お前も来てたか!後編
真冬の晴天は、雲1つない青空が広がり、空気が澄み切っており吐く息を白く凍らせる。
そんな青空を眺めていた青空ヶ塔高校校長は、破裂音の様な音を耳にし、辺りを見回す。すると、学校の屋上端に佇む女子生徒を見付け慌てふためいた。
「我が校で自殺者を出すなど、あってはならない。警察、レスキュー、救急車?どうすればいいんだ」
校長は、おろおろしながら先ずは、屋上に向けて呼び掛けた。
「きみーー。早まってはいかんよー。落ち着いて、話しは聞くから」
しかしその女子生徒は、校長先生に気付いている様子はない。校長は急いで携帯を取り出し、警察へ110番をした。
「もしもし、私、校長ですが、生徒が落ちてしまう、助けて下さい」
自分でも、何を言ってるのか理解出来ず、電話の向こうでは「落ち着いて下さい」と何度も言われてしまう。
そして、次の瞬間、女子生徒は1歩前へ踏み出したように宙を舞った。
「だめだー落ちたー救急車ー」
携帯電話に向け、必死に叫ぶ校長。
女子生徒は地球の重力に従い、地上へ向け自由落下開始した‥はずだった‥
地上に向けて落ちていた筈の女子生徒は、校舎の2階と3階の間でピタリと動きを止めた…いや、よく見ると徐々に上昇していく。
それを観ていた校長は、ペタンと尻餅を着き座り込み、手に持つ携帯からは「どうしましたー大丈夫ですかー」と声が聞こえていた。
屋上では、抵抗を止めた志恩をやっと刑事が解放し、年配刑事は銃を構え、取っ組み合いをしている若手刑事と犯人の元へと近付こうとしたが、その隣にいた犯人が銃を構え、
「動くなー、撃つぞ」
と、転がる二人に銃を向ける。
後ろで座り込む志恩は、その姿勢から犯人の動きを拘束しようと、魔法を唱えようとした。が、犯人の男二人は「どうなってんだ?」と、叫びながら既に動きを止めていた。
若手刑事は犯人が硬直して動かないので、呆れたようにゆっくり立ち上がり、犯人を拘束し、年配刑事も不思議そうな顔をしながら「よくやったぞ」と駆け寄った。
その様子を見て志恩は後ろを振り返るとシェリーが立っており、親指を立てサインを送った。
そして「静香は?」と不安そうな顔をすると、シェリーが、静香が落ちたと思われる付近を指差し、志恩がシェリーの指差す方向に顔を向けると、その視線の先で落ちたと思われた場所から、静香が徐々に浮かび上がって来るのだった。
その姿を見て志恩は「よくやった」とシェリーに向かって微笑み掛けたが、シェリーは顔を曇らせ「私じゃないの」と告げた。
シェリーの言葉を聞いて、志恩は驚き静香へ振り返る。すると、騒いでいた犯人も刑事もそして愛莉さえも口をポカンと開け、静香に見入っていた。
志恩とシェリーにはハッキリ見えている。神秘的な馬に似た動物に跨がる静香の姿が…しかし、周りの人達にはきっと静香が宙を浮いている様に見えていたはず。直接動物に跨がる静香には見えていたかもしれない。
シェリーは、その光景にあることを思い付き。
『スリープミスト』の魔法を掛ける。
すると、犯人、刑事、愛莉、静香は、突然眠り始めた。静香を乗せた生き物には、この程度の魔法は効果を及ぼさない事をシェリーは知っている。
志恩はその様子に、1度シェリーに振り返り頷くと、静香を乗せた動物に近付いた。
〓静香を乗せた生き物は、異世界の神獣で「麒麟」。異世界ではひょんな事から志恩に付きまとう事となり、勇者一行と共に数々の冒険をしていた。本来の姿は、美しく燃え上がった鬣や角を持つ馬の様な見た目だが、変化の特殊能力やいくつもの魔法を使いこなし、高い知能を有している。名前は『アサヒ』、名付け親は志恩である。
「助かったよアサヒ。だが、どうしてここに居るんだ?それにタイミングよく彼女を助けてくれたのはなぜだい?」
志恩の質問にアサヒは異世界の下位古代語で言葉を発して答えた。本来麒麟は、意志疎通の為に言語の発生を必要とせず、テレパシーの様な直接相手の脳と会話することが出来る。今回は、シェリーも居たので、和えて3人での会話をするために言語発声をしていた。
「よっ久し振り、会いたかったぜ志恩。変な世界に来ちまって途方に暮れていたところだったんだよ」
「どうやってこちらの世界に来れたんだ?」
「まぁ、色々あってな。今度、ゆっくり話すぜ。それより、何があったんだ?俺が飯を食べてたら、その飯箱と同じ匂いのする人間が窓の外で落ちていくから、慌てて拾ったんだけどな」
飯箱とは、さっき科学実験室でアサヒが食べていた物か、と志恩は推察し、あれは静香のお弁当箱だったんだと納得した。アサヒは、科学実験室で水を飲みながら器用に弁当を食べていたのだ。
取り敢えず、皆が無事だった事に安堵した志恩たったが、なぜこんな銃を持った人間が学校の屋上に居て、愛莉や静香が捕まっていたのか、未だに謎だった。
志恩とシェリーは記憶操作を行い、犯人と刑事を手錠で繋いで銃の銃弾を抜き、屋上に放置して刑事だけを目覚めさせ、その場を離れる。愛莉と静香は、自分達の教室へ送り、自分達の席に寝かせておいた。
