お前も来てたか!前編
今年の冬は寒さが特に染み渡り、12月だと言うのに天気予報では、数日の内に東京に雪が積もると言っていた。
終業式を控え、志恩と愛莉は寒さに向かいながら自転車を漕ぎ、学校へと向かうのであった。
「ねぇ志恩、由依ちゃんは元気にやってるかな?」
「大丈夫だろ、彼女は二人分の強さと人生を背負ったんだからさ」
「‥‥そうね、きっと挫けても、自分の中のお姉さんに相談して乗り越えていくね、きっと…」
愛莉は、胸に温かい何かを抱くのだった。
「ところで志恩は、何しに学校に行くの?」
「ん?それは‥
愛莉は今日、今年の部活最後に片付けや掃除をしに行くのだが、志恩はシェリーに学校へ呼び出されていたのだ。
「また何かやらかしたの?」
愛莉の冷やかな視線に、志恩は惚けた目をし、
「いやいや、そんな事はない‥はず…」
語尾が力無く小声になるのだった。
ーーまぁどうせ、くだらない話だろうとは思うが、わざわざ学校まで呼び出すくらいだから、何かあるのだろう。でなければ、電話で済ますか、隆二の所で相談するだろうから。
愛莉はその後、寒さのためか言葉少なく学校へ向かうのだった。
朝の女子更衣室。1人の女子が校内の掃除をするため、汚れてもよい体操着に着替えていた。
ガタッ
「えっ誰かいるの」
ガタンッ
「キャッ!」
バタバタバタ
「キャーー」
志恩は、学校に着くとシェリーの教務室ーとは名ばかりの彼女のプライベートルームーへと向かう。
コンコン
「どーぞー、開いてるわよん」
扉を開け部屋へと入った志恩は、その異様さに言葉を失っていた‥
シェリーの教務室は始めて観た時より、更に得体の知れない物で埋め尽くされており、その中で部屋にはマッチしてるのだろうが、教師としては有り得ない服装で、シェリーはソファーに腰掛けていた。
シェリーの姿は怪しい柄のローブを1枚羽織、胸元を大きく開け、脚を組んで座っているので、太ももがローブの合間から見えている。
「‥おいおい。教師がその格好は不味いんじゃないか」
「あら、そうかしら。ちゃんと下着は着けてるわよ」
志恩は頭に手を当てながら、
「いや、そう言う事じゃなくて、根本的な格好がさ」
「大丈夫よ、誰もこの部屋には来ないし。それに部屋にマッチしてるでしょ」
「もぉいいや、部屋を出るときはちゃんとしてくれよ」
「えっ、この格好で出歩くのは不味いかしら」
「・・・止めてくれ」
「ふふ、冗談よ」
「シェリーが言うと、冗談に聞こえないよ」
志恩は気を取り直し、
「で、話ってなんだい?わざわざ呼び出したって事は、特別に何かあるってことなんだろう?」
「あら~私がシオンに会いたいだけじゃダメぇ~」
志恩は入り口に振り返り「帰る」と言って、扉に手を掛けた。
「もぉ~冗談だってば、そんなに怒らないで。ちゃんと話があるんだから、ソファー座って。お茶でも入れるからさ」
志恩は渋々ソファーに座り、辺りを見回していた。
「なぁシェリー、ここで何の研究してんだ?」
「えっ、そうねぇ~色々だけど、主にこっちの世界で使えるマジックアイテムとかかな。神聖魔法や精霊魔法で、こっちの世界でも使えるアイテムはないかとかね」
「へぇー、真面目にやってんだな」
「そりゃそうよ、教師ですから」
「はい、はい」
シェリーがお茶を入れ志恩の正面に座り一息ついて話をしようとしたが、先に志恩が口を挟んだ。
「なぁシェリー、そこに座ると見えそうだから、着替えたらどうだ?」
「あらシオン、何を今さら。昔はよく裸の付き合いしてたじゃない?それとも‥若々しい私の悩殺ボディに欲情しちゃった?」
「あのなぁ…。誰かに聞かれたら誤解される様な言い方はよせ。裸の付き合いって言っても、一緒に冒険をして野宿したり水場で戦闘したからだろ。それに40近いシェリーを知ってるのに、今更欲情などしないよ」
「ふんっ」とシェリーは立ち上がり、渋々その場で教師の格好に着替え、改めてソファーへ腰掛けた。
志恩は、やれやれと言った表情で言葉を促した。
「二人きりじゃないときは、もっと節度を持ってくれよ。で、どうしたんだ?」
志恩の苦言に少し不満顔をしていたが、いざ本題に入り、真面目な顔つきになる。
「実は‥
シェリーの話では、最近校内や学校近隣で、不可解な事件や目撃情報が頻発しており、その調査をして欲しいとの事だった。
「どんな事が報告されてるんだ?」
志恩の質問にシェリーは、見えない何かを探すように天井を見上げ、
