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ミラクル・グッバイ その13

「ありがとう、さよならのメロディー」


一応、クライマックスまで書きました。

 夜中の静かな海を漂うオーシャンマリーナ号。

 航行予定では、夜の間、沖で停泊をし、朝日を沖で迎えてから港へ帰る航路である。


 今、静まり返るオーシャンマリーナ号の一室で、静かに闘いが始まろうとしていた。



 志恩が睨む部屋の隅から人影が現れた。

 志恩より頭1つ大きなその人影は、徐々に明かりの元へと移動し、その姿を現す。現れたのは、スーツ姿の白人、手に杖を持ち両手には皮の手袋を嵌めている。

 そんな男から目を離さず、志恩は睨み付けていた。


「俺の名前を知ってるお前は何者だ?」


 白人の大男は、薄気味の悪い笑いを浮かべる。

「私の事は、その女から聞いているのではないか」


「そうか、やはりお前がドクロか。しかし、俺の名前を知る理由にはなっていないんじゃないか」


 ドクロは両手の肘を曲げ、手のひらを上にして、やれやれと言ったポーズをとる。

「私は何でも知っているよ。君の正体も君の力も。そして、0時を過ぎた今、君がただの高校生になってしまった事もね」


 ドクロの言葉に志恩は少し動揺し、腕時計を見る。

 時刻は0時15分…


 志恩は何かを掌に乗せる様に上へと向け、暫く考えたと思うと、開いた手をギュッと握り締め、佳澄に振り返る。


「佳澄さん、ちょっと不味い事になった、ドクロは俺の事を知っている…」

 佳澄は不安な顔を志恩に向ける。

「それって…」


「ドクロ、佳澄さんへの命令はさっき達成したぞ。それから今後、佳澄さんへの関与を止めるよう組織に言ってくれ」


 志恩の言葉にドクロは少し悩んだ顔をし、

「はて、それはその女が組織を抜けたいと言うことですか」


 志恩はドクロとの間合いを確認する。


「そうだ」

「やれやれ、まさかそんな事が通るとお思いですか?」

「思っているとも。それが、力ずくになったとしてもな」

「なるほど。しかし、全ての答えが『NO』とだけ言っておきましょう。佳澄が組織を抜ける事は絶対に叶わない、そして、今回の任務に私が同行したのには、二つの理由がある。一つは佳澄の監視と作戦が失敗しないための後詰め、そしてもう一つは…」


 そこまで言い終わると、ドクロは杖の柄をカチリと回す。すると杖は刀身を現し、ドクロは構える。


 志恩はその姿に、

「佳澄さん、奴の狙いは俺だ。下がっていてくれ」

「私も手伝うわ、これは私の責任だし」

 佳澄はナイフを両手に構えたが、志恩の腕がそれを遮る。

「いや、今回は俺自身の問題の様だ。それに、奴と闘いながら、君を守る余裕はないと思う」


「そんな…私だって‥」

 と、志恩に訴えようとしたが、志恩の真剣な顔を見たとき、それ以上なにも言えなくなった。


「分かったわ、でも素手で奴とやり合うのは危険だわ、責めてこれを使って」

 そう言って、佳澄は構えていた2本のナイフを渡した。


 志恩は佳澄の差し出すナイフを受け取り、

「ありがとう、使わせて貰うよ」

 そう言って、ナイフを受け取りドクロに向かい合った。


「さて、佳澄とのお別れは済ませたかな。佳澄には後でお仕置きが必要そうですし、手早く済ませてしまいしょう」


 ドクロは言い終わると同時に志恩へと迫った。


 志恩はドクロの最初の踏み込みである上段切りを両手のナイフをクロスさせ、防ぐ。

 そして、直ぐ様、前蹴りを繰り出すがドクロは後方へと飛び退いた。

 ドクロは横走りしながらナイフを2本投げつけ、志恩は飛来するナイフを打ち落とす。志恩がナイフに気を取られた一瞬で、ドクロは志恩との間合いを詰め、横一閃。志恩は両ナイフで受け止め、相手の剣の慣性に逆らわず、後方へとジャンプをし、威力を殺した。