そして、志恩とシェリーとアサヒの3人?は、一先ずシェリーの教務室へと移動した。
「おおぉぉ、興味深い部屋ではないか」
「シェリーの趣味の部屋だ」
「ちょっと、人聞きの悪い。研究室と言ってちょうだい」
「だそうだよ」志恩は呆れた表情で答える。
「アサヒ、その姿は話づらいし、この部屋では場所を取るから、姿を変えてくれないか」
「面倒だなぁ」
そう言ってアサヒは、白馬へと姿を変えた…
「いや、それだとデカくてさっきと変わらない」
「いつも旅をしてた姿じゃだめなのか?狭い部屋だなぁ。しょうがない」
そして今度は人の大きさ程の熊へと姿を変えた…
志恩は頭を抱え、
「‥‥大きさはいいんだけど、駄目なんだよ…」
志恩に言われ、アサヒはやれやれといったジェスチャーをし、変化した… パンダに‥
志恩は項垂れた…
するとシェリーが、ふ~っと一息ついてから、志恩の代わりに話始めた。
「あのねぇ、アサヒ。こっちの世界では、人の住む場所には、犬か猫しか居られないのよ。基本的にね。だから、私達とこちらで行動するには、犬か猫になってもらわないと困るのよ」
アサヒも、ふ~とため息をついてから、改めて変化をし、真っ白な普通サイズの猫へと化け、脚を組んでソファーに腰掛けた。
「ん~ん、人が来たら猫らしくしてくれよ」
志恩はおでこを手のひらで覆いながらアサヒお願いをした。
そして3者は、これまでの事と、これからの事を話あった。
アサヒは異世界で突然志恩達が居なくなり、探していたところ、森の賢者からどんな願いも叶える石の話を聞き、その石をどうやらアサヒの知り合いの古竜が持っていたので、譲って貰い、志恩の傍に行きたいと願ったら、ここへ着ていたそうだ。しかし、匂いはするが、志恩達の姿がないので、学校に隠れて探していた。
丁度、試験休みと冬休みが重なって、学校に来ていなかった時のようだ。
折角、志恩を訪ねてこちらの世界まで来たのだから無下にも出来ず、猫の姿でいるなら、志恩が傍に居させる事となった。
こうして、シェリーが抱えていた学校の事件は、解決するのだった。
なお、この後、学校にはパトカーが大量に押し寄せ、校長先生は自分が電話したせいでこんな事になったとパニックになったそうだ。
ーー校長が居たとは気付かなかったと志恩は反省ーー
学校近くで、囚人護送中に事故を起こし、囚人に拳銃を奪われ逃走を許してしまった事を志恩達は後で知るのだった。
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「ただいま~」
愛莉の帰宅に、志恩はリビングから声を掛けた。
「おかえり~」
タッタッタッタ
愛莉は2階の部屋に荷物を投げ捨てると、学校での掃除の汚れた体を洗い流すために風呂場へと向かう。
2階から風呂場に向かう愛莉の足音を聞いた志恩が「ハッ」と気が付き、愛莉を引き留めようとしたが、時既に遅かった…
「・・・・えっ?しっしーおーん」
風呂場から、あられもない姿で走ってきた愛莉は、リビングの扉を豪快に開き!
バタン
「風呂場に、変な生き物が…」
愛莉が見たものは、風呂場でタオルを器用に使い、背中を洗う猫の姿だった。
志恩は天井を見詰めながら、
「えっと~ちょっと人慣れしてる賢い猫を飼うことにしたんだよ‥何か変だったか…」
「へっ変って、腰掛けて背中流してたよ!」
「ん~猫だったら、それくらいするんじゃないかな~なんて‥」ちょっと無理があるかな…
「賢い猫かぁ~」
何か知らないが、少し納得してくれてきてる。
「そうだよ。仲良くしてやってくれ、それより、早くその格好をどうにかした方がいいんじゃないかな~」
愛莉は志恩の言葉に我に返ると、自分の一糸まとわぬ姿に顔を赤面させ、風呂場へと飛んで帰った。
志恩は素早く、魔法の『テレパス』でアサヒに「普通の猫をしろ」と伝えた。
それから愛莉がお風呂から上がり、アサヒを抱えてリビングにやって来る。
「ん~。さっきのは見間違いだったみたい、椅子の上でタオル被ってシャワー浴びてただけだった。私、疲れてたのかな」
愛莉がアサヒをタオルにくるみ、ゴシゴシ体を拭いてあげながらソファーへと座った。
「そっそうだよ、疲れてたんじゃないかな…名前は『アサヒ』って言うんだ、シェリー先生から預けられてな、仲良くしてやってくれ」
「へぇ~シェリー先生から…。アサヒって言うの?ちょっと猫としては変わってるけど、可愛いね。志恩の部屋で飼うの?」
「そうだよ」
「じゃあ、トイレとか餌を買いに行かないとね」
「あ~その心配はいらないんだ」
「ん?」
「トイレは教えてあって、普通に俺達のトイレを使うし、食事は俺達と一緒の物でいいんだ」
「えっ?」
「まぁ~その内、慣れてくるよ‥」
こうして、更に仲間も加わり、新たな生活が始まった。
次回、大きく脱線した長目の番外編です