「学校だと、鍵の閉まった扉が壊されて中が荒らされていたり、先生のロッカーが壊されて中が荒らされていたけど、盗まれたものはないのよ。荒らされた先生は、買い置きしておいたお菓子がないって言ってたけど、どうせ食べちゃったんだろうって事で、問題にはなってないわ。あと、学校の近隣では台所の勝手口から何者かが入って、荒らしたって報告が数件来ているわ」
志恩は話の内容から、生活困窮者か何処かのペットでも逃げたのだろうと予想。シェリーも最初はそう思ったのだが‥
「でもね、現場に‥ ピロロローンピロロローン
シェリーの言葉を遮って、デスクの電話が鳴った。
カチャ
「はい、英語教務室枝園です」
シェリーが真面目な声で学内電話に応対する。
「はい‥はい‥分かりました、すぐに行ってみます」
カチャ
シェリーは、授業するときに着る白衣を纏うと、
「シオン、事件が起きたみたい。一緒に来て」
そう言って、部屋から出るシェリー。後を追うように、志恩も立ち上がり部屋から出るのだった。
向かった先は、1階の女子更衣室。更衣室の入口には、1人の女子生徒が辺りをキョロキョロしながら、落ち着き無く立っていた。
シェリーは入口に立つ生徒に優しく声を掛け、一緒に室内へと入って行き、志恩は扉の前で居ずらそうに待つ。
すると中から「シオン、何やってんの?早く来てちょうだい」と、シェリーの声がした。
ーー普通に考えて、男子の俺が女子更衣室にずかずか入れる訳ないだろうーー
シェリーへの不満を漏らしつつ「失礼しまーす」とよそよそしく室内へと志恩は入った。
年末の冬休みで、どの部活も活動を終わらせており、女子更衣室からは汗臭さや女子の臭いといった物は感じらず、なんの臭いもなかった…はず。
志恩は部屋の空気に何か違和感を感じるずにはいられなかった。
その志恩の感覚にシェリーは素早く気付き、視線を送り、「ふふっ」と苦笑した。
女子更衣室の中には震える女の子とその子の肩を抱き抱える女子の二人が居て、シェリーは優しく声を掛けた。
「もう大丈夫だから、何があったのか話してみてくれるかしら」
震える子は、口を開いても言葉が出てこず、代わりに傍で抱き抱えていた子が話してくれた。
「私はこの子の悲鳴を聞いて駆け付けたんですが、部屋の真ん中でこの子が座り込んで震えて居ました。この子の話では、ここで着替えて居るとき物音がして、振り向いたら何かがこの子を弾き飛ばして逃げて行ったらしいんです。私が来たときには何も見なかったんですけど」
話を聞いて、志恩はシェリーと顔を見合せてから頷くと、シェリーは女の子を保健室へ連れて行くように指示をして、部屋に志恩と二人残った。
「さっき言い掛けたのはこの事か」
「ええ、そうよ」
志恩の問いに、シェリーが答えた。
「なるほどね、この更衣室に残る臭いと言うか気配は、異世界の生き物のやつだな、だから俺に言ってきたのか」
「そゆこと」
「で、何か手掛かりは有るのか?」
「ん~それが全くないのよ。でも、この感覚、どこかで感じた事ない?」
「あぁ、俺もそれは感じた。ちょっと懐かしい感じがしたが、どうなんだろうな。異世界を懐かしく感じたってことなんだろうか…」
二人は、更衣室で犯人の痕跡を調べたが特に見つからず、やむ無くシェリーの教務室へ引き返そうとした時、先程入口に居た女の子が更衣室へと戻ってくる。
「どうしたの?」
シェリーが尋ねた。
「はい、あみちゃん、あっ、佐々木さんの荷物を取りに来ました」
さっき、保健室に運ばれた子の荷物を取りに来たようで、鞄と体操着を持って行こうとした‥
「ちょっと待って」
志恩は荷物を抱える女の子を呼び止めた。
「はい?」
荷物を抱える女子生徒は動きを止め、志恩へと振り返る。志恩は、女子生徒の持つ鞄に軽く触れ、
「なんか、ゴミが付いてたみたいだったけど、気のせいだった。ごめんね」
「はあ、」
女子生徒は、荷物を持ってそそくさと、部屋を後にした。
「何かあった?」
シェリーの言葉に志恩は口元を少し上げ「まぁーな」とだけ答えるのだった。
時、同じくして…
子供がボールを追い掛けて公園から路上へと飛び出してしまった…
「危ない!」
キキキキキー
ガシャン
青地に白い2本のストライプが入ったバスが電柱にぶつかり煙を上げている。バスはパトランプを付けて窓は金網で覆われていた。
「いてててて…おいっみんな倒れてるぞ、扉も壊れてるし、今がチャンスだ。行くぞ」
「待って下さいよ~兄貴~」
バスから二人の男が姿を消した‥
その手には、黒光りする鉄の塊を握り締めて…
「いやー疲れた疲れた」