 ドクロは直ぐ様、中段に構えた剣を、踏み込みと同時に突く、志恩はその突きをクロスさせたナイフで挟みながら、前へと突っ込み、相手の懐に近付いた瞬間、体を沈み込ませ足を切りにいく。ドクロは突きの勢いのまま、前方へ前転ジャンプでかわし、そのまま離れ、間合いを取った。


「なかなかやりますね」

 ドクロは不敵に笑う。


「俺の情報が足りないんじゃないか」

 志恩も言い返す。


 佳澄は、そんな二人の闘いをただ圧巻と観ている事しか出来なかった。



 その後お互い、押しつ押されつの攻防を繰り返し、少しずつ傷付き疲弊していく。

 しかし、ドクロの方が僅かだが傷付き疲れを(あらわ)にしていた。


 ドクロは自分の不利を感じ取ったのか、動きを止め、語り出す。


「なかなかやりますね。はーはー。ここで良いことを1つ教えて差し上げましょう」


 志恩は、敵の時間稼ぎと分かってはいたが、ドクロの情報を知りたい気持ちも有り、話を進めさせる。


「そこの女、川原佳澄の父親、川原功夫(かわはらいさお)は我々組織の情報を嗅ぎ回っていたので、私、自らの手で葬らせて頂いたのだよ。はーはー」


「そんな…じゃあ、あの事故は、組織、いえ、ドクロ、あなたがやったと言うの…」

 佳澄は震える声で訴え掛けた。


「ふっふっふ、そう言う事だ。はーはー」

 ドクロは不敵な笑みを溢した。


「では…私のせいだと思っていたあの事故は、初めから仕組まれていたって言うの‥」

 佳澄は顔を両手で覆い、震えながら動揺している。


「その通り、そして使い物にならなそうな妹を餌に、お前を鍛え上げ、利用していたのだよ」


「そっそんな‥」


「止めろっ」

 志恩は叫ぶ、嫌な予感が脳裏を巡り。

「佳澄さん、奴の言うことは気にするなっ」


 志恩が佳澄に叫んだ時には、既に佳澄の姿は志恩の背後ではなく、ドクロのいる前方へと走り込んでいた。


「止めるんだ、佳澄さん」


 志恩の言葉も届かず、佳澄はドクロへと襲い掛かる。

 佳澄はナイフを投げると同時にジャンプをし、ドクロの上方から攻撃を加えようとする。

 佳澄の投げたナイフはドクロに当たった様に見えたが、ナイフは後方の窓へと当たり、弾かれた。

 そして佳澄はドクロが居た場所に着地をしたが、そのまま片ひざを着いて崩れる。その腹には、ドクロの放った物と思われるナイフが刺さっていた。


「佳澄さんっ」

 志恩が佳澄の元へ駆け寄ろうとすると‥


 佳澄の背後から首に腕が回り、佳澄を力ずくで立たせると、腹のナイフを強引に引き抜き、そのナイフを首元へと突き付けた。


「形勢逆転かな、志恩くん」

 ドクロは嬉しそうに、ナイフに着いた佳澄の血を舐めた。


「殺せっ」

 佳澄が悲痛の叫びで訴える。


「はっはっは、どこまでも利用価値のある女だな」

 ナイフの柄を佳澄の傷口に押し()てながら、ドクロは笑い、

「ほれ志恩、早くその武器を捨てて後ろを向くんだ、早くしないと‥」

 ドクロは、更に強く佳澄の傷口をいたぶる。


「うぐぅぅ、あぁーーぐぅ」

 ドクロが佳澄を責める度、歯を食い縛りながらも、佳澄の苦痛が漏れる。


「分かった、分かったから、それ以上彼女を傷付けるなっ。言う通りにするから、彼女を離してやってくれ」


「だめぇー、奴の言うことを聞いたらダメよ」

