまで作戦を考え、翌日、使える武器や道具がないか探す作業をアデルと亜理沙は、行うのであった。




 早朝、アデルと亜理沙の事を村長が見送ってくれた。

「アデル、無茶はするんじゃないぞ、危なかったら急いで逃げるんじゃぞ」

「大丈夫だよ。グリフォンを倒してそのままペルソタの街へ向かうから、心配しないでいてよ」

「気を付けてな」

 子供のいない村長夫妻には、アデルは可愛い孫の様な者で、アデルが出発し見えなくなるまで見送り続けた。


 馬を揃えて街道を進むアデルと亜理沙。途中で昼食を取り、拓けた街道を進む。

「グリフォンの気配が全然しないね。そろそろ出てもよさそうな場所なんだけどね」

「そうねアデルくん。でも、居ないならそれに越したことはないんじゃないの」

「そうだけどさぁ~」


 そんな会話を繰り返しながら道を進んでいると、前方の街道から外れた場所で、何かに群がる動物が見えてくる。

「なんだろう、あれ」

 アデルが気付き、指し示す。

「えっ!なっなんでしょうね。ウルフが何かを漁っている様に見えるけど‥」


 馬上からなので多少遠くからでも、その何かに気付けたが、ハッキリとは分からなかった。

 近付いて行くと、次第にその正体が明らかになっていく。


「なっなんだっ、何かの死体にウルフが群がっているみたいだ」

 アデルは、ウルフ達に気付かれない様に手綱を絞りながらゆっくりと近付く。

「何かを漁ってるみたいだ。なんだろう‥」

 遠巻きにウルフの漁る塊を覗いたその時、


「あああっ」


 アデルは、思わず声を上げてしまい、その瞬間、ウルフ達が貪る獲物から顔を上げ振り返る。


「アデルくん逃げて」

 亜理沙の言葉に、驚きに我を忘れたいたアデルは、直ぐに意識を戻し、馬の腹を脚で叩くと「ハイオー」と馬を走らせる。食事の邪魔をされたウルフ達は、一斉にアデルと亜理沙の馬を追い掛け始めた。


「どうして、どうしてグリフォンがウルフに喰われているだ。まともに戦ったら、ウルフが何匹掛かろうとグリフォンが負けるわけないのに…」

 アデルは、呆然としながらも、追い迫るウルフの群れから馬を走らせ逃げている。その横に並び走る亜理沙の騎乗する馬。


 亜理沙は、アデルが周りを見ずにひたすら馬を走らせているのを確認すると、馬の走る音で掻き消える程小さな声で口元を動かす。すると、後ろを追い掛けるウルフ達の足元の草がウルフ達の脚に絡み付き走る勢いのまま、次々とひっくり返り、仲間達とぶつかり合って転がり、亜理沙達を追い掛けるのを断念するのだった。

 そんな後ろの様子に気付きもせずにひた走るアデルに亜理沙が声を掛けた。


「アデルくん、もうウルフ達は追い掛けるのを諦めたみたいよ。速度を落としましょう。アデルくん」


 亜理沙の叫びに、やっと我に返ったアデルが馬の手綱を軽く引いて速度を落とす。


「ごめんアリサ。何がなんだか分からなくて…。もう追い掛けて来ないみたいだね」

 アデルは、亜理沙の横に馬を並べ、ゆっくりとしたペースで馬を走らせる。

 頭を悩めるアデルの横顔を亜理沙は横目でチラ見しながら静かにほくそ笑むのであった。








 前日、アデルと亜理沙は、グリフォンに対抗する手段を見つけるため、情報収集や作戦を考えていた。

「ねぇアリサ、まずはグリフォンを誘い出して1体1体個別に戦わないと勝てないだろうから、グリフォンを誘導する方法を考えないと」

「そうね、そんなアイテムか方法がないか、ちょっと調べてみるわね」


 太陽が頭上に来るまでの間、アデルと亜理沙は供に村の中を動き回り手段を探していたが、昼食を済ませると亜理沙は、何か心当たりを探してみると言って、単独で森へと姿を消す。


 亜理沙は、森の中を通り抜け、人目に付かない様に馬で駆け、遠回りに街道へと進む。そして、街道を進み道が開けた見通しの良い草原へと出ると、風の精霊を呼び出し耳を澄ませる。


「いたっ」


 亜理沙が見上げる上空には、3匹の翼を生やした猛獣が羽ばたいている。

 亜理沙は馬を降り、近場の岩に手綱を括り付け、草原を1人歩み出す。丁度、グリフォンの真下辺りに歩を進めた時、上空から獲物を見付けた魔物が亜理沙目掛けて滑降して来た。

 3匹の魔物は、小型トラック程の巨体を重力に任せて落下、亜理沙へと急接近してくる。しかし亜理沙は避ける様子もなく空を見上げ3匹のグリフォンを見詰めると、

「ごめんね、時間がないのよ」

 と、そう呟く、


『北風の精霊神ボレアース、我が契約に基づきその力を示し、迫り来る敵を討ち滅ぼしたまえ』


 亜理沙の精霊語で口走る不可解な言葉は、風に乗り彼方へと消え去り一陣の風を運んで来るのだった。


 気が付けば、グリフォンが亜理沙へと切迫し、その太い前足から繰り出される一撃が亜理沙へと襲い掛かろうとしたその時‥


 びゅおおおおぉぉぉぉーー


 突如、現れた竜巻が3匹のグリフォンを包み込み、彼らが今落ちてきた空へと追い返す。


[我が契約者に害をなす愚かな魔物よ。悔いる間も無く散るがよい]


 亜理沙の背後から現れた風の精霊ボレアース、その姿は風に覆われぼやけて存在する。

 ボレアースの腕と思われる場所の風が動き、風の塊が3つ、上空へと巻き上げられたグリフォンへと襲い掛かる。3匹のグリフォンは、ボレアースの放った風の塊に包まれ、その中で鎌鼬に切り刻まれる。次にグリフォンがその姿を見せた時には、全身をボロボロにし、真っ逆さまに落下する姿であった。


「ふぅ、これで面倒は、無くなったわね」


 亜理沙が振り返るとその背後で、3体の屍が空から落ちて来るのであった。



「そうだっ」

 亜理沙は、グリフォンの屍の傍に歩み寄ると(おもむろ)にその羽を何枚かむしり取り懐にしまい込みその場を後にした。





 村へと戻った亜理沙は、村の中心にある井戸の側で座り込むアデルを見付ける。


「どうしたの?」

「んっ、アリサ。それがさぁ、なかなかグリフォンを誘き出す手段が思い付かなくて…」

 亜理沙は、ポーチにしまっていたグリフォンの羽を取り出しアデルへ見せる。

「これは?」

「グリフォンの羽よ。昔、知り合いに聞いてね、このグリフォンの羽を使って作るアイテムでグリフォンを(おび)き寄せることが出来るのよ」

「えっ本当」

「ええ」

「やった。これで後は、1匹1匹、慎重にグリフォンを倒していけばいいだけだね」

「そっそうね‥」


 こうして意気揚々とアデルは、その日の準備を終え、出発に備えるのであった。


風邪に3週間もやられてだいぶ遅れました。

次回も亜理沙とアデルが事件に巻き込まれて行きます。

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