ジャージ姿の愛莉と静香が、午前の部活の掃除を終え、教室へと戻ってきた。
「さぁ、お弁当食べたらもうひと頑張りで、終わらせちゃおう」
「うんっ」
「あれっ私のお弁当がない」
静香が鞄を必死に漁っている。
「もぉ~静香ったら、家に忘れて来ちゃったんじゃないの‥あれっ私のお弁当もない」
二人が自分達の荷物を漁り。
「二人同時にお弁当を忘れるなんてないよ。これは『怪盗お弁当』の仕業よ!見付け出さなくちゃ」
そう言って、静香が教室を飛び出して行く。
「もぉ、わざわざお弁当で怪盗なんて出ませんよ。やれやれ」
愛莉も静香の後を追って、教室から出ていった。
愛莉が教室を出ると、既に静香の姿は無く、愛莉は静香を探しながら他の教室を覗いて行く。
すると、1つ先の教室から「キャッー」っと静香の叫び声が聞こえ、愛莉は声の聞こえた教室へ飛び込む。そこには、2人のつなぎ服を着た男達とその男に捕まっている静香の姿があった。
「あなた達は誰?」
愛莉の口から漏れた言葉に、
「こいつら、弁当泥棒よ」
静香が愛莉に叫んだ。
「うるせぇこのアマ」
静香を捕まえている男が、掴んだ腕を強く引き「痛っ」と静香の声が漏れた。
男達の近くには食べかけの弁当箱が落ちており、愛莉はそのお弁当を見るが、そこに愛莉の物はなかった。
愛莉は後退りをし「先生呼んで来るから」と駆け出そうとした時、
「おいっそこの女、動くなこっちへ来い。さもないとこの女がどうなっても知らないぞ」
そう言って、男は拳銃を静香の頭に突き付けた。
暴れていた静香は「ひっ」と一声上げ、暴れるのをやめ大人しくなり、愛莉は動けなくなってしまった。
愛莉はぐっと拳を握り締め、勇気を振るって話す。
「あなた達、何が目的なの?」
「あんっ、目的なんかねえよ。ただちょっと隠れたいだけだ。騒がず、大人しくしてろ」
愛莉と静香は椅子に座らされ、少し距離を取って男達が二人を監視するように座り、弁当を食べている。
その様子を見ながら、静香が静かに口を開いた。
「あのぉ~」
「なんじゃい。もぐもぐ」
「私達のお弁当は、もう食べちゃったんですか?」
段々小さくなる静香の声。
「ああん、なんだって?」
男の声に驚き、今度は静香の声が大きくなる。
「私達のお弁当箱はどこにやったんですか?」
突然の声に男達の箸が止まり、
「うるせぇ!お前の弁当なんて知らねえよ。俺らはこれしか喰ってねぇ」
男の言葉に、愛莉と静香は顔を見合せ首を傾げる。
男の1人が不意に窓の外へ目をやり、突然立ち上がった。
「兄貴!やべぇ、来やがった」
その時、校庭を歩くスーツ姿の男が二人、校舎に向かって歩いていたが不意に上を向く。
「バカ、立つんじゃねえ、座れ」
「不味いっす。俺の方見て、走り始めた」
「ったく、しょうがねえ。何処か隠れるぞ、女連れて来い」
男達は急ぎ愛莉と静香を連れて教室を出ると、階段へと向かった。
「不味いな、下から階段を駆け登る足音がする。仕方ねえ、上に行くぞ」
「へい、おいっ騒ぐなよ。静かに付いて来い」
4人は階段を登って屋上の入口扉の前に着いた。
「兄貴、鍵が掛かってますぜ」
「どけ」
パリンッ
ガチャッ
「よし、どこか隅の方で隠れるぞ」
そう言って、屋上端の貯水タンクの側に身を潜める。しかし、すぐに追っては迫り、屋上の扉が開かれるのだった。
「そこに居るのは分かっているぞ。無駄な抵抗は止めて、出てこい。逃げられはしない」
屋上扉の陰から、二人の刑事が屋上に向かい叫ぶ。
「うるせぇー、こっちには人質が居るんだぞ。車を用意して、そこから下がれ」
貯水タンクの陰から、愛莉と静香を前に付き出しながら、二人の男が叫び返すが、刑事達ももう一度説得の呼び掛けをした。
「逃げられやしない、大人しく武器を捨てろ」
そして刑事は拳銃を構え、犯人達の正面に出る。
「うるせぇ!脅しじゃねえぞ」
そう言って、犯人の1人が静香を屋上の縁ギリギリに立たせ、拳銃を空に向けて1発発砲『パーン』と音を立てた後、静香に突き付けるのだった。
「たぶんここだ」
志恩はシェリーと共に3階にある科学実験室の前に来ていた。
「シオン、ここに何があるの?」
シェリーは、志恩に言われるまま付いて来たが、ここに何があるのか分かっていない様子だ。
「まあまあ、中を覗いてごらん」
シェリーは、志恩に促され扉の小窓から中を覗く。そして「なるほどね」と、納得した。
志恩は教室の扉を普通に開き、一声掛ける。
「よぉ、久し振り。こんなところで何やってんだ」
と、教室の中へ1歩足を踏み出した次の瞬間‥
パーン!