 佳澄は苦痛の中、痛みを堪え、叫んだ。

 しかし、その叫びは、更なるドクロの責めに、苦痛の叫びへと変わっていくのだった。


 志恩は、ナイフを両手からドクロの方へと投げ捨てると、そのまま後ろを向く。

 ドクロはその姿を確認すると、満足そうに笑いを浮かべ「もうお前に用はない」と、佳澄を投げ捨て、志恩に向けてナイフを投げたのだった。


 ドクロの投げたナイフは、志恩の左腕と右足に命中、志恩は膝を着いた。


「はーはっはっはっは。私は狙った獲物をなぶり殺しにするのが好きなんですよ。さぁ、これから二人供ゆっくり相手をして上げましょう」


 ドクロは佳澄を一瞥(いちべつ)すると、ゆっくりと仕込み杖の剣を構えて、志恩へと歩み寄る。

 佳澄は、動こうとするが、傷の痛みとドクロからのプレッシャーに身動きする事が出来なかった。


 志恩は膝を着いた姿勢で振り返り、ドクロを睨み付ける。


「ほっほっほ、いいですね、その顔。あなたのその顔が、苦痛と恐怖で絶望に変わる姿を見せてください」

 ドクロはそう言って、剣を頭上に掲げる。

「さあ、先ずは右腕でも貰いましょうか」


 ドクロが志恩へと近付き、剣を振り降ろそうとした…


 その時、


 バーン


 入口の扉が弾かれる様に開く。


 シュッ


「だらしないね~シオン。体が鈍っているんじゃないのかい」


 ザクッ


 ジャキーン



 開け放たれた扉から現れたのは、ドレス姿のまま大股開きで扉を蹴破って登場したシェリーの姿だった。

 シェリーは部屋に入ると、持っていた志恩の剣を投げて寄越し、剣は志恩の目前に突き刺さった。

 素早く志恩は剣を抜き取り、頭上から振り下ろされるドクロの剣を弾き返した。


「危機一髪、助かったぜ、シェリー」


 志恩はナイフの痛みを堪えつつ、剣を杖の様にして立ち上がる。


「いくら武器を手にしようが、そんなフラフラな状態で何が出来ると言うのかね。そちらのお嬢さんが加勢でもしますか」


 ドクロは余裕を見せながらも、遠巻きに志恩の様子を伺い、シェリーは入口の扉から動かずに叫んだ。


「あらぁ~お嬢さんだなんて恥ずかしい。勿論、こんなか弱き乙女が戦うだなんて、とんでもないわ」

 そう言って、シェリーは体をくねくね動かし、その場から動かなかった。


「おいおい、敵のお世辞に喜んでるなよ」

 頬を膨らまし、不満を表すシェリーを他所に、志恩はドクロを真っ直ぐと見つめる。


「ドクロ、俺の事は何でも知っているとさっき言ってたな?だが、お前はまだまだ情報不足だ。その身をもって、味わってみな」


 志恩の言葉にドクロは警戒し距離を取り、志恩は足の痛みを堪えながらその場で剣を構え、横一閃振り切りながら叫んだ!


『ライトソニック』


 志恩の剣先から横に一筋の光の線が生じた、と見えた次の瞬間、その光の太刀筋は目にも止まらぬスピードでドクロに襲い掛かり、ドクロは反応する事も叶わず、ドクロの下半身を通り抜けて行った。


 ドクロは一瞬、言葉を失ったが、

「やれやれ、何をするかと思えば‥」

 と、話し出した時、ドクロの背後からぴゅーぴゅーと激しい風の音が響き、首だけを振り向かせると、そこには光の線が通過したと思われる横一筋の切れ目が、鉄の壁に穿(うが)かれていた。


「えっ」

 ドクロの両足は膝から下が切断されており、次の瞬間、大量の血を流しながら、床へと倒れ、

「ぐぎゃーー」

 ドクロは痛みを叫んだ。


「お前だけは、許さん」

 志恩は怒りの形相で、叫び悶えるドクロを見下ろしていた。


 だが、それで終わりではなかった…


 ドクロは痛み苦しみながら、志恩を見上げ、

「おのれ‥これで勝ったと思うなよ‥」

 そう言い、腕時計を(いじ)る。


 すると、腕時計が赤く光り『ピーー』と音を発した。

「これでお前達も道連れだ」


 傍に来たシェリーに肩を借り、ドクロの側へと近付き首元に剣を突き付け「何をしたっ」と叫ぶ。


「ひっひっひ、あと10分もせずに爆弾は爆発し、この船に仕掛けられた液体爆弾を誘発させる。この船は木っ端微塵に吹き飛ぶのさ」


「なにっ」


 志恩はドクロの腕から腕時計を奪い取ったが、

「ひっひっひ、無駄だ。その腕時計は、起動の為だけの発信器。動き出した爆弾は止められやしないのさ」


「ひゃーはっはっはっは」

 志恩は笑い狂うドクロの後頭部を蹴って静かにさせ、叫ぶ、

「くそーっ、どうすりゃいいんだ。あと10分もないのに、どこにあるかわからない爆弾を処理するなんて」


 シェリーは志恩の首をグッと引っ張り、

「落ち着いてシオン。あなたなら…勇者ならなんとか出来るはず、諦めないで」


 シェリーの言葉に、志恩は冷静さを取り戻し「すまん」とだけ言い、考えだした…


 と、思った時、


 バタンッ


 扉の閉まる音が響き、志恩とシェリーは振り向く、しかし誰の姿も見られなかった‥

 だが、部屋から姿を消した人物に気が付く…


「佳澄さん‥」


「シェリー、佳澄さんは爆弾の心当たりがあるのかもしれない、手を貸してくれ」

「当たり前でしょ」


 志恩とシェリーは、急いで佳澄の後を追い掛け、部屋を出る。佳澄は、まだ傷口から出血が有るようで、僅かな血痕が佳澄の足取りを教えてくれた。


 佳澄の血痕は、下層へと続いており、今では人気のなくなった駐車場に辿り着いた。


「佳澄さーん、どこだー」


 もう、既に時間は僅かしか残されていないはず、志恩とシェリーは必死に佳澄を探した。


 暫くすると、工事現場で響く様なサイレンが『ピーヒュン ピーヒュン』とけたたましく鳴り、黄色いランプが光る。

 そして、志恩達の居る場所から反対側の壁と思われていたハッチが開きだし、風が突如室内に流れ込んで来た。


 すると、志恩から少し離れた場所で車のエンジン音が響く。

 志恩がエンジンの掛かった車を見付けると、そこには佳澄の姿が‥


「佳澄さん、何をする気だっ」


「もう、時間がない。この車自体が爆弾なのっ」


「だからって、君が‥」


「志恩くん、ありがとう、由依はもう大丈夫。私は今、最高に幸せよ。プレゼントありがとう」


 佳澄はそこまで言うと、アクセルを踏み込み、車はけたたましいタイヤ音を残して走り出す。


 ジャンプ台の様になった、開いている最中のハッチへ、車は猛スピードで突っ込んで行く。


 車は、開きかけのハッチを登り、夜空の海へ飛んで行った‥



 その直後、物凄い爆発音が響き、大きな水柱を上げ、船の窓ガラスがいくつか割れ、船にはサイレンが鳴り響いた。



 残された志恩はその場に崩れ落ち項垂(うなだ)れる。


 そんな志恩の耳に、あの音が聴こえた気がするのだった。


 佳澄にあげたオルゴールのプレゼント。


 異世界で流れていた異国を思うメロディー…


 遠い…遠い…故郷へ帰るメロディー… 



次回、君は今…


数10分の度に書いているので、話が繋ぎ合わせの場所もあると思うので、改めて誤字、修正していきます。

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