志恩は、最近何度も聞いた拳銃の発砲音。すぐに振り返り、シェリーに伝えた。
「屋上だ」
「人質が居るとは…おいっ、応援はどうした?」
歳のいった刑事が若い刑事に振り向きながら尋ねるが、若い刑事は渋い顔をし、
「すいません、急いで追い掛けてたんで…」
「ちっ、しょうがねえな。おいっお前は右から回れ、俺は正面から奴の気を引きながら進む」
「分かりました。何とか人質を救出してみせます」
刑事二人は静かに動き出す。
「彼女が落ちちゃう、止めて」
愛莉が静香に向かって手を伸ばし叫ぶ。しかし愛莉を抑える男は愛莉の頬を叩き座らせ、黙らせる。
「うるせぇ」
「キャッ」
愛莉を叩いた音に静香が振り返り「その子に手を出さないで」と訴えるが「振り向くなっ」と銃を突き付けられ前を向かされてしまった。
そんなやり取りに、刑事二人が動きを止めてしまうが、年配の刑事が犯人の男に話し掛けた。
「その子達を放してくれ。それ以上罪を重ねるな」
「うるせぇ。車は用意出来たのか?早くしねえと、1人が空へ飛ぶ事になるぜ」
そう言って、銃を静香の背中に押し当て、屋上の
へりの上に立たせて笑う。
「へっへっへ、早くした方がいいんじゃねえかい」
「ぐっ」
刑事は蛇に睨まれたカエルの様に、身動き一つ出来なくなってしまった。
暫しの硬直状態が続き、静けさが場を支配した。
そして、その静けさを破ったのは、屋上へと到着した志恩。
「どうなってんだ?」
志恩が屋上へ出ると、直ぐ目の前に拳銃を構えた男が二人、距離を置いて背を向けており、その先の貯水槽の下では、銃を構えた男に手を掴まれて座らされている愛莉、背中に銃を突き付けられヘリに立たせられている静香、と言うあり得ない光景が広がっていた。
志恩は直ぐ前で銃を構えた男性が、志恩の乱入に気が付き、怒鳴り声を上げる。
「一般人は、直ぐに屋上から出なさい。今、屋上は立ち入り禁止だ」
志恩は状況が飲み込めずにいるところに、突然怒鳴られ心が乱れてしまった。その時、志恩が現れた事に気付いた愛莉が志恩に向かって叫んだ。
「しおーーん」
次の瞬間、
愛莉を捕まえていた男が、愛莉に蹴りを入れる。
志恩が前に出る。
年配刑事が志恩を制止する形で前に出た。
それを見た男が志恩に向けて発砲。
全員の視線が志恩に向いた時、回り込んでいた若手の刑事が、静香に銃を突き付けていた男へ襲い掛かった。が、男は静香を突き飛ばす形で、突っ込んで来る刑事と向かい合ってしまった。
「えっ」
静香の体が宙に浮く、愛莉は必死に手を伸ばすが届くハズもなく虚しく空を切る。
「いやーーー」愛莉の叫びが屋上に響き渡った。
志恩は、視界から消えそうになる静香へ向け『フォーリンコントロール』【落下速度調整】の魔法を唱えようとしたが‥「危ない、伏せるんだ」と年配刑事が志恩を押し倒す様に遮り、魔法の発動が阻害されてしまった。
「どけぇーーー」
志恩の必死の叫びに、
「危ない。助けたいのは分かるが、今は我慢して、我々に任せなさい」
年配刑事は、志恩が同級生を助けたい一心で、犯人へ飛び込もうとしてると思い、必死に押さえ付ける。
そこへ遅れてシェリーが到着したが、状況が飲み込めず固まってしまう。
それに気付いた志恩は、シェリーに向かい、
「静香が落とされた、救ってやってくれ」
シェリーは何も聞かず頷き、直ぐさま屋上階段に引き返すと、『テレポート』の魔法で1階中庭へと飛ぶのだった…
次回で終わり、次から新章に入ります。




